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背中合わせの共闘(1)

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 降ったり止んだりを繰り返す雨で、道はかなりぬかるんでいたが、二頭の騎士馬は動じることなく、力強く土を蹴っていく。
 道に沿って流れる川には茶色の濁流が渦巻いている。上流はかなりの大雨になっているらしい。

 ジュールは、徐々に雨脚が強くなってきた空を見上げた。

 毛織のマントは今のところ雨を防いでくれているが、かなり重く感じるようになってきた。
 このままでは、中まで水が染み通ってくるのは時間の問題だ。
 しばらくの間、雨をしのいだ方が良さそうだ。

「あの林で、休憩するぞ!」

 ジュールは後ろを振り返り、川の水音にかき消されないように声を張り上げると、道の少し先の高台にある、こんもりとした林を指差した。

 顔を雨に打たれながら、唇を固く結んで前を見ていたレナエルの顔が、ほっとしたように緩んだのが分かった。

 低い柵を乗り越え、膝の高さぐらいの雑草が生い茂った薮に分け入っていく。
 林の手前で荷を降ろして馬を放すと、二人は林の中に入っていった。
 充分に枝が張った大木の根元だけは、かろうじて乾いていて、腰を下ろして休めそうだった。

 ジュールはマントを脱ぐと、ばさばさと水を払って枝に掛けた。

 それを側で見ていたレナエルも、マントのひもを外し、同じように水を払おうとしたが、水を含んだ長いマントはずっしりと重く、どうにもうまくいかない。
 あろうことか、ジュールの顔を目がけて水滴が飛ぶ始末だ。

「何をやっているんだ。かせ!」

 いらいらして彼女の手から無造作にマントを奪うと、簡単に水を払い、高い枝に掛ける。
 その間、ずっと彼女の視線を感じていた。

「なんだ」
「え? えーと……ありがとう」

 彼女の思わぬ言葉に、どう反応してよいか分からなかった。
 一瞬言葉につまり、視線をそらすと、木の根元にどっかりと座り込む。

「こんなことぐらいで、いちいち礼はいらん」

 ぶっきらぼうにそう言って、荷物の革袋の中身を探っていると、彼女が隣に腰掛けた。

「ふーん」

 また、間近から顔を覗き込むような視線を感じる。
 そのことに妙な腹立ちを覚えながら、油紙に包まれたライ麦パンを取り出すと、彼女の顔の前に突き出した。

「雨が小降りのときを狙って走るから、食えるときに食っておけ」
「うん。……ありがとう、ジュール」
「うるさい。さっさと食え」

 ゆっくりはっきりと口にしたこの礼には、さっきと違った他意を感じて、レナエルを睨みつけた。
 案の定、彼女はにやにや笑っている。

「ふうん。初めて知ったわ。ジュールでも照れたりするんだ」
「くだらんことを言ってないで、早く……」

 それが照れ隠しだと自分で気づかないまま怒鳴りかけたとき、雨音に、複数の蹄と馬車の車輪の音が混ざっているのに気づいた。

 ジュールがはっとして立ち上がる。

 目を凝らしてみると、雨に煙る道の向こうから、道を塞ぐような大型の荷馬車が走って来るのが見えた。
どれほど急いでいるのか、かなりの速度が出ているのに、御者はしきりに馬に鞭をあてている。

 何か、嫌な予感がする——。

 ジュールが神経を尖らせる様子に、レナエルも不安を覚えて立ち上がった。

 荷馬車は、二頭の騎士馬が草を食む薮の前を通り過ぎたところで、不自然に急停止した。

「いかん!」

 ジュールは慌てて鋭く短い指笛を吹いた。

「シモン! ルカ! 逃げろ!」

 緊迫した指笛と叫び声に、雨に濡れて黒光りするジュールの馬が、瞬時に反応した。
 答えるようにいななくと、馬車の際をすり抜けるように疾走していく。
 レナエルの馬もつられるように走り出し、青毛の後を追っていった。

 ほぼ同時に、荷馬車の荷台から、長剣を腰にした屈強な男たちが飛び降りてきた。
 御者台から降りた男も合わせると、その数、総勢六人。
 彼らは道の柵を乗り越えて、薮をかき分け林に迫ってくる。
 いちばん後ろから悠々と歩いて来る、長身で口ひげのある男が、リーダー格だと思えた。

 ジュールはレナエルを背にかばい、腰の剣を抜いて構えた。

「レナ、林の奥に逃げろ!」

 レナエルはその声に従って林の奥に向かいかけたが、ぎょっとして足を止めた。

「だめ! 後ろにもいる。……多分、二人」

 レナエルは駆け戻ると、短剣を抜いた。
 ジュールと背中合わせになり、林に向かって剣を構える。

「くそ、囲まれたか。レナ、俺から離れるな!」

 敵が潜む見通しの悪い林を離れ、二人は草薮に出て行った。
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