異世界冒険譚 神無き世界の傭兵から 親愛なる人を愛する神へ~傭兵が死すべき場所は 神の慈愛の手のひらか それとも神に見放されし己が郷土か~

猫板家工房

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1章 飛ばされた未知の世界で。

保釈。そして異世界の空気を満喫

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すると、外のメイドに預けておいた、揺り篭の子供が泣き出したっ!



「あぁ――。ごめんなさいね、ヴァン。こんな汚いところに連れてきて。さっ、出ましょう。あぁ臭い臭い」



そう言ってレナが、まるで口論など――。





ヴィエッタとの舌戦など、初めからなかったように、すぐさま立ち去っていく。



そこに別れの挨拶や、気遣いは無い。



呆気ない終わり。







「……ふぅ」



するとそのままゾロゾロと、半分近くの兵も、部屋を出た。



ヴィエッタに向けられる、冷たい眼差しが約半分去り、室内の温度が少し下がったのを感じる。



「……」



残されたヴィエッタは、不機嫌さを紛らわす様に、綺麗な茶色の髪を撫でた。



彼女の周りには、人影は少ない。







「ふぅ――。それで……そう。なんじゃったか」





狼狽。





そう、狼狽だ。



疲れが隠せないその、顔。



シャルドネは昼夜問わず、この戦いの中心に挟まれ、さいなまれ……。



右往左往しているのだろう。



疲弊の色が見える顔で、必死に何をしていたかを、思い出そうとしていた。





そして……。





「あぁ、そうそう。ジキムートとやら、お前にはこれから罪科の代わりに、決闘をしてもらう事になる。何か言いたいことはあるか」



「外に出してくれ」



このジキムートの言葉に、ヴィエッタが何かを考え始めた。



「逃げるつもりかよ、この腰抜けがっ」



「ああそうだよ。それも良い。逃げるかどうかも、考えたい」



「……」



なかなか素直に言われると、言い返せないものである。



おそらくは彼が今から戦わされるモノは、相当まずい相手なのだろう。







「ダメだ。それでは明日まで、ここで待て」



そう言って立ち去ろうとする、シャルドネ。しかし……。



「よろしいのではなくて? 出してあげましょう」



ヴィエッタが笑う。



その言葉に一番動揺したのは、シャルドネだっ!







「なっなぜだっ!? ヴィエッタっ。お前が先に仕掛けたのだぞ。その……。もしこの傭兵が逃げれば、レナがどう言うか……っ!」



「構いません。その時はわたくしの不届きを、お義母様にお詫びいたしますわ」



彼女は白い肌をしならせ、ドレスの裾を開き、会釈する。



「そう、か。それで良いのならば、分かった。本当に、本当に良いのだな?」



「……。」





微笑む口元。





「そっ、そうか。本当に――。いや、お前がそこまで言うのならば」



(なんだあの、ヴィエッタとか言うの。俺を外に出すとか、頭にウジでも湧いたか? 一体どうして欲しいってんだ。)



ジキムートはその、ヴィエッタの真意を量りかねた。



見ず知らずの傭兵一人に、何かを思うところがあるように見える。





「だがヴィエッタよ、あまりレナを刺激しないでくれ。彼女はヴァンの――。世継ぎを守ろうと必死なだけだ。ヨシュア亡き後、この国を守るためには世継ぎがいる。お前があまり、マツリゴトに口を出せばその……。なっ、わかるだろう?」





まるで哀願するように、シャルドネが娘に言う。



「善処しますわ」



ヴィエッタは笑顔を作り、シャルドネが持っていたカギを要求した。



それを見たシャルドネが、カギを渡そうとすると……。







「では――。お願いローラ」



「はい」



ヴィエッタの隣に、つかず離れず立っていた、〝ツナギ″の女。



それがカギを受け取って、牢獄に入ってくる。



「立て」



「あぁ……」







そのツナギの女。



年は22・3だろうか。



髪を後ろにきっちりとまとめ、前髪は、ウェーブが強いものを左だけに垂らしている。



目は険悪だ。



どちらかと言えば、傭兵であるジキムートに近い程に。



顔も、ヴィエッタと比べれば並み、といった感じ。



だが、とっつきにくそうな茶色の瞳を飾る、その目元。



そこには、泣きボクロがあった。



目の険悪さと、泣きボクロとのギャップ。



それは彼女に、非常にセクシャルな雰囲気をまとわせている。



しかも胸も大きい。



恋人というよりは、愛人にしたい女。と言った所か。









それがジキムートをすっくと立たせて、連れ出す。



「装備返却についても、わたくしにお任せくださいますね?」



「あぁ……。構わんよ」



「では、僕もヴィエッタ様の護衛にっ!」



ケヴィンがヴィエッタについた。



並ぶと同級生に見える2人。



背も同じくらいだ。







「そういう事だ、ジキムートとやら。問題は起こすなっ。とりあえず、好きにしろ。あ……と、ふむぅ。そう、ケヴィ……ン? だったな?」





「はっ、はい。シャルドネ様っ!」



「頼んだ」



心配そうに、ヴィエッタを見ていたシャルドネがそう言って、残りの騎士団員を引き連れて、ヨロヨロと出ていった。



ヴィエッタには、ケヴィンの他にもう一人、騎士団員がつく。



「まぁ。出してくれるんならなんでも良いけど、よ」



ジキムートはうめく。



そして5人は、その牢獄から出ていった。そして――。











「あぁ……。これが外、か」



ジキムートが見回す、城内。



異世界の風景。



異世界の草木に、見た事ないはずの空。



初めてのハズの色に、匂い。



裸足から伝わる感覚。







(普通だ。俺の世界と同じ。人間の臭いも同じ、か。ここ本当に、神が人間に優しい世界かよ?)

ジキムートは、すぐ隣に居る騎士団員を見ながら、考える。



「……」



「特に、不正をする気はありませんわ。安心なさい」



1人、彼女の下に残った騎士団員に、笑いかけるヴィエッタ。









「そっ……。そういう訳ではっ! このニヴラドの、御令嬢たるヴィエッタお嬢様。その方への危害が無いかと、私は見張っているのですっ!」



(嘘の臭い。)



「そうですか」



そう言って、騎士団員の位置を見やり――。



前を向くヴィエッタ。





ついてきた騎士団員は、ヴィエッタとローラが共に見えるように、一番大外。



ジキムートの隣に位置取っているのだ。



(その位置じゃあ守れないぞ、騎士団。嘘でもハッタリ効かすんなら、ケヴィンの位置にしろ。)



ちょうど、ジキムートとヴィエッタの中間に居る、ケヴィン。



騎士を見やり、笑った傭兵。







すると――。







「どういう事だっ!?」



怒鳴り声が響くっ!



「いえその――。この度はお越しいただき大変恐縮ですが、シャルドネ様は忙しく、そして何より……。そうっ、お体の具合が悪いので」



騎士団の団員らしき、門番2人。



それが何か、数名の人間と揉めている。





騒ぎが起きている方を、ジキムートが訝しそうに見やった。



「この国はついにっ、ついに、だっ! あの、偉大なる神の御前であると同時に、聖地を抱くに至ったのだぞっ!」



「そうですよっ! しかもこの街は、聖地を庇護する大役。それを担った〝福音″の街なのだぞっ! その代表たる存在が、我ら聖典会との打ち合わせに出ないとは、何たる無礼かっ!?」



かんかんに怒りをあらわにし、叫び散らす男達っ!



先頭の男を筆頭に、後ろにも数名の男女がいた。







一様に、不満顔で声をあげている。



「何やってんだ、アレ」



「多分、聖典守護の方々だと思います。あぁ~。あはは」



苦笑いするケヴィン。



すると……。









「お父様もお義母様も……。全く」
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