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『月明かり』VS……

謝罪と違和感

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「この度は、本当に申し訳無かった。です。」

 玄関先に立つエイミーが深々と頭を下げる。

 長い髪を下ろし、鎧姿では無く、白いシャツワンピースを着たエイミーは、一見すると普通の女性であり、騎士団と言う屈強なイメージとはかけ離れていた。

 エイミーの隣には、ギルドの受付嬢であるレイラが居る。
 レイラも、普段の制服では無く、ロング丈のデニムスカートに、白いブラウスを合わせ、いつもとは違う印象を見せている。

 2人は、昼前頃、アマタたちの家の扉を叩いた。

 エイミーの、何故か少しカタコトな口調の謝罪を受け、アマタはひとまず家の中に2人を迎え、リビングの椅子に腰掛けるように促す。

 ルルはお茶を入れ、それぞれの前に置くと、アマタの横に腰掛けた。

 クロは床に寝そべり、尻尾先だけをパタパタと振っている。

「ギルドからも、今回の職員の非礼についてお詫びします。」

 レイラは頭を下げる。

 これはナーゴの街のギルドだけでは無く、ギルド組織そのものからの謝罪だと告げた。

「役員から一般職員への降格。それに王都から別支部への移動。それが今回の件に対しての、ダグへの処分です。」

 恐らく今日中にも、その処分は下されるであろう、とレイラは言う。

「随分と処分が決定するのが早いな?」

 レイラの言葉に、アマタは疑問を投げる。

「たかだか一介の冒険者に取った行動だろ? ギルドのお偉いさんへの処分としては重過ぎないか? それに、対応も早過ぎる。」

「それは、ですね……」

 エイミーは、相変わらずとカタコトした口調である。

「エイミー、普通に話してくれて大丈夫だ。レイラもな。」
「……お、おぉ、そうか。それは助かる。何せ、丁寧な言葉を使うのは苦手でな。」

 一瞬キョトンとしたエイミーは、すぐに、ホッ、とした表情を浮かべ、本音を話す。

 エイミーは貴族の出身である。
 末っ子であるエイミーは、父母や、歳の離れた兄姉に可愛がられ、伸び伸びと過ごしてきた。

 活発なエイミーは、貴族のマナーや魔法の勉強の時間より、剣術に夢中になった。

 騎士団に憧れ、剣術に励み、突出した才能を見せたエイミーは、そのまま騎士団に加入し、副団長まで駆け上がった。

 騎士団一直線の人生。言ってしまえば脳筋なのである。

(残念美女、ってやつか……)
 
 アマタはこっそり思う。

「まあそんな訳でな。いざしっかりとした言葉で話そうとすると、うまく喋れなくてな。」

 ハハっ、と快活に笑うと、エイミーはお茶に口をつけた。

「良いわ、エイミー。ここからは私が話すわね。」

 少し苦笑するレイラに、エイミーは、頼む、と言って笑う。

「まずはダグへの処分についてね。」

 レイラは口を開く。

 ダグは、王都ギルドの役員である。
 ただのギルド職員とは、当然立場が違う。

 本来であれば、ギルドの看板を背負い、正しい姿を周りに示すべき立場の人間として、ダグはあるまじき行為をした。

 だから、今回の処罰は適切なものであると言う。

「それにね……」

 レイラは軽く座り直し、少し身を乗り出した。

「あなたたち、『月明かり』は、今この国で、トップクラスの冒険者よ。」
「トップクラス……」

 レイラの言葉に、ルルは、心底驚いた顔をしている。

「そんな冒険者が抜けてしまったら、ギルドだけでなく、国としても困るのよ。」

 レイラは真剣な顔で、アマタとルルを見つめる。

「結論を言うと、あなたたちには、ギルドを抜けないで欲しいの。」

 それがギルドの総意であると、レイラは言った。

(つまり、俺たちをギルドに残すために、ダグを処分した、と言う事か……)

 ギルド側としてはダグの処分を以って、誠意を示した、と言う事になる。

「立場のある人間を処分するんだぞ?」

 ダグの下に付いていた人間もいるはずなのだ。軋轢が生じる事だって考えられる。

 そんなアマタの疑問に、レイラは、表情を変えずに、淡々と答える。

「あぁ、それは心配しないで。利益があるから、ダグに付いていた人間ばかりよ。きっとこの件以降、別の人間に擦り寄るでしょうね。」

 甘い汁を見つけ、そこに群がる人間も多いのだ、とレイラは言った。

「そうか……それなら良いんだが……」
「じゃあ残ってくれるのか??」

 お茶を飲みながら話を聞いていたエイミーが、顔を輝かせ、食い気味に飛び付いてくる。

「いや、そうは言ってない。」
「えぇっ?」

 輝かせた顔を瞬間に曇らせるエイミー。
 レイラは静かにアマタの顔を見る。
 
「仮に、俺たちがこの国でトップクラスの冒険者であったとしても、だ。」

 ルルもアマタの顔を、ジッ、と見つめている。

「たかだか3人の冒険者が抜けただけで、この国の力はグラつくのか??」
 
 そんなに脆いものなのか?

 アマタの言葉に、エイミーとレイラは口をつぐみ、ルルは、ハッ、とした顔になる。
 
「そんな事無いだろ? 俺たちが来る前だって、何ら問題無くやれてた筈だ。ゴウムたちが荒れている時だってな。そうだろ? レイラ。」

「…………そうね。」

 名指されたレイラは、少し間を置き、その問いに答える。

「俺たちの存在が、国力に直結するとは思えないんだよ。」

 だからこそ、今回のダグに対してのギルドの対応に、アマタは違和感を感じていた。

「ただの冒険者からしてみれば、行き過ぎた結果なんだよ。」

 そう言うと、アマタは黙り、返ってくる言葉を待った。

「…………分かったわ。」

 しばしの沈黙の後、レイラが口を開く。

「……あなたたちには全て話すわ。」
「お、おい、レイラ!」

 レイラの言葉に慌てるエイミー。

「お、おい、お前。それは……」
「大丈夫よ、エイミー。」

 食ってかかりそうな勢いのエイミーを、スッ、と手で抑えるレイラ。

「この人たちなら大丈夫……」

 薄らと微笑むレイラに、エイミーはモゴモゴ言いながら引き下がる。

「戦姫ミラって知ってる??」

 グデっ、と寝転んでいたクロは、レイラのその言葉を聞くと、パタパタ振っていた尻尾を、ピタッ、と止め、顔だけを上げた。
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