惨状

皐月東亜

文字の大きさ
上 下
2 / 2

警察

しおりを挟む
警察であるアリシアは、気立てが良く同期や仕事仲間にも慕われている。今日も制服の襟を整え、旭日章(警察のマーク)が組み込まれた帽子と見つめ合いながら、「一日一善、旭日章に恥じないように。」と生まれつき少しハスキーで良く通る声で呟く。

さて、現場に到着。いつものように、上司のパークと共に現場を隅々まで調べ上げる。

被害者はノーマン。25歳の男性でタレ目は彼の優しさを物語っていた。顔は岩に当たったようで見るに耐えないほどの状態だったが、幸いにも亡くなったのは彼のアパートの真下で特徴から身元を特定するのに時間はかからなかった。

ノーマンの部屋は、3階。本来なら落ちても骨折程度ですむところだが、真下に岩があったため、頭から岩に突っ込み出血多量により、亡くなってしまったようだ。

戸籍上からは、ノーマンのたった1人の身内である父親が8年前に亡くなっていることがわかる。

アリシアは自分の父親のことを思い出す。アリシアの父親もまた8年前アリシアの前からいなくなった。

覚えているのは「やってない、やってない。」とひたすら繰り返す父親。いつもと違い、焦りと恐れが感じられる父親はアリシアにとって怪物のように感じられた。

まだ中学生だったアリシアは、ただ意味もわからず、頷くのが精一杯だった。

父親はそれまではすごく優しい人だった。小さい頃は、休みの日によく公園に行った。一緒にボール遊びをしたり、ブランコを押してもらったり。お金がなくてもアリシアを楽しませていた。病気がちでいつもベッドの上で天井ばかり眺めている母に代わって、アリシアの世話をしていた。

中学生になってもこっそり夜食を作ってくれた。アリシアはそんな父親の優しさに感謝していた。

父親が紺色の服の集団に白黒の車へと導かれた後、アリシアはソファに背中を引っ付けられたような脱力感に苛まれ、しばらくの間動けずにいた。

ふと、テレビの音が聞こえた。今までついていたのか、母親が久しぶりに動いてつけたのかはわからないが、放送されていたのは父親が放火の容疑で捕まったということだ。

アリシアは母親の頬が光ったような気がした。そして決心したのであった。家族だけはあの言葉を信じるべきだ、と。
しおりを挟む

この作品の感想を投稿する


処理中です...