異世界冒険譚 神無き世界の傭兵から 親愛なる人を愛する神へ~傭兵が死すべき場所は 神の慈愛の手のひらか それとも神に見放されし己が郷土か~

猫板家工房

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異世界の町。

人の信念、騎士の御旗。

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「……なっ!? 第4階級の方が、10人ですかっ!? しかも10つ子という事は、一度に10人もっ。王都ですらそんなにいないって聞きますよっ! 一体どこなんですかその、素晴らしい神に選ばれた村はっ」





目を見開き、ケヴィンは大声を上げるっ!



(あっやべっ。数盛り過ぎたか。)





「っていう噂だよ噂。そこに行ってみたけど結局、水晶みたいな物の中に、人影が埋まってただけさ。村の奴らいわく、第4階級の聖人様達っ! 村を守ってドラゴンに食われ、吐き出されたんだーっ。だとよ。」





「あぁ。そんな話が世界には――。すごいっ! 僕も見てみたいです、それっ。面白い伝承をありがとうございますっ。やっぱり旅をするって楽しそうですねっ! 僕もいつか旅して、いろんな所に行って見たいなぁ……」





ケヴィンはそのジキムートの話に、楽しそうに聞き入っている。



その顔を見て、ジキムートも顔がほころぶ。



なぜなら……。







(この様子だと、第4はほんの一握りだな。王都でも選りすぐりって事か。あの土の魔法使ったガキで将来、第4か第3。本職が魔法士ってなら、まだギリギリ通用すっかもしれねえっ。)



ほっと胸を撫でおろし、さっきの親方の前を通り過ぎていくジキムート。



彼の心に余裕が広がると共に、イーズとの思い出が胸をよぎった。



(イーズがその水晶カチ割ろうとして、俺らは逃げるハメになったがまぁ、楽しかったよ。ふふっ。ただ本当に全員が、ラグナ・クロス開けてたのだけは、不思議だったが。)



ジキムートが懐かしさに笑う。









しかしてそんな彼をよそに、また『蒼』が……。





「そこの方」



蒼が呼びつけたのは、さっきの大工の親方。



汗まみれになって、店の上に乗って工事している。



そんななんとも筋肉質で、ぶっきらぼうそうなおっさんに、蒼の者が声をかけた。



「あぁんっ?」





……。





「へっ……へぇ。なんでやんしょ」



「そこの赤。青に変えられないだろうか?」



指さすのは、家名の紋章。



シャルドネ邸で嫌と言う程飾ってあった、赤の紋章だ。



「しっ、しかしこのニヴラドってのは、騎士団の紋章……。〝真紅の鬼″が目印なんじゃあっ!? なぁ……」



他の職人たちも、コクコクと首を振る。



おそらくは、そう言う依頼で受けたのだろう。





「尊神リービアは尊重したいと思う。だがここは、水の神をまつる町。ましてや聖都であるディヌアリアの、直接保護都市となった。彼女の色に合わせたい。大聖典にも書いてある。我は蒼を好む、我の目には青を入れよ、我のひざ元は青がよいと」





何も読まずスラスラと、聖典の一部を暗唱する蒼の者。



(大聖典……)



この言葉に、ジキムートの耳が聞き入った。



遠のく大工たちの会話に、傭兵が耳を澄ましていると。







「大聖典っ!? そりゃ紛れもない〝カムイ(神威)〟じゃねえかっ。そいつはいけねぇやっ! そっ、そういうことなら喜んで、変えさせてもらいやすよっ!」



血相を変えて、大声を出す大工の統領っ!



「あぁ……親方。それじゃこれ、外したほうが良いんですか?」



さっきの少年が打ち付けた紋章を指さす、1人の弟子。





「あぁ、良い良いっ! おい青だっ! 青のペンキもってこい。もう上から被せちまおうっ!」



「あいよっ!」



号令一下、次々と職人たちが騎士団の『御旗』。



命と信念をかける国旗をあっさりと、神の〝ご要望″で塗りつぶしていくっ!







「〝蒼の聖典守護アジュアメーカー様″、申し訳ありやせんっ! これからは気を付けますんで」



へへへっと笑い、大工が仕事に戻る。



すると満足そうにうなづき、蒼の者もどこかへと行ってしまった。



(あんま好きじゃねえ感じだ、これ。かなり稀だが……。そう、あれは魔女にたぶらかされた貴族だったかね?)



耳でしっかりと察していたその光景に、わずかながら記憶を重ね、そして――。



ジキムートは耳をほじる。



いい気味がしない雰囲気だ。







(そんで、大聖典に小聖典、な。これが神と人間との格差って奴か)



この世界には、聖典が2つある。



1つが大聖典。



紛れもない、神の言葉。



大工が青ざめ有無を言わず、信念すらも打ち砕く物。





そしてもう1つが、小聖典。



それは、人間の発想。



ヴィエッタが嫌がり、ローラが毒づき、騎士も吐き捨てる存在。



その差は絶対的だと、すぐに分かる。





(貴族も王も所詮、俺らと同じ人だ。殺せば死ぬ。だが、絶対上位の神はどうなんだろうな? もし神が永遠なら、こいつらずーっと、終わる事なく神の足舐めて、生きていくのかね? 代わり映えしない正義と、神の世界。それは――。幸せなものなのか?)





ジキムートがしげしげと、ケヴィンを見やる。



異世界人の彼には分からない、この世界の人間の、心の根底に流れる物の〝形″。





すると――。





「あっ、ここですよジキムートさんっ。ギルドです」



少し歩いた所。



市から外れた、比較的寂しい場所で、ケヴィンが止まった。







「おっ、サンキュ……っ。て、ちっっせ」



ジキムートは青く塗られた、小さな小さな塔を見る。



というより小屋だ。2畳1間。



ともすれば――。



現代なら、浮浪者のお屋敷にも見えるそれ。



そこから出てくる、しなびたおっさんが応えてくる。









「いやあ……。申し訳ない。今改装中でして」



「受付のイグナスおじさんですっ!」



「よ~ぅケヴィン坊。よく来たな。でも今日は、仕事はねえぞ。すまねえなぁ。この頃忙しくてよ……」



受付が言ったけケヴィンへの言葉に、ジキムートが怪訝そうな目になる。



「うん、今回は傭兵さんが来たいって」



そう言って、ジキムートをさすケヴィン。



「ああ。とりあえず、情報が欲しい。この町の」





ドカッ。





「あぁ……」



「わりぃ」



ドンっと、建付けの悪い机に腕を置いたせいで、机が倒れた。



それを見てせっせと、イグナス――。



やせっぽちで、見るからに弱そうな男、イグナス。



彼がこの小屋ギルド唯一の、まともな調度品である板を、必死に直していく。





「それで……。ふぅふぅ。何用で?」



「地図を見せてくれ。仕事を選びたい」



「はいはい」



応えるとすぐ、手元の地図を広げる受付。



地図には、手垢と書き込みで汚く汚れた、この町周辺。



そして周りに広がる、広大な世界の形が浮きぼられていた。



「……」







(そう……。地図はギルドのじゃねえと、意味ねえんだよな。)





じっと、地図に見入るジキムート。



だが、世界地図くらいはどこにでもある。



実際シャルドネ廷にもあった。ただし……。









「これ……〝きちんと″、最新のもんなんだろうな? 俺ら傭兵的に、よ」



「えぇ。当然」



笑う受付。



(そう……か。これが最新の〝軍事境界線″か。)



この時代、国境なんてすぐ変わる。



そしてなにより、情報が遅い。





他国の領土を自分の物だと、勝手に吹聴する輩も大勢いるし、それが国家的に間違った教育、出版につながるのは常識の範囲内だ。



なのでギルドは〝軍事境界線だけ″を書き、それを広める網を持っていた。



さもなければ、自分たちの命に関わるのだ。



(昔、イーズがうっかり税金を納めちまったせいで、えらい事になったな。)













「あぁ~。疲れた……。こんなに歩くとは~。日が暮れるギリギリで、せーふっ! 良かった良かった、あ~」



汗を流すイーズ。



赤髪をかき分けて、ひたいを拭い、苦しそうに息を吐き出していた。
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