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プロローグ
フリーデル・クラッセン?
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関節の骨がゴツゴツと浮き出た痩せた指で、まだ何も書き込まれていない頁をめくる。
ふうと軽く息をつき、インク壷にペン先を浸し、吐息のように呪文を唱えた。
ぽたり——。
ペン先からひとしずくのインクが落ちた。
紙をいびつな円に染めた色は細く伸びて、複雑な曲線を描きながらひとりでに文字を紡いでいく。
その最初の一行を目にした老人は、思わず目を見張った。
古の文字でくっきりと書き付けられたその名は、老人が予想していた少年のものとは全く異なっていた。
「フリーデル・クラッセン……?」
ここに書かれる名を持つ者は、それまでに華々しい成果をいくつも収めていることが常だ。
老人の耳にもその名は数年前から聞こえてくるし、晴れやかな舞台上で直接対面する機会も多い。
しかし今、目の前にある名には全く覚えがなかった。
それなのに、胸の奥がいやにざわざわする。
「フリーデル・クラッセン。誰だ……?」
老人は胸を押さえ、記憶の奥を探りながら、もう一度呟いた。
得体の知れない不安に、肌が粟立つ。
「……ク……ラッセン……。まさか!」
同じ姓とよく似た名を持つ男の、軽蔑に満ちた紫の瞳が脳裏に浮かび、老人は思わず椅子から立ち上がった。
「まさか、あの男の? いや……そんなはずはない。ありえないことだ」
愕然と立ち尽くす老人をよそに、インクは生き物のように紙の上を滑っていく。
そして、真新しかった頁に、八名の若者たちの名が綴られた。
ふうと軽く息をつき、インク壷にペン先を浸し、吐息のように呪文を唱えた。
ぽたり——。
ペン先からひとしずくのインクが落ちた。
紙をいびつな円に染めた色は細く伸びて、複雑な曲線を描きながらひとりでに文字を紡いでいく。
その最初の一行を目にした老人は、思わず目を見張った。
古の文字でくっきりと書き付けられたその名は、老人が予想していた少年のものとは全く異なっていた。
「フリーデル・クラッセン……?」
ここに書かれる名を持つ者は、それまでに華々しい成果をいくつも収めていることが常だ。
老人の耳にもその名は数年前から聞こえてくるし、晴れやかな舞台上で直接対面する機会も多い。
しかし今、目の前にある名には全く覚えがなかった。
それなのに、胸の奥がいやにざわざわする。
「フリーデル・クラッセン。誰だ……?」
老人は胸を押さえ、記憶の奥を探りながら、もう一度呟いた。
得体の知れない不安に、肌が粟立つ。
「……ク……ラッセン……。まさか!」
同じ姓とよく似た名を持つ男の、軽蔑に満ちた紫の瞳が脳裏に浮かび、老人は思わず椅子から立ち上がった。
「まさか、あの男の? いや……そんなはずはない。ありえないことだ」
愕然と立ち尽くす老人をよそに、インクは生き物のように紙の上を滑っていく。
そして、真新しかった頁に、八名の若者たちの名が綴られた。
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