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プロローグ
とあるヤンキーの一生
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冬の路地裏。頭から流れる血が、アスファルトに流れ、血溜まりを作っていく。
男は、そこから上がる湯気をジィっと眺めていた。
(……俺……死ぬんだな……)
いくつもの、色々な場面が、写真のように脳裏に映し出されていく。
小さな頃からスポーツが好きだった。皆でやる球技も楽しかったし、空手にものめり込んだ。
優しい両親の元、好きなことをトコトンやり、いつも笑顔が絶えなかった。
(勉強は嫌いだったけど……)
それは突然のことだった。中学の卒業前に、優しかった両親が事故で他界する。
男はそれから荒れ狂った。気に入らないものは、全て力でねじ伏せる、暴力だけが全ての日々。いつしか、あの頃の笑顔は失われていった。
来る日も来る日も、血を見ない日は無かった。むしろそれで良かった。
誰かを殴り、腫れ上がる拳の痛みも、誰かに殴られ、絶えず鉄の味がする口の中も、ある意味それは、男にとっての生きている証だった。
荒れていく男に対して、周りの大人たちは冷たい視線を突き刺した。
かつて母親と買い物に行った八百屋のオヤジも、父親と2人で行ったラーメン屋の店主も、一緒にサッカーをした友達の親も。
知ってる大人も、知らない大人も誰もが冷たく、疎ましい顔で見てくることに苛立った。
更にエスカレートする暴力。
次第に男の周りには、人が集まっていく。そのほとんどが、男の暴力への畏怖の念からであったが、それでも、男にとっては、それは繋がりそのものだった。その繋がりを失わないように、暴力を重ね、多くの敵対勢力を潰し、“仲間”を増やして行った。
男は毎晩夢を見た。そこには、もう居ないはずの父親と母親が居た。3人で食卓を囲み、たわいもない話をして笑っている、そんな夢。
夢を見ながら、泣いている自分に気付き、目を覚ます。いつもその繰り返し。
そして、それからまた泣いた。毎晩毎晩同じことを繰り返すくせに、涙は止まることは無かった。
変わりたい。普通に生きて行きたい。涙を流している時には、いつもそう思えた。
しかし、いつもの日常が始まってしまえば、そんな思いもどこへやら。
変わらない、暴力に身を寄せる日々。
(くだらねー……くだらねーよ……)
男は自嘲的な笑みを浮かべ(実際には口の端が少し上がっただけであったが)、少し疲れて目を瞑った。
最後に脳裏に映し出されたのは、この場所だった。
近くで牛丼を食べ、家に帰ろうと、この路地裏を、男は歩いていた。
その矢先……
ガチィィンと鈍い音が頭の中に鳴り響き、目の前が真っ暗になる。
ゴッ、ガッと、物を叩く音が聞こえる。少しすると、その音は自分が、何かしらの凶器で殴られている音だと言う事に気付いていく。
気付くが、体に力は入らなかった。何度も鈍く響く音が、まるで他人事の様に聞こえ、痛みも何も感じなかった。
(ああ……俺……死ぬんだな……)
男はふと思う。これは直感だ。間違い無いだろう、と。
不思議と、ずっと張り詰めていた気持ちが解けていく。
バタバタと騒がしく足音が響き、薄らと見える視界が赤く光っているのが分かる。
(……あぁ……俺は……もう良いんだ……)
意識の遠くで、サイレンの音が聞こえる。
(……もう……良いんだ……)
男の目から、涙がこぼれ落ちる。
(……俺は……大丈夫……だから……)
こぼれ落ちる涙も、自分の事では無い様に遠くに感じながら。
男はゆっくりと、意識を手放して行った。
男は、そこから上がる湯気をジィっと眺めていた。
(……俺……死ぬんだな……)
いくつもの、色々な場面が、写真のように脳裏に映し出されていく。
小さな頃からスポーツが好きだった。皆でやる球技も楽しかったし、空手にものめり込んだ。
優しい両親の元、好きなことをトコトンやり、いつも笑顔が絶えなかった。
(勉強は嫌いだったけど……)
それは突然のことだった。中学の卒業前に、優しかった両親が事故で他界する。
男はそれから荒れ狂った。気に入らないものは、全て力でねじ伏せる、暴力だけが全ての日々。いつしか、あの頃の笑顔は失われていった。
来る日も来る日も、血を見ない日は無かった。むしろそれで良かった。
誰かを殴り、腫れ上がる拳の痛みも、誰かに殴られ、絶えず鉄の味がする口の中も、ある意味それは、男にとっての生きている証だった。
荒れていく男に対して、周りの大人たちは冷たい視線を突き刺した。
かつて母親と買い物に行った八百屋のオヤジも、父親と2人で行ったラーメン屋の店主も、一緒にサッカーをした友達の親も。
知ってる大人も、知らない大人も誰もが冷たく、疎ましい顔で見てくることに苛立った。
更にエスカレートする暴力。
次第に男の周りには、人が集まっていく。そのほとんどが、男の暴力への畏怖の念からであったが、それでも、男にとっては、それは繋がりそのものだった。その繋がりを失わないように、暴力を重ね、多くの敵対勢力を潰し、“仲間”を増やして行った。
男は毎晩夢を見た。そこには、もう居ないはずの父親と母親が居た。3人で食卓を囲み、たわいもない話をして笑っている、そんな夢。
夢を見ながら、泣いている自分に気付き、目を覚ます。いつもその繰り返し。
そして、それからまた泣いた。毎晩毎晩同じことを繰り返すくせに、涙は止まることは無かった。
変わりたい。普通に生きて行きたい。涙を流している時には、いつもそう思えた。
しかし、いつもの日常が始まってしまえば、そんな思いもどこへやら。
変わらない、暴力に身を寄せる日々。
(くだらねー……くだらねーよ……)
男は自嘲的な笑みを浮かべ(実際には口の端が少し上がっただけであったが)、少し疲れて目を瞑った。
最後に脳裏に映し出されたのは、この場所だった。
近くで牛丼を食べ、家に帰ろうと、この路地裏を、男は歩いていた。
その矢先……
ガチィィンと鈍い音が頭の中に鳴り響き、目の前が真っ暗になる。
ゴッ、ガッと、物を叩く音が聞こえる。少しすると、その音は自分が、何かしらの凶器で殴られている音だと言う事に気付いていく。
気付くが、体に力は入らなかった。何度も鈍く響く音が、まるで他人事の様に聞こえ、痛みも何も感じなかった。
(ああ……俺……死ぬんだな……)
男はふと思う。これは直感だ。間違い無いだろう、と。
不思議と、ずっと張り詰めていた気持ちが解けていく。
バタバタと騒がしく足音が響き、薄らと見える視界が赤く光っているのが分かる。
(……あぁ……俺は……もう良いんだ……)
意識の遠くで、サイレンの音が聞こえる。
(……もう……良いんだ……)
男の目から、涙がこぼれ落ちる。
(……俺は……大丈夫……だから……)
こぼれ落ちる涙も、自分の事では無い様に遠くに感じながら。
男はゆっくりと、意識を手放して行った。
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