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第八十一話
しおりを挟む殺摩擦壊羅と戦った日の夜、リンネは顔を赤らめながらアステリア王女とクリム王女に言った。
「昼間借りといてなんだけど、イサミ借りていいかしら。ちょっと、特別な用があるの」
「はあ、しょうがないなぁ…………」
「ま、まあお前もイサミの婚約者だし、好きにしろ」
アステリア王女とクリム王女は不承不承、不服だが納得はする。
「ありがとう」
リンネはいつになく穏やかな笑顔になった。
「イサミもいいわね」
「あ、ああ」
特別な用と言われ勇は何かとすぐ察しやや頬を染める。
二人でリンネの私室に入りベッドに座ると勇はリンネに抱き締められる。
騎士学校の長期休暇から戻った時とは違う強めのものだ。よく見るとその腕が震えているのに勇は気づく。
リンネはなにも言えずに悲痛な顔で勇を抱きしめたままだ。
「あんた、昼間あんなことあったけど大丈夫なの?」
声すらも震えてており勇は殺摩破壊羅との戦いが原因と気づく。気分転換で外に出たのにあんな目に遭ったとは勇自身言っていたのだ。
「まあ、むしろあんなことがあったから楽になったつうか……………多少の荒療治てやつかな。ギターやったおかげもあるかも」
勇は目を泳がせながら言う。
「それならいいけど、本当に大丈夫?」
リンネはそれでも不安が消えなかった。
「うん、大丈夫。リンネも、みんなも一緒だしね。明日はきっと勝てるよ」
勇はリンネを安心させる。
「イサミ…………」
リンネは一度腕を緩めたが再び強めに勇を抱きしめた。
「リンネ、今日は……………久しぶりに近いね。リンネの横顔、久しぶりにこうやって見た気がする」
勇はリンネの家で二人だけのお茶会の時を思い出す。その時はいつも二人でソファに横に座ってお茶を飲んでいたのだ。
「今日だけは、イサミだけのわたしでいさせて」
リンネは勇の顔を正面から見ると目を潤わせる。
勇にとってリンネとの行為は最も激しく熱いものだった。彼女の長年の想いが重みになってのしかかったのだ。
勇もそれに合わせて自然と彼女を貪っていく。
「俺、幸せだ。大好きな幼馴染と一つになれて、結婚できるんだから」
行為の後で勇はこれ以上ない満足になり言った。
「ごめん、返事待たせすぎたわね。わたしも本当はあなたのことずっと好きだったのに」
リンネは気まずくなり謝る。
「いいよ、なんだかんだでこうなれたし。結果万歳だよ」
「他の人達がいるのはちょっと不満だけど」
「それは、ごめん」
リンネがいるにも関わらず他の婚約者が複数いるという通常ありえない状況に勇は謝った。
「それもいいわ。そうでもならなきゃわたしとも結婚できなかったわけだし」
リンネはそれでも穏やかな顔でいる。
「ありがとう」
度量の広い幼馴染に勇は精一杯の感謝を伝えた。
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