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姫巫女の記憶とルイカの決意

黄金の炎を纏う矢(三)

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 邪馬台国の宮は、ちょっとしたムラ一つ分ほどの規模があり、かなり広い。
 主祭殿のある政に関わる建物が集められた北内郭から、王族が住まう館が立ち並ぶ南内郭までは、しばらく歩かなければならなかった。

 所々に篝火が焚かれているが、場所によってはかなり薄暗い中、だまったままのヤナナに並んでルイカが歩いていく。
 その後ろから二人の巫女が続いた。

 近くで見ると、ヤナナは思っていたより若く、せいぜい十代後半のようだ。
 切れ長の目と鼻筋の通った整った顔立ちだが、表情に暗い影を落としており、護衛らしく周囲に目を配っていてもどこか精彩を欠いていた。

「ヤナナ……とか申したな。年はいくつじゃ」

 重苦しい雰囲気をなんとか和らげようと、頭一つ以上身長差のある彼女を見上げて話しかけた。

「十七……です」

 この時代の十七歳なら、自分の時代の数え方なら十五歳かもしれない。

「え? もしかして……」

 同い年? と聞きそうになって、今の自分の幼い姿を思い出して口をつぐんだ。

 その時、ルイカの頭の中を、痛みを伴うほどの直感が貫いた。
 脳内に浮かぶ恐ろしい光景に戦慄が走り、両手で頭を抱えてその場にしゃがみ込む。

「う……。あぁ……っ」
「姫巫女様、どうされたのですか?」

 ヤナナと巫女たちが、慌てて膝を折り、姫巫女に手を差し伸べた。
 ルイカは青ざめた顔を上げると、周りの女たちをぐるりと見た。

 巫女が二人と、武人が一人。
 この場合、この直感の内容を告げるべきは——。

「ヤナナ! 外に……」

 ルイカはとっさに女武人の腕を掴んだ。

 しかし、彼女の憔悴し切ったような顔を見たら、それ以上言葉が続かなかった。
 なぜかは分からないが、彼女に告げてはいけない気がした。

 ルイカはそのまま立ち上がると身を翻し、もと来た道を走り出した。
 裾が広がるゆったりした裳が脚に絡んで走りづらかったが、必死に走る。

「姫巫女様! お待ちください」

 巫女たちはあっさり置き去りにされたが、ヤナナはさすがにすぐに追いついてきて、ルイカの腕を掴んで止めようとした。

「どうなさったのですか。姫巫女様!」
「放すのじゃ!」

 姫巫女がぴしゃりと言って手を振り払ったため、ヤナナはそれ以上どうすることもできず、仕方なく走りながらついてきた。

 息を切らしながら、篝火に照らし出される主祭殿にたどり着くと、ツクスナの名を叫ぶ。
 彼が驚いた顔で、弾かれたように円座から立ち上がった。

「ル……姫様。どうされたのですか!」

 彼は慌てて駆け寄ってくると、荒い息をしているルイカの肩を支えて、顔を覗き込んだ。

「ツクスナ……、み……つけた。九徒……を」

 彼の顔色がさっと変わった。

 ルイカの声は途切れ途切れの囁きに近かったが、間近にいたヤナナにも聞こえたのだろう。
 彼女も大きく息を飲んだ。

「どこにいるのですか」
「宮の……北側。外城柵の向こう」

 彼は頷くと、軍議に集まっている男達を振り返った。

「姫巫女様が、九徒の居場所を感じ取られたようです。今から、確認しに行きたいのですが」

 弐徒の声に、大きなどよめきが上がる。
 将軍トシゴリが立ち上がって、即座に野太い声で指示を出した。
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