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私の隣は、心が見えない男の子

第133話 そっくりシーサー

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 修学旅行二日目。起床は六時。朝食は七時。八時半にはバスに乗り、クラス別に出発するスケジュール。

「あなた昨晩、私の朝食も取ってくるとか言っていたわよね。どうして私があなたの分まで用意することになったのかしら」

「ごめんなさい」

 私の意識がはっきりしてきたのは、七時を少し回った頃。それまでは例の如く寝ぼけてしまっていたらしく、美法ちゃんには随分手を焼かせたらしい。

「美法ちゃんが入れてくれたお味噌汁、美味しいよ」

「ホテルのシェフに言いなさい」

「一晩で随分仲良くなったな。お前ら」

 真咲ちゃんに言われるほどとは。やはり一晩共にすると違いが出てしまうらしい。

 でも今日は、北部に移動し別のホテルに宿泊する。今晩は真咲ちゃん達とも一層仲を深められることだろう。

 結季ちゃんも同じようなことを考えているらしい。

「何か特別なことでもしたの? 今夜は皆一緒の部屋だから、わたし達にも出来るかな?」

「同衾したよ」

「誤解を招く言い方をしないの!」

「一条さん、詳しく」

 結季ちゃんに詰め寄られる美法ちゃんを尻目に、お味噌汁を啜る。

 今夜泊まるコテージは、四人以上の部屋はロフトの上下にベッドが分かれていたはず。全員では寝られないかな。

「おかわり取ってくるね」

「自由かよ」

 困る美法ちゃんを放置したからか、真咲ちゃんの突っ込みをスルーしたからか。お味噌汁のお鍋の前で九十九くんとばったり遭遇し、ひっくり返しかけたのは罰が当たったのかもしれない。

「目が覚めたようね」

 戻ったあと、全てを見ていた美法ちゃんにそう皮肉を言われてしまったのも仕方のないことで、私は頭を下げるほかなかった。


---

 
 宿を出てバスに乗り、私達が最初に向かったのは体験施設。

 民芸品などを鑑賞して楽しむことも出来るけれど、ここに来た一番の目的はシーサー作り体験だ。

 皆で粘土と格闘し、思い思いのオリジナルシーサーを作っていく。

「だぁ! くそ、こういうチマチマしたの苦手なんだよな」

「手乗りサイズだから、真咲ちゃんには苦手分野だね」

「デカけりゃまだやりようはあんだけどな。そういう一透と結季は、やっぱこういうの上手えな」

 そうだろうか。パーツバランスの崩れもなく、表面も滑らかに整えられた結季ちゃんのシーサーに比べれば、私はさほど綺麗でもないと思うけど。

「わたしも、造形は専門外だけどね。一条さんは?」

「得意ではないけれど、なんとか形には出来そうね」

「見本に忠実だね、美法ちゃんのシーサー」

「そう言う一透は、なんでそんな顔なのよ」

 なんで、と言われても。見本と並べてみる。

 シーサーにはオスとメスがいるそうだ。口を大きく開けているのがオスで、閉じているのがメス。見本のシーサーはどちらも猛々しい顔つきをしている。

 対する私のシーサーは、オスのシーサーはなんだか覇気がない。口を開けているのも、ぼんやりしているだけに見えなくもない。目つきはちゃんと厳しめなのに、何でだろう。

 メスは反対に、感情がたっぷり表に表れている。とても幸せそうな顔だ。とても守り神には見えないかもしれない。

「自然とこうなっちゃった」

「でもよく見るとメスの方、一透ちゃんそっくりだよね。ご飯食べてる時こんな顔してる」

「じゃあオスの方はニノマエか? そう言われると、見えなくもないが」

 そうだろうか。遠くの机で間宮くん達と作業する彼の横顔と見比べてみる。どことなく、雰囲気は似ているかもしれない。

「いや、でも九十九くんなら、ここがもっとこう……」

「寄せなくていいわよ」

「重症だな」

 呆れられてしまったけれど、一度気になってしまうともう止まれなくて、結局九十九くんそっくりに仕上げてしまった。





 諸説あるけれど、オスは魔を追い払ったり、捕まえたりするために口を開けているらしい。

 とてもそんなものを追い払える迫力があるようには見えないけれど、彼ならきっと、それでもちゃんと守ってくれるはずだ。

 焼き上がったシーサーは後日、学校に送ってもらえるらしい。完成品を手にするのを楽しみにしながら、私達は次の目的地に移動する。

 バスの中、少しだけ九十九くんと会話をした。

「九十九くん」

「ん」

「メスのシーサー、学校に届いたら交換しない?」

 メスは、福が家から逃げないよう、留めるために口を閉じているのだとか。なら、幸せそうに口を結ぶ私のシーサーは、九十九くんの側にいて欲しい。彼の福を逃さないように。

 あと、オスは九十九くんそっくりに作ってしまったので、私の側にいて欲しいという欲もある。

「わかった」

 彼は約束してくれた。まだ二日目なのにもう学校に帰るのが待ち遠しいなんて、我ながらおかしいな。
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