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勝者の褒賞。

勝者の美酒。

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「おぅ、そうかよ。分かった。じゃあなお前ら。ぷふふっ……。ダせえダせえ。出てけ~、出てけよ~……。だってさ。結局は全員、仲間を見捨てるゴミ騎士団だったな。2度も見捨てた。いつ戦えるようになるのやら~」

倒れて泣く騎士団だけでなく、喧嘩を売った全員ををあざ笑いながら、ローラに向かって行くジキムート。

最後は、感情のパンチを浴びせて終わりだ。

「……」

「全部返したぞ。お前らから受けたモン全部、な」

騎士団に言い放つ、ジキムート。

後には逆に、感情の吐き溜めにされ無様に佇む、領主を失った者たち。


「あっ、ローラ……。あの、疑って……。ごめんなさい。そのっ。声が似てたから」

突然に、使用人の一人が恐る恐る、ローラに謝罪をした。

おそらくは、声が似てたと勘繰ったのだろう。

だがアサシンの遺体の顔は、彼女ではなかったらしい。

「いえ」

ローラは気に留める様子もなく、無表情に歩き出す。

それにジキムートが、ニタニタと笑いながらついて行った。

「……」

「……」

静かな城内を、2人は無言で廊下を歩いて行く。

すると階段の途中。

やおらローラが、口を開いた。


「なかなか良い性格だ、傭兵。完全に戦意喪失からの、暴力の返答か。勝ちが見えても手を抜かないのは、相手の心に深く、後悔として刻んでやりたいから……、だな?」

「ご明察。当然だろう? 教育っていうのは、後悔から始まるんだ。ちったああれで、減らず口を叩けばどうなるか、分かったろ。偉そうな騎士団ぼっこぼこで、領民達大喜びよっ! それに俺は傭兵。他人が背負うべき物を、代わりに背負ってやるような馬鹿じゃない」

痛い目見ると、理解できるのが人間なら、痛い目見せて勝った奴が正義。

とてもあいまいな正義だがそれでいて、筋は通ってきた。

少なくとも戦場では。

そして……。

「ここになる。では、失礼がないように」

「そうか。しっかし……。悪かったな。腹、裂いちまって」

すぐに無言で去って行こうとする使用人に、笑いながら声をかけるジキムート。

「……」

やはり応えずローラは、闇へと消えた。

「なかなか良い教育してくれたよ……。ほんと。クソ虫め」

彼女は闇の中腹を押さえ、独り言ちた。

「……さて、と。入るぞ」


トントンっ。


「ええ、入りなさい」

中から声がするかしないか、そのうちに、扉をあけ放つジキムート。

彼が入った先には……。

ヴィエッタがいた。


香る良い匂い。

部屋は薄暗く、その中にたたずむ女は非常に、艶めかしく大人びていた。

「へぇ、なかなか奇麗じゃねえか」

美しく、艶がかった白い肌を見回すジキムート。

もうヴィエッタの傷は、ほぼ完全に治っている。

まるで何事もなかったように、白い肌を大胆に露出し、ジキムートの前で下着に薄いヴェールを這わせて、寝そべっていた。

「いらっしゃい」

まるで別人格の様な――。

今まで見てきたヴィエッタとは思えない、大人びていて、淫靡さと妖しさまとわせる顔で笑う、ヴィエッタ。

「ふぅ。なかなか、たいそうな仕事させてくれるじゃねえか。よもや、〝領主殺し″のいちみになるとはな」

隣にドッカと、勝手に座るジキムート。

髪が短くなって、少し印象が変わったヴィエッタを見やる。

すると少女が、笑って這い寄ってきた。

「そう……ね。でもそんな覚えは、以前にもあるのではなくて? 未経験……、ってわけでは、ねぇ」

ゆっくりとジキムートの太ももに、細い指を這わすヴィエッタ。

「ノーコメントだ」

その手をどかしてやる傭兵。

「あらぁ、わたくしそれが聞きたいのに」

彼女は名残惜しそうに、どかされた腕で、瓶から飲み物を注ぐ。

――ワインだ。

ワインを銀のグラスに注ぎ、傭兵に勧めて来るヴィエッタ。

「……仕事。そう、ビジネスの話をしに来た。傭兵を雇ってくれ。でなければ俺と敵対することになる」

はっきりと両の人指し指を立て、言い聞かせる。

この女と長々と駆け引きするのは、まずい。

そう感じる物が、ジキムートにはあったのだ。

「ふふっ、警戒心が強いのね。良いわ。それじゃあビジネス、ね」

笑ってその酒。

恐らく〝薬″入りの酒を、カーペットに垂らしたヴィエッタ。


「とりあえず、領主殺しの成果報酬をもらおうか」

「あら呆れた。これから大きな商談だというのに、そんな小さな事を持ち出すの?」

「俺は傭兵だ。例え〝俺の″食事を用意する為に、俺にテーブルを拭くのを頼んだとしても、金が要る」

傭兵の言葉にあきれ返るヴィエッタ。

「いくらかしら?」

「金貨5」

「……少し高いけれど、まぁ良いわ」

ふぅとため息をつきながら、ヴィエッタがズタ袋から適当に、金貨を取り出す。

「こんなものかしら、ね?」

細く白い指から、こぼれゆく金貨。

それを傭兵が受け取りながら――。

「ところで、聞きたい事があるんだが?」

「何かしら?」

「お前。あの時もし騎士団が、尻尾巻いて逃げずに、俺とタッグ組んでたら、どうしてた?  お前の作戦だけじゃなく、子飼いの庭師も危なかったろうに」

強化型ジーガが暴れ出した時。

もし、誰かが隊を結束させて、徹底抗戦を敷いていたら恐らくは、ヴィエッタが危なかっただろう。

何せ、下手を打てばローラ以下。

彼女直属の部下が、捕まる可能性すらあったのだから。

すると……。

「簡単よ。勝負事。それだけかしら」

ハッキリと、『勝ちと負け』を背負う言葉を口にした、少女。

当然の事を聞かれたという、つまらなそうな顔でヴィエッタは、ショートの髪をはらう。

ブラウンが美しく舞った。

「へぇ――」

傭兵が感嘆する。

彼女の瞳から発する言葉は、ただ一つ。

運命と踊る。

ただ、それだけ。

「お前、良い性格してるよ。俺はお前を見直したぜ」

笑うジキムート。


ある意味傭兵は安堵した。

なにせ彼女は、戦いのど真ん中で戦っていたのだから。

裏で糸引いていたのではない、最前線で戦っていた。

騎士にも傭兵にもそして、義母にも。

勝機はあった。

(こんな一途なじゃじゃ馬に、貴族なんて世界は退屈だろうよ。もっと広い世界に行った方が、楽しめるハズだが、な。)

美しい、勝気な少女ヴィエッタを見る、傭兵。

彼女の狂気染みた気概は、貴族には向かない物だと感じ取っていた。

そして……。

(だがもし、貴族の狭い世界を壊そうってんなら――)

「それで、これからのビックビジネスだけれども。あなたには〝神の水都″に行ってほしいの。そう思っていたのですけれど、ね。ふふっ、やはりやめるわ」

少女が笑うと同時、黒づくめが1、2……5。

総勢5人、現れた。

「あなたが〝あの男″の手下でない、その保証がないもの。ごめんなさいね? 一瞬で殺しなさい、あなた達」

命令し、ベッドの脇にあった剣を引き抜いたヴィエッタ。

彼女の脇にはびったりと、1人の黒づくめ。

(横にローラ。さすがの万全って奴か。しっかし保証、ね。ローラも言ってたな。じゃあそうすっと……。)

ジキムートは瓶を見る。

ワインが入った瓶。


「安心しろ……っ。俺は間違いなく、傭兵だ。信念と金銭だけで生きているっ!」

そう叫ぶとすぐに、そこにあった瓶。

〝薬″入りの酒を一気に飲み干したっ!

「……っ!?」

ゴクッ。ゴクッ……ゴクッ。

「……ぐぅ」

頭が痛い……。

何もかも……全てが分からなくなる。

どこにいるのか、誰といるのかさえ……だ。

そのままベッドに座り込み、静かになった。

「……」

唖然と立ち尽くし、驚く女たち……。

すると……。

「……。ふふっ……。あははっ。アーハッハっ!」

ヴィエッタが突如、笑い始めたっ!

「さっ、最高だわっ! そんな危険を冒すというのねっ!? これが『酩酊剤』じゃなくて毒ならば、この男……っ。死んでいたのよっ!?」

「はい」

興奮して指をさしながら聞くヴィエッタに、ローラがうなずく。

「確かにその根性、認めないわけにはいかないわっ。ふふっ。うちの騎士団とは大違いね」

笑って、薬が入っていない酒を煽るヴィエッタ。

もう傭兵は動けない。

右と左という言葉すら、あいまいだ。

「……っ」

シュパッ!

やおら黒づくめのローラが、傭兵の首筋を一閃っ!


その場所から血がどくどくと、止めどなく流れ出す。

だが、その被害者であるジキムートが、動かない。

「致死性の高い攻撃に、微動だにせず、か。効いてます」

「そう……。では」

満足気にジキムートの前に座り、ヴィエッタが傭兵の手を取り聞く。

まるで、子供に向き合ってあげるように。

「ねぇあなた。私の事を、どう思ってるの?」

「ん……んぅ。ヤリてぇ。しゃぶらせ……てぇ」

その言葉に、苦笑が漏れる。

「……そう。正直なのね。他には?」

「いっ……いっ」

「い?」

耳を近づけるヴィエッタ。

「淫売」

くくくっ……。

笑ったのはヴィエッタだ。

そして1時間。彼が眠るまで、話は続いたのだった。
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