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ファーストステージ
始まりの地点
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「世の中・・・・バカばっかりだ・・・バカばっかり出世する・・」
「何だ・・ニイちゃんわかってるじゃねぇか・・・わかってるならなぜやらねぇ」
「えぇ・・・なんです・・・ゴォエッ・・オエッ・・」
「いいよ・・もう寝ちまいな」
その日の朝、僕は褪めきった空気の中で、鼻に残る嫌な臭いと、我慢出来ない程の寒さで目をさましたんだ。
「んぁ・・・うぁ寒」
「あぁ・・・気持ち悪い・・・いててて・・・鼻が痛いし・・」
「目が覚めたのは良いけど目を閉じる度に世界が回るし・・・しつこく吐き気は襲って来るし・・・・」
「ここ何処なんだよ・・・」
そう言って辺りを見渡した、しらけた公園にゴミが溢れ、酒とビールの甘酸っぱい匂いが立ち篭めている、少しずつ記憶が戻って来た。
「そうだ・・・・花見だな・・・・痛たた」
入社して二度目の花見で悪酔いし、上司や同僚に絡んだあげく、一人はぐれて公園の角で寝てしまった。
「もうダメだなオレ」そうつぶやいて会社を辞めようと心に決めた。
悔しさが体中に行き渡り、敗北感に押し潰されそうになって体が震えた。本当は寒さのせいだろうその震えをそう感じた、そして隠れるように着ていたジャンバーに包まった。
・・ん・・ジャンバー・・
「このジャンバー・・・誰のだ・・・」
同僚の物かと思って下から上まで見るが見覚えが無い・・・それ以前に妙に汚い。
「なんだこれ・・これじゃまるでホームレスだな・・」
「文句があるならな、返せよニイちゃん」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
確かこんな感じだった。
僕はベストセラー作家の先生を、作品の映画化決定を祝う祝賀パーティーへ送り出した後、僕の人生を180度変えた一人のホームレスとの出会いを思い出していた。
僕は今、日本でも有数のグローバル出版社で編集長をやらせてもらっている。入社して三年目で編集長だから異例のスピード出世と言って良い。
そう言うと入社当時からやり手だと思うかもしれないけどそうではなかった。
彼に出会わなければ一年目で会社も辞めていただろう。
そして自分の能力を認めない会社をバカだと罵っていたに違いない。
そんな僕を編集長にまで押し上げたのはたった一人のホームレスなのだ。
物憂気に見渡すと周りはパーティーの準備等でスタッフが忙しそうに走り回っている。その中で僕だけセピア色に色褪せた写真のように、思い出の中に浸っていた。
パーティーはまだ始まっていないようでガヤガヤとしている。
招待された人たちが誰か来るたびに、気を使ったり見栄を張ったりしながら名刺交換をしている頃だろうと想像がつく。
そう言うのが苦手な僕はもう少しこの控え室で時間をつぶす事にした。
僕はコーヒーカップに口をつけるとまた彼との思い出を懐かしんだ。
そして一冊の本を鞄から取り出し膝の上に置いた。
この本を見るたびに僕は不安にも似た気持ちになる。
それは、この本に隠された解く事の出来ない謎が常に、僕に向けて矢を引いているような、そんな気がするからだ。
もう何度読んだだろう。その度にこの疑問が頭をよぎる。この本はいったいいつ書かれたのだろう。そしていったい何のために。
自分に起きた奇妙で、奇跡のような出来事を懐かしく思いながら僕はその本をゆっくりと開き・・・読みはじめた・・・。
Stealth Sense -ステルスセンス-
第一章 販売促進部
「何だ・・ニイちゃんわかってるじゃねぇか・・・わかってるならなぜやらねぇ」
「えぇ・・・なんです・・・ゴォエッ・・オエッ・・」
「いいよ・・もう寝ちまいな」
その日の朝、僕は褪めきった空気の中で、鼻に残る嫌な臭いと、我慢出来ない程の寒さで目をさましたんだ。
「んぁ・・・うぁ寒」
「あぁ・・・気持ち悪い・・・いててて・・・鼻が痛いし・・」
「目が覚めたのは良いけど目を閉じる度に世界が回るし・・・しつこく吐き気は襲って来るし・・・・」
「ここ何処なんだよ・・・」
そう言って辺りを見渡した、しらけた公園にゴミが溢れ、酒とビールの甘酸っぱい匂いが立ち篭めている、少しずつ記憶が戻って来た。
「そうだ・・・・花見だな・・・・痛たた」
入社して二度目の花見で悪酔いし、上司や同僚に絡んだあげく、一人はぐれて公園の角で寝てしまった。
「もうダメだなオレ」そうつぶやいて会社を辞めようと心に決めた。
悔しさが体中に行き渡り、敗北感に押し潰されそうになって体が震えた。本当は寒さのせいだろうその震えをそう感じた、そして隠れるように着ていたジャンバーに包まった。
・・ん・・ジャンバー・・
「このジャンバー・・・誰のだ・・・」
同僚の物かと思って下から上まで見るが見覚えが無い・・・それ以前に妙に汚い。
「なんだこれ・・これじゃまるでホームレスだな・・」
「文句があるならな、返せよニイちゃん」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
確かこんな感じだった。
僕はベストセラー作家の先生を、作品の映画化決定を祝う祝賀パーティーへ送り出した後、僕の人生を180度変えた一人のホームレスとの出会いを思い出していた。
僕は今、日本でも有数のグローバル出版社で編集長をやらせてもらっている。入社して三年目で編集長だから異例のスピード出世と言って良い。
そう言うと入社当時からやり手だと思うかもしれないけどそうではなかった。
彼に出会わなければ一年目で会社も辞めていただろう。
そして自分の能力を認めない会社をバカだと罵っていたに違いない。
そんな僕を編集長にまで押し上げたのはたった一人のホームレスなのだ。
物憂気に見渡すと周りはパーティーの準備等でスタッフが忙しそうに走り回っている。その中で僕だけセピア色に色褪せた写真のように、思い出の中に浸っていた。
パーティーはまだ始まっていないようでガヤガヤとしている。
招待された人たちが誰か来るたびに、気を使ったり見栄を張ったりしながら名刺交換をしている頃だろうと想像がつく。
そう言うのが苦手な僕はもう少しこの控え室で時間をつぶす事にした。
僕はコーヒーカップに口をつけるとまた彼との思い出を懐かしんだ。
そして一冊の本を鞄から取り出し膝の上に置いた。
この本を見るたびに僕は不安にも似た気持ちになる。
それは、この本に隠された解く事の出来ない謎が常に、僕に向けて矢を引いているような、そんな気がするからだ。
もう何度読んだだろう。その度にこの疑問が頭をよぎる。この本はいったいいつ書かれたのだろう。そしていったい何のために。
自分に起きた奇妙で、奇跡のような出来事を懐かしく思いながら僕はその本をゆっくりと開き・・・読みはじめた・・・。
Stealth Sense -ステルスセンス-
第一章 販売促進部
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