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異世界到着
ルルと修行
しおりを挟むアマタとルルは大草原に居る。
モンスターを狩ると同時に、己の魔法スキルの確認と、応用性を試そうと、アマタは考えた。
「アマタくん! 私……もっと強くなる!」
昨日、ギルドで報酬を受け取った後、2人は一緒に夕飯を食べた。その際に、明日は大草原に行くと言ったアマタに、ルルは自ら声をかけた。
アマタの凄さを目の当たりにして、強くなろう、そう自分の中で決心した。
その決意を投げ出さぬよう、そこから逃げ出さないように、ルルはアマタに敢えて宣言したのだ。
ナーゴの街に来てからは、自失の日々を過ごして来たルルだが、元々は明るく、好奇心旺盛な性格をしていた。
気になったら試さずには居られない性質で、こうと決めたら一直線、それが本来の姿であった。
ダメだった自分。情けなかった自分。目を背けたくなるような、過去のダサい自分。
向き合うには、とても勇気がいる。
誰だって、みっともない自分の姿を、認めるのは怖い。
しかし、どれだけ逃げ続けたとしても、いつかどこかで向き合わなければならない時はやって来る。
そこから踏み出す事は、例え、たった一歩だったとしても、とてつもなく大きな一歩なのだ。
ルルはその一歩を踏み出した。
(凄えな。)
アマタは、目の前で決意したルルの表情が、先程までとは打って変わって、明るいものに変わった瞬間を見て、ただただ感心していた。
「じゃあさ、俺と一緒に修行しようぜ!」
思いがけないアマタの言葉に、ルルは顔を輝かせる。
強者を見て学べる機会。それも当然嬉しかったが、何よりも、アマタと一緒に居れる事が、ルルには予想外の喜びであった。
ちなみに、ギルドからの報酬は、冒険者1人であれば、優に3か月は暮らせるものであった。
カウンターに、ドンと置かれた報酬を見て、ルルは目を丸くさせていた。
半分受け取るべきだと言って引かないルル。
ならば、とアマタは言った。
今日の夕飯と宿代を。そして、これから、この世界について分からない事があれば教えて欲しい。それが報酬だと言って、アマタはルルの主張を無理矢理終わらせた。
角を1本生やした兎が、勢いをつけて飛び掛かってくる。アマタはそれを軽く躱すと、首の辺りに手刀を下ろす。
角兎は、パタンと地面に落ちて、動かなくなった。
これはホーンラビットと言うモンスターで、さほど危険も無く倒せる。初級冒険者にとっては狩りやすい獲物であるが、その分報酬も低い。
ここがホーンラビットの生息地である事を知ったアマタは、敢えて修行の場を、ここにする事にした。
例え、ブレードウルフが出て来ても、アマタが居れば、そう問題は無いであろう。
だが、絶対の保証は無い。それを、アマタは昨日、己の身をもって知ったのだ。
まずはこの世界での実践に慣れる事と、スキルについてもっと知る事。そして余裕がある場所で、ルルの事をしっかり見る事を、アマタは優先した。
「火魔法!!」
ルルが発動させた魔法が、ボワっと広がり、ホーンラビットを包み込む。毛皮を焦がされ、怒りを露わにして飛び掛かかって来たホーンラビットを、ルルは杖で叩き落とす。
通常であれば火魔法一発あれば、ホーンラビットには十分である。
つまり、ルルの火力は弱いのだ。
「ルル。魔法を撃つ時、どんな事考えてる??」
「んー、敵に魔法を当てる事、かな。」
やはりそうか、と、アマタはルルの答えを聞いて納得する。
「どんな形で魔法を当てるのか、それを考えてみな。」
頭の上にクエスチョンマークを浮かべるルルに、アマタは説明し始める。
魔法はイメージ。形状や強さは、そのイメージに左右される。
昨日、男に向けて放った水魔法で、アマタは何となく理解していた。
「例えば……」
そう言うと、アマタは空中に、ビー玉サイズの水の玉を浮かべ、飛び掛かって来たホーンラビットに飛ばす。額を貫かれ、ホーンラビットは絶命する。
「え?? え??」
あり得ない強さの水魔法に、ルルは唖然としている。
更にアマタは、薄い円盤型の水を作り、ホーンラビットの角を、いとも容易く切り落とした。
「こんな感じに、形も強度も、自分のイメージで変えられるんだよ。」
ルルは、事もなげに言ってのけるアマタを、信じられない思いで見つめる。
魔法力を上げて行く事で、威力自体が高まる事は分かる。それによって、相手に与えるダメージも変わるのだ。
つまりは、発現する魔法の規模が大きくなる。それが通常の認識だ。それ以上でも以下でも無い。
魔法そのものの形状を変化させる事や、強度を上げる事は、常識とは外れた考え方である。
少なくとも、ルルは考えた事も無ければ、周りで見かけた事も無かった。
「無理だと思う??」
「え??」
そんなルルの考えを、見透かすかの様なアマタの言葉。
「……。やってみる!!」
一瞬黙ったルルは、すぐに、やる、と決め、その思いを口に出す。
(強くて……相手を燃やし尽くす炎……)
ルルは集中して、心の中でイメージする。
(アマタくんは、水を凝縮して硬くした……)
アマタが放った水魔法を思い出し、密度を高める事を意識する。
その姿を、アマタは微笑み、見つめる。
時々ルルに向かって攻撃しようとするホーンラビットを魔法で撃ち落としながら。
(これだ!!)
「火魔法」
心で思うとほぼ同時に、ルルは声を出し、魔法を発現させる。
ユラっと小さく揺れた火は、ホーンラビットに当たると、ゴゥっ、と音を立てる。そして、一気に赤黒く燃え上がり、ホーンラビットを焼き尽くした。
「えーっ??」
それに驚いたのは、ルル自身であった。己が放った魔法で、ホーンラビットは炭化し、プスプスと音を立てている。
「こ、これって、燃焼魔法じゃ……」
ルルが撃ったのは火魔法のはずであった。しかし、発現したのは燃焼魔法。火魔法の上位のものであり、ルルは自分がこんな魔法を使う事さえ考えていなかった。
「凄えじゃん! ルル! やったな!!」
「あ、アマタくん……」
ジワっ、と目に涙を浮かべたルルは、我が事の様に喜ぶアマタの胸に、思い切り飛びついた。
「っ!!」
ホーンラビットやブレードウルフの攻撃も難なく避けるアマタであったが、不意なルルの飛びつきに、反応する事は出来なかった。
アマタは赤くなった顔を、少し斜め上に背ける。
ルルの柔らかさと、フワッと香る甘い匂いに、クラクラして倒れそうになる。
バクバクと音を立てる鼓動が、気が気で無いアマタ。ルルは自分の胸に、耳を当てる形になっているのだ。
これまで、女性と触れ合った事が無い訳ではない。強さで周りを牛耳っていたアマタの力に、言い寄る女も少なくなかった。
満たされないナニカを埋めるかの様に、一晩を過ごす事もあった。
それなのに……
今、自分は狼狽えている。
真っ直ぐ、無邪気に、自分に向かってくる、この小動物の様な女の子に、どこか翻弄されている。
胸の内に広がる、今まで感じたことの無い、小さな淡い感情に、アマタは困惑していた。
(考えても、分からないものは分からない。)
自分がルルに好意を抱いている事を、ほんのり感じ、それは認めつつも、アマタは思考を一旦置いた。
持て余していた、己の両腕に気付いたアマタは、少し苦笑する。
そしてその腕をルルに回すと、背中を、ポンポン、と優しく叩いた。
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