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ファーストステージ

小さな事

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一通り買い物を済まし両手いっぱいの荷物を持って買出しから戻ると、準備も一通り済んでいて、時間的にもそろそろ会社の人たちが来る頃になっていた。

「おわったね、そろそろかな」

 宮下が花見の準備が整ったのを確認すると、さっと会社に電話をかけた。

「お疲れ様です、はい、準備出来ました、確認したところ書店の方は本社の部長さんと本店の店長さんと主任の3人来られるそうです、はい、お好きだと言う焼酎も用意したので大丈夫だと思います、はい、ありがとうございます、はい、ではお待ちしてます」

 羽津宮は内心「お前は何もしてないっての」とツッコミたかったが何も言わなかった。

少しして会社の皆がやって来た。
歩きながら山根部長が場所を見て少し驚いた表情をした。

「渡しておいたシートじゃ狭いかなと心配していたんだが買って来てくれたようだね、気がきくじゃないか」

「ありがとうございます」
 まっ先に答えたのは泉山だった。

「おお、泉山君が気が付いてくれたのか、ありがとう。書店の部長さんには私からも連絡しておいたんだが焼酎が好きとは知らなかったよ助かるね。泉山といい宮下といい今年の新入社員は仕事が出来そうだぞ。お前達うかうかしてられないな」

 部長は軽い冗談を言って笑いながら先輩達のほうを見た。先輩も「よして下さいよ」等と大笑いしている。泉山と宮下の2人は、上司に良い印象を与えられた事に満足して得意気な表情を浮かべていた。

羽津宮と陣と堀越は少ししらけた様子でその風景を眺めたが、その事で3人の中でちょっとした仲間意識が産まれ、一瞬で打ち解ける事が出来た。

「大事なところは羽津宮君と陣君のお陰なのにね、なんか嫌な感じだな」

「いや、いいよ。それに花見位だれでもできる事だから」

「そうそう、そんなん小さい事執着すること無いて、セコイやん」

「あれ、陣君関西出身なの、気が付かなかった」

「あっ、気使こて敬語で話してるうちはバレへんのやけど気許すと出てしまうねんな」

「じゃあ私達には気を許してくれたって事なんだ、仲良くやって行こうね」

 しばらくして辺りが薄暗くなり電燈が灯りはじめる頃、書店の部長や店長達がやって来た。

 部長どうし軽く挨拶した後、3人は陣の所に来て強く背中を叩いた。

「陣、しっかりやれよ。うちの店でお前が書いたポップは本当によかった、本への熱い気持ちが出ていたよ。お陰で沢山売れたしな。その気持ちを忘れるな。紹介したオレの顔に泥塗るような事はするなよ」

「はい、ありがとうございます。これからもお店にはちょくちょく行くと思うので宜しくお願いします。でも、他のお店の売上も上げないといけないので、部長の所だけと言う訳には行きませんけど」

「わっはっは、陣。そこは何とかうちの店だけにしてくれよ」

 部長の厳しい表情が一気にほころんだ。陣には生まれ持っての愛嬌と、上下間系を通り越して好かれる性質があるようだ。

「陣君凄いね、部長さんとあんなに親し気に話せて」

「そうだね僕には、真似出来ないや。見習うところが沢山あるよ」

 頭がきれて要領の良い羽津宮は少し人を見下す傾向があったが、この事で陣には一目置くようになった。

 陣が気を利かせて用意した焼酎のおかげもあって花見は大いに盛り上がり、会社と書店との関係も良い物となりそうな予感の中、入社して一度目の花見は無事終わったのだった。
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