【完結】炎輪の姫巫女 〜教科書の片隅に載っていた少女の生まれ変わりだったようです〜

平田加津実

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姫巫女の記憶とルイカの決意

二人の未来(一)

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 各所に出された捜索隊は、蛇の少年について何一つ収穫を得ることができなかった。
 あれから十日ほど過ぎたが、事件は全く進展のないまま、宮中では平和な日々が続いていた。

 ルイカはこの朝、水害の多いムラの、今年の雨の状況を占じていた。
 もうすぐ、長雨の季節だ。
 このムラは毎年この季節になると川が氾濫し、大きな被害が出るのだという。

「ムラに押し寄せる濁流が見える。上流の、大きく川が曲がっておる場所に、土を盛っておくようムラ長に伝えよ」

 ルイカは占の結果を重々しく占官に伝えた後、二人の巫女も下がらせ、祭殿に残った。
 傍らにはツクスナが控えている。

 他のことなら、ちゃんと読み取れるのに……。

 忌々しく思いながら、もう一度祭壇に向かう。
 やはり今朝も、結果を示しているはずの卜骨からは、何も読み取れなかった。

「もぉーっ! むかつくっ!」

 癇癪を起こして目の前に投げつけられた骨を、ツクスナが苦笑しながら拾い上げた。

「また、奴の居場所を占ったのですか? 私には卜骨の読み方は分かりませんが、この形のひび割れは、いいかげん見飽きました」
「絶対、あいつの居場所を示しているのに、何一つ読み取れないのが、むちゃくちゃ腹立つ!」

 白い清楚な巫女装束の腕を組み、どかどかと八つ当たり気味に歩き回っていたルイカが振り返ると、ツクスナは掌に置いた骨をじっと見つめていた。

「これは本当に、奴の居場所を示しているのですよね」
「間違いないわ。偶然で何度も同じ形のひび割れができる訳ないでしょ?」
「この骨が確実に居場所を示していて、いつも同じ結果が出るということは……つまり奴は、一所に腰を据えているということになりませんか?」

 ふと思いついたようなツクスナの言葉に、ルイカが足を止めた。
 彼の、卜骨を読めない者だからこその見方に息を飲む。

「あ……」

 ルイカの表情を読んだツクスナは、一つ大きく頷いた。

「だとしたら、常に移動している者よりは探しやすいですね。それにもし、どこかに移動したら、ひび割れも変化するはずですから、どこに移動したのかまでは分からなくとも奴が動いたことは推測できる」
「そっか、そうよね!」

 ルイカが目を輝かせて小走りで戻ってくると、ツクスナの前に座り身を乗り出した。

「聞いて! さっきは、市で襲ってきた少年の居場所を占ったんだけど、以前に、ヨウダキの居場所を占ったこともあるの」
「どういう結果が出たのですか?」
「同じなの。どちらも同じ形のひび割れができるの!」

 今度はツクスナが息を飲んだ。

「同じ? ……ということは、ヨウダキと蛇の少年は同じ場所にいるということですか」
「そういうことになるでしょ?」
「そうですね。市で襲ってきたのは少年でしたが、ヨウダキは声や言葉遣いから考えると女。同一人物の可能性は低いですから、やはり、同じ場所に潜んでいると考えた方が良いでしょうね」
「あ、そうだ。ちょっと、待ってて」

 ルイカは立ち上がると、祭壇に向かった。
 占の手順を二回繰り返し、ひび割れができた二つの卜骨を見比べて満足そうな笑みを浮かべた。

「見て」

 ツクスナは手渡された二つの骨を、じっくりと見比べた。

「ひび割れの形は似てはいますが……明らかに違いますね」
「そう。つまり、ヨウダキと蛇の少年は、似たところのある別人なのよ! 卜骨は読めなくても、ひび割れの形だけで分かることがあるわ」

 些細なことだが、ようやく掴んだ手がかりに二人は顔を見合わせた。

「他に、占ったことはありませんか」
「そうね……、他には、わたしを狙う目的なんかを占ったことがあるけど、これは卜骨を読めなきゃどうしようもないわ」
「それでも、いつも同じひび割れができるのであれば、目的はずっと変わっていないということになります」
「それは、そうだけど……」
「もう少し、良い方法がないものでしょうか」

 ツクスナが二つの骨を床に置くと、腕を組んで考え込んだ。

「例えば、別の角度から占ってみるのはどうでしょうか?」
「別の角度って、どんな?」
「巫女は自分のことは占えないのですよね。他の巫女があなたを占ったとしても、おそらく邪魔されて読めないでしょう。だったら、私を占ってみるとか? あなたに危険が迫れば、私もそれに関わるはずですから」
「そうね、やってみるっ!」

 ルイカは笑顔を見せて勢いよく立ち上がると、祭壇に向かった。

 しかし、すぐにがっくりと肩を落とす。

「……駄目。全然読めない。きっと、ツクスナのことも妨害対象になっているんだわ」
「私は、姫巫女に近すぎるのですね。では、もっと範囲を広げて、この宮全体を漠然と占ってみてはどうですか? あなたが宮の外に出なければ、何か起こるとすれば宮の中で起こる。大きな騒ぎになるはずです」
「うん。試してみる」

 可能性があることは何でも試してみたかった。

 ルイカは気を取り直して、再度祭壇に向かった。
 扇形の卜骨を手に取り焼けた串を押し当てると、微かな音を立てて細かなひび割れが全面に生じた。
 それを凝視して、読み取った内容に息を飲んだ。
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