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『月明かり』VS……

騎士団副団長と王都ギルド役員

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 黒尽くめの男たちの襲撃から一夜明けたナーゴの街では、王都から派遣された騎士団によって、実地検分が行なわれている。

 アマタとルルも、例外無く状況説明を求められた。

 面倒臭いと感じたアマタは、ルルと共に、家に篭り逃れようと試みたが、騎士団の直接の訪問により、計画は敢えなく破綻した。

 そもそも、今回の襲撃に応対した当事者なのである。
 騎士団の口から、『月明かり』、の名前は、何よりも早く発せられた。

「しかし、随分細かかったな。」
「ね! それに何度も同じ説明して、何か気がおかしくなりそうだよ。」

 アマタとルルは、少しやつれた顔で空を見上げる。

 騎士団に連れ出された時には、まだ低かった太陽が、今では空高く昇り、2人を照らしている。

(それにしても……)

 騎士団の到着の早さに、アマタは首を傾げる。

 黒尽くめの男たちの襲撃は、昨日の昼過ぎの事。
 それから1日も経たず、騎士団はやってきた。

 王都からナーゴの街へは、街道を通り、通常丸1日はかかる。護衛依頼など、慎重を期すものは更に時間が必要となる。

 状況によっては、半日程度で到着する事も可能ではある。
 が、これは身軽な装備の人間が、最大限まで馬を走らせ続けた場合である。
 
 重厚な鎧兜を着込んだ騎士団を乗せてでは、どれだけ良い馬でも長時間は走れない。
 やはり1日近くは時間を要するであろう。

 と言うことは、襲撃が起こると同時か、或いはそれよりも早い段階で、王都に連絡が入り、騎士団は出撃した、と言う事になる。

 ボアヘッドの指名依頼と言い、引っ掛かる事が連発している。

「ねえアマタくーん。」

 ルルは、考えに耽り始めたアマタの上着の袖を摘み、クイクイと引っ張る。
 
「お腹空かない??」

 ルルはアマタの袖を摘んだまま、もう片方の手でお腹をさすっている。

「確かにな。そう言えば、朝から何も食べてないもんな。」

 そう。忌々しい早朝のノックに、ルルとアマタは着替えだけ済ませて出てきたたのだ。
 ルルに言われ、空腹に気付いたアマタは、ポン、と、ルルの頭に手を乗せる。

「何か食べて帰るか!」

 少し眉を寄せた困り顔で、いつもの上目遣いを見せるルルの顔が、パァ、っと弾ける。

「うんっ!」
「ニャァァン」

 ルルの元気な返事とほぼ同時に、足元から聞こえる鳴き声。

 クロは、ゴロゴロ言いながら、アマタの足に体を擦り付ける。

「お前……」

 食事の話をした途端、姿を現したクロ。

 面倒事はごめん、とばかりに、朝から姿を消していたのだ。

「ふふ。」

 楽しそうに笑うルル。

「じゃあ皆で行くか。」

 その声を皮切りに、クロが先陣を切り歩き始める。

 この近くには、美味しい魚料理を出す店がある。恐らく、いや、十中八九、クロはそこへ行くのであろう。

 やれやれ、と言った顔で、アマタはクロの後ろについて行く。
 ルルはアマタの袖を摘んだまま、弾むような足取りを見せる。

「ちょっと良いかな??」

 不意に背中から声を掛けられ、アマタたちは足を止める。

「君たちが、『月明かり』、のメンバーかな?」

 振り向くと、そこには鎧を着た若い女性と、小太りの中年が立っていた。

「私はエイミー。騎士団の副団長を務めている。」

 よろしく、と手を差し出すエイミー。

 敬語で挨拶したアマタに、普段通りで構わないと言い、爽やかな笑顔を見せるエイミー。

 ダークブロンドのロングヘアを、かっちりと団子状にまとめたエイミーは、次いで隣の男を紹介する。

 男の名前はダグ。王都ギルドの役員らしい。

「ふん。随分若いんだな。」

 挨拶もそこそこに、太々しい態度で、アマタたちに接するダグ。

 背が低い事を補うかのように、過剰なまでに胸を張るが、それにより、突き出た腹が、より強調される。

 エイミーは、ダグの態度に不快な顔を見せるが、すぐに表情を戻すと、アマタたちに、昨日の襲撃の事を尋ねる。

 またか、とうんざりする気持ちを抑え、アマタは1から説明する。
 その後ろで、クロは退屈そうに、大きな欠伸をしている。

 静かに話を聞いていたエイミーが口を開く。

「そいつは間違いなく、イアンと言ったのか?」

 真剣な眼差しのエイミー。

「仲間にはそう呼ばれてたな。何か知ってるのか??」

「……イアン。恐らく……、『蛇』、のナンバー2で間違い無いだろう。」

 少し間を置き、エイミーは答える。

「本当にお前らが、『蛇』、を退けたのか? ふん。とても信じられんな。」

 突如、会話に割って入ってくるダグ。

「ダグ! 失礼だぞ!」
「エイミー殿は信じられるのか? 相手は、『蛇』ですぞ??」
 
 ダグは、嗜めるエイミーを振り切る。

「王都ギルドや、騎士団ですら手を焼くような相手に、こんな若造共が太刀打ち出来る訳が無い!」

 ダグは唾を飛ばし、捲し立てる。ダグの発現よりも、飛び散る唾に、アマタは顔をしかめる。

「黙れダグ!」

 エイミーが一括するも、ヒートアップしたダグは止まらない。

 ダグは、この、『月明かり』、と言う冒険者が、気に食わなくて仕方無かった。

 高難易度の依頼をこなし、あっという間に冒険者ランクを上げ、今や国内でその名を知らぬ者は居ない、と言っても過言では無い程の勢いを持つルーキー。

 更には、あろうことか、そのルーキーは、王女御用達のロイス商会から、名指しで依頼を受けているのだ。

 ダグは、支部所属の冒険者が、王都の冒険者よりも名を上げることに、我慢ならなかった。

 王都至上主義。古い主義であるとは言え、そんな人間は未だに一定数おり、そしてそんな人間が、大きな組織の中枢に食い込んでいる。

 その後も、ネチネチと難癖を付けるダグの姿に、エイミーは呆れた。

 エイミーは、若くして、騎士団副団長に上り詰めた実力者である。団員だけでは無く、国からの信望も厚い。
 
 そんなエイミーに対して、へり下った態度を取ってくるダグではあるが、内心では不満がある事も、分かっていた。

 自分よりも歳下の、しかも女性が、遥かに高い立場に居るのだ。この男からしたら、まあ許せない事であろう、とエイミーは思っていた。

 自分がどう思われようと、エイミーは、大して何も思わなかった。
 それでダグに、何が出来る訳でも無い。所詮は小心者なのだ。

 しかし、今ダグがくだを巻いているのは、同じギルドに所属する、ギルドを支える冒険者なのである。

 自分よりも立場が下の冒険者に対して、傲慢な態度を取るダグを見て、段々と苛立ちが募ってくる。

 元々、エイミーは生真面目で、実直な性格をしている。正義感も強かった。

 そんなエイミーの苛立ちが、レッドゾーンに突入する。

 首根っこを掴んででも黙らせてやる。

 そう思い、ダグに向かって手を伸ばしたその時。

「うるさーーい!!」

 音の高い怒鳴り声が響き、エイミーは、反射的に、ビクッ、とし、その手を止めた。
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