異世界冒険譚 神無き世界の傭兵から 親愛なる人を愛する神へ~傭兵が死すべき場所は 神の慈愛の手のひらか それとも神に見放されし己が郷土か~

猫板家工房

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異世界の町。

「市場の原理。」それはその世界の命の原理。

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「……どうしましたか? ジキムートさん」



「あぁ……アァァアアア」







ゾンビのような蒼白な顔で、ジキムートがたたずんでいた。



そして、残念だが白パンとは、私達がいつも口にしているパンの事だ。



よくある春の、パンのお祭りではウチでも、大量買いされてくる白いアレ。



それとか、妙な踊りで剛力なる力を持ちし勇者。それが踊っていた、昼食パックのアレの事。



昔はそんな物でも貴重でそして、高価だったのだ。







下等の人々は、ライ麦で作ったカッチカチのガッサガサ。



そんな鈍器のような物。



おそらく今それを、日本で浮浪者の炊き出しで出せば、人権侵害で炎上する覚悟。



それが必要なくらいまずいと噂の、黒いパンで我慢していた。







「あぁ……。神よ神よ。神様よ。あなたは一体なんなのさ」



もう、ジキムートは脱力しかない。



ここまでひどい格差が、神が居るか居ないかだけであるなんて、予想外だったのだろう。





「行かないん……ですか?」



「……。そう……だ、な。今はそう、行かなきゃ。そう……。そうそうっ! こ~りゃ楽しみだっ!」





これは本心だ。





神の恩恵とやらを見定めるには、市場が一番っ!



早速喜び勇んで市場の中へと、身を投じてみたっ!







その結果……。



「おっさん。それはグローブか。何の皮だ?」



「ルカリオンでさぁ。水はけがよく、水中戦にもってこいっ! たったの30銀貨っ!」



「超固そう。でも上手く柔らかそうにしなるな。しかもお安~い……。おい、そこのおっさん。このヘルムは……?」





「おっ、旦那ぁ。よくお気づきで。滅多にみられない珍品。北方民の防具だよっ! 熱に強くて軽量、しかも脱ぎ捨てやすい」



「最高だ。うんクレ。アイツが支払うから」



「支払いません。支払いませんから~っ!」



次々に目移りするジキムートっ!







とりあえず、全部欲しいと思える位の珍品の山がずらりと、並んでいたっ。



(ルカリオンに、北方ね……。見た事も聞いた事も無いモンスターと、工芸品だ。しかも、総じて物が安いぞっ! それに、それにーーーっ。)





「はい……。一個5銅貨ねっ!」



「おうサンキュっ!」



その、フランクフルトのような焼けた物体。



大きさから言って大体、自分の世界では10銅貨くらいだろうか?



なんとも旨そうな臭いを漂わせる。





(食事も安いっ!? これが……。コレが本当の神の恩恵なのかっ。うちの世界のはやっぱり、偽物だったんだな。偽物めぇ……。偽物めぇっ! 帰ったらブチ殺す。)



ラグナロクを誓う傭兵、ジキムートっ!



彼はきらきらとした目で、出店を見てまわる。



そこは彼にとって、ワンダーランドのようだった。







その反面、自分達の世界の神への怒りが、増幅し続ける。



そんなサイクルが、成り立っていた。



彼の心の中で、答えは出そうだ。



そう……。俺の神様シブチン。







「次はあっちだっ」



「もう、はしゃぎ過ぎですよぉ」



ケヴィンが、急ぎ足のジキムートを追いかける。



その人だかりに興味を持ち、地元の子だろうか?



子供たちも楽しそうに、覗き込もうとしている……が。



「ダメよっ、この市場に入っちゃっ!」



母親達が大急ぎで、その子達を引きはがした。





当然だろう。





今でいうところの、金物と刀剣(物理)即売会だ。



とても、子供に良い雰囲気ではない。



時折、子供が喜びそうな土産物も、売ってはいる。



だが、ゴツイおっさんと、目の鋭い魔法士が闊歩するそこ。



そんな場所に、一般通行人への配慮など微塵もない。



何をしでかすか分からない雰囲気が、充満していた。









「結構混んでるよな、やっぱ。盛況盛況っ!」



その、何をしでかすか分からない筆頭たる傭兵が、楽しそうに見回っている。



こういった栄えた町に来ると、なぜだか人間は気分が高揚する。というのは今も、昔も変わらない。



「ええっ! すごいでしょニヴラドはっ、えへへっ。あぁ、でも少し僕、水を飲みたいな。ジキムートさんは喉、渇きませんか?」



「確かにな。人が多いとやっぱ熱気がなぁ。じゃあ、ビールでも飲むかっ!」



そう言って、ビールのマークを指すジキムート。



昼間から酒? と思うかも知れないが、この時代のビールは、おやつ兼常用の飲み物だ。







アルコール度数もかなり低く、1度あるかないか程度。



子供も飲む物である。



私達的には、『甘くない甘酒』と言えば、分かるかも知れない。







「えと、僕は水で。お腹も空いてないですし。それに、あんまり無駄使いも、ね? えへへっ」



「……無駄使い? 何言ってんだお前。水なんて結構高い……」



怪訝なジキムート。



すると……っ!





「すいませ~んっ! この中で水の魔法を……。ダヌディナ様の仕手を目指す、善意なるマナ人はおられませんかーっ!」



突然大きな声で、ケヴィンが叫び出したっ!



「……っ!?」



その声に驚き、ジキムートが少しケヴィンから距離を取るっ! すると……。





「おぉ、俺だが。水か? あんちゃん」



やってきた、ガラの悪そうな男。



ニタニタ笑い、小さなケヴィンを見下ろしている。



「お願いしますっ!」



だが、ケヴィンは気にする様子もなく、男の前に腕を突き出したっ!



そして両の指をそろえて、受け止める用意をする。







「水よ集まれ。我の指にかの愛を。4つ柱、そは生命を支える、我らの麗しき源かなっ」





ブンっ。





「……っ!?」



(なんだ、あの光っ!? 手品かなんかか?)



ジキムートは驚愕するっ!



呪文を唱えた男が紛れもなく、光ったのだ。



そして、ケヴィンの顔色を伺うが……。







(全く動じてねえ……。この世界は、人間が光線を発するのが普通なのかよ?)



顔からは汗がしたたるが、表情は崩してはいない。



彼はひとしきり、その〝現象″について考えこんだ。そして……。





バシャッ!





放たれる水っ!



それが、ケヴィンの指の中を満たし……。



「ありがとうございましたっ、仕手様。高貴な我らの真の支配者。崇高なるマナの仕手」



深々と礼をするケヴィン。



「良いって事よ。たゆたう水、誇りの流れ。神のうるおい。ダヌディナ様よ、あなたに与えられたマナを持ち、あなたが愛したもうた我らっ! その同胞を救えた事に、感謝しますっ」





神に礼を言い、笑って去っていく男。そして……。





ゴクン……ゴクッ。





「あぁ……。ふぅっ!」



ケヴィンがその、手のひらの水を飲み、爽快そうに笑ったっ!



ケヴィンの満足そうな顔に、ジキムートが怪訝そうに彼に問う。





「……なぁケヴィン。ちょっとだけその水、くれないか?」



「えっ? 良いですけど」



ケヴィンの手中から、ジキムートへと移される水。



それに口をつける傭兵。





ゴクッ。





……。





ジキムートが怪訝な顔をする。





(そこらの水なんか、相手になんねえ位うめえっ!? うちらの世界じゃ水なんて、滅多良い物出回らねえってのにっ。しかもアイツ、あっさり人に与えてやがった。あの感じじゃこの世界、水なんてタダみたいなもんって事かよっ!?)





その事実に、なんとなく寂しさを覚えるジキムート。



彼らの世界の水は、川と言わず井戸でもなんでも、大体が硬水。



非常に飲みにくく、口に含むには適していない。



それに対してこの、魔法で出した水は軟水。



明らかに人間に対して飲みやすく、『上等な』水である。



しかも、魔法で生み出していた。







(うちらの世界の魔法の水なんて、飲めたもんじゃなかったんだぞ。これも、こんなのまで、神の愛の差って奴、か……。)



彼は旅師だ。



水が切れて、四苦八苦する事は少なくない。



渋い顔して魔法の水を飲み、不快感を抱えて眠った記憶も、多いのだ。













「おっ……お姉さん、旅の魔法士さんですかっ?」

「ん~、そだよ」
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