異世界冒険譚 神無き世界の傭兵から 親愛なる人を愛する神へ~傭兵が死すべき場所は 神の慈愛の手のひらか それとも神に見放されし己が郷土か~

猫板家工房

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異世界の町。

大都市になりあがる為の条件。

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「あっ、ジキムートさんっ。ココで一息つきましょうか?」



「あぁ。良いぜ」



ジキムートが同意する。



傭兵は特に疲れては無かったが、ケヴィンの顔色が優れなかった。





それでも笑顔で、旅人であるジキムートに街を案内しようと、広場を指さすケヴィン。



「この広場では結構、催し物が最近頻繁に――」



「てめぇ、ここは俺らのギルド〝笑いの街道一座″の場所だっ! 勝手に講演するんじゃねえっ!」



「なんだね君は。私はきちんと〝ギルド・静かなる喜び″に賃料を払っているっ!」





ケヴィンが示す先。





つかみ合いになっている、ピエロとハゲ親父っ!



「わわっ、ちょっと2人ともっ! やめてやめて」



「な……なんだね君は」



「こっちは生活かかってんだ、チビはすっこんでろ!」



男たちの喧嘩沙汰。







ケヴィンが慌てて止めるが、大きい2人のおっさんに揉まれ、なよなよと引き倒されている。



(人の流入に目を付けて、金目当てに大道芸人が来たってところか。それなのにまともなギルドもねえから、場所の取り合いが表面化してきてやがる。)



大道芸人について、何か勘違いをしているかもしれないから言っておく。



この世界の彼らは〝スター″を意味する。









基本知識として、誰も立ち寄らないような田舎には、娯楽なぞない。



全く、微塵も。



夜9時に寝る。朝4時に起きる。



夕方暗くなるまで、地域によって違うが、5時まで働く。



10時間労働の世界。







しかもそこには賦役である労働税があり、見回りや公共工事に〝無償″で、徴発されてしまう。



毎日残った6時間に、ご飯とトイレなどを済ませるのだ。



この状態でどうやって、簡単なジャグリングやトランプ芸を覚える気になる?



ネットもなければテレビも無いから、ジャグリングという発想すら思い浮かべられないのに。







(大都市でやれば、結構な年収になる。特にこんなポッと出たての都市は穴場で、一攫千金。良いカモがたくさんいるはずだ。)



そう考えジキムートがあたりを見渡すと、たくさんの町人らしきものが遠巻きに見ている。



人生初、(自分の世界)最大のピエロが行う、ジャグリングショーを見に来たのだ。



「おいおい、やめろお前たちっ!」



憲兵が出てきて、仲裁にはいろうとした。



だが……。







「おいっ、ひどいじゃないかっ! 俺はこの国が認可したギルドに、大枚はたいて仕事してるんだぞっ!」



「そうだっ。おかみがしっかりしてくれなきゃ安心して、仕事もできやしないですよっ」



「なっ……。我々のせいだというのかっ!」



もう、ひっちゃかめっちゃかである。



生活がかかっているのだ、譲り合いをしていては飢餓になって、死ぬばかり。



口を閉じて良い場面じゃないっ!









「ちょっと困るんだよね、ああいうの。全く、この頃の騎士団は情けない。客が逃げちまう」



「騎士な~。そういや俺、聖典守護者様に怒られてるとこ見たぜっ! なっさけねえツラして、道徳がなってないっ! って言われてた。すっかり威厳がなくなっちまって、まぁ」



ひそひそと声が聞こえる。



つかみ合いになる男たちを、冷たい目で見る取り巻き立ち。



迷惑な喧嘩もそうだが、それを規律で押さえ込めない騎士団にも、苛立ちがつのっていた。







(どうやらここの奴ら全員、まだまだヒヨッコだな。)



収集は遠い。



ならば……。



「おいばあさん。儲けたくないか」



露店の店主に、声をかけたジキムート。



そこでは肉とビールを売っている。







「……」







「とりあえず、2人とも詰め所に来いっ!」



「いーやっ、断る。これはギルドを通して、抗議させてもらいマスよ」



「このクソピエロの青鼻を、真っ赤な血でそめてやるまでは動かねぇっ!」



未だに押し合いをする2人の道化。





すると……っ!





「そうか、だがその前にデブ……。。お前もピエロになれっ!」





ガスっ。





顔面に掌底を叩き込まれるデブ男っ!



「あっ。あががっ。ひっひさまっ、何をする」



鼻をつぶされ、声がうわずっているデブっ!



しかし全く興味を示さず、掌底をぶち込んだジキムートが続ける。







「ほら、ピエロだっ。仲良く2人でピエロだぜ、へへっ」



ジキムートは指差して笑ってやるっ!



すると、聴衆から笑いが漏れる。



デブの鼻の周りは晴れ上がり、ピエロのようになっていたのだ。



「ぎゃははっ、確かに確かに~。豚ピエロだ、豚ピエロだ~。ぶひぶひー」



その姿に、おどけて馬鹿にする青鼻ピエロ。



それを怒り心頭で、にらみつけるハゲ親父ピエロっ!











「てめぇ、殺すっ!」



取っ組み合いが終わり、本当の殴り合いが始まってしまうっ!



すると……。



「おっしゃやれっ。そうだっ!」



殴った本人は、ビールに肉を片手。



観戦を決め込んでいたっ!









「おっ、ピエロの決闘か。面白そうだっ!」



人が段々と、集まり始めている。



激しい殴り合い。



そこには小銭が投げ込まれていた。



娯楽が少ないと言ったが、そのせいかどうかは知らない。



だが、こういう殴り合いは、中世の〝大衆娯楽″の範囲内であった。





例えそれで、本人たちが死んだとしても、だが。



盛況な現場をジキムートは後にし、憲兵に何かを渡す。











そして人ごみの中スッと、その場を去って行こうとする傭兵。



「おし。依頼が平和に終わった終わった。さて行く……っ!?」



その時、ポケットの中で何かに触ったのを確認するジキムート。



「紙……?」



見たことない紙だ。



紙を見ながら怪訝そうに周りを見ると――。





女の影。





青いその影が、目の端に入った。



「ちょっ、ジキムートさん。あれは――」



そこに駆け寄ってくるケヴィン。



ジキムートの視界の影はすぐに、姿を消してしまった。



「……。良いんだよ、あれで」



そう満面の笑みで肉をくわえ、ジキムートは紙を捨てて、そそくさとその場を後にした。







「かぁっ。うめぇ」



「あんなの良くないですよっ! 争いを止めないとっ」



「あぁ~ん? かてえ事言うなよ。あんなの、大都市だと日常茶飯事だぜ」





笑いながら、食した肉の残骸を捨てるジキムート。





「むしろ依頼を先手取って、解決してやったんだ。俺の優秀な傭兵生活の一端が、しっかり見られたろ?」



自慢げに言い放つジキムート。



確かに、あのままでいけば2つのギルドは、小競り合いになったかもしれない。



依頼されれば、ジキムートのような傭兵が、どちらかの陣営で戦うかもしれない。



下手をすれば、雇った傭兵の気性によっては、流血沙汰にも十分なり得る。







「しかし、ここは神の土地としてっ、模範的な都市にならなければなりませんっ! 傭兵達が来ても、荒くれた町にならず、きちんと教育と規律に従う国っ! 神威カムイと尊神リービアが守られる、立派な福音に……っ」





「……って、ヴィエッタ様がおっしゃったか」



「……っ!?」



突如出た名前に、ケヴィンは口どもるっ!



「お前、あの嬢様にほの字だろ」



「そそっ……。そんなことは」



「でも脈はねえ、あきらめろ」



顔を真っ赤にするケヴィンに、あっさりと言い放つジキムート。







「ひっ、ひどいじゃないですか。まぁ、分かってます。分かってます……けど。だけど、彼女は今、大変なんですっ! 反対する人たちも多い。お城の中でも孤立した状態ですっ! あまりに可哀そうで……」





ヴィエッタに心底同情的になり、口を尖らせながらケヴィンは言う。



(そりゃそうだ。騎士団なんて全員脳足りんの、腰抜けばかり。そいつらに経済なんて分かるかよ。)









ジキムートは笑う。



「だけど……。その、良いじゃないですか。例え身分違いだとしても――。僕があの人を守れればっ! 僕が騎士になり、剣を奉じる。そしてあの方の全てを、受け止めれるような人間でありたいっ! そう、僕は勝手にですが、思うんです」





「例えそのせいで、死ぬだけでもか。死ぬってのは――」



傭兵は口から出かかった言葉を、飲み込む。



(俺は止めてやんねえぞ、ケヴィン。他人の生きざまにどうこう言えるほど、俺は立派じゃねえ。)

鼻を鳴らす傭兵が、ケヴィンから目を逸らす。





「あの人の剣になれるなら、僕は死も恐れませんっ」





柔らかい微笑みを浮かべるケヴィン。



泣きそうな目だが、とても慈愛にあふれ、陽だまりの女性のような匂いがする。



中性的でくったくのない、美しい笑み。



その笑みは、男性も魅了するほどの……。



「……やべぇ」



ジキムートは一目散に、お店に入っていったっ!







ケヴィンを残して。





――全く見てなかった。



事実だ。



すまないケヴィン。



そして……〝後ろ″。







「にっ……。兄ちゃん、どこの子? な、なな……何歳かな?」



おっさん――。





むっきむきのおっさんが顔を赤らめ、ケヴィンに聞く。



「えっ……。えっえっ、ちょっと」



「すっ、少し。ちょっと話をしよう、可愛いボーイ。話……。筋肉とかの話だけだから」



「ジッ、ジキムートさーーーーーん!」









声が響き渡る。





達者でな、ケヴィン。
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