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深夜の襲撃(7)

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「あたし、王都へ行くわ! 行って、ジジを救い出す!」

 決意を持ったきっぱりとした宣言に、テーブルを囲む人々の驚いたような視線が集中した。
 ロドルフが音を立てて椅子から立ち上がった。

「今の話を聞いていなかったのか。お前も狙われているのだぞ。外へ出てはいかん!」
「そうだよ。本当にジジが誘拐されたのなら、今頃、向こうでも捜索が始まっているはずだよ。任せておけばいい。ジジが無事なら、そのうち話もできるだろう? だから……な?」

 強く押さえつけようとする口調と、優しくなだめる声。
 どちらも自分を心配しての言葉であると分かっている。

 だけど、ジジはたった一人の肉親。
 あたしが行ってあげなくちゃ……。

 そんな思いから、自分を引き止めようとする声に反発する。

「いやよ! もし、ジジが居場所を知らせてきても、ここにいたんじゃ、すぐに助けに行けないじゃない。ここから王都まで、馬で五日もかかるのよ!」

 頭の切れるジネットのことだから、おとなしく捕まっているはずはない。
 きっと、逃げる手だてを考えて知らせてくるはずだ。
 そのとき、すぐに動けるように、少しでも近くにいたかった。

「いや、しかし……。お前だって、いつ襲われるか分からないんだ。厳重な警備をつけるから、犯人が捕まるまで屋敷でじっとしていなさい」
「お願い、行かせて! 一日でも早く助けてあげたいの。このあたしでも、さっきは怖いと思ったのよ。敵に捕まってしまったジジは、この先ずっと怖い思いをするのよ。そんなかわいそうなこと、させられないわ!」

 ロドルフも、レナエルの気持ちは痛いほど分かっていた。
 しかし、娘とも思ってかわいがっていた子を、これ以上危険な目に遭わせる訳にはいかない。
 断固として反対する。

「だめだ。危険すぎる」
「旦那様、お願い! 行かせて!」
「お前まで、捕まってしまったらどうするんだ!」
「捕まらなきゃいいのよ! 大丈夫だから、お願い」

 頑固者同士の二人の激しいやり取りに、テランスとエレイアは口を挟むこともできず、顔を見合わせてため息をつくばかりだ。

「ならば俺が、王都まで同行しよう」

 突然、話に割り込んできた低い声に、諍いが途切れた。
 二人が思わず声の主に振り向くと、ジュールは念を押すように、ゆっくりと言葉を続けた。

「俺がその娘の護衛について王都に行こう。それなら問題はない」

 しばらくぽかんとしていた二人は、彼の言葉をようやく理解して、慌ててその申し出をそれぞれの立場で断ろうとする。

「あたしは、一人でも大丈夫。誰があんたなんかの……」
「いやいや。貴方様に、これ以上ご迷惑をおかけする訳には……」
「構わない。俺もちょうど王都に戻るところだ」

 ジュールが二人の言葉を遮るように、きっぱりと言い切ると、その場がしんと静まった。

「貴方様がレナについていてくだされば、心強いですが……」

 その沈黙を破って、恐る恐る口を開いたテランスの言葉に、レナエルはぎょっとする。

 遠慮のある言葉だが、彼は明らかにジュールに同意しようとしている。
 この屋敷の長男である、思慮深い青年の言葉は、その場の雰囲気をはっきりと変えようとしていた。

 このままでは、この、目つきの凶悪な、すごくむかつく威圧感たっぷりな男と、五日間の旅に出ることになってしまう。
 そんなのは嫌!

「なに言うの。あたしは一人で行くのよ!」

 なんとかそれを回避しようとした言葉を無視するようにして、今度はエレイアが穏やかな声音で夫に話しかける。

「あなた、ジュール様にお任せしましょう。レナのことだもの、屋敷に閉じ込めても、きっと勝手に抜け出してしまうわ。それだったら信頼できる方にお任せして行かせた方が、逆に安心ではありませんか。この方はクライトマン家の方ですし、王太子殿下の騎士ですもの」
「確かにそうだが……」

 妻の説得力のある言葉に、ロドルフも渋々折れた。
 確かに、このじゃじゃ馬娘を屋敷に閉じ込めておくのは至難の業だ。
 少しでも安全な方法をと思えば、目の前の騎士に託すのが良いだろうと判断した。

「では、話は決まりだ。夜が明けたら迎えにこよう」

 話を打ち切って席を立ち、さっさとドアに向かうジュールを、レナエルが慌てて追う。

「勝手に決めないでよ。あんたなんかと行くもんですか!」
「ならば、屋敷でおとなしくしてるんだな」

 彼は振り返りもせずにそう言うと、レナエルの鼻先でドアをばたんと閉めた。

 レナエルはドアの前で、へたりと床に座り込んだ。

 最悪……だ。
 なんで、あんな陰険な男と。

 廊下を遠ざかって行く足音が、無性に憎らしかった。
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