異世界冒険譚 神無き世界の傭兵から 親愛なる人を愛する神へ~傭兵が死すべき場所は 神の慈愛の手のひらか それとも神に見放されし己が郷土か~

猫板家工房

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2章 聖地編。

傭兵のリーダー達。

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(可哀そうに。どんなおっさんが来るか知らないが、そいつは今から大変だ。3時間、な。こんだけ待たせたんだ、とりあえずどうやってか落としどころをつけないと、収まりが付かないぜ。)

収まりがつかないと、どうなるかと言えば……。

いきなり決闘が始まるかもしくは、話の途中に斬りつけられる。

それか士気が著しく低下し、群れの体裁をとれなくなるかだ。

「解決策と言えば……。女を用意をするとかか?」

昔、とある傭兵長が遅れてきたときは、まるでサンバのカーニバルのような衣服を着た、乳を出した女が3人ほど入ってきた。

まぁその後はよろしくやるわけだが、それでなんとか事なきを得ている。

(ほんと、どうすんだか。)


ジキムートが考えていると。

ガチャっ!

「やあやあ諸君。お疲れ様。すまないねアハハっ」

そう言ってさっそうと入ってきたのは、女。

女だ。

一瞬、男だと思った人間も多いかったろうが、女だ。


褐色の肌をし、健康そうな肉体。

そして、何より美しい顔。

度肝の抜かれ具合は、ノーティスとそう変わらない位の、かなりの美人顔。

唯一違うと言えば、ノーティスより少し幼め、か。

顔はとても端正でそして、中性的だ。

年はまだ、17か18と言った頃。

恰好は秘書の様な青い姿で、スリットのかなり深い、タイトスカートのような物を履いている。

鎧はノーマルで動きやすくて、逃げやすいだろう程度。

自信にあふれたレッドアイをし、眼鏡――。

そう、この世界ではとてもとても珍しい、眼鏡をかけていた。

知的に見えるが、どこか気さくで話しかけやすそうな雰囲気。

髪はピンクに近い、キメの細かい赤。

それを目の上でぱっつりと切り、片目に寄せており、スポティッシュな女性。

美少女がさわやかに笑いながら、入って来た。


「おぉ……」

なんとも魅力的な雰囲気に、場内の男たちが総立ちだっ!

「お前より男前じゃないか? あの女」

「ふふっ……」

ノーティスは鼻で笑う。

確かに入って来た褐色の彼女は、ノーティスより男前と言えた。

そして褐色の彼女は、会議室の一番前に立ち……。

「いやいやぁ……。僕も忙しくてね。じゃあ、ちゃちゃっと済ませようか。それではこれから、仕事の説明に入るっ!」

「ちょっと待てやコラァっ!」

五月蠅い巻き舌を残し、ちょび髭の生えた傭兵と、その知り合いらしき一群が立ち上がるっ!

「なんだい?」

「てめぇ、こんなに人を待たせておいて、詫びの一つもないんかっ、おぉっ!?」

「るっせぇ」

ジキムートが片耳をふさぐ。

ノーティスはヤレヤレと言った顔である。

「ふむ、謝ったはずだが? 入ってきた時に」

「そう言うんじゃねえよっ。きちんとヤレってんだよ、きちんとよぉっ!」

「すまない。では、話を続ける」

ハキっと、すまないと言う言葉を言ったらすぐに、眼鏡を上げて前を見るその女。

「おいおいおいっ、ふざけてんなてめぇっ!」

「いや、ふざけてなどいないよ」

訳が分からないと言った顔をする、女傭兵。

「俺らはまだ、怒りを納めてねえぞっこらっ!」

「そうだそうだっ!」

3時間も待たされた傭兵達の頭には、完全に血が上り切っていた。

他の傭兵達もウンウンと、しっかりとうなずいている。

「ふむ。だが、お金は払えないね。これは仕事だから。待てと言われれば待つ、それが君たちの仕事だよ」

「あぁっ!? てめえほんとに舐めてんなっ! お前が失敗したんだろうがよっ。俺らにわびを入れろって言ってんだっ!」

「……僕が間違えていようと、払う報酬額の分は働くんだよ。何を馬鹿な、ふふっ」

正論だ。全くの正論。だが……。

「だがそれは、騎士団が言って真価が発揮される」

ジキムートが独り言ちる。

褐色の少女が言った言葉。

それは、騎士団が剣をちらつかせながら傭兵に向かって、『逃げるな』と命令するときに使うべき言葉である。

時と場合、そして身分を間違っている――が。

ジキムートには少し、気になる事があった。

「どうやらあの女、それを分かってるみたいだが」

笑う女傭兵に、ジキムートが目を這わせていく。

「ああんっ!? てめえ何様のつもりだよっ。俺らはてめぇの小間使いじゃねえっ。雇ったのはシャルドネだっ!」

「そうだっ。そもそも俺らは、お前に従う義理はねえんだぞっ! ふざけた事ぬかすんならお前なんぞ、いつだって殺せるんだぜ!?」

「『主人の主人は、主人ではない』。この意味を考えやがれよ、クソ野郎がっ!」

たくさん主人という言葉が並ぶが、傭兵の基礎知識である。


意味内容だが。

傭兵とは、金を直接払ってもらった人間――。

例えば、徳川家康の部下である、本多忠勝に雇われれば、本多忠勝本人に従う。

もし例え、目の前の徳川家康の命令を受けても、聞くことはほぼない。という意味である。

無茶に聞こえるが、案外そうでもないハズだ。

現代なら徳川家康を社長に、本多忠勝を副社長にすれば良い。

さすればドロドロの、骨肉の社内事情に置き換わる。

そのドロドロさは、中世にはぴったりのドロドロさと言えた。

だが……。

「ククッ、その主人の命令ですら危ないのに。何を偉そうに」

ノーティスが笑う。

ジキムートも笑っていた。


「ちょうど良い、お前脱げっ、それで俺たちに奉仕しろよっ!」

「そうだそうだ、さっさとヤッちまおうぜ……」

叫んでやっと、当初の目的にたどり着く男たち。

はじめから最後まで、これが狙いである。

「おらっ、へへ……。楽しませろよっ」

そう言って、女傭兵の鎧の上から強引に、胸を掴むちょび髭っ!

「ほら、騒ぐ……」

「良いぞ」

簡単にオッケーする、その女。

「……っ!?」

その言葉に室内の空気がガラッと変わったっ!

総立ち。

そう、総立ちだっ!

一気に前に詰め寄ろうと、男達の目の色が変わってしまうっ!

カッツカッツ。

「……。あぁ……。これはさすがに、不味いかも知れませんね」

ノーティスが髪留めを触り、険しい顔をしたっ!

「……まずいぞコレ」

ジキムートとノーティスが汗をかく。

彼らは別に、女傭兵がオッケーした事に、気を揉んでいるのではない。

カッツンツン。カッ。

足音だ、足音が聞こえるのだ。

「なんだこの……、嫌な足音は」

焦るジキムートの前で、その女傭兵はサッと、男たちに羽交い締めにされていた。

そして胸を揉みしだかれながら、スカートを下ろされかかっているっ!

すると……。

その女傭兵が笑う。

「ふふっ。ただその前に、僕の〝自称″持ち主の承諾を得られればな」


バタンっっ!

「よぉお前らっ。俺はヴィン・マイコンっ! イカしてスカしてぇ~、そんでもってまかした男だよぉっ!」

扉がきつく、大きく大きく開け放たれと同時、大声が響いたっ!

ガっ!

「うぅ……っ!? 苦しっ!? ちょっ、どけっ! 早くどけっ!」

何人かが扉に挟まれ、犠牲になっている。

とても苦しそうに脱出を試みて、もがいていた。

だが全く、その被害を気に留める者はいない。

なぜならその、突然入ってきた男が逆立ちし、全く逆をむきながら話をしているからだ。

「ん……。この反応。間違ったか」

そう言ってぺったぺったと手で、扉のほうへ戻りながら……。

キィ……バタンっ!

扉が閉まり、出ていった。

「次はコサックダンスをしながら……。いや、ここは奇抜に素っ裸でってのもありか? 裸がありなら脱ぎ捨てながら……。そうっ、それだっ!」

扉の向こうで、声が聞こえる。

そして――。

全員が嫌な予感がしたっ!

「待て、待てまてぇーっ!?」

必死にドア付近の奴が逃げようと、跳躍したその時っ!

バタンっ!

ガツっ!

「いってぇーーっ! うぅ」

コサックダンスをしなが……。

「いってぇっ! あぁーっ! あーーーっ。……あぁあああっ!」

可哀そうに、ちょうど角の部分で〝スネ″を打ったのだろう。

転げまわっている傭兵一人。

「俺が伝説の傭兵っ! ヴィン……」

ゴロゴロゴロ。

「俺……が」

「あぁ~。あぁっ! ・・つぅう。はぁはぁ。いてぇ……。いてぇえよぉっ!」

コサックダンスをよそに、全員が、その転げまわっている傭兵に注目を集めている。

全くその、キレッキレのダンスを見てないっ!

「あぁ……。いっつ、あぁ……。いてええ」

「……」

「あ~あ。すねちゃった」

すごく不機嫌そうな顔で、その――。


〝ワイルド″を絵にかいたような姿。

髭は適当に生え散らかし、ぼさぼさっと黒の髪の毛を立たせている。

適当そうな雰囲気だが、荒々しいイエローアイからは眼光を振りまき、狼のような殺気を放っていた。

図体もデカい。

190はあるだろう、恵まれた背格好。

装備は西部劇にでも出てきそうな、悪役ヒーローと言ったナリ。

印象的に『皮革』の茶色を思わせる、防具は皮だけ。

あとは良くても、下着にチェインアーマーがあるかどうか。その位だろう。

防御は貧弱だ。

珍しいのは、剣を二本もぶら下げている事くらいか。

それが転げまわっている傭兵を見て、面白くなさそうに、そそくさと会議室前方に歩いていく。

「あぁ~あ、クソがっ。何が、いてぇ~だよ。俺がせっかく、小一時間ほど考えたネタだったんだぞっ! 台無しにしやがってよぉ。たった一言に俺の一時間が……。えと、い・て・え。三文字か。たった三文字に負けただと……っ」

ぶつくさぶつくさ何かを言いながら歩くそれを、ジキムートとノーティスが険しい顔つきで、一挙手一投足を見張る。

「おいっレキ、失敗だ。今日はもう俺、仕事する気に……何やってんだ?」

「今から輪姦されようとしているんだよ。いや、強姦かな?」

「へぇ。じゃあ死ねっ」

シュパッ!

ビシャシャッ!

首に剣が刺さる。

女傭兵を羽交い締めにしていた、傭兵の首に、だ。

「……えっ。あ……っ」

血が飛び、誰もが唖然。

しかし……っ!

「ほれほれっ」

スパっスパっ。と首が斬り飛ばされていく。

殺意などない、怒りさえ感じない。

ただただ無表情で、ゴミを処理するその男、ヴィン・マイコンっ!

「おっ、おいっ!? いきなりなんだっ!? 待てよっ、待て待てっ!?」

いきなりの殺戮。

無表情の殺し。

それに動転し、慌てふためき立ち上がる、あの最初に息まいて突っかかったちょび髭っ!

そして……。

「悪かったよ、悪かったっ! そのこ……」

「……」

スパっ。

「ガっ」

膝を斬り、相手をひざまずかせると。

「そこに立ってたら首がハネられない……だろっ」

スパンっ!

ゴトッ。

ゴロゴロと転がる音が、部屋中に響く。

「ひっ、ひぃいっ!?」

転がった先の傭兵達が、腰を抜かして飛びのいたっ!

部屋は血まみれになり、ジキムートが左のマントでそれを避けている。


「おいアイツ。首を飛ばさずにうまい事、血管だけで殺してんな……。最後の以外は」

「ええ。お見事ですね」

2人はいまだ、ヴィン・マイコンが入ってきた瞬間から、今までずっと。

彼からひとときも、目を離さない。

いつでも逃げれるように、体は浮いていた。
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