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異世界の町。
市場の中。おばちゃんが乱入。
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「もう、ギルドは良いんですか?」
「ん? あぁ、もう大体は分かった」
歩きながら手を振るジキムート。
冒険者ギルドで傭兵は、大体の必要な事が理解できていた。
(ここが異世界だってのが分かったよ。恐らくはそう簡単には還れねえ。歩いて還るなんて、とんでもねえ絶望だってのが、な。どうすっかね~?)
ジキムートが面倒くさそうにかぶりを振る。
あの地図を見る限りでは、ジキムートがすがれるような旅路。
異世界への帰還方法の、手掛かり。
それが見つかる可能性は、ほぼ無さそうだった。
「あっ、もしかしてあの短時間で何か……っ。例えば、モンスターの動向。ここの地形のあらましっ。さらにはそれを使った、駆除の仕方とかっ!? そんな感じで分かったんですかっ!」
そんな事もつゆしらず、ケヴィンの眼に光が宿るっ!
興味深そうに、プロの傭兵の話を催促してきている。
だが――。
「ぃんや。この国が急速に発展しすぎて、てんてこ舞いだってのが分かっただけだ」
キラキラした目のケヴィンに答える、ジキムート。
すると、ケヴィンはしょんぼりして、うつむいた。
「依頼の内容が大体、この領土〝内″だったからな。なんかを見つけてくれ~だとか、隣をなんとか黙らせろ、とか。相当立て込んでんだな、この国」
「それは――」
ジキムートの言葉に、ケヴィンが口どもる。
「そういや、聖地への巡礼希望の札も多かった。やっぱ聖地ってのは、死に物狂いにでも行く価値が・・・」
ジキムートが更に、言葉をつむごうとしたところ、大きな声が響いてきた。
「ケヴィ~ン、ケヴィンたらっ。ほらここ。ここだよ~っ」
ジキムート達の進行方向に割って入ろうとする、太ったおばさんがいた。
「あっ、コロおばちゃん」
ケヴィンがその声に応えると、コロおばちゃんなる女が、通行人を弾きながら進撃してくるっ!
「ケヴィーンっ! ちょっとどいとくれっ。急ぎなんだよ、こっちはっ」
おばちゃんが呼ぶ声は大きく、近くなのに大声で叫ぶせいで、通行人がジロジロ見てくる。
しかし、気にする事もなく通行人をかきわけ、おばちゃんがケヴィンにまい進しっ!
「ケヴィ~ン、会いたかったんだよ。そぅ、あんたを待ってた待ってたっ」
やおらおばちゃんが、その巨体でケヴィンに抱きついたっ!
ほぼほぼ肉で、ケヴィンが埋まってしまい、なんとも苦しそうだ。
そしてそのまま、道のど真ん中で、世間話を話し始めるおばちゃん。
「なぁアンタちょっと。、〝ブルーブラッド(蒼白の生き血)〟の件、どうなっちまったよ~。あたしゃヴィエッタ様が心配で心配でさぁ」
(嘘の臭い。しかしブルーブラッド、ね。)
幾度か出たワードだが、気になる言葉である。
(レナが無敵とか言ってたな。どういう意味だ?)
「う~ん、難しい状況……かなぁ」
肉に埋まりながら、ケヴィンは答える。
「どうせあの……」
あたりをおばちゃんが見渡す。
「レナ様が、騎士団の横暴を煽ってるんだろう」
「あはっ……。アハハ」
耳打ちされる言葉に困ったように、ケヴィンが笑う。
考え込むジキムートをよそに、おばちゃんの話は続く。
「負けないで欲しいね全くぅ。ここにゃあロクな地産品がないんだ。騎士団がどうか知らないが、あんな偉そうなだけの人間、ほっときゃ良いっ! 皆が敬愛する神様を、勝手にどうこうする権利はないってんだよっ!」
おばちゃんが、目の前の騎士見習いに鼻息荒く、騎士団の悪口を吐き捨てるっ!
「あは……。あはは」
ケヴィンは笑ってごまかすしかない。
「それでさぁ、ケヴィ~ン。その……。悪いんだけど〝ブルーブラッド(蒼白の生き血)″、余ってないかい? 困ってんだよぉ」
本題だろう。
彼女はケヴィンにすり寄るように、あざとく媚びたような困り顔で、聞いてきた。
「えっ……? おばちゃん、配られたのどうしたのさっ!?」
「いやぁ、なんて言うか、どうしても――。どーーしてもっって、欲しがるのがいたからさぁ」
「嘘の……臭い」
ジキムートが鼻をふさぐ。
「うー……ん。困ったなぁ。これは騎士団にも少しだけしか、配備されてないんだよ。あとは、最初に住民に配られた分だけなんだ」
この〝ブルーブラッド(蒼白の生き血)″ははじめ、住民に少しだけ配られていた。
そうでもしないと住民が、〝蜂起″しかねないという危険性。
それが切実だったからである。
「でもさでもさっ。どうせ、どうせだよ? ヴィエッタ様が勝てば、市民にそれがいきわたるんだろうっ!? そうなればアンタもアタシもっ、1個や2個でケチケチする必要もなくなるさっ。あんたはヴィエッタ様の勝利を――。彼女の信念をっ、心から信じてんだろぅ?」
上手くケヴィンの、心の浮わついた部分を突くおばちゃんっ!
「そっ、そりゃ当然さっ! 民を思うヴィエッタ様の心はきっと、大きな力になるよっ」
「民を思う……ね」
その言葉を何度聞き、そして、何度裏切られたか。
ジキムートはその単語には、蕁麻疹じんましんが出る程度には、嫌気がさしていた。
「それまでの辛抱さ。なっなっ」
そうぽんぽんとケヴィンの肩を、調子よく叩くおばちゃん。
ジキムートは正直、こういった人間は苦手である。
関わりたくないと思ったせいか、知らぬ間に、現実の距離が離れて行っている。
「うーん。じゃあ1つだけ。2つしか僕も、ないからね」
そう言って何か、曇った青いガラス? のような物を渡すケヴィン。
「おぉっ、ありがとうねっ! かわいい子だよっ、この子はほんとにっ!」
すりすりと頭に抱きつき、撫でまわすおばちゃん。すると……。
「あら、そこのあんたぁっ! 寄ってきなよぉっ」
すると、意気揚々とおばちゃんが、目の前で客に声をかけたっ!
「おぉ」
大声で呼びかけられ、気にもせず立ち止まってしまう旅人。
「ほらほらこれぇ、なんだか知ってるかい? そうっ、そうなんだよ。これがあの、神の水都ディヌアリアから持ってきた宝珠さぁ。どうだいどうだい、キレイこの上ないだろう? ねぇケヴィンっ」
おばちゃんが叫んで、先程ケヴィンから巻き上げたガラス。
それを何か、ブレスレットの様な物に引っ付けるっ!
「う……。うん。そうだね、コロおばちゃん。」
唐突にふられたケヴィンが、困ったように応えた。
ここまで圧倒的で、まるで悪意すら感じる商売根性を見せられ、タジタジだ。
「おぉ……。本当にあのディヌアリアから? あの憧れの聖地の、至上なる水ですかっ!? なんと……なんと素晴らしいっ! 嘘じゃ、ないよな?」
ニヤリっ。
「それなら、ほ~らここ。きちーんと刻印がしてあるだろう? 間違いないさ」
刻印を示された客の男の顔が、ぱぁっと明るくなる。
そして何度も何度も、見返している。
「そんな儲かるもんなのか? アレを輸入するってのは」
おばちゃんの満面の笑み。
そして、旅人の興味の高さを見て、ケヴィンに耳打ちするジキムート。
こう言っては何だが……。
ただの液体を入れただけの青いガラス。
それを引っ付けた安物だ。
特にかっこいいとも可愛いとも無い。
現代ならば、100均に置いてそうなブレスレットにしか見えない物。
ジキムートが買うなら、魔法処置が施してなければそうさな、20銅貨と言ったところか。
「大きな声じゃ言えないけど――。この輸入と輸出だけでも、あのお城を5倍に改築できそうだって。しかも、この頃流行りの〝別邸″までもが建てられそうだっ! って、はしゃいでたよ、シャルドネ様」
「マジか……」
城を見やるジキムート。
確かに城が5倍になるならば、その額は天文学的だろう。
「でっ……。いくらなんだよこれっ」
「500銀貨」
1本の腕についている、太く皮が突っ張った5本の指を広げ、自信満々に言い放つおばちゃんっ!
大体現代にして、150万位だろうか?
それが適正なのかは、ジキムートには分からない。
ただケヴィンは、驚きを隠せない顔をしていたが。
「えぇ……ちょっ!? そっ、それは高いよおばさん」
だが、言葉と裏腹に客は、そのブレスレットにご執心だ。
ジキムートの見立てでは、もう少しで買うだろう。
「ブルーブラッド……。いやまぁこれは、神とかは関係ないかもしれねえな」
ジキムートは自分の世界を思い出す。
やはり、英雄の真似事をして、頭をバンダナでくくったり。
似たような盾にしたり――。
人間はそういう何かに〝勝手に″力を感じ、願いをたくすのが大好きである。
「何言ってるんだいっ!? これはダヌディナ様の力がこもった宝珠だよ? 彼女はとてもとても面倒見が良いんだ、知ってるだろっ? 昔……はるか前までなら、結婚相談も引き受けてくれたような、愛らしい慈愛溢れるお方っ! その力を込めたんだ、こんくらい当然さっ」
ぴくっ!
「結婚相談……だと?」
その瞬間、ジキムートに戦慄が走ったっ!
「そうそう。ダヌディナ様はとても、人懐っこい神様らしいんだ。一説には人間と婚約していたって話も、ある位なんだよ~。会ってみたいなぁ」
ケヴィンのその言葉に、ジキムートはふと黙りこくる。
「きっとどの神様よりも、あんたの事を守ろうとしてくれるって。そうかそれだっ! それだよ~、それそれっ。神様もあんたの所に行くよう、運命を与えたもうたのさっ! あんたを災いから守るためにねっ。これ買わなきゃ、神様に失礼ってもんよっ!」
そのおばちゃんの言葉の瞬間、ケヴィンの顔色が変わったっ!
「だっ、ダメだ、おばちゃんっ!それは……っ」
「ん? あぁ、もう大体は分かった」
歩きながら手を振るジキムート。
冒険者ギルドで傭兵は、大体の必要な事が理解できていた。
(ここが異世界だってのが分かったよ。恐らくはそう簡単には還れねえ。歩いて還るなんて、とんでもねえ絶望だってのが、な。どうすっかね~?)
ジキムートが面倒くさそうにかぶりを振る。
あの地図を見る限りでは、ジキムートがすがれるような旅路。
異世界への帰還方法の、手掛かり。
それが見つかる可能性は、ほぼ無さそうだった。
「あっ、もしかしてあの短時間で何か……っ。例えば、モンスターの動向。ここの地形のあらましっ。さらにはそれを使った、駆除の仕方とかっ!? そんな感じで分かったんですかっ!」
そんな事もつゆしらず、ケヴィンの眼に光が宿るっ!
興味深そうに、プロの傭兵の話を催促してきている。
だが――。
「ぃんや。この国が急速に発展しすぎて、てんてこ舞いだってのが分かっただけだ」
キラキラした目のケヴィンに答える、ジキムート。
すると、ケヴィンはしょんぼりして、うつむいた。
「依頼の内容が大体、この領土〝内″だったからな。なんかを見つけてくれ~だとか、隣をなんとか黙らせろ、とか。相当立て込んでんだな、この国」
「それは――」
ジキムートの言葉に、ケヴィンが口どもる。
「そういや、聖地への巡礼希望の札も多かった。やっぱ聖地ってのは、死に物狂いにでも行く価値が・・・」
ジキムートが更に、言葉をつむごうとしたところ、大きな声が響いてきた。
「ケヴィ~ン、ケヴィンたらっ。ほらここ。ここだよ~っ」
ジキムート達の進行方向に割って入ろうとする、太ったおばさんがいた。
「あっ、コロおばちゃん」
ケヴィンがその声に応えると、コロおばちゃんなる女が、通行人を弾きながら進撃してくるっ!
「ケヴィーンっ! ちょっとどいとくれっ。急ぎなんだよ、こっちはっ」
おばちゃんが呼ぶ声は大きく、近くなのに大声で叫ぶせいで、通行人がジロジロ見てくる。
しかし、気にする事もなく通行人をかきわけ、おばちゃんがケヴィンにまい進しっ!
「ケヴィ~ン、会いたかったんだよ。そぅ、あんたを待ってた待ってたっ」
やおらおばちゃんが、その巨体でケヴィンに抱きついたっ!
ほぼほぼ肉で、ケヴィンが埋まってしまい、なんとも苦しそうだ。
そしてそのまま、道のど真ん中で、世間話を話し始めるおばちゃん。
「なぁアンタちょっと。、〝ブルーブラッド(蒼白の生き血)〟の件、どうなっちまったよ~。あたしゃヴィエッタ様が心配で心配でさぁ」
(嘘の臭い。しかしブルーブラッド、ね。)
幾度か出たワードだが、気になる言葉である。
(レナが無敵とか言ってたな。どういう意味だ?)
「う~ん、難しい状況……かなぁ」
肉に埋まりながら、ケヴィンは答える。
「どうせあの……」
あたりをおばちゃんが見渡す。
「レナ様が、騎士団の横暴を煽ってるんだろう」
「あはっ……。アハハ」
耳打ちされる言葉に困ったように、ケヴィンが笑う。
考え込むジキムートをよそに、おばちゃんの話は続く。
「負けないで欲しいね全くぅ。ここにゃあロクな地産品がないんだ。騎士団がどうか知らないが、あんな偉そうなだけの人間、ほっときゃ良いっ! 皆が敬愛する神様を、勝手にどうこうする権利はないってんだよっ!」
おばちゃんが、目の前の騎士見習いに鼻息荒く、騎士団の悪口を吐き捨てるっ!
「あは……。あはは」
ケヴィンは笑ってごまかすしかない。
「それでさぁ、ケヴィ~ン。その……。悪いんだけど〝ブルーブラッド(蒼白の生き血)″、余ってないかい? 困ってんだよぉ」
本題だろう。
彼女はケヴィンにすり寄るように、あざとく媚びたような困り顔で、聞いてきた。
「えっ……? おばちゃん、配られたのどうしたのさっ!?」
「いやぁ、なんて言うか、どうしても――。どーーしてもっって、欲しがるのがいたからさぁ」
「嘘の……臭い」
ジキムートが鼻をふさぐ。
「うー……ん。困ったなぁ。これは騎士団にも少しだけしか、配備されてないんだよ。あとは、最初に住民に配られた分だけなんだ」
この〝ブルーブラッド(蒼白の生き血)″ははじめ、住民に少しだけ配られていた。
そうでもしないと住民が、〝蜂起″しかねないという危険性。
それが切実だったからである。
「でもさでもさっ。どうせ、どうせだよ? ヴィエッタ様が勝てば、市民にそれがいきわたるんだろうっ!? そうなればアンタもアタシもっ、1個や2個でケチケチする必要もなくなるさっ。あんたはヴィエッタ様の勝利を――。彼女の信念をっ、心から信じてんだろぅ?」
上手くケヴィンの、心の浮わついた部分を突くおばちゃんっ!
「そっ、そりゃ当然さっ! 民を思うヴィエッタ様の心はきっと、大きな力になるよっ」
「民を思う……ね」
その言葉を何度聞き、そして、何度裏切られたか。
ジキムートはその単語には、蕁麻疹じんましんが出る程度には、嫌気がさしていた。
「それまでの辛抱さ。なっなっ」
そうぽんぽんとケヴィンの肩を、調子よく叩くおばちゃん。
ジキムートは正直、こういった人間は苦手である。
関わりたくないと思ったせいか、知らぬ間に、現実の距離が離れて行っている。
「うーん。じゃあ1つだけ。2つしか僕も、ないからね」
そう言って何か、曇った青いガラス? のような物を渡すケヴィン。
「おぉっ、ありがとうねっ! かわいい子だよっ、この子はほんとにっ!」
すりすりと頭に抱きつき、撫でまわすおばちゃん。すると……。
「あら、そこのあんたぁっ! 寄ってきなよぉっ」
すると、意気揚々とおばちゃんが、目の前で客に声をかけたっ!
「おぉ」
大声で呼びかけられ、気にもせず立ち止まってしまう旅人。
「ほらほらこれぇ、なんだか知ってるかい? そうっ、そうなんだよ。これがあの、神の水都ディヌアリアから持ってきた宝珠さぁ。どうだいどうだい、キレイこの上ないだろう? ねぇケヴィンっ」
おばちゃんが叫んで、先程ケヴィンから巻き上げたガラス。
それを何か、ブレスレットの様な物に引っ付けるっ!
「う……。うん。そうだね、コロおばちゃん。」
唐突にふられたケヴィンが、困ったように応えた。
ここまで圧倒的で、まるで悪意すら感じる商売根性を見せられ、タジタジだ。
「おぉ……。本当にあのディヌアリアから? あの憧れの聖地の、至上なる水ですかっ!? なんと……なんと素晴らしいっ! 嘘じゃ、ないよな?」
ニヤリっ。
「それなら、ほ~らここ。きちーんと刻印がしてあるだろう? 間違いないさ」
刻印を示された客の男の顔が、ぱぁっと明るくなる。
そして何度も何度も、見返している。
「そんな儲かるもんなのか? アレを輸入するってのは」
おばちゃんの満面の笑み。
そして、旅人の興味の高さを見て、ケヴィンに耳打ちするジキムート。
こう言っては何だが……。
ただの液体を入れただけの青いガラス。
それを引っ付けた安物だ。
特にかっこいいとも可愛いとも無い。
現代ならば、100均に置いてそうなブレスレットにしか見えない物。
ジキムートが買うなら、魔法処置が施してなければそうさな、20銅貨と言ったところか。
「大きな声じゃ言えないけど――。この輸入と輸出だけでも、あのお城を5倍に改築できそうだって。しかも、この頃流行りの〝別邸″までもが建てられそうだっ! って、はしゃいでたよ、シャルドネ様」
「マジか……」
城を見やるジキムート。
確かに城が5倍になるならば、その額は天文学的だろう。
「でっ……。いくらなんだよこれっ」
「500銀貨」
1本の腕についている、太く皮が突っ張った5本の指を広げ、自信満々に言い放つおばちゃんっ!
大体現代にして、150万位だろうか?
それが適正なのかは、ジキムートには分からない。
ただケヴィンは、驚きを隠せない顔をしていたが。
「えぇ……ちょっ!? そっ、それは高いよおばさん」
だが、言葉と裏腹に客は、そのブレスレットにご執心だ。
ジキムートの見立てでは、もう少しで買うだろう。
「ブルーブラッド……。いやまぁこれは、神とかは関係ないかもしれねえな」
ジキムートは自分の世界を思い出す。
やはり、英雄の真似事をして、頭をバンダナでくくったり。
似たような盾にしたり――。
人間はそういう何かに〝勝手に″力を感じ、願いをたくすのが大好きである。
「何言ってるんだいっ!? これはダヌディナ様の力がこもった宝珠だよ? 彼女はとてもとても面倒見が良いんだ、知ってるだろっ? 昔……はるか前までなら、結婚相談も引き受けてくれたような、愛らしい慈愛溢れるお方っ! その力を込めたんだ、こんくらい当然さっ」
ぴくっ!
「結婚相談……だと?」
その瞬間、ジキムートに戦慄が走ったっ!
「そうそう。ダヌディナ様はとても、人懐っこい神様らしいんだ。一説には人間と婚約していたって話も、ある位なんだよ~。会ってみたいなぁ」
ケヴィンのその言葉に、ジキムートはふと黙りこくる。
「きっとどの神様よりも、あんたの事を守ろうとしてくれるって。そうかそれだっ! それだよ~、それそれっ。神様もあんたの所に行くよう、運命を与えたもうたのさっ! あんたを災いから守るためにねっ。これ買わなきゃ、神様に失礼ってもんよっ!」
そのおばちゃんの言葉の瞬間、ケヴィンの顔色が変わったっ!
「だっ、ダメだ、おばちゃんっ!それは……っ」
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