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岸辺と花の文字が並ぶ地名
首領が欲しいのは精霊の花嫁なんだろう?
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カティヤが自分のベッドの上で目を覚ました時には、夕方近くになっていたが、辺りは静かなままだった。
しかし、盗賊団の奴らは必ずやってくるだろう。
空気に薄い氷がはったかのような緊張感の中、三人が台所でパンとチーズとスープだけの簡単な食事を摂っていると、開け放した窓から色鮮やかな赤い小鳥が飛び込んできた。
小鳥は狭い部屋の中を一周するとテーブルの上に舞い降り、黒いくりくりとした目でニューリを見上げる。
「来たか」
ニューリの言葉に、小鳥は返事をするように小首をかしげ、小さく「ぴゅる」と鳴いた。
室内の緊張が一気に高まった。
「カティヤ。早く屋根裏へ隠れろ」
「うん」
昼間ずっと眠っていたから、充分とは言えないまでも体力は戻っている。
カティヤはヴィルヨに手伝ってもらいながら椅子の上から戸棚の上に上り、あらかじめ天井板を外しておいた穴から、屋根裏によじのぼった。
「二人とも、気をつけて」
板を元に戻す前に声をかけると、ヴィルヨは「おう」と短く答え、ニューリは軽く手を挙げて微笑んでくれた。
ヴィルヨからは「どんな物音がしても、決して下を覗くな」と言われていた。
血なまぐさい場面を見せたくないのは分かる。
何かへまをして、天井裏に自分が潜んでいることがバレたら大変だということも。
けれども、幼い自分を攫い両親を害したかもしれない敵の顔を、どうしても見ておきたかった。
幸いといって良いのか、古いボロ家には天井のあちらこちらに隙間がある。
カティヤは隅っこにある隙間まで這っていくと、下の様子を覗き込んだ。
そこからは、家の奥の台所に立っている二人の様子がよく見えた。
それにしても、綺麗だわ。
カティヤが使った食器を隠しているニューリの姿を見ながら、溜め息をついた。
緩やかなウェーブがついた銀色に輝く髪。
華奢な手足に白い肌。
裾に花の模様が入っている赤いスカートと白いブラウス、エプロンを身につけた彼は、どこから見ても女の子にしか見えない。
しかも、とびきりの美少女だ。
「本当に大丈夫なのか。首領はかなり腕が立つぞ」
儚げな印象のニューリの前に立ったヴィルヨから、硬い声が聞こえてくる。
「ああ、問題ない。それより、女の子らしくふるまうことの方が難しいよ。どうにも、これが脚にからみついて……」
ニューリは、とても女の子とは思えない仕草でスカートの裾をばさばさ振ると、ちらりと天井を見上げ、くすりと笑った。
きゃ!
しっかりバレてる。
彼とばっちり目が合って、カティヤは肩をすくめた。
しばらくして、いきなり玄関のあたりから強烈な破壊音が響いた。
古い家が悲鳴を上げて軋み、屋根裏からほこりがぱらぱらと降ってくる。
カティヤは恐怖で身を硬くしながらも、一階の様子を目を凝らして覗いていた。
隙間の位置からは玄関の様子は分からないが、台所にいるヴィルヨが美少女を背後に庇う様子が見えた。
「おいっ、ニコ! 出てこいっ!」
扉を蹴破って最初に家に踏み込んだ男が、怒声を張り上げた。
ヴィルヨより大柄の、頭頂が禿げた男で、右手にはぎらつく長剣を握っている。
「よぉ。昨晩は舐めた真似してくれたな」
大男の後ろから、毛皮の帽子とベストを身に着けた無精髭の男が、にやにや笑いながらゆっくり入ってきた。
盗賊団の首領、カールロだ。
その後ろから、顔の傷跡が生々しい痩せぎすの男と、もう一人が続く。
狭い台所の奥に、ヴィルヨと怯えた様子の少女。
テーブルを挟んだ反対側に、武器を手にした三人の男。
台所に入りきれなかった一人が開け放たれた扉の外にいる。
「お前のことだから、もうとっくに逃げたと思ったんだが、どうやら、娘を渡す気になったようだな? 感心なことだ」
首領は手近にあった椅子を引くと、余裕たっぷりに腰を下ろし脚を組んだ。
「カールロ、お願いだ。見逃してくれないか。首領が欲しいのは精霊の花嫁なんだろう? カティヤは違ったんだ。花嫁なんかじゃない。ほら、見てくれ」
ヴィルヨが肩をよけると、後ろからおずおずと少女が顔を出した。
その瞳の色は明るい緑。
当然、精霊の花嫁の証拠とされる真紅ではない。
「む?」
首領は身を乗り出すようにして、少女の顔をぎろりと睨んだ。
少女は小さな悲鳴を上げ、怯えた様子でヴィルヨの背後にさっと隠れた。
ふわりと広がった銀色の長い髪が、残像のように残る。
その一瞬で、首領は少女が精霊の花嫁ではないことを確認し、同時に、そのたぐいまれな美貌に別の利用価値があると判断した。
にやりと口元を歪めると、舌なめずりするかのように無精髭の顎を撫でる。
「ほぉ。ガキの頃からえれぇ綺麗な顔をした子だと思ってたが、なかなかいい具合に成長したじゃねぇか」
「首領、頼むよ! もう、俺たちのことは……」
「そういう訳にはいかねぇな。お前は、拾ってもらった恩も忘れて儂の元から逃げ出したんだ。その落とし前はどうつけるつもりだ? あぁ? だが、儂は寛大な男だ。その娘をこっちに渡してくれたら、お前は自由にしてやってもいいぜ」
「そんなこと、できる訳ねぇだろう!」
「なら、力づくで奪うだけだ。おいっ、その娘をこっちに連れてこい!」
命じられた大男が、殺気を孕んだ視線と長剣でヴィルヨを牽制しながら、じりじりとテーブルを回り込んできた。
テーブルの反対側には、顔に傷を負った男が待ち伏せている。
二人には逃げ道がなかった。
すぐに、太い毛むくじゃらの左手が、少女の腕を捉えた。
しかし、盗賊団の奴らは必ずやってくるだろう。
空気に薄い氷がはったかのような緊張感の中、三人が台所でパンとチーズとスープだけの簡単な食事を摂っていると、開け放した窓から色鮮やかな赤い小鳥が飛び込んできた。
小鳥は狭い部屋の中を一周するとテーブルの上に舞い降り、黒いくりくりとした目でニューリを見上げる。
「来たか」
ニューリの言葉に、小鳥は返事をするように小首をかしげ、小さく「ぴゅる」と鳴いた。
室内の緊張が一気に高まった。
「カティヤ。早く屋根裏へ隠れろ」
「うん」
昼間ずっと眠っていたから、充分とは言えないまでも体力は戻っている。
カティヤはヴィルヨに手伝ってもらいながら椅子の上から戸棚の上に上り、あらかじめ天井板を外しておいた穴から、屋根裏によじのぼった。
「二人とも、気をつけて」
板を元に戻す前に声をかけると、ヴィルヨは「おう」と短く答え、ニューリは軽く手を挙げて微笑んでくれた。
ヴィルヨからは「どんな物音がしても、決して下を覗くな」と言われていた。
血なまぐさい場面を見せたくないのは分かる。
何かへまをして、天井裏に自分が潜んでいることがバレたら大変だということも。
けれども、幼い自分を攫い両親を害したかもしれない敵の顔を、どうしても見ておきたかった。
幸いといって良いのか、古いボロ家には天井のあちらこちらに隙間がある。
カティヤは隅っこにある隙間まで這っていくと、下の様子を覗き込んだ。
そこからは、家の奥の台所に立っている二人の様子がよく見えた。
それにしても、綺麗だわ。
カティヤが使った食器を隠しているニューリの姿を見ながら、溜め息をついた。
緩やかなウェーブがついた銀色に輝く髪。
華奢な手足に白い肌。
裾に花の模様が入っている赤いスカートと白いブラウス、エプロンを身につけた彼は、どこから見ても女の子にしか見えない。
しかも、とびきりの美少女だ。
「本当に大丈夫なのか。首領はかなり腕が立つぞ」
儚げな印象のニューリの前に立ったヴィルヨから、硬い声が聞こえてくる。
「ああ、問題ない。それより、女の子らしくふるまうことの方が難しいよ。どうにも、これが脚にからみついて……」
ニューリは、とても女の子とは思えない仕草でスカートの裾をばさばさ振ると、ちらりと天井を見上げ、くすりと笑った。
きゃ!
しっかりバレてる。
彼とばっちり目が合って、カティヤは肩をすくめた。
しばらくして、いきなり玄関のあたりから強烈な破壊音が響いた。
古い家が悲鳴を上げて軋み、屋根裏からほこりがぱらぱらと降ってくる。
カティヤは恐怖で身を硬くしながらも、一階の様子を目を凝らして覗いていた。
隙間の位置からは玄関の様子は分からないが、台所にいるヴィルヨが美少女を背後に庇う様子が見えた。
「おいっ、ニコ! 出てこいっ!」
扉を蹴破って最初に家に踏み込んだ男が、怒声を張り上げた。
ヴィルヨより大柄の、頭頂が禿げた男で、右手にはぎらつく長剣を握っている。
「よぉ。昨晩は舐めた真似してくれたな」
大男の後ろから、毛皮の帽子とベストを身に着けた無精髭の男が、にやにや笑いながらゆっくり入ってきた。
盗賊団の首領、カールロだ。
その後ろから、顔の傷跡が生々しい痩せぎすの男と、もう一人が続く。
狭い台所の奥に、ヴィルヨと怯えた様子の少女。
テーブルを挟んだ反対側に、武器を手にした三人の男。
台所に入りきれなかった一人が開け放たれた扉の外にいる。
「お前のことだから、もうとっくに逃げたと思ったんだが、どうやら、娘を渡す気になったようだな? 感心なことだ」
首領は手近にあった椅子を引くと、余裕たっぷりに腰を下ろし脚を組んだ。
「カールロ、お願いだ。見逃してくれないか。首領が欲しいのは精霊の花嫁なんだろう? カティヤは違ったんだ。花嫁なんかじゃない。ほら、見てくれ」
ヴィルヨが肩をよけると、後ろからおずおずと少女が顔を出した。
その瞳の色は明るい緑。
当然、精霊の花嫁の証拠とされる真紅ではない。
「む?」
首領は身を乗り出すようにして、少女の顔をぎろりと睨んだ。
少女は小さな悲鳴を上げ、怯えた様子でヴィルヨの背後にさっと隠れた。
ふわりと広がった銀色の長い髪が、残像のように残る。
その一瞬で、首領は少女が精霊の花嫁ではないことを確認し、同時に、そのたぐいまれな美貌に別の利用価値があると判断した。
にやりと口元を歪めると、舌なめずりするかのように無精髭の顎を撫でる。
「ほぉ。ガキの頃からえれぇ綺麗な顔をした子だと思ってたが、なかなかいい具合に成長したじゃねぇか」
「首領、頼むよ! もう、俺たちのことは……」
「そういう訳にはいかねぇな。お前は、拾ってもらった恩も忘れて儂の元から逃げ出したんだ。その落とし前はどうつけるつもりだ? あぁ? だが、儂は寛大な男だ。その娘をこっちに渡してくれたら、お前は自由にしてやってもいいぜ」
「そんなこと、できる訳ねぇだろう!」
「なら、力づくで奪うだけだ。おいっ、その娘をこっちに連れてこい!」
命じられた大男が、殺気を孕んだ視線と長剣でヴィルヨを牽制しながら、じりじりとテーブルを回り込んできた。
テーブルの反対側には、顔に傷を負った男が待ち伏せている。
二人には逃げ道がなかった。
すぐに、太い毛むくじゃらの左手が、少女の腕を捉えた。
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