異世界冒険譚 神無き世界の傭兵から 親愛なる人を愛する神へ~傭兵が死すべき場所は 神の慈愛の手のひらか それとも神に見放されし己が郷土か~

猫板家工房

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2章 聖地編。

魔法の実用。

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「では宿舎へと向かいましょう。それにしてもすごいですね……、この町。魔力が桁違いに鋭い」

喋りながら、2人は歩いていく。

ノーティスが知っている、傭兵の宿舎へと。

「そうなのか? 俺は魔術はからっきしだからな」

「知ってます。でもさすがに魔法の基本。魔力発動の原理くらいは、傭兵なら分かるハズ。防御魔法が最も簡単で、初級だと言われるゆえんのアレです」

「あぁ、まぁそれぐらいは」

当然知りません。

「それに沿うなら、私達を襲った馬車への、あの最後の一撃。あの氷塊はかなりの練度だ。位置はドンピシャ馬車の上。威力は言うまでも無し。それを遠隔からやるなんて……。ふふっ、信じられない」

(総合すっと、距離と威力、そんでもって精度。この3つの相関関係か。遠い程、制御が難しい感じすんな。防御が初級、ね。手元に出すもんな普通。って事は大概は、突然攻撃が上から降ってくる事はねえってこった。良いね、この世界の魔法は俺にぴったりだ。なるほどなるほど。)

魔法を現出させる位置が、離れれば離れる程に、必要な魔力もMPもアップ。

あまつさえ、現出位置のズレが大きくなる確率も増す。

自分の手元以外で、魔法を出現させる可能性は低いわけである。

「へぇ。やっぱすげんだな、あの攻撃は。どおりであんま見ないと思った。それで、お前はどうなんだ? アレくらいはやれそうか?」

ふふっと笑い、冗談っぽく聞くジキムート。

これなら、やれるよな?

の意味と。

やれる訳ねえよな? の意味が持たせられる。

ジキムートは、ノーティスが喋る魔法の原理の破片。

それを聞き漏らさず、学ぼうと話をうながす。


「ははっ、ご冗談を。あり得ないっ! やれるわけがないでしょう。1人でも2人でも、10人でもっ。絶対に無理です」

ノーティスがジキムートの言葉に笑い、手を振る。

「ここは生まれ持った環境が特殊。この町の連中は昔から、水だけを追い求めているハズ。だからあんなに簡単に、魔力を合わせる事ができるんでしょうね。魔法を合わせる難しさは、傭兵を考えてみれば、分かるでしょう? 呪文も効果もまちまちだ」

「あれは傭兵共が、適当だからじゃねえのか?」

「いえ。一言でいえば呪文とは、何に語りかけるか。どう語りかけるか。ですから。マナビルドの途中で、どういう経緯をたどるかは、魔法士の至上命題。いわば個性なんですよ。簡単に言えば、ノミで彫るか、クワで掘るか。です。それを合わせるなんて、ずっと一緒の友達同士でも難しい」

人の癖は、どうやっても付きまとう物。

いつもと違う方法では、まともに魔法を扱えなくなるのは至極当然だった。

特に、力をあわせる以上は、上級魔法となる。

個性がかち合うと、魔法が形成できなくなるのは必然だった。

「なるほど、ね。それを合わせて威力上げるなんて、相当だと」

「ええ。先程の威力ならば、宮廷魔導士10人が一日一回力をあわせて、なんとかできる代物。それをおそらくは、一般の住民がやっている。何人でやったかは知りませんが、魔力も魔力容量も、そして何より信仰心も、段違いです。魔法専門の私クラスの傭兵が、何人集まってもやれる自信はない」

(マナにあふれていても、やはり人間は人間、か。人の限界と、それに伴うルールは避けられねえ。こっからは魔法との戦いも、想定に入れていかなきゃなんねえ。気をつけないと。)





「ねぇ……。ジーク。アンタあと何回やれる?」

赤く色づいた唇が迫る。

「後は……。数える、ちょっとまて。1・2の……、え~っとな」

巨大な芋虫の群れから隠れながら、ジキムートが指折り数える。

少し人影がはみ出る程度の岩場に、2人が居た。

しかし敵は、光ではなく音を頼りにしているので、少し見えていても気づけない。

奴らは耳が良い。

お互いに耳元で囁きながら、言葉を交わす。

「ねぇ、あと一枚タトゥーちょうだ~い。少ないんだよね」

そう言うとやおら細い指で、懐を探ってくるイーズ。

「あっ、こらっ!? 無茶言うなっ、お前と違ってこっちは札を、ラグナ・クロスを開ける事だけに1枚消費すんだぞっ。そんな余裕はねえっ!」

「そんな事言ったって私、タトゥーなきゃなんもできないじゃんっ!」

唇をとがらし、自分の窮地を訴える相棒。しかし……。

「だったらお前、バカスカとタトゥーを〝トラッシュ・ディ・アマス(一撃必殺)〟に回すんじゃねえよっ! こっちも7枚しか残ってねえみてなんだっ。7……か、良い数字だぜ。運が良いっ」

「えぇ、面倒じゃ~ん。〝食べ残し(マイオセス)〟は疲れるんだよねぇ。体がドクドクするし……」

「〝マイオセス(魔力割置)〟型は本来は、効率重視だろうがっ。お前の魔力なら十分、小分けで行けるんだ、効率よく使えっ!」

イーズ曰く、食べ残し。

通称〝マイオセス・アート(魔力割置)〟。

これは、1枚のタトゥーで長時間、小分けに魔法を使用する場合によく用いられる、基礎的な魔法技術だ。

逆に、イーズのように一撃必殺の、トラッシュ・ディ・アマス。

たった一撃に、タトゥーの全てを使い切る方法は稀である。


「1枚で1撃っ! 潔く、一撃強化っ! キリが良いでしょぉ? これが夢ある魔法使いの生き様よっ」

むやみやたらに派手な、いぶし銀を吠えるイーズ。

「生き様を変えろっ! ってかお前は、数を数えるのが得意だろうがっ! なんの為の頭だよっ!」

それにジキムートが抵抗するが、しかし……。

「どったらいっしょねえ? えへへ。でさっ、ねぇねぇ。それで、タトゥーもらって良いよね~?」

全く譲る気がないイーズ。

自分の耳にかかった、紅の髪を遊びながら聞いて来る。

「アホ垂れっ! ぐぬっ……。残りは7枚だ。えと、あと3回は最低でも使いたいんだから。それ……で? 3回魔法を使うのに、俺は1度で、2枚使うんだよな。すると、何枚必要なんだチクショウっ!」

必死に2という数字を指で折る、無学のジキムート。

数字に沸騰する脳みそに苦しみ。

そして、胸を揉みしだいてくるイーズからも、抵抗しなければならなかった。


「7枚なら一枚、良いんだよっ! って事で~、へへっ。前方から大きくいくねっ! じゃあ省エネで、なるべく大きめの――。う~ん、どったらいっしょね?」

一瞬で計算し終え、イーズがジキムートの胸からタトゥーを一枚、さっと抜き取ったっ!

そして自らの白い肌に、奪い取ったタトゥーを張り付ける。

じゅうう。

「あっ!? ちょっっ。7枚から一枚減ったからえと、残りは1・2の6枚。3回分残ったか、ふぅーっ。だが7は終わったぞ、クソがっ!」

数を数えられない傭兵が、立ち上がるイーズに遅れて体を起こすっ!

そして2枚のタトゥーを、自分のラグナ・クロスにへばりつかせ……。

ジュウ……しゅぼっ。

「うぅあぁ……っ!?」

肉が焼ける臭い。

この痛みは、何時になっても慣れない。

普通の人間の2倍の痛み。

だが、仕方がないのだ。

彼の呪文は特殊。

どうあがいても1枚では、ラグナ・クロスを開けれる時間が足りなくなる。

「よし行けジークっ! 次は〝開きっぱ(インソレンセ)〟だっ」

叫んで宣言通り、ラグナ・クロスを開きっぱなしにするイーズっ!

「なっ、開きっぱって、お前それっ! ちょっと待てイーズっ。〝インソレンセ(猛焔)〟はっ!? お前の魔力でそいつはま……っ」


シゥボボッ、ドヒュンっ!


解き放たれる、極太のビーム砲っ!

魔力の波が一気に、イーズの腕から噴き出したっ!

すさまじいスパークルを上げ、とんでもない範囲を焦がすイーズっ!

彼女の圧倒的な質量の、太いビーム砲の威力は絶大っ!

猛烈な力で、樹々をなぎ倒していくっ!


「あ~、すっきりした。ふぅ……。これで一気に、5分の1くらいは飛ばしたぞっ! どうだっ、1枚でたくさん焼いたよジークっ! これぞ省エネっ!」

「って言うかお前ーーっ! 〝インソレンセ・フレア(猛焔)〟でこんなに燃やしたら、森がっ……。森がーーーっ!?」

被害は、森一画。

焼き尽くした後には、悲惨な剥げた山肌が見えている。

焦げた木々が炭と化し、鳥は泣き叫んで飛んでいく。

そして……、黒く飛び立つ者の中には、ジキムート達に寄ってくる者たちも。


「あぁ……。こっち来ちゃいそうだね、あれ。ごっめんジーク」

ジキムートに謝るイーズ。

どうやらうっかり、いらぬお客さんを呼んでしまった事に、今更になって気づいたようだ。

「……」

「あっ、あの黒いのってもしかして、成虫かな~? あれって確か、依頼には入ってないよねぇ?」

「……」

「まぁ、いっか。うん。ほら、絶対数は、少ないよっ! ほら……、1、2、3。えーっと――。少ないって事で。アハハっ」

睨んで来るジキムートに、居心地悪そうに笑って、タトゥーを用意するイーズ。

しかし……。

「馬鹿っ! 馬鹿馬鹿馬鹿野郎ーーーっ! 逃げるぞーーっ!」

ガバッとイーズを抱きかかえ、ジキムートが山の斜面を転がるように、走っていくっ!

「はえ? 戦わないの? 魔物がやってくるよ?」

プルンプルンと揺れる、大きめの胸の位置取りを直しながら、相棒に聞くイーズ。

「アホっ! 馬鹿っ! 町の奴らから逃げんだよっ!」

「……。なんで?」

明らかに、不審な目をするイーズ。


「もう町には帰れねえんだよっ! 俺らはっ! タトゥーもさっさとしまえっ!」

「なんで? 魔物を倒せば、問題ないじゃんっ! 別にそこまで私、悪い事してないじゃんっ! 責任はきちんと取るもんっ! 町に迷惑かけないように、一人ででも仕事するモンっ!」

相棒の怒った素振りに、イーズが反抗する。

実際彼女達なら、危険はあるが、なんとかできる量だ。

町にモンスターが寄らないように、2人で戦い抜くのは問題はないはず。

「馬鹿っ! 虫の話じゃねえよっ!」

「じゃあ何さっ! 帰ってきちんと報告すませないと、依頼料が出ないじゃんっ! 馬鹿なのジークっ! お金がもったいない~っ!」

イーズがジタバタと怒って、ジキムートの腕の中でわめくっ!

だが……。


ピキっ!


「あぁっ!? 森は貴族の宝だろが」

青筋立てて、相棒を睨むジキムート。

……。

「あっ」

イーズが忘れてたと言わんばかりに、生声を上げた。


「森を焼いたら半殺しだボケっ! 貴族に焼き出されるぞっ!」

森は立派な、貴族の領土だ。

勝手に焼けば、重罪になる。

「あぁ……。どったらいっしょねぇ……」

すすっとタトゥーをなおす、相棒イーズ。

「つっ、次の街に進む、いい機会だね~。あははっ」

「馬鹿っ! 馬鹿垂れがっ!」

「ごめんてばぁ。機嫌直してよ~」

「馬っっ鹿野郎っ!」

「ちょっ!? 今のトーン、ひどいよジークっ! 本気で言ったなぁっ!?」


「アホっ! 馬鹿っ! 間抜けーーーっ! 次の町はこっから5日なんだよ、ボケェっ!」

「……降ろしてジーク。私、あほだわ。走る――」

2人は仲良く泣きながら、山を下っていく。

それは、寒さが染みる季節の話だった……。

「関所も通れねえんだぞーーっ!」

「ふぇえええーーーっ! ごめんジ―――クっ!」

彼らはここから、なんの補給も無しに5日間。

雰囲気最悪のまま、山の中をさ迷うしか手が無かったのだ……。





(魔法もどんなに強くたって、使いどころなんだよなぁ。あの後やっぱ、手持ちのタトゥーの残数が怖くて、町に戻ったっけか。そんで2人して夜盗やって、教会の神父脅して、タトゥー売らせたんだったかね。ありゃ散々だった)

苦笑いするジキムート。

イーズは少なからずとも、トラブルメーカーの気が強かった。
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