異世界冒険譚 神無き世界の傭兵から 親愛なる人を愛する神へ~傭兵が死すべき場所は 神の慈愛の手のひらか それとも神に見放されし己が郷土か~

猫板家工房

文字の大きさ
上 下
3 / 145
0章~プロローグ~

神に会う為の道、その道すがら。

しおりを挟む
退屈な車内では、そこかしこで〝行事″が行われる。



賭け事から、街道ゆく女をナンパやら。



噂話やら。







「それでよぅ。どうやらシャルドネって奴が、『選挙』とかいうのを――。そんな、わけの分からん決め方を、提案したらしいんだよな」



揺れる車内。



というか、尋常じゃない程、荒れ狂う車内。



男は噂話に、敏感に聞き耳を立てる。



中世の時代、通信という〝概念″そのものがない世界だ。



人づての話だけが、情報元である事。



それは真っ当で、普通で、ザラである。







「その〝選挙″っちゅうのは、一体なんなんだよ?」



そう聞かれると、話をしていた白髪の――。



年は40頃だろうか?



この時代ならば、老兵に分類される男が、待ってましたと自慢げに言った。



「選挙ってのは住民が、〇か×で、自分たちで決める話だよっ!」



「あ~? ん?」



説明が全く分かってない、そんな顔をする質問者。





「要は、こういうことさ。税金を上げますか? って話で、〇か×か……」



「はいはいはいっ。×だ×っ!」



勢いよく手を挙げる、一人の傭兵。







「この間ギルド行ったらよぉ、税金が上がったとかで、200銅貨もらえるはずが、192になってやがった。なんかが、20パーセントから、22パーセントに上がった~。とかなんとか言われてなっ。クソ貴族がよぉ~っ!」







頭を抱える傭兵。



「税よりもお前、受付にガメられてんぞ」



男は笑う。



おそらくは、依頼料250。



そこから20パーセントの税を引いて、200銅貨。



2パーセント増量しても、195である。



192になる道理は無い。







「よくあるこったがな」



中世時代は、学がないのは当たり前。



識字率は良くて、5パーセントくらいだろう。



当然、計算はできない。



だが、野生の勘と数字勘はそのうち、研ぎ澄まされていく物である。



研ぎ澄まされる、それまでは……。



辛酸をなめ続けるしかなかった。



男にも苦い思い出は、たくさんあるのだ。







「だっ……。誰か……」



その時、声が聞こえた。



が……。





「まっ、そういうわけで。今から行く〝神の水都ディヌアリア″。この偉大なる聖地は、住民の選挙の結果、なんとっ! 『平和的』に別の国、バスティオンのモノになったとさっ」



「へぇ~。平和的、ねぇ。うんじゃあ住民連中ほとんどが、バスティオンに行きたかった訳か? だったら今更なんでそいつら、くだんのバスティオン軍ともめてんだ?」



「さぁな。ただ、もともとは奴ら、高慢ちきな『神の使徒』だぜ? やれカーペットが汚いだとか、色が気にくわないだとか。そんな感じでうるせえからなぁ」





「するってぇと、今回は何か? ――便所に明かりがないっ! とか、糞垂れながら、駄々をこねたのかねぇ?」







イヒヒっと笑う白髪と、傭兵達。



「全く神様も――。あぁ、高貴な我らの、真の支配者。崇高なるマナの仕手」



何かを言いかけて、自らの言葉を飲み込んだ傭兵。



そして、神への賛歌で誤魔化す。







「アイツらを好きな奴なんて、世界中探しても見つからねえよ、たくっ。ちったぁ殊勝にできないもんかねぇ」



胡坐を組み、文句を垂れ流している傭兵。



羊か牛の胃で作った皮袋に、口をつける。



中身は水では無い、恐らくはビールだ。



ただ――。



私達が思うような『ビール』ではなく、この世界の人間には、『水とおやつの複合体』。



というイメージだが。







「でも、世界に4柱しかない、ありがたい神様だ。その福音を授かるには、あいつらを受け入れるしかねえんだよなぁ。あ~あ、〝余計な物″なしに神様だけ、手に入れれないのかね~。」



「まぁでも、聖地が欲しいならしゃあねえわなぁ。いつまでも野犬のままじゃ、格好つかねえぞ?」



「あぁ、そうだよ。聖地がない国家なんぞ、獣の群れと同じだぜ? 人間扱いすら怪しいってんだ。国家として恥ずかしいったらありゃしねえっ」





傭兵が苦笑し、笑いが起こる。



「だがあの、〝頭を鋼に食われた国家″代表のバスティオンもついに、福音国家か~。すんげえよな、バスティオンの王様ってのもっ! あんま良く知らねえけど」



「あぁいや。この件にはきっと、シャルドネ自身の仕業が大きいんだろうよ。だから聖地への警備依頼は全部、王族と関係ねえんだ。シャルドネが独自に、俺らを手配してるって話になんのさ」



噂話が続いていく。



すると――。







「おっ……お前、ら。助けて……っ」



声が――。



弱々しく、消え入りそうな声が聞こえた。



「あぁ? なんだお前。まだ生きてたのかよっ」



「あぁ……。頼む、誰か薬をっ」



ぜぇはぁと息を乱し、カメレオン男が傭兵達に頼む。



だが……。





「うっせぇっ! 黙ってろっ」





ガッ!





「がぁ……っ!? うあぁ……。」



靴底で小突かれ、カメレオン男がうめくっ!



「あ~。何話してたんだっけ? コイツのせいで忘れちまったっ。クソがっ」





ガッガッ!





「くぅ……。あっ。」



イライラした傭兵に蹴られ続け、涙目になりながらカメレオン男が、必死に防御態勢を取っていた。



「ちっ……」



その姿を見て、舌打ちする者一人。



すると――。









「おいお前、薬なら売ってやるぞ。ちょうど、シャルドネ廷でくすねておいたのがある。1つ10銅貨だ」



男が薬を、カメレオン男に見せつける。



その言葉を聞き……。





「そうだそうだ。シャルドネの話だったっ! おらお前、さっさと売ってもらって来いよ。安いじゃねえか、銅貨10枚ならっ。へへっ。」



「えっ? あんなもん、5枚で買えんだろ? 俺は前、3枚で買ってたぜ?」



「はぁ? 今から『仕事場』なんだぞ? 馬っ鹿じゃねえのお前っ!」



「なっ……なんでだよっ!? 馬鹿ってなんだよ、馬鹿ってぇっ! 俺は数を11まで数えられるだぞっ!」



「あぁ、はいはい。分かんねえなら良いよっ。――だがシャルドネ、か。全く知らない名前だったが、この頃耳にするな。聖地の話にまで、顔を出してくるとはなぁ」



噂話を再開し始めた、傭兵達。







「ふふ……っ」



噂話が始まったのを見て、笑う男。



その片手間に男は、10枚の銅貨を受け取る。



男は貴重な薬を、カメレオン男に分けてやった。



相場の倍ほどで。



しかも、噂話を続けさせるという目的も、達成できていた。









「シャルドネの名前はこの頃、うちら界隈じゃ広まってるっ! どうやらあの辺境伯様。相当なやり手らしいぞっ! 裏でえげつない事までやってるみたいだし」



「マジかよマジかよっ。一体、どんな事やってんだ? えぇ?」



興味深々。と言った顔で、白髪傭兵の言葉に寄り付く、傭兵達っ!



その様子に、白髪の傭兵がニヤリと笑い……。



「どうやら聖地への道を、シャルドネの奴が独占しちまったらしいっ!」





「ど……独占っ!? そんな事すりゃお前っ、王家の奴らはどうすんだよ。聖地に入れねえじゃねえかっ」



「そんだけで話は終わりじゃねえっ! しかも今は無償で、軍の奴らに丸投げしちまったってよっ!」



「嘘だろがっ!? そうなっちまうと、なんだ? 王様が、辺境貴族と軍に頭下げて、聖地に入らせてくれ~って、土下座で頼むって事か? やべえな、それ。」



自分の言った言葉。



それをもう一度考え、首をかしげる傭兵の一人。







「当然今、王宮は大慌てよっ。世界にたった4柱だけの、俺らの神様っ! それを一貴族と、軍部だけで管理してるんだからよ。メンツも何も、あったもんじゃねえっ!」



「はぁ~。すげえな、あの辺境貴族様。しっしかしよく、そんな事できたな。一辺境貴族如きが。軍なんてもんに、コネがある風には思えなかったが?」



「だから、そこなんだよっ。シャルドネの爺さんのヤバいのはっ! あのジジイは軍との〝渡り″をつける為に、自分の娘を差し出したみたいなのさっ」



その言葉にやおら、1人の傭兵が大声を出すっ!



「まじかよっ!? あの美しい、ヴィエッタってお嬢さんかっ! あぁ~。可哀そうになぁ」



情けない声を出す傭兵。



その姿に周りの傭兵が、腹を抱えて笑い出した。







「なんだお前。狙ってたのかよっ!?」



「……ちぇっ、良いだろ。別によぉ」



「おめえと貴族の御令嬢じゃあ、月とすっぽんだぜっ。4本指は諦めろ~」



彼は――。



悲しむ傭兵は、指が4本しかない。



戦場に忘れてきてしまったか、それとも、賦役を逃れようとして、税金の代わりに持っていかれたのか。







「それにもましてホント、あのお嬢さん災難だよな~。跡目にはもう、世継ぎの男子ができたんだろ? しかもママハハに」



「へぇ、それは初耳だ。しっかしシャルドネ、か。いきなりだよなぁ? あんないい年の、しかもド田舎の辺境伯。1年前までは、誰も知らなかった無名が」



「あ~。そりゃあれだ。転機があったのさ。俺はあの、新しい嫁さんが怪しいと思ってる。若い嫁さんもらって、よろしくヤり過ぎたんだろぜ。そうすりゃオンボロの頭の、きったねえのが下から出て、綺麗になんだろっ」





ニヤけた顔で、下半身と頭を指す傭兵。





「あぁ、なるほど、ね。よく言う『良い女はキレイ好き』って奴か。キレイにたーっぷりアッチもコッチもコスられた訳、か。で……ガキができて、そのせがれに立派なもん残してぇんだ。女手に入れて、野心が再燃しちまったかぁ。良くあるこった」





便乗し、自分の下半身で卑猥なポーズをしながら笑う、傭兵。





「なるほどなぁ。でも、そのおかげでこれからは、シャルドネは俺ら傭兵を使って、金儲けに走ってくれると。良い話じゃねえかっ! お得意様にはきちんと、よろしくやっておかねえとな」



「ついでによぉ、あのヴィエッタとかいうお嬢様ともだぜっ! いっぺんで良いから俺のマタに座らせて、一緒によろしくやりてぇなぁ、おいっ!」



「そうそぅ。その通りだぜっ! まーったくなぁっ」



鼻の下を伸ばして騒ぐ、傭兵達。



すると、男は独りごちる。







「その情報は古いぜ、ゴミども」



そういうと言葉を切り、心で男はつけくわえた。



「シャルドネはもういない。俺が殺したからな」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

30年待たされた異世界転移

明之 想
ファンタジー
 気づけば異世界にいた10歳のぼく。 「こちらの手違いかぁ。申し訳ないけど、さっさと帰ってもらわないといけないね」  こうして、ぼくの最初の異世界転移はあっけなく終わってしまった。  右も左も分からず、何かを成し遂げるわけでもなく……。  でも、2度目があると確信していたぼくは、日本でひたすら努力を続けた。  あの日見た夢の続きを信じて。  ただ、ただ、異世界での冒険を夢見て!!  くじけそうになっても努力を続け。  そうして、30年が経過。  ついに2度目の異世界冒険の機会がやってきた。  しかも、20歳も若返った姿で。  異世界と日本の2つの世界で、  20年前に戻った俺の新たな冒険が始まる。

【本編完結】転生したら第6皇子冷遇されながらも力をつける

そう
ファンタジー
転生したら帝国の第6皇子だったけど周りの人たちに冷遇されながらも生きて行く話です

処刑された勇者は二度目の人生で復讐を選ぶ

シロタカズキ
ファンタジー
──勇者は、すべてを裏切られ、処刑された。  だが、彼の魂は復讐の炎と共に蘇る──。 かつて魔王を討ち、人類を救った勇者 レオン・アルヴァレス。 だが、彼を待っていたのは称賛ではなく、 王族・貴族・元仲間たちによる裏切りと処刑だった。 「力が強すぎる」という理由で異端者として断罪され、広場で公開処刑されるレオン。 国民は歓喜し、王は満足げに笑い、かつての仲間たちは目を背ける。 そして、勇者は 死んだ。 ──はずだった。 十年後。 王国は繁栄の影で腐敗し、裏切り者たちは安穏とした日々を送っていた。 しかし、そんな彼らの前に死んだはずの勇者が現れる。 「よくもまあ、のうのうと生きていられたものだな」 これは、英雄ではなくなった男の復讐譚。 彼を裏切った王族、貴族、そしてかつての仲間たちを絶望の淵に叩き落とすための第二の人生が、いま始まる──。

魔境へ追放された公爵令息のチート領地開拓 〜動く屋敷でもふもふ達とスローライフ!〜

西園寺わかば🌱
ファンタジー
公爵家に生まれたエリクは転生者である。 4歳の頃、前世の記憶が戻って以降、知識無双していた彼は気づいたら不自由極まりない生活を送るようになっていた。 そんな彼はある日、追放される。 「よっし。やっと追放だ。」 自由を手に入れたぶっ飛んび少年エリクが、ドラゴンやフェンリルたちと気ままに旅先を決めるという物語。 - この話はフィクションです。 - カクヨム様でも連載しています。

うっかり女神さまからもらった『レベル9999』は使い切れないので、『譲渡』スキルで仲間を強化して最強パーティーを作ることにしました

akairo
ファンタジー
「ごめんなさい!貴方が死んだのは私のクシャミのせいなんです!」 帰宅途中に工事現場の足台が直撃して死んだ、早良 悠月(さわら ゆずき)が目覚めた目の前には女神さまが土下座待機をして待っていた。 謝る女神さまの手によって『ユズキ』として転生することになったが、その直後またもや女神さまの手違いによって、『レベル9999』と職業『譲渡士』という謎の職業を付与されてしまう。 しかし、女神さまの世界の最大レベルは99。 勇者や魔王よりも強いレベルのまま転生することになったユズキの、使い切ることもできないレベルの使い道は仲間に譲渡することだった──!? 転生先で出会ったエルフと魔族の少女。スローライフを掲げるユズキだったが、二人と共に世界を回ることで国を巻き込む争いへと巻き込まれていく。 ※9月16日  タイトル変更致しました。 前タイトルは『レベル9999は転生した世界で使い切れないので、仲間にあげることにしました』になります。 仲間を強くして無双していく話です。 『小説家になろう』様でも公開しています。

結婚30年、契約満了したので離婚しませんか?

おもちのかたまり
恋愛
恋愛・小説 11位になりました! 皆様ありがとうございます。 「私、旦那様とお付き合いも甘いやり取りもしたことが無いから…ごめんなさい、ちょっと他人事なのかも。もちろん、貴方達の事は心から愛しているし、命より大事よ。」 眉根を下げて笑う母様に、一発じゃあ足りないなこれは。と確信した。幸い僕も姉さん達も祝福持ちだ。父様のような力極振りではないけれど、三対一なら勝ち目はある。 「じゃあ母様は、父様が嫌で離婚するわけではないんですか?」 ケーキを幸せそうに頬張っている母様は、僕の言葉にきょとん。と目を見開いて。…もしかすると、母様にとって父様は、関心を向ける程の相手ではないのかもしれない。嫌な予感に、今日一番の寒気がする。 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇ 20年前に攻略対象だった父親と、悪役令嬢の取り巻きだった母親の現在のお話。 ハッピーエンド・バットエンド・メリーバットエンド・女性軽視・女性蔑視 上記に当てはまりますので、苦手な方、ご不快に感じる方はお気を付けください。

今さら言われても・・・私は趣味に生きてますので

sherry
ファンタジー
ある日森に置き去りにされた少女はひょんな事から自分が前世の記憶を持ち、この世界に生まれ変わったことを思い出す。 早々に今世の家族に見切りをつけた少女は色んな出会いもあり、周りに呆れられながらも成長していく。 なのに・・・今更そんなこと言われても・・・出来ればそのまま放置しといてくれません?私は私で気楽にやってますので。 ※魔法と剣の世界です。 ※所々ご都合設定かもしれません。初ジャンルなので、暖かく見守っていただけたら幸いです。

チートがちと強すぎるが、異世界を満喫できればそれでいい

616號
ファンタジー
 不慮の事故に遭い異世界に転移した主人公アキトは、強さや魔法を思い通り設定できるチートを手に入れた。ダンジョンや迷宮などが数多く存在し、それに加えて異世界からの侵略も日常的にある世界でチートすぎる魔法を次々と編み出して、自由にそして気ままに生きていく冒険物語。

処理中です...