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2章 聖地編。
魔法の実用。
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「では宿舎へと向かいましょう。それにしてもすごいですね……、この町。魔力が桁違いに鋭い」
喋りながら、2人は歩いていく。
ノーティスが知っている、傭兵の宿舎へと。
「そうなのか? 俺は魔術はからっきしだからな」
「知ってます。でもさすがに魔法の基本。魔力発動の原理くらいは、傭兵なら分かるハズ。防御魔法が最も簡単で、初級だと言われるゆえんのアレです」
「あぁ、まぁそれぐらいは」
当然知りません。
「それに沿うなら、私達を襲った馬車への、あの最後の一撃。あの氷塊はかなりの練度だ。位置はドンピシャ馬車の上。威力は言うまでも無し。それを遠隔からやるなんて……。ふふっ、信じられない」
(総合すっと、距離と威力、そんでもって精度。この3つの相関関係か。遠い程、制御が難しい感じすんな。防御が初級、ね。手元に出すもんな普通。って事は大概は、突然攻撃が上から降ってくる事はねえってこった。良いね、この世界の魔法は俺にぴったりだ。なるほどなるほど。)
魔法を現出させる位置が、離れれば離れる程に、必要な魔力もMPもアップ。
あまつさえ、現出位置のズレが大きくなる確率も増す。
自分の手元以外で、魔法を出現させる可能性は低いわけである。
「へぇ。やっぱすげんだな、あの攻撃は。どおりであんま見ないと思った。それで、お前はどうなんだ? アレくらいはやれそうか?」
ふふっと笑い、冗談っぽく聞くジキムート。
これなら、やれるよな?
の意味と。
やれる訳ねえよな? の意味が持たせられる。
ジキムートは、ノーティスが喋る魔法の原理の破片。
それを聞き漏らさず、学ぼうと話をうながす。
「ははっ、ご冗談を。あり得ないっ! やれるわけがないでしょう。1人でも2人でも、10人でもっ。絶対に無理です」
ノーティスがジキムートの言葉に笑い、手を振る。
「ここは生まれ持った環境が特殊。この町の連中は昔から、水だけを追い求めているハズ。だからあんなに簡単に、魔力を合わせる事ができるんでしょうね。魔法を合わせる難しさは、傭兵を考えてみれば、分かるでしょう? 呪文も効果もまちまちだ」
「あれは傭兵共が、適当だからじゃねえのか?」
「いえ。一言でいえば呪文とは、何に語りかけるか。どう語りかけるか。ですから。マナビルドの途中で、どういう経緯をたどるかは、魔法士の至上命題。いわば個性なんですよ。簡単に言えば、ノミで彫るか、クワで掘るか。です。それを合わせるなんて、ずっと一緒の友達同士でも難しい」
人の癖は、どうやっても付きまとう物。
いつもと違う方法では、まともに魔法を扱えなくなるのは至極当然だった。
特に、力をあわせる以上は、上級魔法となる。
個性がかち合うと、魔法が形成できなくなるのは必然だった。
「なるほど、ね。それを合わせて威力上げるなんて、相当だと」
「ええ。先程の威力ならば、宮廷魔導士10人が一日一回力をあわせて、なんとかできる代物。それをおそらくは、一般の住民がやっている。何人でやったかは知りませんが、魔力も魔力容量も、そして何より信仰心も、段違いです。魔法専門の私クラスの傭兵が、何人集まってもやれる自信はない」
(マナにあふれていても、やはり人間は人間、か。人の限界と、それに伴うルールは避けられねえ。こっからは魔法との戦いも、想定に入れていかなきゃなんねえ。気をつけないと。)
「ねぇ……。ジーク。アンタあと何回やれる?」
赤く色づいた唇が迫る。
「後は……。数える、ちょっとまて。1・2の……、え~っとな」
巨大な芋虫の群れから隠れながら、ジキムートが指折り数える。
少し人影がはみ出る程度の岩場に、2人が居た。
しかし敵は、光ではなく音を頼りにしているので、少し見えていても気づけない。
奴らは耳が良い。
お互いに耳元で囁きながら、言葉を交わす。
「ねぇ、あと一枚タトゥーちょうだ~い。少ないんだよね」
そう言うとやおら細い指で、懐を探ってくるイーズ。
「あっ、こらっ!? 無茶言うなっ、お前と違ってこっちは札を、ラグナ・クロスを開ける事だけに1枚消費すんだぞっ。そんな余裕はねえっ!」
「そんな事言ったって私、タトゥーなきゃなんもできないじゃんっ!」
唇をとがらし、自分の窮地を訴える相棒。しかし……。
「だったらお前、バカスカとタトゥーを〝トラッシュ・ディ・アマス(一撃必殺)〟に回すんじゃねえよっ! こっちも7枚しか残ってねえみてなんだっ。7……か、良い数字だぜ。運が良いっ」
「えぇ、面倒じゃ~ん。〝食べ残し(マイオセス)〟は疲れるんだよねぇ。体がドクドクするし……」
「〝マイオセス(魔力割置)〟型は本来は、効率重視だろうがっ。お前の魔力なら十分、小分けで行けるんだ、効率よく使えっ!」
イーズ曰く、食べ残し。
通称〝マイオセス・アート(魔力割置)〟。
これは、1枚のタトゥーで長時間、小分けに魔法を使用する場合によく用いられる、基礎的な魔法技術だ。
逆に、イーズのように一撃必殺の、トラッシュ・ディ・アマス。
たった一撃に、タトゥーの全てを使い切る方法は稀である。
「1枚で1撃っ! 潔く、一撃強化っ! キリが良いでしょぉ? これが夢ある魔法使いの生き様よっ」
むやみやたらに派手な、いぶし銀を吠えるイーズ。
「生き様を変えろっ! ってかお前は、数を数えるのが得意だろうがっ! なんの為の頭だよっ!」
それにジキムートが抵抗するが、しかし……。
「どったらいっしょねえ? えへへ。でさっ、ねぇねぇ。それで、タトゥーもらって良いよね~?」
全く譲る気がないイーズ。
自分の耳にかかった、紅の髪を遊びながら聞いて来る。
「アホ垂れっ! ぐぬっ……。残りは7枚だ。えと、あと3回は最低でも使いたいんだから。それ……で? 3回魔法を使うのに、俺は1度で、2枚使うんだよな。すると、何枚必要なんだチクショウっ!」
必死に2という数字を指で折る、無学のジキムート。
数字に沸騰する脳みそに苦しみ。
そして、胸を揉みしだいてくるイーズからも、抵抗しなければならなかった。
「7枚なら一枚、良いんだよっ! って事で~、へへっ。前方から大きくいくねっ! じゃあ省エネで、なるべく大きめの――。う~ん、どったらいっしょね?」
一瞬で計算し終え、イーズがジキムートの胸からタトゥーを一枚、さっと抜き取ったっ!
そして自らの白い肌に、奪い取ったタトゥーを張り付ける。
じゅうう。
「あっ!? ちょっっ。7枚から一枚減ったからえと、残りは1・2の6枚。3回分残ったか、ふぅーっ。だが7は終わったぞ、クソがっ!」
数を数えられない傭兵が、立ち上がるイーズに遅れて体を起こすっ!
そして2枚のタトゥーを、自分のラグナ・クロスにへばりつかせ……。
ジュウ……しゅぼっ。
「うぅあぁ……っ!?」
肉が焼ける臭い。
この痛みは、何時になっても慣れない。
普通の人間の2倍の痛み。
だが、仕方がないのだ。
彼の呪文は特殊。
どうあがいても1枚では、ラグナ・クロスを開けれる時間が足りなくなる。
「よし行けジークっ! 次は〝開きっぱ(インソレンセ)〟だっ」
叫んで宣言通り、ラグナ・クロスを開きっぱなしにするイーズっ!
「なっ、開きっぱって、お前それっ! ちょっと待てイーズっ。〝インソレンセ(猛焔)〟はっ!? お前の魔力でそいつはま……っ」
シゥボボッ、ドヒュンっ!
解き放たれる、極太のビーム砲っ!
魔力の波が一気に、イーズの腕から噴き出したっ!
すさまじいスパークルを上げ、とんでもない範囲を焦がすイーズっ!
彼女の圧倒的な質量の、太いビーム砲の威力は絶大っ!
猛烈な力で、樹々をなぎ倒していくっ!
「あ~、すっきりした。ふぅ……。これで一気に、5分の1くらいは飛ばしたぞっ! どうだっ、1枚でたくさん焼いたよジークっ! これぞ省エネっ!」
「って言うかお前ーーっ! 〝インソレンセ・フレア(猛焔)〟でこんなに燃やしたら、森がっ……。森がーーーっ!?」
被害は、森一画。
焼き尽くした後には、悲惨な剥げた山肌が見えている。
焦げた木々が炭と化し、鳥は泣き叫んで飛んでいく。
そして……、黒く飛び立つ者の中には、ジキムート達に寄ってくる者たちも。
「あぁ……。こっち来ちゃいそうだね、あれ。ごっめんジーク」
ジキムートに謝るイーズ。
どうやらうっかり、いらぬお客さんを呼んでしまった事に、今更になって気づいたようだ。
「……」
「あっ、あの黒いのってもしかして、成虫かな~? あれって確か、依頼には入ってないよねぇ?」
「……」
「まぁ、いっか。うん。ほら、絶対数は、少ないよっ! ほら……、1、2、3。えーっと――。少ないって事で。アハハっ」
睨んで来るジキムートに、居心地悪そうに笑って、タトゥーを用意するイーズ。
しかし……。
「馬鹿っ! 馬鹿馬鹿馬鹿野郎ーーーっ! 逃げるぞーーっ!」
ガバッとイーズを抱きかかえ、ジキムートが山の斜面を転がるように、走っていくっ!
「はえ? 戦わないの? 魔物がやってくるよ?」
プルンプルンと揺れる、大きめの胸の位置取りを直しながら、相棒に聞くイーズ。
「アホっ! 馬鹿っ! 町の奴らから逃げんだよっ!」
「……。なんで?」
明らかに、不審な目をするイーズ。
「もう町には帰れねえんだよっ! 俺らはっ! タトゥーもさっさとしまえっ!」
「なんで? 魔物を倒せば、問題ないじゃんっ! 別にそこまで私、悪い事してないじゃんっ! 責任はきちんと取るもんっ! 町に迷惑かけないように、一人ででも仕事するモンっ!」
相棒の怒った素振りに、イーズが反抗する。
実際彼女達なら、危険はあるが、なんとかできる量だ。
町にモンスターが寄らないように、2人で戦い抜くのは問題はないはず。
「馬鹿っ! 虫の話じゃねえよっ!」
「じゃあ何さっ! 帰ってきちんと報告すませないと、依頼料が出ないじゃんっ! 馬鹿なのジークっ! お金がもったいない~っ!」
イーズがジタバタと怒って、ジキムートの腕の中でわめくっ!
だが……。
ピキっ!
「あぁっ!? 森は貴族の宝だろが」
青筋立てて、相棒を睨むジキムート。
……。
「あっ」
イーズが忘れてたと言わんばかりに、生声を上げた。
「森を焼いたら半殺しだボケっ! 貴族に焼き出されるぞっ!」
森は立派な、貴族の領土だ。
勝手に焼けば、重罪になる。
「あぁ……。どったらいっしょねぇ……」
すすっとタトゥーをなおす、相棒イーズ。
「つっ、次の街に進む、いい機会だね~。あははっ」
「馬鹿っ! 馬鹿垂れがっ!」
「ごめんてばぁ。機嫌直してよ~」
「馬っっ鹿野郎っ!」
「ちょっ!? 今のトーン、ひどいよジークっ! 本気で言ったなぁっ!?」
「アホっ! 馬鹿っ! 間抜けーーーっ! 次の町はこっから5日なんだよ、ボケェっ!」
「……降ろしてジーク。私、あほだわ。走る――」
2人は仲良く泣きながら、山を下っていく。
それは、寒さが染みる季節の話だった……。
「関所も通れねえんだぞーーっ!」
「ふぇえええーーーっ! ごめんジ―――クっ!」
彼らはここから、なんの補給も無しに5日間。
雰囲気最悪のまま、山の中をさ迷うしか手が無かったのだ……。
(魔法もどんなに強くたって、使いどころなんだよなぁ。あの後やっぱ、手持ちのタトゥーの残数が怖くて、町に戻ったっけか。そんで2人して夜盗やって、教会の神父脅して、タトゥー売らせたんだったかね。ありゃ散々だった)
苦笑いするジキムート。
イーズは少なからずとも、トラブルメーカーの気が強かった。
喋りながら、2人は歩いていく。
ノーティスが知っている、傭兵の宿舎へと。
「そうなのか? 俺は魔術はからっきしだからな」
「知ってます。でもさすがに魔法の基本。魔力発動の原理くらいは、傭兵なら分かるハズ。防御魔法が最も簡単で、初級だと言われるゆえんのアレです」
「あぁ、まぁそれぐらいは」
当然知りません。
「それに沿うなら、私達を襲った馬車への、あの最後の一撃。あの氷塊はかなりの練度だ。位置はドンピシャ馬車の上。威力は言うまでも無し。それを遠隔からやるなんて……。ふふっ、信じられない」
(総合すっと、距離と威力、そんでもって精度。この3つの相関関係か。遠い程、制御が難しい感じすんな。防御が初級、ね。手元に出すもんな普通。って事は大概は、突然攻撃が上から降ってくる事はねえってこった。良いね、この世界の魔法は俺にぴったりだ。なるほどなるほど。)
魔法を現出させる位置が、離れれば離れる程に、必要な魔力もMPもアップ。
あまつさえ、現出位置のズレが大きくなる確率も増す。
自分の手元以外で、魔法を出現させる可能性は低いわけである。
「へぇ。やっぱすげんだな、あの攻撃は。どおりであんま見ないと思った。それで、お前はどうなんだ? アレくらいはやれそうか?」
ふふっと笑い、冗談っぽく聞くジキムート。
これなら、やれるよな?
の意味と。
やれる訳ねえよな? の意味が持たせられる。
ジキムートは、ノーティスが喋る魔法の原理の破片。
それを聞き漏らさず、学ぼうと話をうながす。
「ははっ、ご冗談を。あり得ないっ! やれるわけがないでしょう。1人でも2人でも、10人でもっ。絶対に無理です」
ノーティスがジキムートの言葉に笑い、手を振る。
「ここは生まれ持った環境が特殊。この町の連中は昔から、水だけを追い求めているハズ。だからあんなに簡単に、魔力を合わせる事ができるんでしょうね。魔法を合わせる難しさは、傭兵を考えてみれば、分かるでしょう? 呪文も効果もまちまちだ」
「あれは傭兵共が、適当だからじゃねえのか?」
「いえ。一言でいえば呪文とは、何に語りかけるか。どう語りかけるか。ですから。マナビルドの途中で、どういう経緯をたどるかは、魔法士の至上命題。いわば個性なんですよ。簡単に言えば、ノミで彫るか、クワで掘るか。です。それを合わせるなんて、ずっと一緒の友達同士でも難しい」
人の癖は、どうやっても付きまとう物。
いつもと違う方法では、まともに魔法を扱えなくなるのは至極当然だった。
特に、力をあわせる以上は、上級魔法となる。
個性がかち合うと、魔法が形成できなくなるのは必然だった。
「なるほど、ね。それを合わせて威力上げるなんて、相当だと」
「ええ。先程の威力ならば、宮廷魔導士10人が一日一回力をあわせて、なんとかできる代物。それをおそらくは、一般の住民がやっている。何人でやったかは知りませんが、魔力も魔力容量も、そして何より信仰心も、段違いです。魔法専門の私クラスの傭兵が、何人集まってもやれる自信はない」
(マナにあふれていても、やはり人間は人間、か。人の限界と、それに伴うルールは避けられねえ。こっからは魔法との戦いも、想定に入れていかなきゃなんねえ。気をつけないと。)
「ねぇ……。ジーク。アンタあと何回やれる?」
赤く色づいた唇が迫る。
「後は……。数える、ちょっとまて。1・2の……、え~っとな」
巨大な芋虫の群れから隠れながら、ジキムートが指折り数える。
少し人影がはみ出る程度の岩場に、2人が居た。
しかし敵は、光ではなく音を頼りにしているので、少し見えていても気づけない。
奴らは耳が良い。
お互いに耳元で囁きながら、言葉を交わす。
「ねぇ、あと一枚タトゥーちょうだ~い。少ないんだよね」
そう言うとやおら細い指で、懐を探ってくるイーズ。
「あっ、こらっ!? 無茶言うなっ、お前と違ってこっちは札を、ラグナ・クロスを開ける事だけに1枚消費すんだぞっ。そんな余裕はねえっ!」
「そんな事言ったって私、タトゥーなきゃなんもできないじゃんっ!」
唇をとがらし、自分の窮地を訴える相棒。しかし……。
「だったらお前、バカスカとタトゥーを〝トラッシュ・ディ・アマス(一撃必殺)〟に回すんじゃねえよっ! こっちも7枚しか残ってねえみてなんだっ。7……か、良い数字だぜ。運が良いっ」
「えぇ、面倒じゃ~ん。〝食べ残し(マイオセス)〟は疲れるんだよねぇ。体がドクドクするし……」
「〝マイオセス(魔力割置)〟型は本来は、効率重視だろうがっ。お前の魔力なら十分、小分けで行けるんだ、効率よく使えっ!」
イーズ曰く、食べ残し。
通称〝マイオセス・アート(魔力割置)〟。
これは、1枚のタトゥーで長時間、小分けに魔法を使用する場合によく用いられる、基礎的な魔法技術だ。
逆に、イーズのように一撃必殺の、トラッシュ・ディ・アマス。
たった一撃に、タトゥーの全てを使い切る方法は稀である。
「1枚で1撃っ! 潔く、一撃強化っ! キリが良いでしょぉ? これが夢ある魔法使いの生き様よっ」
むやみやたらに派手な、いぶし銀を吠えるイーズ。
「生き様を変えろっ! ってかお前は、数を数えるのが得意だろうがっ! なんの為の頭だよっ!」
それにジキムートが抵抗するが、しかし……。
「どったらいっしょねえ? えへへ。でさっ、ねぇねぇ。それで、タトゥーもらって良いよね~?」
全く譲る気がないイーズ。
自分の耳にかかった、紅の髪を遊びながら聞いて来る。
「アホ垂れっ! ぐぬっ……。残りは7枚だ。えと、あと3回は最低でも使いたいんだから。それ……で? 3回魔法を使うのに、俺は1度で、2枚使うんだよな。すると、何枚必要なんだチクショウっ!」
必死に2という数字を指で折る、無学のジキムート。
数字に沸騰する脳みそに苦しみ。
そして、胸を揉みしだいてくるイーズからも、抵抗しなければならなかった。
「7枚なら一枚、良いんだよっ! って事で~、へへっ。前方から大きくいくねっ! じゃあ省エネで、なるべく大きめの――。う~ん、どったらいっしょね?」
一瞬で計算し終え、イーズがジキムートの胸からタトゥーを一枚、さっと抜き取ったっ!
そして自らの白い肌に、奪い取ったタトゥーを張り付ける。
じゅうう。
「あっ!? ちょっっ。7枚から一枚減ったからえと、残りは1・2の6枚。3回分残ったか、ふぅーっ。だが7は終わったぞ、クソがっ!」
数を数えられない傭兵が、立ち上がるイーズに遅れて体を起こすっ!
そして2枚のタトゥーを、自分のラグナ・クロスにへばりつかせ……。
ジュウ……しゅぼっ。
「うぅあぁ……っ!?」
肉が焼ける臭い。
この痛みは、何時になっても慣れない。
普通の人間の2倍の痛み。
だが、仕方がないのだ。
彼の呪文は特殊。
どうあがいても1枚では、ラグナ・クロスを開けれる時間が足りなくなる。
「よし行けジークっ! 次は〝開きっぱ(インソレンセ)〟だっ」
叫んで宣言通り、ラグナ・クロスを開きっぱなしにするイーズっ!
「なっ、開きっぱって、お前それっ! ちょっと待てイーズっ。〝インソレンセ(猛焔)〟はっ!? お前の魔力でそいつはま……っ」
シゥボボッ、ドヒュンっ!
解き放たれる、極太のビーム砲っ!
魔力の波が一気に、イーズの腕から噴き出したっ!
すさまじいスパークルを上げ、とんでもない範囲を焦がすイーズっ!
彼女の圧倒的な質量の、太いビーム砲の威力は絶大っ!
猛烈な力で、樹々をなぎ倒していくっ!
「あ~、すっきりした。ふぅ……。これで一気に、5分の1くらいは飛ばしたぞっ! どうだっ、1枚でたくさん焼いたよジークっ! これぞ省エネっ!」
「って言うかお前ーーっ! 〝インソレンセ・フレア(猛焔)〟でこんなに燃やしたら、森がっ……。森がーーーっ!?」
被害は、森一画。
焼き尽くした後には、悲惨な剥げた山肌が見えている。
焦げた木々が炭と化し、鳥は泣き叫んで飛んでいく。
そして……、黒く飛び立つ者の中には、ジキムート達に寄ってくる者たちも。
「あぁ……。こっち来ちゃいそうだね、あれ。ごっめんジーク」
ジキムートに謝るイーズ。
どうやらうっかり、いらぬお客さんを呼んでしまった事に、今更になって気づいたようだ。
「……」
「あっ、あの黒いのってもしかして、成虫かな~? あれって確か、依頼には入ってないよねぇ?」
「……」
「まぁ、いっか。うん。ほら、絶対数は、少ないよっ! ほら……、1、2、3。えーっと――。少ないって事で。アハハっ」
睨んで来るジキムートに、居心地悪そうに笑って、タトゥーを用意するイーズ。
しかし……。
「馬鹿っ! 馬鹿馬鹿馬鹿野郎ーーーっ! 逃げるぞーーっ!」
ガバッとイーズを抱きかかえ、ジキムートが山の斜面を転がるように、走っていくっ!
「はえ? 戦わないの? 魔物がやってくるよ?」
プルンプルンと揺れる、大きめの胸の位置取りを直しながら、相棒に聞くイーズ。
「アホっ! 馬鹿っ! 町の奴らから逃げんだよっ!」
「……。なんで?」
明らかに、不審な目をするイーズ。
「もう町には帰れねえんだよっ! 俺らはっ! タトゥーもさっさとしまえっ!」
「なんで? 魔物を倒せば、問題ないじゃんっ! 別にそこまで私、悪い事してないじゃんっ! 責任はきちんと取るもんっ! 町に迷惑かけないように、一人ででも仕事するモンっ!」
相棒の怒った素振りに、イーズが反抗する。
実際彼女達なら、危険はあるが、なんとかできる量だ。
町にモンスターが寄らないように、2人で戦い抜くのは問題はないはず。
「馬鹿っ! 虫の話じゃねえよっ!」
「じゃあ何さっ! 帰ってきちんと報告すませないと、依頼料が出ないじゃんっ! 馬鹿なのジークっ! お金がもったいない~っ!」
イーズがジタバタと怒って、ジキムートの腕の中でわめくっ!
だが……。
ピキっ!
「あぁっ!? 森は貴族の宝だろが」
青筋立てて、相棒を睨むジキムート。
……。
「あっ」
イーズが忘れてたと言わんばかりに、生声を上げた。
「森を焼いたら半殺しだボケっ! 貴族に焼き出されるぞっ!」
森は立派な、貴族の領土だ。
勝手に焼けば、重罪になる。
「あぁ……。どったらいっしょねぇ……」
すすっとタトゥーをなおす、相棒イーズ。
「つっ、次の街に進む、いい機会だね~。あははっ」
「馬鹿っ! 馬鹿垂れがっ!」
「ごめんてばぁ。機嫌直してよ~」
「馬っっ鹿野郎っ!」
「ちょっ!? 今のトーン、ひどいよジークっ! 本気で言ったなぁっ!?」
「アホっ! 馬鹿っ! 間抜けーーーっ! 次の町はこっから5日なんだよ、ボケェっ!」
「……降ろしてジーク。私、あほだわ。走る――」
2人は仲良く泣きながら、山を下っていく。
それは、寒さが染みる季節の話だった……。
「関所も通れねえんだぞーーっ!」
「ふぇえええーーーっ! ごめんジ―――クっ!」
彼らはここから、なんの補給も無しに5日間。
雰囲気最悪のまま、山の中をさ迷うしか手が無かったのだ……。
(魔法もどんなに強くたって、使いどころなんだよなぁ。あの後やっぱ、手持ちのタトゥーの残数が怖くて、町に戻ったっけか。そんで2人して夜盗やって、教会の神父脅して、タトゥー売らせたんだったかね。ありゃ散々だった)
苦笑いするジキムート。
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sherry
ファンタジー
ある日森に置き去りにされた少女はひょんな事から自分が前世の記憶を持ち、この世界に生まれ変わったことを思い出す。
早々に今世の家族に見切りをつけた少女は色んな出会いもあり、周りに呆れられながらも成長していく。
なのに・・・今更そんなこと言われても・・・出来ればそのまま放置しといてくれません?私は私で気楽にやってますので。
※魔法と剣の世界です。
※所々ご都合設定かもしれません。初ジャンルなので、暖かく見守っていただけたら幸いです。
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