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2章 聖地編。
女騎士。女の傭兵。
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「ふぅ。ふふっ。まぁ多めに見てあげてはどうです? 魔法を修めるには、相当の努力が必要でしょうからね」
白マントがヤレヤレといった顔で、がなりたててくる女たちを見やり、ため息を吐いた。
「必死に勉強して、男と同じくらいに活躍できるようになってるんです。まぁその分、今までの憂さをここぞとばかり、晴らそうって事ですよねぇ」
力が全ての時代だ。
生きるにも、保険も社会保障も無いのだ。
平等な立法もなく、そして、公平な行政すらも。
あまつさえ、司法に従順という発想すらない、中世の世界。
仕事も十中八九、肉体労働。
女は戦力外の代物ばかり。
それは、魔法があろうとなかろうと同じである。
なぜなら、平等に魔法が使えるなら、強靭な肉体を持っていた方が得に決まっているからだ。
そうなると女の領分は普通、出産位しか道がなかった。
そこに唯一の魔法という光にすがり、低い身分のその世界から、男の世界に入ってのし上がったのだ。
女にとっては魔法は、のし上がれる唯一無二の存在と言えた。
千載一遇の意趣返し機会だ、躍起になっているのだろう。
「なんだ。お前は女の味方じゃないのか?」
「私はただ単純に、努力は不変で同じだと、そう思っているだけですよ。頑張ったとか、歯を食いしばったとか。そんなの相手も同じ。自分にはハンデがあって――。なんて言ってるうちは、同じにはなれません。こんな物は全部、実力で示す物」
そう言って白マントは、先ほど女騎士に毒づいた傭兵に、袋から取り出した何かを見せた。
「……おっ!? おめぇ。それは、王都ギルド最高のっ!?」
「お尻を描いて上げるだけでも、光栄に思いなさい。脳筋」
薄ら笑いながら、白マントが睨む。
後衛を馬鹿にした言葉に、魔法士の白マントもカチンときたのだろう。
「へへっ。良いねぇ。違えねえ」
顔に似合わず泥臭い事をする白マントに、ジキムートが笑う。
(しっかし、傭兵自体には、女は少ないのか。まぁ当然だわなな。魔法士であろうと戦士であろうと、傭兵になるなんて、素っ裸で街を歩くのと変わんねえ)
傭兵になりたがる女。
そんなけったいでキチガイ染みた者なんて、いないと断言できた。
普通に考えてほしい。女が傭兵と団体行動すれば、犯される確率はいくつだと思う?
そこは山中、誰も見ていない暗がりをずっと、男3と女1。
そこで寝食を共にする。何も無いわけがない。
「全く。これだから傭兵どもはっ!」
女騎士が見下したように傭兵を見回す。
(だからの女騎士様って事、か)
闘う才能があっても、決して傭兵になりたくない女達は騎士団に。
特に、王立の教育機関に殺到する。
そこでなら危なくないのか? と問われれば首をかしげるが、それでもマシだ。兆倍ほど。
「ただ……。この町でこの量は、どうかと思いますがね。まぁ、良いのでしょう」
白マントがほくそ笑みながら、女騎士たちを見回す。
「誰か応えないなら、全員朝まで牢屋にぶち込むぞっ!」
「ちっ。えっ……。えと。おぃっ、どうなってる」
女軍人に恫喝され、舌打ちしながら小声で悪態をつく傭兵。
別の傭兵達と、情報を共有しようとするが――。
返事がない。
「……ちっ、ボウフラが。おいっ」
業を煮やし、隊長格のそばを固める女軍人が、部下に命令する。
その声に多くの部下が、馬上から一斉に降り、即座に行動開始っ!
鮮やかな速さで任務に就く。そして……。
「犯人はどっちに行った?」
「いやっ、俺はそんな事より、仲間を助けるのに……」
「ウジ虫の傷の舐めあいなぞ、どうでも良いっ! どこで見失った」
声が響く。
そして矢継ぎ早の質問は、ジキムートの番に。
「お前は何を見たっ!」
「いやっ、俺は巻き込まれてたんでね。なんも」
汗を拭きながら、適当に応えるジキムート。
舌打ちして、すぐに去っていく部下騎士。
「使えない奴らばっかだな。次っ! お前……は? 女か」
白マント傭兵に行きつき……。
その色白で、美しい肌。
細い体つきを困惑するように見る部下騎士の男。
「いえ、私は男です」
「えっ!? いや、そんな馬鹿なっ。ん……んぅ。そ……そうか、まぁ良いっ! でっ、何を見たんだ?」
「な~んにも。私も巻き込まれていたのでね」
「そうか……。じゃあ仕方ないな。生きのこっただけでも十分だっ! 次っ!」
白マント傭兵をジロジロ見ながらも、騎士団員は必死に興味を押し殺して、次に行く。
(コイツを見て平静を装えるんだ、この部隊はなかなかの練度だな。)
目線で騎士団員を追うジキムート。
そこらに居た傭兵達全員に、隈なく詰問していく部下たち。
この世界では杞憂まれな、職務に忠実な者達。
「こいつぁ絶対、敵にはしたくねぇぞ」
汗を流すジキムート。
何度も見た事がある。
本陣でどっかりと腰を下ろし、君主その他、重要人物を守る部隊。
ありとらゆる戦闘の達人だ。
傭兵がプロなら、相手は達人。
一回り程の力の差がある。
だが――そこではない。
「ええ……。恐らくあの装備には、耐魔法に耐物質はもちろんの事。耐毒に耐麻痺などの、防御術式のオンパレードになっているでしょうね。とてもじゃないが喧嘩を売られたら、買って良いような相手では無いでしょう」
瞳にまじまじと、騎士たちが羽織った鎧を映す白マント傭兵。
秀逸。そう、一品ものだ。
駅にいた憲兵なんぞ、話にならず。
シャルドネが持っていた騎士団でさえ、競合相手にならないほどの重装でかつ、威圧的っ!
白マント傭兵がうなる。
「ギリンガム隊長っ、この商店の女が怪しいかとっ!」
物の10分で、部下の1人が老婆を連行して、隊長の前に引きずり出したっ!
首根っこを掴み、部下が老婆を押さえ込むっ!
「貴様、知っている事を吐け。何を隠している」
「……なっ、なっ、何も。決して私は何も。ほっ……ほほっ。はぁはぁ。本当ですっ!」
片腕と頭を押さえ込まれ、地に伏せられた老婆。
彼女は心臓の部分を押え、必死に抗弁している。
体は震えて言葉はしどろもどろで……。
いや、これはただの加齢かもしれない。
だが、顔面が蒼白なのは分かった。
「しかしっ、この婆さんの商店近くにて、被疑者の足取り途切れていますっ! 隠すと為にならんぞっ、ババアっ!」
「そっ……、それはっ。ですが私は、本っ当に何も知りませんっ! 知らないんでございますっ」
泣きながらその老婆が抗弁する。
顔色がおかしく――。
何度も何度もせわしなく周りを見たり、唸ったりを繰り返す老婆。
(……なんだ? 嘘の臭いはほとんどしねえが、何かがあるな。)
ワナワナと震える老婆の様子。
それに違和感を感じ、ジキムートが周りを見渡す。
「ではなぜ、被疑者を見てない。説明せよ」
ギリンガムと呼ばれた隊長も、何かを探す様に周りを見渡しながら聞く。
老婆への傾聴はどこか、上の空だ。
「わっ、私はもう……。こっ、この目。そう、目が悪くて。遠くのものは見えておりませぬのじゃっ!」
よろよろとしながら祈るように地面に屈し、足をへばりつけ……そして。
「……っ!?」
「本当に……」
ギリンガムに、老婆が手を伸ばした瞬間だっ!
「貴様っ!」
ザスっ!
「ぐぇっ!?」
突如として、兵に刺されてしまう老婆っ!
あっさりと大きな剣が、痩せた体に突き刺さる。
きゃああっ!?
周りで悲鳴が聞こえる。
おそらく町人だろう。
今まで遠巻きに見つめていた住民が、老婆の無残な姿に思わず、悲鳴をもらしたのだ。
「駄目だ……。駄目だぞっ。さっ、行こう!」
「うぅ……うぅ」
悲鳴を漏らした女性に言い聞かせるように、男が腕を引いた。
泣きむせびながら何人かが、その場を後にする。
知り合いなのかもしれないが、誰も。
誰一人として、その老婆の残酷な最後に、名を読んですらやらない。
「……」
ジキムートが訝しそうに見回す。
なんとも陰惨な雰囲気だ。
強引な統治。
そんな事はよくある話で、よく見て来た。
だが、歴戦の傭兵が気になった事が1つ。
(街の奴らの眼の色が違う。)
「……ふむ。まぁ良い。お前たちリャドリック班はここに残り、一帯を重点的に探せっ! 奴らのアジトを見つければすぐに、例え夜でも朝でも私にすぐに報告だっ」
「ハッ!」
隊長の言葉に部下が一斉に、大声でハキハキと応えるっ!
「傭兵どもは任務の邪魔をするなよっ! お前たちは出しゃばらずせいぜい、宿舎で賭けにでも興じていろ、一生……な」
嫌味というよりは、本心だろう。
傭兵にも〝お願い″したギリンガムは、号令後、大群を連れて去っていった。
「おいおいっ、いくらなんでも……。ひどすぎねえか、あんな婆さん一人に」
見えなくなると、傭兵達が憂さを晴らすように声を上げた。
おそらくは、ジキムートと同じ馬車にいた一人だ。
見覚えがあるかもしれない。
未だ残る騎士団を見ながら、適当に隣にいた傭兵に聞いている。
「……。すぐ分かる。女と子供には触るなよ、絶対に」
先輩とでも、言うべきだろうか?
以前から仕事についている傭兵が、冷たく言い放つ。
そしてすぐに、逃げるようにその場から離れて行く。
「この町、何かおかしいな」
「えぇ」
住民を見回しながら、ジキムートが考えをめぐらせていく。
統一された青い街並みに、よく似た気配のする人々。
そして、人の少なさ。
「とりあえずはそろそろ、行きましょうか。考えるのは後でも」
「……あぁ」
白マントの声に促され、2人は歩き出す。
「なかなか腕が立ちますね……。ジキムートさん」
銀の髪が揺れ、自称男の傭兵が笑いかけてくる。
「お前、あの女の配下か。道理で……」
ジロジロと、ノーティスを見やるジキムート。
「えぇ」
ジキムートに問われ、笑う自称男。
「男、なんだよな?」
「ええ。当然」
「まぁ……。お前がそう言うなら別に、良いけどよ」
そう言いつつも、あまりに美しい自称男をジロジロと見る、ジキムート。
(まぁ。女の傭兵なんて、危ないったらありゃしないからな。)
この世界はDNA検査も。
電話一本で、犯人の特徴や人相を届ける方法も、存在はしない。
犯されました。
そうですか残念です。
捕まえてください。
多分どこか、標高2000メートルの山の中か、『すぐ隣』の、徒歩12時間歩いた先の街にいるでしょう。
人相で手配? 私絵が描けないので、絵描きを呼ぶなら銀貨2枚です。
頑張って。
以上だ。
これで女が危険にならないと思えるなら、それは狂っていると言える。
ちょっと魔が差したって、誰も咎めない。
咎める手段が限りなく、極限に少ない。
アジャコンなんたらさんでも間違いなく、傭兵は選ばないだろう。
もしどうしても、傭兵になる必要に迫られれば、例えどんな嘘でもつき通さねばならない。
バレるかバレないか、じゃない。
しがみつくか、しがみつかないかだ。
「私はノーティス。よろしく」
手を出してくるノーティス。
「……」
一瞬だが、ジキムートが止まる。
しかし……。
「あぁ。じゃあノーティス。良い感じにあの嬢様に、お前を救出した様子を格好よく、金をせびれる感じで報告しておいてくれ」
「ふふっ、分かりました。ではさっきの借りも含めて、お嬢様宛で頼んでおきますので」
「へぇ……。なかなかチャッカリと、おもしれえ事言うなお前。そういうのは慣れてんのか? 『奇抜な傭兵』として、さ」
「ふふっ。どうでしょうね……」
笑うノーティス。
(女の傭兵は大体、借りを作るのを嫌がるからな。イーズもそうだった。借りを残しておくと後で、体で支払えとゴネられるのに慣れちまってんだろうな。)
ノーティスを観察しながら、鼻を鳴らすジキムート。
(ただそれなら、美男子だっておんなじだ。そういう話も、なくはねえ。コイツなら、な)
白マントがヤレヤレといった顔で、がなりたててくる女たちを見やり、ため息を吐いた。
「必死に勉強して、男と同じくらいに活躍できるようになってるんです。まぁその分、今までの憂さをここぞとばかり、晴らそうって事ですよねぇ」
力が全ての時代だ。
生きるにも、保険も社会保障も無いのだ。
平等な立法もなく、そして、公平な行政すらも。
あまつさえ、司法に従順という発想すらない、中世の世界。
仕事も十中八九、肉体労働。
女は戦力外の代物ばかり。
それは、魔法があろうとなかろうと同じである。
なぜなら、平等に魔法が使えるなら、強靭な肉体を持っていた方が得に決まっているからだ。
そうなると女の領分は普通、出産位しか道がなかった。
そこに唯一の魔法という光にすがり、低い身分のその世界から、男の世界に入ってのし上がったのだ。
女にとっては魔法は、のし上がれる唯一無二の存在と言えた。
千載一遇の意趣返し機会だ、躍起になっているのだろう。
「なんだ。お前は女の味方じゃないのか?」
「私はただ単純に、努力は不変で同じだと、そう思っているだけですよ。頑張ったとか、歯を食いしばったとか。そんなの相手も同じ。自分にはハンデがあって――。なんて言ってるうちは、同じにはなれません。こんな物は全部、実力で示す物」
そう言って白マントは、先ほど女騎士に毒づいた傭兵に、袋から取り出した何かを見せた。
「……おっ!? おめぇ。それは、王都ギルド最高のっ!?」
「お尻を描いて上げるだけでも、光栄に思いなさい。脳筋」
薄ら笑いながら、白マントが睨む。
後衛を馬鹿にした言葉に、魔法士の白マントもカチンときたのだろう。
「へへっ。良いねぇ。違えねえ」
顔に似合わず泥臭い事をする白マントに、ジキムートが笑う。
(しっかし、傭兵自体には、女は少ないのか。まぁ当然だわなな。魔法士であろうと戦士であろうと、傭兵になるなんて、素っ裸で街を歩くのと変わんねえ)
傭兵になりたがる女。
そんなけったいでキチガイ染みた者なんて、いないと断言できた。
普通に考えてほしい。女が傭兵と団体行動すれば、犯される確率はいくつだと思う?
そこは山中、誰も見ていない暗がりをずっと、男3と女1。
そこで寝食を共にする。何も無いわけがない。
「全く。これだから傭兵どもはっ!」
女騎士が見下したように傭兵を見回す。
(だからの女騎士様って事、か)
闘う才能があっても、決して傭兵になりたくない女達は騎士団に。
特に、王立の教育機関に殺到する。
そこでなら危なくないのか? と問われれば首をかしげるが、それでもマシだ。兆倍ほど。
「ただ……。この町でこの量は、どうかと思いますがね。まぁ、良いのでしょう」
白マントがほくそ笑みながら、女騎士たちを見回す。
「誰か応えないなら、全員朝まで牢屋にぶち込むぞっ!」
「ちっ。えっ……。えと。おぃっ、どうなってる」
女軍人に恫喝され、舌打ちしながら小声で悪態をつく傭兵。
別の傭兵達と、情報を共有しようとするが――。
返事がない。
「……ちっ、ボウフラが。おいっ」
業を煮やし、隊長格のそばを固める女軍人が、部下に命令する。
その声に多くの部下が、馬上から一斉に降り、即座に行動開始っ!
鮮やかな速さで任務に就く。そして……。
「犯人はどっちに行った?」
「いやっ、俺はそんな事より、仲間を助けるのに……」
「ウジ虫の傷の舐めあいなぞ、どうでも良いっ! どこで見失った」
声が響く。
そして矢継ぎ早の質問は、ジキムートの番に。
「お前は何を見たっ!」
「いやっ、俺は巻き込まれてたんでね。なんも」
汗を拭きながら、適当に応えるジキムート。
舌打ちして、すぐに去っていく部下騎士。
「使えない奴らばっかだな。次っ! お前……は? 女か」
白マント傭兵に行きつき……。
その色白で、美しい肌。
細い体つきを困惑するように見る部下騎士の男。
「いえ、私は男です」
「えっ!? いや、そんな馬鹿なっ。ん……んぅ。そ……そうか、まぁ良いっ! でっ、何を見たんだ?」
「な~んにも。私も巻き込まれていたのでね」
「そうか……。じゃあ仕方ないな。生きのこっただけでも十分だっ! 次っ!」
白マント傭兵をジロジロ見ながらも、騎士団員は必死に興味を押し殺して、次に行く。
(コイツを見て平静を装えるんだ、この部隊はなかなかの練度だな。)
目線で騎士団員を追うジキムート。
そこらに居た傭兵達全員に、隈なく詰問していく部下たち。
この世界では杞憂まれな、職務に忠実な者達。
「こいつぁ絶対、敵にはしたくねぇぞ」
汗を流すジキムート。
何度も見た事がある。
本陣でどっかりと腰を下ろし、君主その他、重要人物を守る部隊。
ありとらゆる戦闘の達人だ。
傭兵がプロなら、相手は達人。
一回り程の力の差がある。
だが――そこではない。
「ええ……。恐らくあの装備には、耐魔法に耐物質はもちろんの事。耐毒に耐麻痺などの、防御術式のオンパレードになっているでしょうね。とてもじゃないが喧嘩を売られたら、買って良いような相手では無いでしょう」
瞳にまじまじと、騎士たちが羽織った鎧を映す白マント傭兵。
秀逸。そう、一品ものだ。
駅にいた憲兵なんぞ、話にならず。
シャルドネが持っていた騎士団でさえ、競合相手にならないほどの重装でかつ、威圧的っ!
白マント傭兵がうなる。
「ギリンガム隊長っ、この商店の女が怪しいかとっ!」
物の10分で、部下の1人が老婆を連行して、隊長の前に引きずり出したっ!
首根っこを掴み、部下が老婆を押さえ込むっ!
「貴様、知っている事を吐け。何を隠している」
「……なっ、なっ、何も。決して私は何も。ほっ……ほほっ。はぁはぁ。本当ですっ!」
片腕と頭を押さえ込まれ、地に伏せられた老婆。
彼女は心臓の部分を押え、必死に抗弁している。
体は震えて言葉はしどろもどろで……。
いや、これはただの加齢かもしれない。
だが、顔面が蒼白なのは分かった。
「しかしっ、この婆さんの商店近くにて、被疑者の足取り途切れていますっ! 隠すと為にならんぞっ、ババアっ!」
「そっ……、それはっ。ですが私は、本っ当に何も知りませんっ! 知らないんでございますっ」
泣きながらその老婆が抗弁する。
顔色がおかしく――。
何度も何度もせわしなく周りを見たり、唸ったりを繰り返す老婆。
(……なんだ? 嘘の臭いはほとんどしねえが、何かがあるな。)
ワナワナと震える老婆の様子。
それに違和感を感じ、ジキムートが周りを見渡す。
「ではなぜ、被疑者を見てない。説明せよ」
ギリンガムと呼ばれた隊長も、何かを探す様に周りを見渡しながら聞く。
老婆への傾聴はどこか、上の空だ。
「わっ、私はもう……。こっ、この目。そう、目が悪くて。遠くのものは見えておりませぬのじゃっ!」
よろよろとしながら祈るように地面に屈し、足をへばりつけ……そして。
「……っ!?」
「本当に……」
ギリンガムに、老婆が手を伸ばした瞬間だっ!
「貴様っ!」
ザスっ!
「ぐぇっ!?」
突如として、兵に刺されてしまう老婆っ!
あっさりと大きな剣が、痩せた体に突き刺さる。
きゃああっ!?
周りで悲鳴が聞こえる。
おそらく町人だろう。
今まで遠巻きに見つめていた住民が、老婆の無残な姿に思わず、悲鳴をもらしたのだ。
「駄目だ……。駄目だぞっ。さっ、行こう!」
「うぅ……うぅ」
悲鳴を漏らした女性に言い聞かせるように、男が腕を引いた。
泣きむせびながら何人かが、その場を後にする。
知り合いなのかもしれないが、誰も。
誰一人として、その老婆の残酷な最後に、名を読んですらやらない。
「……」
ジキムートが訝しそうに見回す。
なんとも陰惨な雰囲気だ。
強引な統治。
そんな事はよくある話で、よく見て来た。
だが、歴戦の傭兵が気になった事が1つ。
(街の奴らの眼の色が違う。)
「……ふむ。まぁ良い。お前たちリャドリック班はここに残り、一帯を重点的に探せっ! 奴らのアジトを見つければすぐに、例え夜でも朝でも私にすぐに報告だっ」
「ハッ!」
隊長の言葉に部下が一斉に、大声でハキハキと応えるっ!
「傭兵どもは任務の邪魔をするなよっ! お前たちは出しゃばらずせいぜい、宿舎で賭けにでも興じていろ、一生……な」
嫌味というよりは、本心だろう。
傭兵にも〝お願い″したギリンガムは、号令後、大群を連れて去っていった。
「おいおいっ、いくらなんでも……。ひどすぎねえか、あんな婆さん一人に」
見えなくなると、傭兵達が憂さを晴らすように声を上げた。
おそらくは、ジキムートと同じ馬車にいた一人だ。
見覚えがあるかもしれない。
未だ残る騎士団を見ながら、適当に隣にいた傭兵に聞いている。
「……。すぐ分かる。女と子供には触るなよ、絶対に」
先輩とでも、言うべきだろうか?
以前から仕事についている傭兵が、冷たく言い放つ。
そしてすぐに、逃げるようにその場から離れて行く。
「この町、何かおかしいな」
「えぇ」
住民を見回しながら、ジキムートが考えをめぐらせていく。
統一された青い街並みに、よく似た気配のする人々。
そして、人の少なさ。
「とりあえずはそろそろ、行きましょうか。考えるのは後でも」
「……あぁ」
白マントの声に促され、2人は歩き出す。
「なかなか腕が立ちますね……。ジキムートさん」
銀の髪が揺れ、自称男の傭兵が笑いかけてくる。
「お前、あの女の配下か。道理で……」
ジロジロと、ノーティスを見やるジキムート。
「えぇ」
ジキムートに問われ、笑う自称男。
「男、なんだよな?」
「ええ。当然」
「まぁ……。お前がそう言うなら別に、良いけどよ」
そう言いつつも、あまりに美しい自称男をジロジロと見る、ジキムート。
(まぁ。女の傭兵なんて、危ないったらありゃしないからな。)
この世界はDNA検査も。
電話一本で、犯人の特徴や人相を届ける方法も、存在はしない。
犯されました。
そうですか残念です。
捕まえてください。
多分どこか、標高2000メートルの山の中か、『すぐ隣』の、徒歩12時間歩いた先の街にいるでしょう。
人相で手配? 私絵が描けないので、絵描きを呼ぶなら銀貨2枚です。
頑張って。
以上だ。
これで女が危険にならないと思えるなら、それは狂っていると言える。
ちょっと魔が差したって、誰も咎めない。
咎める手段が限りなく、極限に少ない。
アジャコンなんたらさんでも間違いなく、傭兵は選ばないだろう。
もしどうしても、傭兵になる必要に迫られれば、例えどんな嘘でもつき通さねばならない。
バレるかバレないか、じゃない。
しがみつくか、しがみつかないかだ。
「私はノーティス。よろしく」
手を出してくるノーティス。
「……」
一瞬だが、ジキムートが止まる。
しかし……。
「あぁ。じゃあノーティス。良い感じにあの嬢様に、お前を救出した様子を格好よく、金をせびれる感じで報告しておいてくれ」
「ふふっ、分かりました。ではさっきの借りも含めて、お嬢様宛で頼んでおきますので」
「へぇ……。なかなかチャッカリと、おもしれえ事言うなお前。そういうのは慣れてんのか? 『奇抜な傭兵』として、さ」
「ふふっ。どうでしょうね……」
笑うノーティス。
(女の傭兵は大体、借りを作るのを嫌がるからな。イーズもそうだった。借りを残しておくと後で、体で支払えとゴネられるのに慣れちまってんだろうな。)
ノーティスを観察しながら、鼻を鳴らすジキムート。
(ただそれなら、美男子だっておんなじだ。そういう話も、なくはねえ。コイツなら、な)
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眉根を下げて笑う母様に、一発じゃあ足りないなこれは。と確信した。幸い僕も姉さん達も祝福持ちだ。父様のような力極振りではないけれど、三対一なら勝ち目はある。
「じゃあ母様は、父様が嫌で離婚するわけではないんですか?」
ケーキを幸せそうに頬張っている母様は、僕の言葉にきょとん。と目を見開いて。…もしかすると、母様にとって父様は、関心を向ける程の相手ではないのかもしれない。嫌な予感に、今日一番の寒気がする。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
20年前に攻略対象だった父親と、悪役令嬢の取り巻きだった母親の現在のお話。
ハッピーエンド・バットエンド・メリーバットエンド・女性軽視・女性蔑視
上記に当てはまりますので、苦手な方、ご不快に感じる方はお気を付けください。

今さら言われても・・・私は趣味に生きてますので
sherry
ファンタジー
ある日森に置き去りにされた少女はひょんな事から自分が前世の記憶を持ち、この世界に生まれ変わったことを思い出す。
早々に今世の家族に見切りをつけた少女は色んな出会いもあり、周りに呆れられながらも成長していく。
なのに・・・今更そんなこと言われても・・・出来ればそのまま放置しといてくれません?私は私で気楽にやってますので。
※魔法と剣の世界です。
※所々ご都合設定かもしれません。初ジャンルなので、暖かく見守っていただけたら幸いです。
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