異世界冒険譚 神無き世界の傭兵から 親愛なる人を愛する神へ~傭兵が死すべき場所は 神の慈愛の手のひらか それとも神に見放されし己が郷土か~

猫板家工房

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2章 聖地編。

女騎士。女の傭兵。

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「ふぅ。ふふっ。まぁ多めに見てあげてはどうです? 魔法を修めるには、相当の努力が必要でしょうからね」

白マントがヤレヤレといった顔で、がなりたててくる女たちを見やり、ため息を吐いた。

「必死に勉強して、男と同じくらいに活躍できるようになってるんです。まぁその分、今までの憂さをここぞとばかり、晴らそうって事ですよねぇ」


力が全ての時代だ。

生きるにも、保険も社会保障も無いのだ。

平等な立法もなく、そして、公平な行政すらも。

あまつさえ、司法に従順という発想すらない、中世の世界。

仕事も十中八九、肉体労働。

女は戦力外の代物ばかり。

それは、魔法があろうとなかろうと同じである。

なぜなら、平等に魔法が使えるなら、強靭な肉体を持っていた方が得に決まっているからだ。

そうなると女の領分は普通、出産位しか道がなかった。

そこに唯一の魔法という光にすがり、低い身分のその世界から、男の世界に入ってのし上がったのだ。

女にとっては魔法は、のし上がれる唯一無二の存在と言えた。

千載一遇の意趣返し機会だ、躍起になっているのだろう。


「なんだ。お前は女の味方じゃないのか?」

「私はただ単純に、努力は不変で同じだと、そう思っているだけですよ。頑張ったとか、歯を食いしばったとか。そんなの相手も同じ。自分にはハンデがあって――。なんて言ってるうちは、同じにはなれません。こんな物は全部、実力で示す物」

そう言って白マントは、先ほど女騎士に毒づいた傭兵に、袋から取り出した何かを見せた。

「……おっ!? おめぇ。それは、王都ギルド最高のっ!?」

「お尻を描いて上げるだけでも、光栄に思いなさい。脳筋」

薄ら笑いながら、白マントが睨む。

後衛を馬鹿にした言葉に、魔法士の白マントもカチンときたのだろう。

「へへっ。良いねぇ。違えねえ」

顔に似合わず泥臭い事をする白マントに、ジキムートが笑う。

(しっかし、傭兵自体には、女は少ないのか。まぁ当然だわなな。魔法士であろうと戦士であろうと、傭兵になるなんて、素っ裸で街を歩くのと変わんねえ)


傭兵になりたがる女。

そんなけったいでキチガイ染みた者なんて、いないと断言できた。

普通に考えてほしい。女が傭兵と団体行動すれば、犯される確率はいくつだと思う?

そこは山中、誰も見ていない暗がりをずっと、男3と女1。

そこで寝食を共にする。何も無いわけがない。

「全く。これだから傭兵どもはっ!」

女騎士が見下したように傭兵を見回す。


(だからの女騎士様って事、か)

闘う才能があっても、決して傭兵になりたくない女達は騎士団に。

特に、王立の教育機関に殺到する。

そこでなら危なくないのか? と問われれば首をかしげるが、それでもマシだ。兆倍ほど。

「ただ……。この町でこの量は、どうかと思いますがね。まぁ、良いのでしょう」

白マントがほくそ笑みながら、女騎士たちを見回す。

「誰か応えないなら、全員朝まで牢屋にぶち込むぞっ!」

「ちっ。えっ……。えと。おぃっ、どうなってる」

女軍人に恫喝され、舌打ちしながら小声で悪態をつく傭兵。

別の傭兵達と、情報を共有しようとするが――。

返事がない。

「……ちっ、ボウフラが。おいっ」

業を煮やし、隊長格のそばを固める女軍人が、部下に命令する。

その声に多くの部下が、馬上から一斉に降り、即座に行動開始っ!

鮮やかな速さで任務に就く。そして……。


「犯人はどっちに行った?」

「いやっ、俺はそんな事より、仲間を助けるのに……」

「ウジ虫の傷の舐めあいなぞ、どうでも良いっ! どこで見失った」

声が響く。

そして矢継ぎ早の質問は、ジキムートの番に。

「お前は何を見たっ!」

「いやっ、俺は巻き込まれてたんでね。なんも」

汗を拭きながら、適当に応えるジキムート。

舌打ちして、すぐに去っていく部下騎士。

「使えない奴らばっかだな。次っ! お前……は? 女か」

白マント傭兵に行きつき……。

その色白で、美しい肌。

細い体つきを困惑するように見る部下騎士の男。

「いえ、私は男です」

「えっ!? いや、そんな馬鹿なっ。ん……んぅ。そ……そうか、まぁ良いっ! でっ、何を見たんだ?」

「な~んにも。私も巻き込まれていたのでね」

「そうか……。じゃあ仕方ないな。生きのこっただけでも十分だっ! 次っ!」

白マント傭兵をジロジロ見ながらも、騎士団員は必死に興味を押し殺して、次に行く。

(コイツを見て平静を装えるんだ、この部隊はなかなかの練度だな。)

目線で騎士団員を追うジキムート。

そこらに居た傭兵達全員に、隈なく詰問していく部下たち。

この世界では杞憂まれな、職務に忠実な者達。


「こいつぁ絶対、敵にはしたくねぇぞ」

汗を流すジキムート。

何度も見た事がある。

本陣でどっかりと腰を下ろし、君主その他、重要人物を守る部隊。

ありとらゆる戦闘の達人だ。

傭兵がプロなら、相手は達人。

一回り程の力の差がある。

だが――そこではない。


「ええ……。恐らくあの装備には、耐魔法に耐物質はもちろんの事。耐毒に耐麻痺などの、防御術式のオンパレードになっているでしょうね。とてもじゃないが喧嘩を売られたら、買って良いような相手では無いでしょう」

瞳にまじまじと、騎士たちが羽織った鎧を映す白マント傭兵。

秀逸。そう、一品ものだ。

駅にいた憲兵なんぞ、話にならず。

シャルドネが持っていた騎士団でさえ、競合相手にならないほどの重装でかつ、威圧的っ!

白マント傭兵がうなる。

「ギリンガム隊長っ、この商店の女が怪しいかとっ!」

物の10分で、部下の1人が老婆を連行して、隊長の前に引きずり出したっ!

首根っこを掴み、部下が老婆を押さえ込むっ!

「貴様、知っている事を吐け。何を隠している」

「……なっ、なっ、何も。決して私は何も。ほっ……ほほっ。はぁはぁ。本当ですっ!」

片腕と頭を押さえ込まれ、地に伏せられた老婆。

彼女は心臓の部分を押え、必死に抗弁している。

体は震えて言葉はしどろもどろで……。

いや、これはただの加齢かもしれない。

だが、顔面が蒼白なのは分かった。

「しかしっ、この婆さんの商店近くにて、被疑者の足取り途切れていますっ! 隠すと為にならんぞっ、ババアっ!」

「そっ……、それはっ。ですが私は、本っ当に何も知りませんっ! 知らないんでございますっ」

泣きながらその老婆が抗弁する。

顔色がおかしく――。

何度も何度もせわしなく周りを見たり、唸ったりを繰り返す老婆。


(……なんだ? 嘘の臭いはほとんどしねえが、何かがあるな。)

ワナワナと震える老婆の様子。

それに違和感を感じ、ジキムートが周りを見渡す。

「ではなぜ、被疑者を見てない。説明せよ」

ギリンガムと呼ばれた隊長も、何かを探す様に周りを見渡しながら聞く。

老婆への傾聴はどこか、上の空だ。

「わっ、私はもう……。こっ、この目。そう、目が悪くて。遠くのものは見えておりませぬのじゃっ!」

よろよろとしながら祈るように地面に屈し、足をへばりつけ……そして。

「……っ!?」

「本当に……」

ギリンガムに、老婆が手を伸ばした瞬間だっ!

「貴様っ!」

ザスっ!

「ぐぇっ!?」

突如として、兵に刺されてしまう老婆っ!

あっさりと大きな剣が、痩せた体に突き刺さる。

きゃああっ!?

周りで悲鳴が聞こえる。

おそらく町人だろう。

今まで遠巻きに見つめていた住民が、老婆の無残な姿に思わず、悲鳴をもらしたのだ。

「駄目だ……。駄目だぞっ。さっ、行こう!」

「うぅ……うぅ」

悲鳴を漏らした女性に言い聞かせるように、男が腕を引いた。

泣きむせびながら何人かが、その場を後にする。

知り合いなのかもしれないが、誰も。

誰一人として、その老婆の残酷な最後に、名を読んですらやらない。


「……」

ジキムートが訝しそうに見回す。

なんとも陰惨な雰囲気だ。

強引な統治。

そんな事はよくある話で、よく見て来た。

だが、歴戦の傭兵が気になった事が1つ。

(街の奴らの眼の色が違う。)

「……ふむ。まぁ良い。お前たちリャドリック班はここに残り、一帯を重点的に探せっ! 奴らのアジトを見つければすぐに、例え夜でも朝でも私にすぐに報告だっ」

「ハッ!」

隊長の言葉に部下が一斉に、大声でハキハキと応えるっ!

「傭兵どもは任務の邪魔をするなよっ! お前たちは出しゃばらずせいぜい、宿舎で賭けにでも興じていろ、一生……な」

嫌味というよりは、本心だろう。

傭兵にも〝お願い″したギリンガムは、号令後、大群を連れて去っていった。

「おいおいっ、いくらなんでも……。ひどすぎねえか、あんな婆さん一人に」

見えなくなると、傭兵達が憂さを晴らすように声を上げた。

おそらくは、ジキムートと同じ馬車にいた一人だ。

見覚えがあるかもしれない。

未だ残る騎士団を見ながら、適当に隣にいた傭兵に聞いている。


「……。すぐ分かる。女と子供には触るなよ、絶対に」

先輩とでも、言うべきだろうか?

以前から仕事についている傭兵が、冷たく言い放つ。

そしてすぐに、逃げるようにその場から離れて行く。

「この町、何かおかしいな」

「えぇ」

住民を見回しながら、ジキムートが考えをめぐらせていく。

統一された青い街並みに、よく似た気配のする人々。

そして、人の少なさ。

「とりあえずはそろそろ、行きましょうか。考えるのは後でも」

「……あぁ」

白マントの声に促され、2人は歩き出す。


「なかなか腕が立ちますね……。ジキムートさん」

銀の髪が揺れ、自称男の傭兵が笑いかけてくる。

「お前、あの女の配下か。道理で……」

ジロジロと、ノーティスを見やるジキムート。

「えぇ」

ジキムートに問われ、笑う自称男。

「男、なんだよな?」

「ええ。当然」

「まぁ……。お前がそう言うなら別に、良いけどよ」

そう言いつつも、あまりに美しい自称男をジロジロと見る、ジキムート。

(まぁ。女の傭兵なんて、危ないったらありゃしないからな。)


この世界はDNA検査も。

電話一本で、犯人の特徴や人相を届ける方法も、存在はしない。

犯されました。

そうですか残念です。

捕まえてください。

多分どこか、標高2000メートルの山の中か、『すぐ隣』の、徒歩12時間歩いた先の街にいるでしょう。

人相で手配? 私絵が描けないので、絵描きを呼ぶなら銀貨2枚です。

頑張って。

以上だ。

これで女が危険にならないと思えるなら、それは狂っていると言える。

ちょっと魔が差したって、誰も咎めない。

咎める手段が限りなく、極限に少ない。

アジャコンなんたらさんでも間違いなく、傭兵は選ばないだろう。

もしどうしても、傭兵になる必要に迫られれば、例えどんな嘘でもつき通さねばならない。

バレるかバレないか、じゃない。

しがみつくか、しがみつかないかだ。


「私はノーティス。よろしく」

手を出してくるノーティス。

「……」

一瞬だが、ジキムートが止まる。

しかし……。

「あぁ。じゃあノーティス。良い感じにあの嬢様に、お前を救出した様子を格好よく、金をせびれる感じで報告しておいてくれ」

「ふふっ、分かりました。ではさっきの借りも含めて、お嬢様宛で頼んでおきますので」

「へぇ……。なかなかチャッカリと、おもしれえ事言うなお前。そういうのは慣れてんのか? 『奇抜な傭兵』として、さ」

「ふふっ。どうでしょうね……」

笑うノーティス。

(女の傭兵は大体、借りを作るのを嫌がるからな。イーズもそうだった。借りを残しておくと後で、体で支払えとゴネられるのに慣れちまってんだろうな。)

ノーティスを観察しながら、鼻を鳴らすジキムート。

(ただそれなら、美男子だっておんなじだ。そういう話も、なくはねえ。コイツなら、な)
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