【完結】炎輪の姫巫女 〜教科書の片隅に載っていた少女の生まれ変わりだったようです〜

平田加津実

文字の大きさ
上 下
55 / 69
民衆の前に降り立つ希望

紺青の帯と一振の太刀(一)

しおりを挟む
 早朝、邪馬台国王の館に、軍の主な面々が集められた。
 少人数で、ヨウダキ討伐の策が練られていく。

 車座となった男達の中には、ぐったりとツクスナにもたれて座る姫巫女の姿もあった。

 輪の中央には、麻布に細い木炭で線を引き黒い印がつけられただけの地図が広げられており、その上の何カ所かに小石が置かれている。
 イヨ姫の記憶を失くしたルイカには、その大雑把な地図は非常に分かりづらかったが、王に一番近い大きい場所が邪馬台国、その北が斯馬国、さらに北の西側が伊邪国で、東は己百支国いはきこくなのだという。

 砂徒長が、地図上の小石を移動させながら説明している。

「明日の早朝、斯馬国に派兵するとして、伊邪国との国境の陣までは三日。その晩に陣を出て己百支国に入れば、五日目の夜明けまでには、伊邪国の宮近くにたどり着けるでしょう。これが、最短になるかと」
「しかし、姫のこの様子では、かような強行は難しかろう」

 王が顎に蓄えた髭をさすりながら、姫巫女を気遣わしげに見た。

「大丈夫じゃ。わらわ以上に、あやつは消耗しておるはずじゃが、回復次第、わらわにとどめを刺そうとするに違いない。その前に、あやつの元まで行かねばならぬ」

 姫巫女が明らかに大丈夫ではない様子ながら、声だけは勇ましく反応した。

「斯馬国の陣までは通常徒行ですから、私が姫様を背負って参りましょう。その後は山道を走ることになりますから、結局、背負うことになりましょうが」

 すぐ隣から、落ち着いた低い声が聞こえてきた。

「そうだな。それしかあるまい。輿では時間がかかるし、目立つしな」

 砂徒長が直ちに同意する。
 周りの男達も、当然だというような顔で頷いている。
 馬すらいないこの時代では、歩けなければ人力で運ぶしかないのだ。

「はぁ?」

 ルイカが不服そうに隣を見上げた。
 ツクスナは口元に笑みを浮かべながらも、有無を言わせない強い眼差しで見つめ返す。

「ぜひ、そうさせてください。姫様にこれ以上の負担をかける訳にはまいりません。あなた様がここで無理をされては、ヨウダキを倒すどころか、伊邪国にたどり着くことすらできませんよ」

 確かに、今の動くこともままならない身体を思うと、数日歩き続けるなんて気が遠くなりそうだった。

 だけど、おぶって行くだなんて……。

「じゃが、わらわを背負ってでは、ツクスナが大変であろう」

 悔しいような恥ずかしいような気持ちを隠して、もっともらしい理由をつける。

「姫様でしたら、五人ぐらい背負って走ることもできましょう」
「姫巫女様。私が鍛え上げた弐徒は、そうヤワではございません。どうぞ、頼ってやってくだされ。そうでなければ、あなた様から授けられた紺青の帯が泣きましょう」

 ツクスナにあっさり片付けられた上に、砂徒長に諭されるように言われ、ルイカは黙り込むしかなかった。

 男たちの熱のこもった議論は続いている。

 昨晩ほとんど眠れなかった上に、極度に体力を消耗したこともあって、黙っているうちにルイカの瞼は徐々に重くなっていった。
 背中をとんとんと優しく叩く温かく大きな手が、より眠気を誘う。
 いつしかルイカは、ツクスナの胡座の片膝に上半身を伏せるようにして、眠り込んでいた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

『神山のつくば』〜古代日本を舞台にした歴史ロマンスファンタジー〜

うろこ道
恋愛
【完結まで毎日更新】 時は古墳時代。 北の大国・日高見国の王である那束は、迫る大和連合国東征の前線基地にすべく、吾妻の地の五国を順調に征服していった。 那束は自国を守る為とはいえ他国を侵略することを割り切れず、また人の命を奪うことに嫌悪感を抱いていた。だが、王として国を守りたい気持ちもあり、葛藤に苛まれていた。 吾妻五国のひとつ、播埀国の王の首をとった那束であったが、そこで残された后に魅せられてしまう。 后を救わんとした那束だったが、后はそれを許さなかった。 后は自らの命と引き換えに呪いをかけ、那束は太刀を取れなくなってしまう。 覡の卜占により、次に攻め入る紀国の山神が呪いを解くだろうとの託宣が出る。 那束は従者と共に和議の名目で紀国へ向かう。山にて遭難するが、そこで助けてくれたのが津久葉という洞窟で獣のように暮らしている娘だった。 古代日本を舞台にした歴史ロマンスファンタジー。

甲斐ノ副将、八幡原ニテ散……ラズ

朽縄咲良
歴史・時代
【第8回歴史時代小説大賞奨励賞受賞作品】  戦国の雄武田信玄の次弟にして、“稀代の副将”として、同時代の戦国武将たちはもちろん、後代の歴史家の間でも評価の高い武将、武田典厩信繁。  永禄四年、武田信玄と強敵上杉輝虎とが雌雄を決する“第四次川中島合戦”に於いて討ち死にするはずだった彼は、家臣の必死の奮闘により、その命を拾う。  信繁の生存によって、甲斐武田家と日本が辿るべき歴史の流れは徐々にずれてゆく――。  この作品は、武田信繁というひとりの武将の生存によって、史実とは異なっていく戦国時代を書いた、大河if戦記である。 *ノベルアッププラス・小説家になろうにも、同内容の作品を掲載しております(一部差異あり)。

神楽

モモん
ファンタジー
前世を引きずるような転生って、実際にはちょっと考えづらいと思うんですよね。  知識だけを引き継いだ転生と……、身体は女性で、心は男性。  つまり、今でいうトランスジェンダーってヤツですね。  時代背景は西暦800年頃で、和洋折衷のイメージですか。  中国では楊貴妃の時代で、西洋ではローマ帝国の頃。  日本は奈良時代。平城京の頃ですね。  奈良の大仏が建立され、蝦夷討伐や万葉集が編纂された時代になります。  まあ、架空の世界ですので、史実は関係ないですけどね。

少女漫画の当て馬女キャラに転生したけど、原作通りにはしません!

菜花
ファンタジー
亡くなったと思ったら、直前まで読んでいた漫画の中に転生した主人公。とあるキャラに成り代わっていることに気づくが、そのキャラは物凄く不遇なキャラだった……。カクヨム様でも投稿しています。

東へ征(ゆ)け ―神武東征記ー

長髄彦ファン
歴史・時代
日向の皇子・磐余彦(のちの神武天皇)は、出雲王の長髄彦からもらった弓矢を武器に人喰い熊の黒鬼を倒す。磐余彦は三人の兄と仲間とともに東の国ヤマトを目指して出航するが、上陸した河内で待ち構えていたのは、ヤマトの将軍となった長髄彦だった。激しい戦闘の末に長兄を喪い、熊野灘では嵐に遭遇して二人の兄も喪う。その後数々の苦難を乗り越え、ヤマト進撃を目前にした磐余彦は長髄彦と対面するが――。 『日本書紀』&『古事記』をベースにして日本の建国物語を紡ぎました。 ※この作品はNOVEL DAYSとnoteでバージョン違いを公開しています。

あかるたま

ユーレカ書房
歴史・時代
伊織の里の巫女王・葵は多くの里人から慕われていたが、巫女としては奔放すぎるその性格は周囲のものたちにとっては悩みの種となっていた。彼女の奔放を諫めるため、なんと〈夫〉を迎えてはどうかという奇天烈な策が講じられ――。 葵/あかるこ・・・・・伊織の巫女王。夢見で未来を察知することができる。突然〈夫〉を迎えることになり、困惑。 大水葵郎子/ナギ・・・・・伊織の衛士。清廉で腕が立つ青年。過去の出来事をきっかけに、少年時代から葵に想いを寄せている。突然葵の〈夫〉になることが決まり、困惑。 山辺彦・・・・・伊織の衛士頭。葵の叔父でもある。朗らかだが機転が利き、ひょうきんな人柄。ナギを葵の夫となるように仕向けたのはこの人。

婚約破棄?一体何のお話ですか?

リヴァルナ
ファンタジー
なんだかざまぁ(?)系が書きたかったので書いてみました。 エルバルド学園卒業記念パーティー。 それも終わりに近付いた頃、ある事件が起こる… ※エブリスタさんでも投稿しています

処理中です...