異世界冒険譚 神無き世界の傭兵から 親愛なる人を愛する神へ~傭兵が死すべき場所は 神の慈愛の手のひらか それとも神に見放されし己が郷土か~

猫板家工房

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戦い。殺し、殺され、生き抜く。

騎士と傭兵。義母と義娘。

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「いつも通り、素人騎士団様のお守りになっちまった。そんなもんの押し売りは、お断りだってぇのに、ったく。そんでもって、扉も閉められた……と。ロング・ショッター(大穴野郎)〟共めっ!」











『ロング・ショッター』とは、競馬の大穴の馬を指す言葉である。



では、この言葉で騎士団を示す、その真意。



それは騎士団が、自分達傭兵の後ろ付近をずっと、徘徊するだけだからだ。



競馬の大穴のような、他馬の〝ケツ″ばかりを追い続ける騎士団を、馬鹿にした言葉だった。



LONG(遠い)のスペルと、WLONG(間違った)の発音をひっかけた意味も持つ。









「まっ、大穴としちゃ手堅い、本命の逃げ切りだわな」



呆れたように、逃げ去った騎士団達を見やりながら、この事態をどう収拾するか考えるジキムート。



「ジキムートさんっ! まだあの人が残ってますっ」



土の呪文で固く固く、庭に続くドアを施錠する騎士団に、ケヴィンが待ったをかけるっ!



「ジキムートォっ!? 馬鹿野郎っ! あんな傭兵どうだって良いっ」





ガっ!





思い切り殴られ、ケヴィンの口には血の味がにじんだっ! しかし……。









「クッ。でも僕ら騎士団が戦わないと……っ。あれが街に行ったら、大変な事になってしまうっ!」

殴ってきた騎士団員の手に、精一杯すがりつくケヴィンっ!



確かにそうであった。



彼らには敵が、何を目的にこんな事をしているのかは、分からない。



下手に相手を自由にすれば、〝及びもつかない″行動に出る恐怖がある。



「離せケヴィンっ! 大体お前は小姓ペイジであって、騎士団じゃねえっ! 俺ら目上にふざけた指図すんなっ」









「でも街はっ。町の人々はどうするんですかっ!?」



「街には……。そうだ、傭兵どもがゴロゴロいるから、そいつらがなんとかするさっ! そう、そうだよ……。あいつらが自分で何とかすりゃいいんだよっ!」



「そっ、そんな無茶苦茶なっ!」



ケヴィンが泣きそうな声を上げるっ!



完全に統治の仕組みを放棄してしまっている、狂気の言葉。



だが〝頭〟がいないこの場で、冷静な判断と統率力を見せれる者はいなかった。









「大体お前っ、グダグダ言うがっ。戦うとなると、ヴィエッタ様まで危険にさらすんだぞっ!」



ケヴィンはその言葉に、ヴィエッタを見る。



蒼白な顔をし、震えていた。



「……そっ、それは」



「ココを守るんだ俺らはっ! それだけで良いんだよっ」



ケヴィンを突き飛ばす騎士団員っ!



だがそれでも、ケヴィンが立ち上がって止めようと――。





パンパンっ!





響くかしわ手の音。













「聞きなさいっ! ここで態勢を立て直し、守りにつくのっ。貴方たち、騎士団の誇りを見せなさいっ! ここから逃げる道はないわっ」



強気にレナが、ハッパをかけているっ!



手にはしっかりと、いつの間にか自分の長子であるヴァンを抱いていた。



だが、不安そうな顔の騎士団員たち。



「しかし騎士団長が……っ」



「騎士団長がいなくても、頃合いになったら副団長が来るのっ! もうすでに連絡は行ってるわよ。それまでの辛抱だわっ!」



黒髪をかき上げ、レナが笑う。



「〝頃合……い″?」









レナの言葉にやおら、ヴィエッタが立ち上がる。



そして突如、階段の横面のにある、物置を崩し始めたっ!



すると……。



「お父様、お義母様。先にお行きください」



突如湧いて出てきた階段をさす、ヴィエッタ。



「なっ、ヴィエッタっ!? 何を言うっ!」



シャルドネが叫ぶっ!



その声に全員が注目し、シャルドネが見ている階段へと目を奪われた。











「エッ……。あんな所、あったのかよ」



「逃げれる……のかよっ、おいっ!?」



騎士団が動揺し始める。



どうやら階段の隠し通路は誰も。



古参の騎士団員ですら、知らない通路のようだ。



「……っ!?」



レナすらも驚きの表情になり、たどたどしくヴィエッタに問いかけた。



「あ……あなたは、どうするというの?」



「私は……」











義母の問いかけに、ヴィエッタは歩き出し、近づいていく。



騎士団の方へと――。



そして、茶色の髪がひるがえらせながら、腕を広げ示すその騎士団達。



「わたくしはここに残り、敵を討ちます。この騎士団と共にっ!」



ヴィエッタは、庭に居るハズの敵を睨みすえ、覚悟の声を上げたっ!



示された騎士団員達が、困惑の空気に包まれるっ!











「えっ――。ヴィエッタ……様? 全員で同行したほうが……。良いのでは?」



恐る恐る聞く騎士団員。



だが……。



「ここに内通者がいないと言えますか? 恐らく狙いはお父様のはず。ですが、この穴がどこにつながっているかを知らなければ、相手は追うに難しくなる。あの傭兵が倒れればその時こそっ、ここで私たちが全力で――。残り1人になってでも戦い、時間を稼ぐのですっ!」







外で戦う傭兵を一瞥した、ヴィエッタ。



「でっ、でもそんな……。仲間を疑うというのは……。なぁ?」



大汗を流しながら、騎士団員の1人が問う。









その他にも数名、顔色が非常にすぐれない者が見て取れた。



「そうですよ……。待ってれば副団長も来るっ!」



「緊急事態を知らせる呪文はもうすでに、発しておきましたっ! あとは全員で隠れて、やり過ごせば……っ!」



なんとか騎士団員総出で、ヴィエッタをなだめようとする。



だが彼女の瞳に宿った意思は、揺らがない。



すると……。









「そうです。全員で来たほうが良いに決まってますっ。あなたも来なさいっ!」



レナが動揺したように声をかけ、強引にヴィエッタの腕を引くっ!



しかし、その手をあっさり裏返され……。



「お義母様とお父様は、戦力になりません。むしろ我らは、あなた達がいないほうが身動きがとりやすいとすら言える。ここでお別れです、お父様……お義母様。お義母様、お父様をお守りください」





手を振りほどき、レナが抱いたヴァンに手を伸ばす、ヴィエッタ。



ゆっくりとその幼児の、まだ産毛しか生えてない頭を撫でて……笑った。









「そうか……。ヴィエッタ。分かった。ありがとう。すまぬな」



シャルドネが涙ながら、ヴィエッタの手を掴む。



「あなたっ!?」



「御息災を、お父様。私はわたくし自身の手で、運命を変えて見せますわ」



「あぁ……。あぁっ!」



シャルドネは声を震わせ、レナを引き――。



闇へと進んでいった。









「……」



「……」









眼が交錯した。



ヴィエッタの蒼き双眸と、レナの黒の視線が……。



その瞳に映る色をもし、言葉にしていたならジキムートなら、こう言っただろう。



「嘘の……臭いがする」





バタンっ!





閉じられた逃げ道。



もう、逃げる場所はない。















「闘う勇気がある者は全員、剣を取りなさい。我ら〝真紅の鬼″騎士団はここで、全ての血を流し尽くすまで戦うのですっ。全員で守り切る――。それがあなた達全員に課された、最後の命令っ! わたくしが死んだとしても守るのっ!」



少女が引き抜いた、レイピア。



長大なその、刃渡り1メートルになる剣を、天高くに掲げる戦士ヴィエッタっ!



「……」



「……」







田舎に生まれた。



見渡す限りの田園。



そこには厳しく険しい自然と、重税。



だが、自分は田にまみれ、風に飛ばされながら重税に苦しむ、彼らの親のようにはなりたくない。



強く、そして名誉ある〝戦士″を夢見たのだ。



彼らの願いは届く。



恵まれた体。魔法力。



彼らは他人より秀でていた。









そしてついに念願の、騎士団の門をくぐったのだ。



……だがしかし、田舎でしかも、辺境の場所を攻める者はいない。



戦場はなくともそれでも、モンスターを狩って市民に喜ばれ、何より尊敬される一つの庶民の夢があった。



「……」



だが、ヴィエッタのさすレイピアの向こうには、栄光が。



名誉ある、戦士としての責務が見える。



そこに到達する道だと、忘れ去った彼ら。



そこに今、あこがれの騎士道物語が再度、開かれていく。













「剣を……。紋章に」



レイピアに寄り添う剣。



ケヴィンは己が剣を。



両の手でしか持てないその、刃渡り60程度のショートソードを、レイピアにささげるっ!



「我ら真紅の鬼っ。最後まで騎士として、モノノフとして生きようっ!」



一人が声を上げた。



すると――レイピアに続々と、剣が集まっていくっ!



「誇り高き騎士団はこの一戦に、すべてをかけるのです。運命なんて……。そんな物はわたくし自らの力で、変えて見せるわっ!」



「さて……どうだかね」













ジキムートが頭をかく。



目の前には、血にまみれたキリングドール、ジーガ。



とりあえずざっと見た感じで、30は殺しただろうか?



そのおかげか、進化型ジーガの体表には少しは傷がある。



だがそんなの、誤差だった。



「ゲゲギッ! ガガッ」



「どんな兵器でも、人が乗ってる限りは穴がある。だが……。穴がねえならナニもブチ込めねえよ。かぁっぺっ」



それが彼の勝ち筋。



しかし、それは封じられた。









ジキムートの十八番が通用しない相手に困り果て、立ちすくむ。



「〝あれ″やっか。はぁ~あぁ……」



ため息をつき、傭兵はしぶしぶ〝秘策″を、袋から取り出す。



「そう。〝神の粉″」



懐の道具袋。



その中の塩漬けの小袋から、ひときわ臭い肉を取り出し……。









「あ~ん」



隠してあった粉を少々、わずか1グラム程度舐める。



それで十分だ。



現世から超越し、領域を超える為の力を得させてくれるのに、十分な量。



そんなとっておきの、魔法っ!







ゴクンっ。







そして――世界が変わったっ!

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