ラ・リズム

kinodoku

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見知らぬ男の奇怪な台詞

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  嶋  嘉人はただ一つを除いて普通の人間だ。
  普通に朝に起き、普通に食事を摂り、普通に社会生活を送り、普通に寝れば、大体の人は自分が普通の人間だと思うだろう。

  しかし、この男は自分のことを普通の人間であるとは思っていない。自分が社会的に見て普通ではないと自覚しているからだ。

  彼は今ストーカーの真っ最中なのである。

  しかし、作者はこの憐れなストーカーのことを普通の人間である、と断言できる。人は誰しも隠し事の一つくらい持っているからだ。作者からしてみれば、秘密の本を隠し、高校生活を送っている画面の外の人間と大差ない。

  それほどまでに、嶋  嘉人は普通の高校生を演じ、悪質かつ巧妙な手口で、ストークしているのだ。

  なんと卑劣な一般人であろうか。

  休日の昼下がり、ストーカーの嶋  嘉人は今日もターゲットを探していた。彼は、おそらく横をすれ違うであろう黒いティーシャツに黒いズボンの男に狙いを定めた。

  嶋  嘉人はストークする人間を選ばない。多くのストーカーは個人の強い感情に基づいてストークをするが、この男はストークをすること自体に歓びを感じているのだ。

  なんと変態な一般人であろうか。

  彼は絶対にバレないGPSを準備した。彼の手口は実に巧妙である。その巧妙さ故に作者でもその仕組みは分からない。分からないのだから仕方がない。

  卑劣。

  彼がターゲットに選ぶ人間は彼のことを知らない。しかし、そのはずであるターゲットは、すれ違い間際に彼の耳元でこう囁いた。

「オランダから来た帰国子女の 蘭・アフネスは殺しといたぜ。」

  この台詞は、後に彼の人生を大きく揺るがしたのである。

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