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冒険者生活
2人の最初の夜が明けて
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朝の差し込む光に、アマタは目を覚ます。
隣でスヤスヤと眠るルルを見て、今までとは違う生活が始まった事を、アマタは実感する。
白いシーツの波の上に転がり、重ねた肌と肌。
壊れてしまいそうな柔らかさと、甘い匂い。仕草や表情。声。
ルルの何もかもが、アマタの全てを満たした。
ベッドから抜け出し、コーヒーを淹れる。
その香りに目を覚ますルル。
首から下をタオルケットで隠し、少し恥ずかしそうな顔で、おはよう、とアマタに声をかける。
こんなに幸せになって良いのだろうか。
アマタに包まれる中で、ルルは何度も思った。
重く苦しい気持ちの毎日。自分を責める日々。暗闇の中に居た自分。そこに差し込んだ一筋の光がアマタだった。
強くて、優しい人。憧れの人。そして大好きな人。
ずっと1人だと思っていた自分が、気付いたら誰かと一緒に居る。
いつの間にか、思いもしなかった場所に居る。
こんなに幸せになって良いのだろうか。
もしそれを聞いたら、きっとアマタは、言うだろう。
人は幸せになるために、生まれ、生きて行くんだ、と。
だから自分もそう思おう。
私も幸せになって良いんだ、と。
アマタくんと一緒に、幸せに過ごすんだ、と。
「おはよう!」
目覚めたルルのために、ミルクを温めるアマタ。
寂しくてたまらなかった2人
そんな2人が出会い、新しい生活が始まった。
「きゃあっ!!!!」
突如、ルルの悲鳴が聞こえる。
ソファでコーヒーを飲んでいたアマタは、キッチンのルルの元に駆けつける。
「どうした??」
アマタに、ガバッ、と抱き付くルル。
「あそこ……あそこに……」
ルルはアマタに顔を埋めたまま、後ろを指差す。
「何も居ないよ?」
ルルの頭を撫で、宥めながらそう言うと、ルルは恐る恐る後ろを振り返る。
「だって……だって今そこに、黒い猫が……」
キッチンで食器を洗っていたルルは、ふと後ろからの視線を感じた。
何気なく振り向くと、真後ろに座った黒猫が、ルルを見上げていたらしい。
扉や窓は、全て閉めてあり、外から猫が入り込む事は無い。どう考えても居るはずが無い。
そんな思考を一瞬巡らせて、ルルは怖くなり悲鳴を上げた。
ルルは、動物好きであり、特に猫に目がない。猫を見かけると、ふらふらと近付いて行き、堪能しようとする。
ただ猫が居ただけなら、こんなに怯えた反応はしないだろう。
アマタは家中に拒絶魔法《リジェクト》を張り巡らせる。
しかし、アマタやルルに向けられた悪意は感じられなかった。
(ギルドに行って聞いてみるか。)
再びアマタに顔を埋め、しがみ付いたままのルルが落ち着くまで、アマタは頭を撫で続けた。
ギルドに入ろうとすると、扉が開き、中からスキンヘッドの男が出てくる。
「あ、ゴウムさん!」
己の背丈程もある大剣を背負うゴウムに、ルルが声をかける。
アマタに足を治して貰って以来、ゴウムは自分を取り戻し、生まれ変わった。
本来の武器であった大剣を振り回し、冒険者生活を送っている。
かつてのように、豪快で、明るく、そして面倒見の良くなったゴウム。
本人は基本的にはソロ冒険者なのだが、新米パーティの補助や、メンバーの足りていないパーティのヘルプに入ったりと、臨機応変な活動をしている。
そんなゴウムの周りに集まる人間も増え、若い冒険者たちからはアニキと呼ばれ、親しまれている。
ちなみに、ゴウムを慕う者たちは、いつしか一括りにゴウム団と呼ばれるようになった。
「よう! ゴウムのアニキ! 今日の仕事は終わりか??」
「うるせー! アニキって呼ぶんじゃねー!!」
アマタにからかわれ、ゴウムは茹でだこの様に、耳まで真っ赤に染める。
「ゴウムさん! お祝いありがとう!!」
今朝アマタが座っていたソファは、ゴウムからの新居祝いであった。
「おう! なかなか座り心地良いだろ??」
真っ赤な顔のまま、ニカっ、と笑うゴウム。
それから3人は、しばらくたわいも無い会話を続けた。
「あ、そうだ。ゴウムは何か知ってるか?」
黒い猫の話を思い出し、アマタはゴウムに尋ねる。
「あぁ、あの家にはな……」
アマタとルルの住む家には、かつて老夫婦と1匹の猫が暮らしていた。
老夫婦は猫を我が子のように可愛がった。
街の子どもたちも、毎日猫に会いに来て、そんな子どもたちのことも、老夫婦は優しく迎えた。
ある日のこと、国中を流行り病が襲う。
早い段階で、王都で治療薬が作られた事で、ナーゴの街での被害も少なく済んだが、老夫婦は亡くなってしまった。
その後、猫がどうなったかは分からない。
「まあ俺も、冒険者始めたばっかの頃だったしな。そこまで明確には覚えて無いんだけどよ。」
と、ゴウムは話す。
それ以降、あの家は、王都の商人が旅の拠点の1つとして使っていたが、数年前には手放し、そのまま空き家になっていたようである。
「だからよ、あの家が何かあるとか、そんなのは聞いた事が無いんだよな。猫って言ったら、それが思い付くくらいで。」
役に立てなくてすまんな、そう言って頭をかくゴウム。
「いやいや、充分だ。悪かったな、時間とらせて。」
「そうだよ! 色々教えてくれてありがとう!」
申し訳無さそうな顔をするゴウムに、アマタとルルは礼を伝える。
「おう! なら良かったよ! 今度また飲みにでも行こうぜ!!」
「そうだな。」
軽く拳をぶつけ合うアマタとゴウム。
そしてゴウムは手を振りながら、街の中へと歩いて行った。おそらく一杯ひっかけにでも行くのだろう。
「ゴウムさん、優しくなったよね。」
ブンブンとゴウムに手を振り返し、ルルはアマタに言う。
「そうだな。元々、ああいう奴なんだろうな。」
ゴウムは変わった。あの件以降、最初は気まずさや、後悔の念を感じさせる空気を出していたが、アマタとルルは普通に接した。
そして、今では違和感無く、一緒に飲みに行ける程の関係性を築けた。
自分のダメさを認め、変わろうとする事は、勇気が要ることだ。単純に、ゴウムはすごいな、と思うアマタ。
(まあ、それ以上に……)
「すごいのはお前だけどな。」
ルルには聞こえないような、小声で呟くと、アマタはルルの頭をポンポン叩く。
不思議そうな顔をして、ルルはアマタを見上げる。
「怖い家じゃ無くて良かったね!」
ルルは安心しきった笑顔を見せる。
「もしオバケが出ても、アマタくんがやっつけてくれるしね!」
「あぁ、そうだな。」
ふふっ、と笑うアマタ。
アマタが右手を差し出すと、ルルは左手でぎゅっと握る。
2人は手を繋いだまま、夕飯の買い出しをするために、街の中へと歩いて行った。
隣でスヤスヤと眠るルルを見て、今までとは違う生活が始まった事を、アマタは実感する。
白いシーツの波の上に転がり、重ねた肌と肌。
壊れてしまいそうな柔らかさと、甘い匂い。仕草や表情。声。
ルルの何もかもが、アマタの全てを満たした。
ベッドから抜け出し、コーヒーを淹れる。
その香りに目を覚ますルル。
首から下をタオルケットで隠し、少し恥ずかしそうな顔で、おはよう、とアマタに声をかける。
こんなに幸せになって良いのだろうか。
アマタに包まれる中で、ルルは何度も思った。
重く苦しい気持ちの毎日。自分を責める日々。暗闇の中に居た自分。そこに差し込んだ一筋の光がアマタだった。
強くて、優しい人。憧れの人。そして大好きな人。
ずっと1人だと思っていた自分が、気付いたら誰かと一緒に居る。
いつの間にか、思いもしなかった場所に居る。
こんなに幸せになって良いのだろうか。
もしそれを聞いたら、きっとアマタは、言うだろう。
人は幸せになるために、生まれ、生きて行くんだ、と。
だから自分もそう思おう。
私も幸せになって良いんだ、と。
アマタくんと一緒に、幸せに過ごすんだ、と。
「おはよう!」
目覚めたルルのために、ミルクを温めるアマタ。
寂しくてたまらなかった2人
そんな2人が出会い、新しい生活が始まった。
「きゃあっ!!!!」
突如、ルルの悲鳴が聞こえる。
ソファでコーヒーを飲んでいたアマタは、キッチンのルルの元に駆けつける。
「どうした??」
アマタに、ガバッ、と抱き付くルル。
「あそこ……あそこに……」
ルルはアマタに顔を埋めたまま、後ろを指差す。
「何も居ないよ?」
ルルの頭を撫で、宥めながらそう言うと、ルルは恐る恐る後ろを振り返る。
「だって……だって今そこに、黒い猫が……」
キッチンで食器を洗っていたルルは、ふと後ろからの視線を感じた。
何気なく振り向くと、真後ろに座った黒猫が、ルルを見上げていたらしい。
扉や窓は、全て閉めてあり、外から猫が入り込む事は無い。どう考えても居るはずが無い。
そんな思考を一瞬巡らせて、ルルは怖くなり悲鳴を上げた。
ルルは、動物好きであり、特に猫に目がない。猫を見かけると、ふらふらと近付いて行き、堪能しようとする。
ただ猫が居ただけなら、こんなに怯えた反応はしないだろう。
アマタは家中に拒絶魔法《リジェクト》を張り巡らせる。
しかし、アマタやルルに向けられた悪意は感じられなかった。
(ギルドに行って聞いてみるか。)
再びアマタに顔を埋め、しがみ付いたままのルルが落ち着くまで、アマタは頭を撫で続けた。
ギルドに入ろうとすると、扉が開き、中からスキンヘッドの男が出てくる。
「あ、ゴウムさん!」
己の背丈程もある大剣を背負うゴウムに、ルルが声をかける。
アマタに足を治して貰って以来、ゴウムは自分を取り戻し、生まれ変わった。
本来の武器であった大剣を振り回し、冒険者生活を送っている。
かつてのように、豪快で、明るく、そして面倒見の良くなったゴウム。
本人は基本的にはソロ冒険者なのだが、新米パーティの補助や、メンバーの足りていないパーティのヘルプに入ったりと、臨機応変な活動をしている。
そんなゴウムの周りに集まる人間も増え、若い冒険者たちからはアニキと呼ばれ、親しまれている。
ちなみに、ゴウムを慕う者たちは、いつしか一括りにゴウム団と呼ばれるようになった。
「よう! ゴウムのアニキ! 今日の仕事は終わりか??」
「うるせー! アニキって呼ぶんじゃねー!!」
アマタにからかわれ、ゴウムは茹でだこの様に、耳まで真っ赤に染める。
「ゴウムさん! お祝いありがとう!!」
今朝アマタが座っていたソファは、ゴウムからの新居祝いであった。
「おう! なかなか座り心地良いだろ??」
真っ赤な顔のまま、ニカっ、と笑うゴウム。
それから3人は、しばらくたわいも無い会話を続けた。
「あ、そうだ。ゴウムは何か知ってるか?」
黒い猫の話を思い出し、アマタはゴウムに尋ねる。
「あぁ、あの家にはな……」
アマタとルルの住む家には、かつて老夫婦と1匹の猫が暮らしていた。
老夫婦は猫を我が子のように可愛がった。
街の子どもたちも、毎日猫に会いに来て、そんな子どもたちのことも、老夫婦は優しく迎えた。
ある日のこと、国中を流行り病が襲う。
早い段階で、王都で治療薬が作られた事で、ナーゴの街での被害も少なく済んだが、老夫婦は亡くなってしまった。
その後、猫がどうなったかは分からない。
「まあ俺も、冒険者始めたばっかの頃だったしな。そこまで明確には覚えて無いんだけどよ。」
と、ゴウムは話す。
それ以降、あの家は、王都の商人が旅の拠点の1つとして使っていたが、数年前には手放し、そのまま空き家になっていたようである。
「だからよ、あの家が何かあるとか、そんなのは聞いた事が無いんだよな。猫って言ったら、それが思い付くくらいで。」
役に立てなくてすまんな、そう言って頭をかくゴウム。
「いやいや、充分だ。悪かったな、時間とらせて。」
「そうだよ! 色々教えてくれてありがとう!」
申し訳無さそうな顔をするゴウムに、アマタとルルは礼を伝える。
「おう! なら良かったよ! 今度また飲みにでも行こうぜ!!」
「そうだな。」
軽く拳をぶつけ合うアマタとゴウム。
そしてゴウムは手を振りながら、街の中へと歩いて行った。おそらく一杯ひっかけにでも行くのだろう。
「ゴウムさん、優しくなったよね。」
ブンブンとゴウムに手を振り返し、ルルはアマタに言う。
「そうだな。元々、ああいう奴なんだろうな。」
ゴウムは変わった。あの件以降、最初は気まずさや、後悔の念を感じさせる空気を出していたが、アマタとルルは普通に接した。
そして、今では違和感無く、一緒に飲みに行ける程の関係性を築けた。
自分のダメさを認め、変わろうとする事は、勇気が要ることだ。単純に、ゴウムはすごいな、と思うアマタ。
(まあ、それ以上に……)
「すごいのはお前だけどな。」
ルルには聞こえないような、小声で呟くと、アマタはルルの頭をポンポン叩く。
不思議そうな顔をして、ルルはアマタを見上げる。
「怖い家じゃ無くて良かったね!」
ルルは安心しきった笑顔を見せる。
「もしオバケが出ても、アマタくんがやっつけてくれるしね!」
「あぁ、そうだな。」
ふふっ、と笑うアマタ。
アマタが右手を差し出すと、ルルは左手でぎゅっと握る。
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