異世界冒険譚 神無き世界の傭兵から 親愛なる人を愛する神へ~傭兵が死すべき場所は 神の慈愛の手のひらか それとも神に見放されし己が郷土か~

猫板家工房

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城にて。

傭兵の装備。

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「あっ、そうそう。これ……。もう逃げる事もないだろうって」



袋を渡してくるケヴィン。



それはあの、城の牢屋で尋問を受けた時に広げられた物だ。







「おぉっ!?」



叫ぶとジキムートは、すぐに袋を漁り、塩漬けの非常食を見るっ!



「食われてねえ。良かった~ぁ……」



半泣きになりながら、袋の中身を確認するジキムート。



「そっ……、そんなにその干物、良い味するんですか?」



それを奇怪にみるケヴィン。



「あぁ……。まぁな」



笑ってそそくさと、ソレを隠した。











これは切り札だ。









誰にも渡せない大事な大事な、秘密の兵器。



「対戦者、入場っ!」



ジャーンと鐘の、けたたましい音が耳に響くっ!



「じゃあ行くわ」



「えぇっ。頑張ってっ!」



可愛く腕を、わきわきと羽ばたかせながら、ケヴィンが見送る。



そしてジキムートが……。



その決闘場へと歩きだした。













「ねぇ……。世界の果てを見に行こっか、ジーク」



「もぉ来ちまったよ」



「えぇ~、ひどくな~い? 私は私は? ねぇ」



「じゃあ待ってろよ、イーズ。良い子にしてな。また問題起こすんじゃないぞっ!」



「へへ~」



「なんだよその顔……。ふふっ。絶対迎えに行くからよ」



彼は幻影と……、グーたっちする。



確かにそこに、彼女はいた。



「うっしゃあああああっ!」



雄たけびが響き渡るっ!











その気合に一瞬にして、場内のはやし立てた声が静まり返った。



『キスして』。



男の〝ケツ″絵にそう書かれた、横断幕を持った騎士団員の手が、止まる。



「まぁでも、よ。俺は傭兵だ。やれる事以外は、やんねえけどさ」



そう言って気合を入れた傭兵が、試合の中心。



庭のど真ん中へと歩きだす。



















「……どうかね、彼は」



「ふん、威勢だけではねぇ。所詮傭兵じゃない?」



シャルドネに聞かれたレナが笑う。



彼女はつまらなさそうに、そこに置かれたブドウを指でつまみ上げ、皮をむき……ひと舐めする。

その場所は2階のテラス。



最も良く戦いが見えるし、安全。



彼女ら以外の他に、数名の限られた給仕と執事の姿。



そして、最も信頼のおける戦士だけが居た。



「……」









「そうか、やはりあまり期待はできんか。あの体格では、攻撃力も防御力もそれ程、抜きん出たもんじゃないだろうよ。団長、奴は特に、変わった装備はなかったのだろ?」





「軽い鎧、でしょうかね。驚くほど軽いが……。強度はそれほどでも。後はナイフが特殊に加工されていました。どうやらナイフの扱いがかなり特異と言うか、特別なのかもしれません。しっかりと鎧の上に、ナイフの山を装備しています。その数は10を超えている」





答えたのは、フルプレートに身を包んだ騎士団長。



兜の下に隠れている素顔には、険しい表情が浮かぶ。



顔には他にも、複数の傷が見えた。



この騎士団の中では異様。



殺気をちらつかせた男だ。











「鎧にナイフ……か。ジーガを倒す役には、立ちそうには無いが、な。他には? 例えば、ふむ。剣はどうだ? 主なる武器が、バスタードソードだと聞いた。見た事ない装飾がされていると、報告されたが……」





「剣も残念ながら。何度も試し斬りを行いましたが結果、普通だろうと」



「普通、か。だがバスタードソードなぁ……。それが信じられんな。その程度では戦場では、役には立つまい。せめてトゥーハンデットソード位を持っておらんと。フルプレートの兵をどうやって、相手するというのか」









バスタードソードの刃渡りは。大体90センチ位。



一般的に想像される、中世の剣であるブロードソードが、7・80センチ。



バスタードソードの方が少しだけだが、長めになっている。



しかし、トゥーハンデットソードのような、1メートルを超えた物ではない為、威力はさほど期待はできないだろう。



その為、全身を甲冑に包まれた精鋭を前にすれば、太刀打ちどころか逃げ回る他ない。









「はい、おっしゃる通りです。しかしながら他に、特段お耳に入れておくべき何か。奴がジーガに太刀打ちできるような、特別な物はないかと。――あっ」



「なんだ? 何かお前さん……。騎士団長たるおぬしが気になる事、それは全て申せ」



「いやっ……。その。剣が新品だった事が気になったのですが……」



「新品? 何かおかしいのか、それは? 気に入らなくなって買い替えたとか、単純な理由しか思いつかんな」











「それならば良いのですが……。傭兵は大体が、戦場の盗掘などで代替品を探します。そうなれば新品とはなりえない。奴はもしかすると明確に、何かの理由があって、剣の寸法や重さを規定しているのかもしれない、と」





「まぁ浅ましいっ。戦場で盗掘などと……。英霊への礼儀も無いなんて。所詮薄汚い傭兵モノねっ。だけれど、それならそう……。敗走したから拾えなかった。とかじゃないかしら? ふふっ」



黒の髪を指でグルグルと巻き、笑うレナ。











「五体満足で剣を失くす事態に陥るなぞ、滅多にありません。他に主だった主武器。例えばハルバードや、戦斧がある訳でもない。その男が剣をおいそれと、手放しますかね?」



「もしかしたら、戦場から逃げるため必死過ぎて、分からなかったとかじゃないの~。鎧も軽い上に、フルプレートの騎士と戦う気概がない」



「そ――。いえ」



レナの言葉に騎士団長が何かを言いかけ、口を閉じた。



「これは要するに、生き残るのだけ。それだけ上手だって事よ。ただそれだけ。つまらない男ね。これじゃあ、ふふっ。戦争で功績は上げられない以上、騎士団では不合格よ」



会話に飽きたように笑うレナ。



戦術的な話を、貴族の奥方にしても、無駄であることは多分にある。













「確かに、そう考えると合点がいきますね。ただ奴からは……。そう、戦場の臭いがします。それが気になる」



騎士団長は何やら、ジキムートには慎重だった。



それが野生の勘、という奴だろう。



「戦場の臭い、ね。ふー……ん。あっ、そうだわローラっ。頼んでおいた物を」



そういきなり叫ぶレナっ!



そうすると……。









「……」



ローラと呼ばれた庭師。



ヴィエッタの横にぴたりとついていた、ツナギの女。



それがゆっくりとレナのほうへと歩みを進めていく。



その様子を凝視するヴィエッタ。







「はい……」



そして、レナのそばにつき淡々と……、報告を読み上げた。





「戦力的には、我が方が十分勝てます。少し見た程度ならば、ですが。しかし、相手は傭兵。どんな姑息な手を使ってくるか分からない。あなどってはいけません。あの者の素性はいまだ、不明ですから」













「あら……。そうなの?」



レナはヴィエッタに笑いかけ――。



ツナギの女、ローラに話を促した。



「はい、傭兵に詳しい者達にあたりましたが、一切の情報がありませんでした」



「素性不明……ね」



レナはその目を、ジキムートに向ける。









「それに装備についてですが。この男の装備は明らかに、何かがおかしい。魔法を使うそぶりは無いのに、魔法を使う事を前提にしている様子がうかがえる。持ち物に盾がない。それが気になります。気持ちが悪い相手ですよ」





今まで無表情だったローラの顔に、疑心の色が浮かぶ。



バスタードソードには普通、盾が付き物だ。



「どちらにしろ、今日ではっきりと分かりそうかしら? 今日で……ね」



ほくそ笑んだレナ。









「……」



そのレナの顔に、あからさまにヴィエッタが、嫌悪の念を浮かべる。



すると……っ!



「ああ、そうそうヴィエッタさん。お客様に手違いがあったそうね?」



「……。何でしょうか?」



突如話しかけられ、少し間をおいて応えるヴィエッタ。



美しいブラウンの髪を揺らして、レナへの注視を離す。



「どうやら、会食を行うと伝えたそうね……。ロベルト・ヘングマンさんと」





「っ!?」





驚きの顔を隠せないヴィエッタっ!



思わず顔がゆがみ、そして、ローラを見る。













「私はその日、空いてなかったの。だからわたくしが大丈夫な日、その日に変えておいたわ」



「そっ、そうですか。行ってらっしゃいませ、お義母様」



なんとか体裁を整え、すぐさま絞り出す応え。彼女らはお互いに目を合わせずたんたんと、目の前を見るよう務めた。すると……。



「それでは私は……。〝掃除″に戻ります」



「えぇ」



レナは掃除係に上機嫌に答えた。









「あら、じゃあ、私の部屋もお願いするわローラ。本気で……ね」



ヴィエッタも、ローラに告げる。



「……」



コク……と首を振り、ローラは重い扉をあけ放つ。



そして、掃除係が扉の先へと消えると、薄ら笑いを上げた2人。



そう、レナとヴィエッタ、双方が笑ったのだ。















「……」



足音がしない。



まるで足が無い、『幽霊』のように女が歩く。



黒髪を揺らし、一人進むその道。



階段に差し掛かるといつの間にか、女の姿は消えていた。



残ったのは、漆黒の獣の影。









「イエス・マイマスター」



ナイフを取る獣。



「配置につきました」



「……狩りを始める」



虚空に言葉を投げた。



するとその言葉をくわえ、影達が一斉に走っていくっ!





――。





一瞬後にはもう……。



木立のざわめく声だけが残っていた。
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