異世界冒険譚 神無き世界の傭兵から 親愛なる人を愛する神へ~傭兵が死すべき場所は 神の慈愛の手のひらか それとも神に見放されし己が郷土か~

猫板家工房

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1章 飛ばされた未知の世界で。

神から愛されない、という事。

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「ねぇ、お姉ちゃん」



白く濁る息。



幼い少年は、勝気そうな少女に聞いた。



「なぁに?」



「ラグナロク税、どうするの?」



重いズタ袋を持ち、彼らは1列に、徴税官の元へと向かっている。







ボロボロの街と、やせ細る大地。





粉雪が舞う季節に人々は、必死に工面した物を吸い上げられていく。



「良いかっ! 10パーセントだっ。すべての畑から10パーセントっ。全ての商品からも、1割っ!」



「数字が分からんでも、きちんとこちらで記載してある。言われた通りの額を納めろっ! 1銅貨たりとも、見逃さんからなーっ」



兵たちが大声で叫んで、ウロウロと歩き回っている。







税は――重い。



取れた穀物。



儲けたきんすに一律、ラグナロク税が10パーセントかかる。



それだけではない。





租税に20パーセント。



基本税にさらに、30パーセントが徴収された。



その上地代に5パーセントで、合わせて65パーセント。



ことさらそれに、年に40日ものタダ働きの、賦役。



そんな物も義務とされる、庶民の彼ら。



その中では、ラグナロク税は死活問題であった。







「もぅ勘弁してくださいっ! 我らは一文無しです。誓います、蔵には何も残ってない。ご容赦を、ご容赦を……っ!」



すがりつく老人。



彼の風体は雑巾のようだ。



栄養のめぐりも悪く、体のあちこちが赤く、ひび割れている。



「嘘の臭い……」



少年はつぶやいた。





「この税を容赦だと? 何を馬鹿なっ!? あの〝ラグナロク柱″がなければ、太陽すら無くなってしまうのだ。太陽を維持しなければ我らは、生きる事すらかなわんっ!」



怒鳴り声を上げて、〝光の柱″を指す徴税官っ!



彼が指差す先には、全世界から見えるほど大きく高く、天に穿たれた光の波、3つ。



それらが血管のように、脈打っているのが見えていた。



このラグナロク税は、太陽を支える光の為の税である。







「ですがしかしっ。これでは飢え死にの方が、先に来てしまうのですっ!」



「飢え死にだぁ? はぁ……。何を愚かしい。光を一度でも失えば、たちまち全員、神の生贄になるのだぞっ!? 税は貴様のような虫けらの命よりも、重いのだっ! さっさと税を払えっ!」



「そっ、それでもなんとかっ! 神が恐ろしいのは、わたくし共も重々分かっておりますともっ。ですが、限界なんですっ。なにとぞっ! なにとぞーっ」





泣きつく村人たちにゆっくりと、目を這わせる兵隊たち。





「それはすなわち、神との闘いをやめる。という事か? よもや貴様ら、〝リデンプション(帰依教)〟の手先。『降伏教徒』になってたりは……せんよなっ!?」



徴税官の言葉に、皆が顔を落とし、声をひそめた。



「この付近で最近、無抵抗教徒が出没したという、目撃情報があるっ! お前達、知らないか? もし何かを知ってるなら吐けっ。この場でな」



「……」





徴税官の言葉に、誰も名乗りを上げる様子がない、村人達。



それに業を煮やした兵が――。



「そうだそうだ……。だったら税だ。税が嫌いならば、〝リデンプション(帰依教)〟について、知っている事を吐けっ! そうすればそいつだけは、ラグナロク税を免除してやるぞっ! さぁどうだっ。」



村人たちの前に、『ニンジン』をぶら下げた。



そして徴税官が再度、村人たちを睨みつけるっ!



が、誰一人、言葉を発しはしない。



ただただ、うつむくだけ。







「……。ぬぅ、まぁ良い。だがジジイ。ここは神との最終決戦の地だっ! 人類存亡をかけ、神に歯向かえぬ者には厳罰をもって、我らは応ずるっ! ケツを出せ、この憶病者のゴミがーっ!」



「かっ、堪忍してくだされっ。鞭打ちは……。鞭打ちだけはっ!」



だが、その言葉もむなしく、組み伏された老人。



彼に激しく厳しい、鞭が襲うっ!





バシッ、バシッ!





重い音が響くたび、老人の血を吐くような声が響いた。



「……」



激しい音に震える少年。



すると、少女が少年とつないだ手を握り、言い聞かせるように腰をかがめた。





「良いジーク。ラグナロク税っていうのはね、私達の命と同じよ。あの太陽を維持しなければ、神に望まれなかった私達は、生きてはいけないわ」



天を睨み据える姉。



これは嘘や冗談ではない。



「僕らも……。神様に描いてもらえてたら、良かったのにね」





ため息交じりで少年は、凍えるような寒さの中、体を震わせながら周りを見渡す。





その眼に映るのは、覆い尽くすように伸びる樹々。



大きくそびえる山々。



様々な、命の躍動。





「たくさん描いた筈なのに……」



神は全てを生み出す為に、パレットに色を出し、多様な物を描いて見せた。



その甲斐あって、生物のみならず土や水や、雲に至るまで。



色とりどりのキャンバスの色から、生まれたという。



目に入る物は全て、神が描いたはずなのだ。







――ヒトだけを除いて。







「もう遅いわ。むしろジーク、そんな事言っちゃ、ダメ。私達はゴミとして生まれたから、ヒトなのよ。それが私達の存在証明なんだからっ!」



弟とつないだその手に、ギュッと力を籠めた姉。



彼女は悔しそうに、唇を噛む。



彼ら人間は、絵を描いた時にへばりついた、神の汗やゴミ――。



汚物の結晶から生まれてきた、生き物。



そうはっきりと、語られている。







「ゴミ……か。そうだよ……ね」



少年はうなだれた。



彼らの世界は初めから、神の祝福どころか、嫌悪と侮蔑。



それだけで、満たされていたのだ。



救いはない。



だが――。







「だけど、ただのゴミじゃないわ、私達は。だって、神から逃げて来られたもの。神すらも、この世界には入れない。それもこれも、あの太陽のおかげ。だからあの太陽とそして、輝くラグナロク柱は人間の誇りなのっ!」





嬉しそうに太陽と、それを維持するラグナロク柱を見つめる姉。



「太陽……」



少年は眩しそうに、姉の眼差しの先にある、冬のくすんだ陽光から目を逸らす。



「でもあの太陽は……。あれを支える柱は、糞ったれ天使共と、悪魔の死体をこねた物だって聞くわ。私達をあざ笑った者達が、神を邪魔している。あまつさえ、私達に魔法を与えてくれてる。悔しいでしょうね、神とその下僕共も」





勝気な笑みを浮かべ、神への怒りをあらわにする姉。



だが、少女の力強さに比べて、少年は――。



「でも、維持するのは難しいみたいだよ。僕らももう――」



少年は未だ、鞭に打たれ続ける老人を見た。



怯える少年の手は、震えが止まらない。







まだ、彼らが抱えた袋――。



少年達2人の、1週間分の食料。



黒パン5つと、布切れのようなベーコン。



それだけでは、税が払えないのだ。



「怖がりね、ジーク。大丈夫よ、私がいるから。」



弟に笑いかけ、少女はやおら、自分の靴を脱いだ。





「でもジーク。1つだけ覚えておいて。ラグナロク税について、間違っちゃだめよ。これは、神から逃げるために払ってるのではない」



彼女は靴を――。



たった一足しかもっていない、生活の必需品を、ズタ袋に乗せる。



「いつか我ら人間が、私たちを見下した神を倒すために払うお金。〝ラグナロク(神の時代の終末)″を迎えるための、私たちの勝利の税よっ!」





「神を倒す……」



怯えた少年の瞳に、映った物。



姉の姿とそして、彼女の力強い眼光。



それを忘れることはない。



勇者の目を。



誇り高き、反攻者の眼を。













「でね……。世界は神のご加護にあふれ、マナが漂っているから、それを探ってぇ――」



「へぇ……」



ジキムートは天を仰ぐ。



薄暗い天井。



あれからいろいろ、考えていた。



(なんとなく最後――。イーズと別れる瞬間を思い出してきたぞ。)







彼は、最後の瞬間を思い出す。



あの後ジキムートは、どこかに飛ばされたのだろう事。



それは想像に難くない。





(気絶しちまって、でかい鳥モンスターにでもひっ捕まって、途中で振り落とされたかね?)

上機嫌に話し続けるケヴィンを見やり、ジキムートが笑みを送る。



ジキムートは、自分の無学さを恥ずかし気もなく語り、ケヴィンに教えを乞うていた。



そしてケヴィンは親切にも、ジキムートに色々な事を語り、教えてくれている訳だ。

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