異世界冒険譚 神無き世界の傭兵から 親愛なる人を愛する神へ~傭兵が死すべき場所は 神の慈愛の手のひらか それとも神に見放されし己が郷土か~

猫板家工房

文字の大きさ
上 下
21 / 145
異世界の町。

黒い国土と神。

しおりを挟む
「お客さん、フリーとシークレット。どっちで」



「フリーだ」



ジキムートは勘で答えた。





おそらくはフリーは、レベル問わず。



シークレットが、依頼者による審査がある。



厳密には、この受付が審査するのだろうが。





「じゃあこれ――。こんなのどうです? ツエツエ鳥の討伐ですよ」



「へぇ……」



(なめてんのか。って言っても良いが、まぁ良い。今は……な。)



なんとなくの気配だがおそらく、自分が思うレベルの2つほど下だろう。



おおよそ体格でそうなるのは、いつものことだ。



だがもし、元の世界での自分の通り名を知ってれば……。







(まぁ同じ、か。)



頭を掻くジキムート。



そうこう言いつつしっかりと、地図に見入る。



それが本当の目的だ。





どうやらこの大陸、相当に大きいらしい。



海を挟んだ土地も有り、しかも、そちらにも大帝国があった。







(だがどうだ。知ってる土地が一個もねえ。しかも、気になんのはこの黒い所。その周りには、結構な大都市があんのになんで、この部分だけは真っ黒なんだ?)



北にある黒い国土。



名前以外は全く、何も記載がない。



近くの陸地にはまるで寄せるように、大都市らしき物がある。







「ヴェサ……リオ?」



傭兵によぎる、嫌な予感。



「ヴェサリオ総本山がどうしました」



「いや――。気になるなって……よ」



だが、聞かねばならない衝動。





「神が、それをお赦しになりません」



その瞬間、ジキムートの頬に冷たいものが……っ!



「でも確かに、行ってみたいですよねぇ」



「……」



冷汗の感覚が消えていく。



なんとか鼓動も戻った。









「どうなってるんでしょうね~、あそこ。4柱神様は行くな、と。はっきり明言されますし。そしてあの〝予言″とやら。なんとも言えません」



「予言、な」



「高確率で当たるそうですが、なんなのですかね? 時折、4柱神様以外からの、予言とやらが下りますが。少し薄気味悪いのも、ホントの所ですよね~」



「俺の田舎じゃ、ありゃきっと神様だって、話だが。そうじゃないのか?」





「神様~? いや~。聞いたことないですね、そんな輩。予言は、内政干渉から公共工事にまで、口挟んできますからね。……ほんとあの予言、なんなんですかね~」



(明らかに態度が違う。神じゃねえのか。)



受付の態度が、神に対する部類とは全く持って違う。



どうやらヴェサリオとやらには、敬うべき神はいないらしい。



だが、4柱神が行くなという……。







(すっげぇ怪しいんだが。)







その先に、自分の世界があるのかもしれない――。



傭兵は予感する。





(神のない世界がある。なんて知られたら、まずいもんな。)



「おう兄ちゃん、どけや」



考えていると、後ろから声がかかった。



「なんでぇ。可愛らしいお坊ちゃん連れて。お前さんの〝メカケ〟か?」



ケヴィンの顎をこねくり回す、大男。



「なっ……。やめてください……よ」





大きな剣を下げ、上等な鎧を持つ傭兵に、ケヴィンが恐れおののいている。





「すいませ~ん……。お客さんが来たもんで。この頃ほんと、目が回るかと思うぐらい忙しいんですよ。だからもっと立派で、大きな大きなっ。ええ、今まで馬鹿にしてきた奴らが腰抜かすくらいの、立派なギルドにするんですっ!」





嬉しそうに〝馬鹿に″という所に力点を置きながら、受付が拳で力む。



「そう……か。分かった、すまねえな」



ギルドマスターの言葉に従い、ギルドを後にするジキムート。



要は……。優秀で金になりそうな冒険者が来たから、道を開けろ。ということである。



大体は、上の奴の取り分が優先されるのは、いつもの風景だ。





ど~してもなんとかしたいなら、『拳(剣、魔法含む)』で語るしかない。



「あっ、待ってくださいよ~っ!」



半泣きになりながら、ツネリ倒されているケヴィンが追いかけてくる。



そして入れ違いで、大男が受付に言い放った!



「おうじゃあ受付、仕事を頼むっ!」





ドンッ!





「あぁ――」



「……すまねえ」



景気よく机を叩いたせいで、バタりと机が倒れてしまった。















「ヴィエッタ様、水路建設についてですが。水の聖地からの直通で引くには、どうしてもこの、ホルプキンズ家を通らなければいけないようです」



ヴィエッタに進言する執政。



ここは、シャルドネ邸の一室。



さしずめ会議室、と言った所か。





「ホルプキンズ……? どこかで聞いたわね。ですがそれなら、わたくしが何とか折衝しましょう。水路が無ければ、聖地からの物資を運ぶ運賃が、馬鹿にならないものね」



ヴィエッタが執政に答えた。



彼女は今、複数人の執政と折衝している。



議題は、今後の聖地運営について。



一様に真剣だった。







「ですが水路建設時も、当然その後も。山賊や海賊、それにモンスターなど。多様な問題に、今後も悩まされるかと存じます。今の騎士団の規模では、とてもとても。例え傭兵を多数動員しても全く、警備防衛の手が届かないかと」



「ふぅ……。そうねぇ。何せ聖地からの物品、言うなれば、金塊と同じ物を積む事になるのですもの。常に狙われてしかるべき、よ。」



執政の言葉に、彼女が頭を抱えて考え込んだ。



そして独り言のように、解決策の案を口に出すヴィエッタ。





「水路を維持するに値する騎士団、ね。そんなもの王族、もしくは最近できた〝軍″とか言う物以外は、難しいでしょう。ですが軍は今は、使えないわ」



経済的に、聖地からは色々な物を運んで来なければならない。



物品のみならず人の輸送としても、水路は必要だった。



この時代の陸路は、非常に交通の便が悪かった。





馬やロバを使っても、1日せいぜい7里くらい。



大体30キロくらい進むので、限界だったのだ。



それに対して水路は、直通に近ければ、1日60キロは進めた。







「陸路を広げると言うのは、どうでしょうか? 恐らくは、同じくらいのコストになるかと」



「しかし陸路となると、馬やロバを飼っておけるだけの、別の財力が必要になるわね。それか、専門の業者を頼むか。だけれどもその代金は決して、安くないわ」



金塊を運ぶ機能を作る前に、インフラ整備に莫大な予算が必要。



どんな時代にも、こういった問題は起こる物である。



そして更に、この中世の時代ならば――。







「しかも、自分の子飼いですら怪しいのに、他の業者に金塊を運ばせるなど……。ふふっ。あまりに非効率的かしら」



「そうです、ね。こう言っては失礼ですが――。我が騎士団ですら怪しいと、わたくしは率直に申し上げておきます」



その辛らつな執政の言葉に、ヴィエッタが笑った。



この時代の他人と言う物。および、商売人と言う物に信用は全く、微塵もない。



商売人と取引すれば10中8、9。ぼったくられるのは常である。







こんな状態で、金塊にも似た物を業者に運ばせれば――。



出発した時は山のような黄金も、目的地に到達した頃には恐らく、ズタ袋一杯くらいまでになってしまう恐れがあったのだ。







その上――。





「それに、あの馬車と言う乗り物。あれは本当に、地獄のような物よ。腰が痛くなるわ、眩暈がするわ。私も小さい頃に乗らされたのだけれど、本当に……ふぅ。あれは、最悪でした」



ヴィエッタが顔を隠して、苦しみを語る。



この時代の馬車には、衝撃吸収用のサスペンションが無い。



その揺れは、常人では耐えられない程の苦しみを得る、そんな事で有名な乗り物だった。



しかも、めちゃめちゃに乗車料金が高いのだ。





コンコンっ!





「よろしいでしょうか、ヴィエッタ様」



「何かしら?」



「新設のギルドと、その税に対する報告なのですが……」



「お父様はどうなされたの? 内政については、お父様に任せてありますわよ?」



ヴィエッタが問うと、その来訪した執政が口どもりながら続ける。







「それが……。あちらも手いっぱいでして。何せ、この地が聖地を取得してからと言う物、来賓がひっきりなしになっています。友好を求める者からその――」



「どうせ先物投資やら、鉱山開発への誘いとかでしょうね、全く……。お義母様はどこへ?」



「さぁ。申し訳ありませんが、分かりかねます。一応レナ様はこの後、最重要のご来賓があるとの事。お仕度なされると聞き及んでいますが」



「そう。仕方ないわね、喫緊の問題ですもの。そこでお待ちなさい。わたくしは少々外しますわ。休憩にしましょう。そのあとよ」



「はい」





そこに居た数人の執政に言い、ヴィエッタが疲れた様にフラフラ……と、その場を後にした。







バタン。







「最重要の来賓、ね」



部屋から出ると、ヴィエッタが目を細め……。



何かを考えこむ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

婚約破棄された私は、処刑台へ送られるそうです

秋月乃衣
恋愛
ある日システィーナは婚約者であるイデオンの王子クロードから、王宮敷地内に存在する聖堂へと呼び出される。 そこで聖女への非道な行いを咎められ、婚約破棄を言い渡された挙句投獄されることとなる。 いわれの無い罪を否定する機会すら与えられず、寒く冷たい牢の中で断頭台に登るその時を待つシスティーナだったが── 他サイト様でも掲載しております。

30年待たされた異世界転移

明之 想
ファンタジー
 気づけば異世界にいた10歳のぼく。 「こちらの手違いかぁ。申し訳ないけど、さっさと帰ってもらわないといけないね」  こうして、ぼくの最初の異世界転移はあっけなく終わってしまった。  右も左も分からず、何かを成し遂げるわけでもなく……。  でも、2度目があると確信していたぼくは、日本でひたすら努力を続けた。  あの日見た夢の続きを信じて。  ただ、ただ、異世界での冒険を夢見て!!  くじけそうになっても努力を続け。  そうして、30年が経過。  ついに2度目の異世界冒険の機会がやってきた。  しかも、20歳も若返った姿で。  異世界と日本の2つの世界で、  20年前に戻った俺の新たな冒険が始まる。

【本編完結】転生したら第6皇子冷遇されながらも力をつける

そう
ファンタジー
転生したら帝国の第6皇子だったけど周りの人たちに冷遇されながらも生きて行く話です

ウルティメイド〜クビになった『元』究極メイドは、素材があれば何でも作れるクラフト系スキルで商売をして生計を立てていく〜

西館亮太
ファンタジー
「お前は今日でクビだ。」 主に突然そう宣告された究極と称されるメイドの『アミナ』。 生まれてこの方、主人の世話しかした事の無かった彼女はクビを言い渡された後、自分を陥れたメイドに魔物の巣食う島に転送されてしまう。 その大陸は、街の外に出れば魔物に襲われる危険性を伴う非常に危険な土地だった。 だがそのまま死ぬ訳にもいかず、彼女は己の必要のないスキルだと思い込んでいた、素材と知識とイメージがあればどんな物でも作れる『究極創造』を使い、『物作り屋』として冒険者や街の住人相手に商売することにした。 しかし街に到着するなり、外の世界を知らない彼女のコミュ障が露呈したり、意外と知らない事もあったりと、悩みながら自身は究極なんかでは無かったと自覚する。 そこから始まる、依頼者達とのいざこざや、素材収集の中で起こる騒動に彼女は次々と巻き込まれていく事になる。 これは、彼女が本当の究極になるまでのお話である。 ※かなり冗長です。 説明口調も多いのでそれを加味した上でお楽しみ頂けたら幸いです

処刑された勇者は二度目の人生で復讐を選ぶ

シロタカズキ
ファンタジー
──勇者は、すべてを裏切られ、処刑された。  だが、彼の魂は復讐の炎と共に蘇る──。 かつて魔王を討ち、人類を救った勇者 レオン・アルヴァレス。 だが、彼を待っていたのは称賛ではなく、 王族・貴族・元仲間たちによる裏切りと処刑だった。 「力が強すぎる」という理由で異端者として断罪され、広場で公開処刑されるレオン。 国民は歓喜し、王は満足げに笑い、かつての仲間たちは目を背ける。 そして、勇者は 死んだ。 ──はずだった。 十年後。 王国は繁栄の影で腐敗し、裏切り者たちは安穏とした日々を送っていた。 しかし、そんな彼らの前に死んだはずの勇者が現れる。 「よくもまあ、のうのうと生きていられたものだな」 これは、英雄ではなくなった男の復讐譚。 彼を裏切った王族、貴族、そしてかつての仲間たちを絶望の淵に叩き落とすための第二の人生が、いま始まる──。

うっかり女神さまからもらった『レベル9999』は使い切れないので、『譲渡』スキルで仲間を強化して最強パーティーを作ることにしました

akairo
ファンタジー
「ごめんなさい!貴方が死んだのは私のクシャミのせいなんです!」 帰宅途中に工事現場の足台が直撃して死んだ、早良 悠月(さわら ゆずき)が目覚めた目の前には女神さまが土下座待機をして待っていた。 謝る女神さまの手によって『ユズキ』として転生することになったが、その直後またもや女神さまの手違いによって、『レベル9999』と職業『譲渡士』という謎の職業を付与されてしまう。 しかし、女神さまの世界の最大レベルは99。 勇者や魔王よりも強いレベルのまま転生することになったユズキの、使い切ることもできないレベルの使い道は仲間に譲渡することだった──!? 転生先で出会ったエルフと魔族の少女。スローライフを掲げるユズキだったが、二人と共に世界を回ることで国を巻き込む争いへと巻き込まれていく。 ※9月16日  タイトル変更致しました。 前タイトルは『レベル9999は転生した世界で使い切れないので、仲間にあげることにしました』になります。 仲間を強くして無双していく話です。 『小説家になろう』様でも公開しています。

結婚30年、契約満了したので離婚しませんか?

おもちのかたまり
恋愛
恋愛・小説 11位になりました! 皆様ありがとうございます。 「私、旦那様とお付き合いも甘いやり取りもしたことが無いから…ごめんなさい、ちょっと他人事なのかも。もちろん、貴方達の事は心から愛しているし、命より大事よ。」 眉根を下げて笑う母様に、一発じゃあ足りないなこれは。と確信した。幸い僕も姉さん達も祝福持ちだ。父様のような力極振りではないけれど、三対一なら勝ち目はある。 「じゃあ母様は、父様が嫌で離婚するわけではないんですか?」 ケーキを幸せそうに頬張っている母様は、僕の言葉にきょとん。と目を見開いて。…もしかすると、母様にとって父様は、関心を向ける程の相手ではないのかもしれない。嫌な予感に、今日一番の寒気がする。 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇ 20年前に攻略対象だった父親と、悪役令嬢の取り巻きだった母親の現在のお話。 ハッピーエンド・バットエンド・メリーバットエンド・女性軽視・女性蔑視 上記に当てはまりますので、苦手な方、ご不快に感じる方はお気を付けください。

今さら言われても・・・私は趣味に生きてますので

sherry
ファンタジー
ある日森に置き去りにされた少女はひょんな事から自分が前世の記憶を持ち、この世界に生まれ変わったことを思い出す。 早々に今世の家族に見切りをつけた少女は色んな出会いもあり、周りに呆れられながらも成長していく。 なのに・・・今更そんなこと言われても・・・出来ればそのまま放置しといてくれません?私は私で気楽にやってますので。 ※魔法と剣の世界です。 ※所々ご都合設定かもしれません。初ジャンルなので、暖かく見守っていただけたら幸いです。

処理中です...