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扉の先は、すり鉢状に席が設えられた会議場だった。
想定外の広さにニーナの足が竦むと、ディーンが、
「大丈夫だよ」
と、すかさず声を掛ける。
最も奥、装飾の豪華な椅子に座っているのがヒース。
彼の背後には、明らかに護衛と思われる大柄な男性が立っている。ライオネルと同じ位の身長があるだろう。
そして、ディーンが言う所の「おじさん」達が、両翼に合わせて二十名程だろうか。
ディーンにエスコートされるがまま、すり鉢の底にあたる演壇へと向かうニーナを、不躾な視線とヒソヒソ声が追い掛ける。
「小さいな」
「ジェラルディン殿下は、子供相手でも、淑女になさるような完璧なエスコートだ」
「お相手を見つけられるのも、存外、早いやもしれんぞ」
「子供なのかと思ったが、ドレスの丈を見る限り、そうではないのか?随分と落ち着いている」
「黒髪に黒い目と言うのは、見慣れぬが神秘的ではあるな。飾ればそれなりに化けそうだ」
「異世界人と言うが、普通の娘ではないか」
値踏みされる事は覚悟していた。
言葉の意味が理解できないからと言って、声の調子から何となくニュアンスは伝わるものだ。
移動手段が馬車のこの世界で、人の行き来は容易ではない。
二百五十年以上、落ち人が現れていないガルダ王国に、実在する落ち人と対面した経験のある人間は、ほとんどいない筈だ。
半ば想像上の存在である落ち人と言う触れ込みのニーナを見て、疑うのも、好奇の目を向けるのも、当然だろう。
ニーナが演壇の前に立ち、その背後にディーンが控えると、ヒースが、
「落ち人よ、ガルダによく来てくれた」
と、口火を切った。
マイクが見えるわけでもないのに、その声は遠くまでよく響く。
これも、魔法なのだろうか。
「陛下。こちらは、私が保護した落ち人の女性です。ガルダの言葉を話せませんので、まだ、意思疎通は図れておりません。名だけは恐らく、聞き取る事ができたかと」
「ふむ。では、名は何と申す」
「はい。ニーナ、と言うようです」
ちら、とディーンに視線を向けられて、ニーナはヒースに向かい、お辞儀をした。
『はじめまして、ニーナです』
ガルダとは異なる様式ながら、背筋のぴんと伸びた美しい礼に、ほう、と言う溜息のような声が会場中から漏れる。
「なるほど。では、ジェラルディン。ニーナを保護した時の状況を、聞かせてくれるか」
「はい、陛下」
ディーンは、よどみなく説明を始める。
ライオネルとウルヴスと共に庭を歩いていた所、上空に不審な気配を感じた。
見上げると、悲鳴を上げながら人影が落下してくる所だったので、慌てて風魔法で速度を落とし、抱き留めた。
身元を改めようとしたものの、言葉が全く通じない。
辛うじて、名だけは確認できた。
当初は二回目の成人前の少女だと思ったが、身支度を整えさせた女官によると、本人が成人していると主張している。
「現れた状況や、近隣国で見掛けない容貌から、落ち人ではないかと推測するに至りました。落ち人であれば、過去の例からしても、王宮にて保護する事が必要かと」
「なるほどな…」
ヒースは、顎を軽く撫でると、周囲の重鎮達の顔を見回した。
「ジェラルディンの説明に、何か不審はあるか?」
一人が、す、と右手人差し指を立てる。
総白髪で頼りない程に細いのに、ぎょろりとそこだけ大きな目が印象的な壮年の男性だ。
「ガンズネル宰相、どうだ?」
「まず、その女性が真実、落ち人であると言う証拠が欲しいですな。他国の間諜が、落ち人の振りをして王宮に入り込もうとしていないとも限りません」
「ふむ。王宮を囲う結界が破られたとの報告は、宮廷魔術師から受けていない。結界を飛び越えて来た可能性はなかろう。後は、正式な手続きを取って城門を入った者が、何らかの方法で空から落ちて来た、と言う事が考えられるか。ジェラルディン、庭、と言うのは、どの辺りの事だ?」
「正門から春の庭へと差し掛かる辺りです」
「では、周辺に建物はないな…王宮の結界内で、飛行魔法は使用できない。建物の上階から飛び降りたのかと思ったが、そう言うわけでもなさそうだ」
ヒースはそう言うと、ガンズネルに、
「他には、何を確認すればいいだろうか」
と尋ねた。
「実は、落ち人とこの世界の人間を、容易に見分ける方法があるのだそうです」
「ほぅ?」
ヒースの目が、きらりと光る。
そのような情報は、王家所蔵の書物には記されていなかった。
「落ち人発見の報がもたらされて半日も経っていないと言うのに、宰相は随分と手際のよい事だ」
皮肉気なヒースの物言いにも気づかないように、ガンズネルは穏やかに返す。
「えぇ。偶然にも、二年程前から、我が王都屋敷に異世界人に関する研究者が滞在しておりまして」
「異世界人研究だと?」
「海を渡った先のスワグからやって来た男です。各国を渡り歩いて、落ち人の記録を収集し、彼等のもたらした知識を系統事に分類、研究しておるのです。我が国は、他国と比較しても極端に落ち人の訪れが少ない。スワグは逆に、五十年に一度は落ち人が発見されるのだとか。その差が何に起因するのか、研究したいと請われましてな」
「なるほど、それは興味深い。では、その男が、落ち人の見分け方を見つけ出したと言う事か?」
「えぇ。陛下のご許可が頂ければ、その男をこの場に召喚致しますが。ご入用かと、控えの間に連れて来ております」
「ふむ…許す」
「有難うございます」
ちら、と、ガンズネルが背後の側近に目配せすると、側近は即座に男を呼び出す為だろう、議場を後にする。
ディーンは、ガンズネルの言葉を脳内で繰り返しながら、違和感を覚えていた。
彼は、『異世界人研究』と言っていた。
『落ち人の研究』ではない。
それはつまり、落ち人以外の異世界人についても詳しいと言う事ではないのか。
ニーナがこの世界にやって来たのは、二ヶ月弱前。
二年前からガンズネル邸に滞在していると言うその男が、聖女召喚に全くの無関係と思うには、不審な点が多すぎる。
「あぁ、来たか。陛下、この者が、我が屋敷に滞在しているダン・トアーズにございます」
「ガルダ王国へよくぞ参られたトアーズ殿」
「スワグから参りましたダン・トアーズと申します。此度は貴重な機会を有難うございます」
トアーズは、褪せたように白茶けた髪と同じく薄い茶色の瞳をした老年に差し掛かった男性だった。
発音に癖はあるが、ガルダ語を上手に操っている所を見ると、元々、高い教養が得られる地位にあるのだろう。
伸びるに任せたままのような長髪は、王宮に上がる為かきちんと櫛が通されており、背後に緩く一つの三つ編みにされている。
見慣れぬ衣服は、スワグの礼装だ。
丈が長く膝下まであるゆったりした上衣に細い脚衣を合わせてあるのだが、上質な素材が使われている事が離れていても判る。
「そなたは、落ち人とこちらの世界の人間を見分ける方法を編み出したと宰相に聞いたのだが、それは事実か?」
「はい。私の祖国スワグでは、現在、存命の落ち人が二名おります。世界を巡り、更に三名の存命者にも、会って参りました。私は元々、スワグで魔術師となるべく学んでおりました。魔術の研究の一環として落ち人と面会した事で、彼等の身体的特徴に気づく事となりました。標本数が五名では少ないと思われるかもしれませんが、過去の記録を紐解く限り、恐らく、私の推測に間違いはないと考えております」
ヒースは、ふむ、と頷いた。
「そなたの推測を尋ねてもよいか?」
「はい。落ち人は皆、魔法を一切使いません。彼等によれば、彼等の暮らしていた世界には魔法が存在せず、そもそも使用した事がないからだ、と言います。落ち人のもたらす知識は、魔法が存在しないが故に創意工夫されたものなのです。一方、私達の世界では、生活と魔法が密接に関係しております。魔力の多寡の個人差はあれども、魔法が全く存在しない世界は想像ができません。そもそも、魔力が皆無の人間は、存在しない。魔力が枯渇すれば、死に至るからです。例え、ごく微量の魔力しか持たない者であっても、ゼロはあり得ない。ところが、」
トアーズは、そこで一度、言葉を切った。
「落ち人は、違います」
「違う?」
ヒースが、身を乗り出す。
「はい。落ち人は、魔力を全く持ちません」
ざわ、と、議場の空気が大きく揺れた。
トアーズの説明が聞き取れないニーナが驚いたように見回すのを見て、ディーンが落ち着かせるように、そっとその背に手を添える。
「落ち人は、私達の世界の人間と婚姻を結び、子を生す事ができます。実際、私が面会した五名の落ち人は皆、こちらで家族を作っています。彼等の子には魔力があり、魔力測定の結果、魔法学校に進学した者も多いのです。ですから、私達と彼等との間に、身体的な違いがあると気づいた者はいなかったでしょう。ただ魔法の使い方を知らぬだけだ、と皆様も認識なさっていたのではないでしょうか。ですが、魔力が皆無である、と言うのは、小さいようで大変大きな違いです」
「では、魔力測定を行えば、異世界人かどうかの判別がつく、と言う事か?」
「さようでございます。宮廷魔術師殿に、魔力測定用の魔法石を用意して頂ければ、すぐにでも」
「承知した」
ヒースの指示で、すぐさま、魔力測定用の魔法石が用意された。
六角柱状の結晶は、成人女性の腕程の大きさがある。
台座に固定された魔法石の横には、目盛りのついた棒が並べられており、魔法学校への進学基準である数値は赤で刻印され、一目で判別できるようになっていた。
目盛りの幅は一定ではなく、数値が小さい程細かく、大きい程幅がある。
これは、魔力の枯渇が生命維持に直結している為で、魔力が少ない人間程、己の魔力量をきちんと把握しておく必要があるからだ。
「私は、金七位の魔力を持っています」
トアーズが魔法石に触れると、下から三分の二程が眩い光を放った。
目盛りと比較すると、丁度、金七位の最低ラインから金六位の最低ラインの半ば。
魔力量に応じて魔法石が光る事で、魔力測定が行われる。
魔力量は、下から、銅、銀、金、白金に分類され、更にその中で、十段階に分けて表示される。
銀十位以上が魔法学校に進学し、魔術師を目指せるのが金十位以上。
貴族は八割以上が銀十位以上、平均して銀五位程度の魔力を持ち、貴族の家に生まれながら魔法学校に通う事もできない魔力しか持たないと、肩身の狭い思いをする。
そして、王族の平均が金九位の所、ヒースは白金十位、ディーンが白金二位だ。
幾ら王族の魔力量が多いと言っても、白金クラスは稀有だった。
彼等の魔力がいかに異常で、周囲の人間を浮足立たせるものであるかが判る。
「ご覧の通り、魔法石には何の加工もなされていません。どなたか、あとお一人位、ご確認頂きましょうか?ご協力頂ける方は、いらっしゃいますか?」
「では、私が」
名乗り出たのは、ウルヴスだった。
「ウルヴス・タイトリーです。ジェラルディン殿下にお仕えしております。魔力は銅二位です」
王宮勤めで銅二位は、魔力量が相当に少ない。
実際、鼻で嗤った者が数名いたが、ウルヴスは気に掛けた様子はなく、魔法石に手を翳した。
光ったのは、魔法学校への進学基準の下。
「確かに、魔法石に問題はない事を確認致しました」
「ご協力有難うございました。では…彼女をこちらへ」
トアーズに促されて、ヒースはニーナに声を掛ける。
「ニーナ。先程のウルヴスのように、あの魔法石に手を触れてみてくれるか?」
ヒースが指した先の魔法石と彼の顔の間で視線を往復させた後、ニーナは魔法石に歩み寄り、ぴと、と右手を当てた。
その様子を、トアーズがじっと観察している。
「おぉ…」
「何と…」
全く変化のない魔法石を見て、感嘆とも、悲鳴ともつかない声が漏れる。
「ご覧の通り、こちらの女性は、私達とは異なる世界で生まれた方です。私達と同じ世界の人間で魔法石の反応がない者は、死者しかおりません」
「では、彼女は落ち人と言う事だな」
ヒースが念を押すと、トアーズは、緩く首を振った。
「落ち人、とは限らないかと」
「…と言うと?」
「ガルダには、落ち人は少ない。けれど、聖女伝説があるのがガルダだけなのはご存知ですか?」
「聖女、とは…あの聖女か?」
ヒースは、思案するように顎を撫でる。
「確かガルダでも、前回、聖女が現れたのは五百年は前の事だと記憶している。他国には、聖女は存在しないのか?」
「はい。他国ではガルダよりも多く落ち人は確認されておりますが、私の調べた限り、異世界人の召喚に成功したのは、ガルダのみです」
「つまり…そなたは、ニーナが落ち人ではなく、聖女の可能性がある、と言うのだな?」
ヒースの問いに、ディーンは漏れそうになった声を必死に堪えた。
「その理由はなんだ?ガルダに、二百五十年以上振りに訪れた落ち人だからか?ニーナが、女性だからか?確かに、落ち人は男性が多いようだが、女性が皆無と言うわけではなかろう?」
「一つ目の理由は、時期です」
「時期?」
「はい。ガルダの聖女召喚は、天月節に合わせて行われます。今年は、百年に一度の天月節の年です」
「確かに、今年は天月節があった。だが、それは二ヶ月前の事だ。今日、空から落ちて来たニーナと、天月節は関係なかろう」
「百年に一度の機会なのですよ。二ヶ月など、誤差の範囲でしょう」
「誤差、か」
ヒースは苦笑を漏らす。
「なるほど。して、二つ目は?」
「勿論、女性だから、です。落ち人に女性が少ない理由は、推測しておりますが」
「ほぅ?」
「落ち人は、どこに落ちるか選べません。幸運にも、人里近くに落ちた者だけが保護されているのです。魔法を使えない彼等が、人里離れた、野生の獣が住まう場所に放り出されたら?生き延びる可能性が高いのは、体力と筋力に勝る男性でしょう。また、私達の言葉が話せない異国人を見て、落ち人と言う発想のない人間がどう行動するか、想像なさった事はありますか?生活するのがやっとの集落では、親切に保護する事は難しいのです。労働奴隷のような扱いを受ける者もあったでしょう。女性は、なおの事。若い女性ならば、働き手を増やす――つまり、子を生む為に、家から出されなかった事も考えられます。言葉が話せない以上、彼等は自身の身に起きた不条理を、訴え出る事もできません」
真っ青になったディーンが、庇うように、ニーナの肩を抱き寄せた。
ディーンの行動に、ニーナが不思議そうに彼を見上げたが、トアーズの話に気を取られているディーンは気づかない。
「なるほどな…確かに、そなたの意見に頷ける所もある。だが、だからと言って、ニーナが聖女、と言うのは論理の飛躍ではないか?落ち人と聖女の違いとは、何だ?」
「大きくは、偶然によって世界の壁を越えたか、召喚によって招かれたか、でしょう」
「ニーナが聖女ならば、何者かによって召喚されたと言う事になる。そなたの話によれば、聖女召喚の儀を行えるのは、ガルダだけなのだろう?では、この国の何者かが、聖女召喚と言う大事に成功した、と言うのか?」
ヒースの言葉は、一聴すると聖女召喚を認めているように聞こえる。
だが、その声の抑揚のなさに、重鎮達は息を飲んで黙り込んだ。
トアーズもまた、もごもごと口籠る。
「身に覚えがある者がいれば、名乗り出よ。噂を聞いた、と言う者でもよい」
無言のままの場内に、ガンズネルが口を開いた。
「トアーズは、飽くまで可能性を挙げているだけにございます」
「あぁ、そうだな。では、トアーズ殿。ニーナが、落ち人ではなく聖女である、とする確証はないと言う事だな?」
「……はい」
「ならば、私は彼女を、落ち人として遇する事としよう」
ヒースは、場内を睥睨する。
「皆も、異論はないか」
「はっ」
「ジェラルディン。そなたはどうだ」
「陛下に従います。その上で、お願いが」
「ほぅ?何だ」
「是非とも、私をニーナの教育係に任命してください。私は、十年の長きを王宮から離れて過ごしました。それ故に、昨今の情勢に疎い。ニーナを指導しながら、己の見識もまた、深められると思うのです。その上で、後見人として、庇護したいと考えております」
「お待ちを、ジェラルディン殿下。折角、異世界人研究者がガルダに滞在しておるのです。ならば、異世界人に詳しい者が教育係につくべきでは」
口を挟んだのは、ガンズネル。
なるほど、それもそうだ、と頷く重鎮達をよそに、ディーンは首を横に振った。
「トアーズ博士の助力を乞う事もあるだろうが、ニーナを保護し、庇護するのは私でありたい」
「ですが、」
ディーンは、おもむろにニーナの肩を抱き寄せると、彼女の髪に口づける。
彼等の会話が聞き取れないニーナは、きょとんとした顔でディーンを見上げ、その姿に議場にいた面々は、ニーナを色恋に不慣れな小娘である、と認識した。
「ニーナは愛らしい。初めてこの世界で出会ったのが私なのだから、その優位性を活かしたいと思うのは、当然だろう?」
ふっ、と噴き出したのはヒース。
「随分と私欲に塗れているな。よい、ニーナの事はジェラルディンに一任しよう」
「ですが、陛下!」
「十年離れていた弟の可愛い我儘だ、叶えてやってもいいだろう?」
落ち人と確定した女性の後見人となれば、王宮内での勢力図が変わる。
成人している、と言っても、この世界では右も左も判らない赤子のようなものなのだから、信頼させ、依存させてしまえば、様々な使い方ができる。
一見して、異性に不慣れな初心な小娘だ。
一門の見目の良い男を接触させ、配偶者に選ばれれば、その恋心を利用して落ち人の知識を独占できる――…。
様々な野望から、何か言いたげな重鎮達を皮肉気に見遣ると、ヒースは席を立つ。
「落ち人の披露目は、ニーナがガルダの言葉をある程度身に着けてから行う。それまでは、箝口令を敷き、王宮外への情報漏洩はまかりならん。よいな?」
「…はっ」
ディーンが独占欲を見せた事で、当面の間は、落ち人との婚姻を申し出る者はいないだろう。
王弟が望んでいる女性に言い寄れば、王家の不興を買いかねない。
悔し気な顔で退室していく重鎮達をよそに、ディーンもまた、ウルヴスとライオネルを従えて、ニーナを後宮へと連れて行く事にした。
「殿下、随分と演技がお上手で」
「ウルヴスを参考にしたんだ」
ウルヴスが笑顔のままで固まり、ライオネルが堪えきれずに吹き出す。
「それに…あながち、演技、ってわけじゃないよ」
真っ直ぐに背筋を伸ばして前を見るニーナの横顔に、ぽつり、と、ディーンが零す。
その言葉は、翻訳機能を遮断したままのニーナには、理解できていない。
「…いいんだ、まずは、一つずつ、だから」
こうして、ニーナと聖女の関連性を完全に否定しきる事はできなかったものの、ニーナが異世界人である事、ディーンが保護者となった事を強く印象付けて、会議は終了したのだった。
想定外の広さにニーナの足が竦むと、ディーンが、
「大丈夫だよ」
と、すかさず声を掛ける。
最も奥、装飾の豪華な椅子に座っているのがヒース。
彼の背後には、明らかに護衛と思われる大柄な男性が立っている。ライオネルと同じ位の身長があるだろう。
そして、ディーンが言う所の「おじさん」達が、両翼に合わせて二十名程だろうか。
ディーンにエスコートされるがまま、すり鉢の底にあたる演壇へと向かうニーナを、不躾な視線とヒソヒソ声が追い掛ける。
「小さいな」
「ジェラルディン殿下は、子供相手でも、淑女になさるような完璧なエスコートだ」
「お相手を見つけられるのも、存外、早いやもしれんぞ」
「子供なのかと思ったが、ドレスの丈を見る限り、そうではないのか?随分と落ち着いている」
「黒髪に黒い目と言うのは、見慣れぬが神秘的ではあるな。飾ればそれなりに化けそうだ」
「異世界人と言うが、普通の娘ではないか」
値踏みされる事は覚悟していた。
言葉の意味が理解できないからと言って、声の調子から何となくニュアンスは伝わるものだ。
移動手段が馬車のこの世界で、人の行き来は容易ではない。
二百五十年以上、落ち人が現れていないガルダ王国に、実在する落ち人と対面した経験のある人間は、ほとんどいない筈だ。
半ば想像上の存在である落ち人と言う触れ込みのニーナを見て、疑うのも、好奇の目を向けるのも、当然だろう。
ニーナが演壇の前に立ち、その背後にディーンが控えると、ヒースが、
「落ち人よ、ガルダによく来てくれた」
と、口火を切った。
マイクが見えるわけでもないのに、その声は遠くまでよく響く。
これも、魔法なのだろうか。
「陛下。こちらは、私が保護した落ち人の女性です。ガルダの言葉を話せませんので、まだ、意思疎通は図れておりません。名だけは恐らく、聞き取る事ができたかと」
「ふむ。では、名は何と申す」
「はい。ニーナ、と言うようです」
ちら、とディーンに視線を向けられて、ニーナはヒースに向かい、お辞儀をした。
『はじめまして、ニーナです』
ガルダとは異なる様式ながら、背筋のぴんと伸びた美しい礼に、ほう、と言う溜息のような声が会場中から漏れる。
「なるほど。では、ジェラルディン。ニーナを保護した時の状況を、聞かせてくれるか」
「はい、陛下」
ディーンは、よどみなく説明を始める。
ライオネルとウルヴスと共に庭を歩いていた所、上空に不審な気配を感じた。
見上げると、悲鳴を上げながら人影が落下してくる所だったので、慌てて風魔法で速度を落とし、抱き留めた。
身元を改めようとしたものの、言葉が全く通じない。
辛うじて、名だけは確認できた。
当初は二回目の成人前の少女だと思ったが、身支度を整えさせた女官によると、本人が成人していると主張している。
「現れた状況や、近隣国で見掛けない容貌から、落ち人ではないかと推測するに至りました。落ち人であれば、過去の例からしても、王宮にて保護する事が必要かと」
「なるほどな…」
ヒースは、顎を軽く撫でると、周囲の重鎮達の顔を見回した。
「ジェラルディンの説明に、何か不審はあるか?」
一人が、す、と右手人差し指を立てる。
総白髪で頼りない程に細いのに、ぎょろりとそこだけ大きな目が印象的な壮年の男性だ。
「ガンズネル宰相、どうだ?」
「まず、その女性が真実、落ち人であると言う証拠が欲しいですな。他国の間諜が、落ち人の振りをして王宮に入り込もうとしていないとも限りません」
「ふむ。王宮を囲う結界が破られたとの報告は、宮廷魔術師から受けていない。結界を飛び越えて来た可能性はなかろう。後は、正式な手続きを取って城門を入った者が、何らかの方法で空から落ちて来た、と言う事が考えられるか。ジェラルディン、庭、と言うのは、どの辺りの事だ?」
「正門から春の庭へと差し掛かる辺りです」
「では、周辺に建物はないな…王宮の結界内で、飛行魔法は使用できない。建物の上階から飛び降りたのかと思ったが、そう言うわけでもなさそうだ」
ヒースはそう言うと、ガンズネルに、
「他には、何を確認すればいいだろうか」
と尋ねた。
「実は、落ち人とこの世界の人間を、容易に見分ける方法があるのだそうです」
「ほぅ?」
ヒースの目が、きらりと光る。
そのような情報は、王家所蔵の書物には記されていなかった。
「落ち人発見の報がもたらされて半日も経っていないと言うのに、宰相は随分と手際のよい事だ」
皮肉気なヒースの物言いにも気づかないように、ガンズネルは穏やかに返す。
「えぇ。偶然にも、二年程前から、我が王都屋敷に異世界人に関する研究者が滞在しておりまして」
「異世界人研究だと?」
「海を渡った先のスワグからやって来た男です。各国を渡り歩いて、落ち人の記録を収集し、彼等のもたらした知識を系統事に分類、研究しておるのです。我が国は、他国と比較しても極端に落ち人の訪れが少ない。スワグは逆に、五十年に一度は落ち人が発見されるのだとか。その差が何に起因するのか、研究したいと請われましてな」
「なるほど、それは興味深い。では、その男が、落ち人の見分け方を見つけ出したと言う事か?」
「えぇ。陛下のご許可が頂ければ、その男をこの場に召喚致しますが。ご入用かと、控えの間に連れて来ております」
「ふむ…許す」
「有難うございます」
ちら、と、ガンズネルが背後の側近に目配せすると、側近は即座に男を呼び出す為だろう、議場を後にする。
ディーンは、ガンズネルの言葉を脳内で繰り返しながら、違和感を覚えていた。
彼は、『異世界人研究』と言っていた。
『落ち人の研究』ではない。
それはつまり、落ち人以外の異世界人についても詳しいと言う事ではないのか。
ニーナがこの世界にやって来たのは、二ヶ月弱前。
二年前からガンズネル邸に滞在していると言うその男が、聖女召喚に全くの無関係と思うには、不審な点が多すぎる。
「あぁ、来たか。陛下、この者が、我が屋敷に滞在しているダン・トアーズにございます」
「ガルダ王国へよくぞ参られたトアーズ殿」
「スワグから参りましたダン・トアーズと申します。此度は貴重な機会を有難うございます」
トアーズは、褪せたように白茶けた髪と同じく薄い茶色の瞳をした老年に差し掛かった男性だった。
発音に癖はあるが、ガルダ語を上手に操っている所を見ると、元々、高い教養が得られる地位にあるのだろう。
伸びるに任せたままのような長髪は、王宮に上がる為かきちんと櫛が通されており、背後に緩く一つの三つ編みにされている。
見慣れぬ衣服は、スワグの礼装だ。
丈が長く膝下まであるゆったりした上衣に細い脚衣を合わせてあるのだが、上質な素材が使われている事が離れていても判る。
「そなたは、落ち人とこちらの世界の人間を見分ける方法を編み出したと宰相に聞いたのだが、それは事実か?」
「はい。私の祖国スワグでは、現在、存命の落ち人が二名おります。世界を巡り、更に三名の存命者にも、会って参りました。私は元々、スワグで魔術師となるべく学んでおりました。魔術の研究の一環として落ち人と面会した事で、彼等の身体的特徴に気づく事となりました。標本数が五名では少ないと思われるかもしれませんが、過去の記録を紐解く限り、恐らく、私の推測に間違いはないと考えております」
ヒースは、ふむ、と頷いた。
「そなたの推測を尋ねてもよいか?」
「はい。落ち人は皆、魔法を一切使いません。彼等によれば、彼等の暮らしていた世界には魔法が存在せず、そもそも使用した事がないからだ、と言います。落ち人のもたらす知識は、魔法が存在しないが故に創意工夫されたものなのです。一方、私達の世界では、生活と魔法が密接に関係しております。魔力の多寡の個人差はあれども、魔法が全く存在しない世界は想像ができません。そもそも、魔力が皆無の人間は、存在しない。魔力が枯渇すれば、死に至るからです。例え、ごく微量の魔力しか持たない者であっても、ゼロはあり得ない。ところが、」
トアーズは、そこで一度、言葉を切った。
「落ち人は、違います」
「違う?」
ヒースが、身を乗り出す。
「はい。落ち人は、魔力を全く持ちません」
ざわ、と、議場の空気が大きく揺れた。
トアーズの説明が聞き取れないニーナが驚いたように見回すのを見て、ディーンが落ち着かせるように、そっとその背に手を添える。
「落ち人は、私達の世界の人間と婚姻を結び、子を生す事ができます。実際、私が面会した五名の落ち人は皆、こちらで家族を作っています。彼等の子には魔力があり、魔力測定の結果、魔法学校に進学した者も多いのです。ですから、私達と彼等との間に、身体的な違いがあると気づいた者はいなかったでしょう。ただ魔法の使い方を知らぬだけだ、と皆様も認識なさっていたのではないでしょうか。ですが、魔力が皆無である、と言うのは、小さいようで大変大きな違いです」
「では、魔力測定を行えば、異世界人かどうかの判別がつく、と言う事か?」
「さようでございます。宮廷魔術師殿に、魔力測定用の魔法石を用意して頂ければ、すぐにでも」
「承知した」
ヒースの指示で、すぐさま、魔力測定用の魔法石が用意された。
六角柱状の結晶は、成人女性の腕程の大きさがある。
台座に固定された魔法石の横には、目盛りのついた棒が並べられており、魔法学校への進学基準である数値は赤で刻印され、一目で判別できるようになっていた。
目盛りの幅は一定ではなく、数値が小さい程細かく、大きい程幅がある。
これは、魔力の枯渇が生命維持に直結している為で、魔力が少ない人間程、己の魔力量をきちんと把握しておく必要があるからだ。
「私は、金七位の魔力を持っています」
トアーズが魔法石に触れると、下から三分の二程が眩い光を放った。
目盛りと比較すると、丁度、金七位の最低ラインから金六位の最低ラインの半ば。
魔力量に応じて魔法石が光る事で、魔力測定が行われる。
魔力量は、下から、銅、銀、金、白金に分類され、更にその中で、十段階に分けて表示される。
銀十位以上が魔法学校に進学し、魔術師を目指せるのが金十位以上。
貴族は八割以上が銀十位以上、平均して銀五位程度の魔力を持ち、貴族の家に生まれながら魔法学校に通う事もできない魔力しか持たないと、肩身の狭い思いをする。
そして、王族の平均が金九位の所、ヒースは白金十位、ディーンが白金二位だ。
幾ら王族の魔力量が多いと言っても、白金クラスは稀有だった。
彼等の魔力がいかに異常で、周囲の人間を浮足立たせるものであるかが判る。
「ご覧の通り、魔法石には何の加工もなされていません。どなたか、あとお一人位、ご確認頂きましょうか?ご協力頂ける方は、いらっしゃいますか?」
「では、私が」
名乗り出たのは、ウルヴスだった。
「ウルヴス・タイトリーです。ジェラルディン殿下にお仕えしております。魔力は銅二位です」
王宮勤めで銅二位は、魔力量が相当に少ない。
実際、鼻で嗤った者が数名いたが、ウルヴスは気に掛けた様子はなく、魔法石に手を翳した。
光ったのは、魔法学校への進学基準の下。
「確かに、魔法石に問題はない事を確認致しました」
「ご協力有難うございました。では…彼女をこちらへ」
トアーズに促されて、ヒースはニーナに声を掛ける。
「ニーナ。先程のウルヴスのように、あの魔法石に手を触れてみてくれるか?」
ヒースが指した先の魔法石と彼の顔の間で視線を往復させた後、ニーナは魔法石に歩み寄り、ぴと、と右手を当てた。
その様子を、トアーズがじっと観察している。
「おぉ…」
「何と…」
全く変化のない魔法石を見て、感嘆とも、悲鳴ともつかない声が漏れる。
「ご覧の通り、こちらの女性は、私達とは異なる世界で生まれた方です。私達と同じ世界の人間で魔法石の反応がない者は、死者しかおりません」
「では、彼女は落ち人と言う事だな」
ヒースが念を押すと、トアーズは、緩く首を振った。
「落ち人、とは限らないかと」
「…と言うと?」
「ガルダには、落ち人は少ない。けれど、聖女伝説があるのがガルダだけなのはご存知ですか?」
「聖女、とは…あの聖女か?」
ヒースは、思案するように顎を撫でる。
「確かガルダでも、前回、聖女が現れたのは五百年は前の事だと記憶している。他国には、聖女は存在しないのか?」
「はい。他国ではガルダよりも多く落ち人は確認されておりますが、私の調べた限り、異世界人の召喚に成功したのは、ガルダのみです」
「つまり…そなたは、ニーナが落ち人ではなく、聖女の可能性がある、と言うのだな?」
ヒースの問いに、ディーンは漏れそうになった声を必死に堪えた。
「その理由はなんだ?ガルダに、二百五十年以上振りに訪れた落ち人だからか?ニーナが、女性だからか?確かに、落ち人は男性が多いようだが、女性が皆無と言うわけではなかろう?」
「一つ目の理由は、時期です」
「時期?」
「はい。ガルダの聖女召喚は、天月節に合わせて行われます。今年は、百年に一度の天月節の年です」
「確かに、今年は天月節があった。だが、それは二ヶ月前の事だ。今日、空から落ちて来たニーナと、天月節は関係なかろう」
「百年に一度の機会なのですよ。二ヶ月など、誤差の範囲でしょう」
「誤差、か」
ヒースは苦笑を漏らす。
「なるほど。して、二つ目は?」
「勿論、女性だから、です。落ち人に女性が少ない理由は、推測しておりますが」
「ほぅ?」
「落ち人は、どこに落ちるか選べません。幸運にも、人里近くに落ちた者だけが保護されているのです。魔法を使えない彼等が、人里離れた、野生の獣が住まう場所に放り出されたら?生き延びる可能性が高いのは、体力と筋力に勝る男性でしょう。また、私達の言葉が話せない異国人を見て、落ち人と言う発想のない人間がどう行動するか、想像なさった事はありますか?生活するのがやっとの集落では、親切に保護する事は難しいのです。労働奴隷のような扱いを受ける者もあったでしょう。女性は、なおの事。若い女性ならば、働き手を増やす――つまり、子を生む為に、家から出されなかった事も考えられます。言葉が話せない以上、彼等は自身の身に起きた不条理を、訴え出る事もできません」
真っ青になったディーンが、庇うように、ニーナの肩を抱き寄せた。
ディーンの行動に、ニーナが不思議そうに彼を見上げたが、トアーズの話に気を取られているディーンは気づかない。
「なるほどな…確かに、そなたの意見に頷ける所もある。だが、だからと言って、ニーナが聖女、と言うのは論理の飛躍ではないか?落ち人と聖女の違いとは、何だ?」
「大きくは、偶然によって世界の壁を越えたか、召喚によって招かれたか、でしょう」
「ニーナが聖女ならば、何者かによって召喚されたと言う事になる。そなたの話によれば、聖女召喚の儀を行えるのは、ガルダだけなのだろう?では、この国の何者かが、聖女召喚と言う大事に成功した、と言うのか?」
ヒースの言葉は、一聴すると聖女召喚を認めているように聞こえる。
だが、その声の抑揚のなさに、重鎮達は息を飲んで黙り込んだ。
トアーズもまた、もごもごと口籠る。
「身に覚えがある者がいれば、名乗り出よ。噂を聞いた、と言う者でもよい」
無言のままの場内に、ガンズネルが口を開いた。
「トアーズは、飽くまで可能性を挙げているだけにございます」
「あぁ、そうだな。では、トアーズ殿。ニーナが、落ち人ではなく聖女である、とする確証はないと言う事だな?」
「……はい」
「ならば、私は彼女を、落ち人として遇する事としよう」
ヒースは、場内を睥睨する。
「皆も、異論はないか」
「はっ」
「ジェラルディン。そなたはどうだ」
「陛下に従います。その上で、お願いが」
「ほぅ?何だ」
「是非とも、私をニーナの教育係に任命してください。私は、十年の長きを王宮から離れて過ごしました。それ故に、昨今の情勢に疎い。ニーナを指導しながら、己の見識もまた、深められると思うのです。その上で、後見人として、庇護したいと考えております」
「お待ちを、ジェラルディン殿下。折角、異世界人研究者がガルダに滞在しておるのです。ならば、異世界人に詳しい者が教育係につくべきでは」
口を挟んだのは、ガンズネル。
なるほど、それもそうだ、と頷く重鎮達をよそに、ディーンは首を横に振った。
「トアーズ博士の助力を乞う事もあるだろうが、ニーナを保護し、庇護するのは私でありたい」
「ですが、」
ディーンは、おもむろにニーナの肩を抱き寄せると、彼女の髪に口づける。
彼等の会話が聞き取れないニーナは、きょとんとした顔でディーンを見上げ、その姿に議場にいた面々は、ニーナを色恋に不慣れな小娘である、と認識した。
「ニーナは愛らしい。初めてこの世界で出会ったのが私なのだから、その優位性を活かしたいと思うのは、当然だろう?」
ふっ、と噴き出したのはヒース。
「随分と私欲に塗れているな。よい、ニーナの事はジェラルディンに一任しよう」
「ですが、陛下!」
「十年離れていた弟の可愛い我儘だ、叶えてやってもいいだろう?」
落ち人と確定した女性の後見人となれば、王宮内での勢力図が変わる。
成人している、と言っても、この世界では右も左も判らない赤子のようなものなのだから、信頼させ、依存させてしまえば、様々な使い方ができる。
一見して、異性に不慣れな初心な小娘だ。
一門の見目の良い男を接触させ、配偶者に選ばれれば、その恋心を利用して落ち人の知識を独占できる――…。
様々な野望から、何か言いたげな重鎮達を皮肉気に見遣ると、ヒースは席を立つ。
「落ち人の披露目は、ニーナがガルダの言葉をある程度身に着けてから行う。それまでは、箝口令を敷き、王宮外への情報漏洩はまかりならん。よいな?」
「…はっ」
ディーンが独占欲を見せた事で、当面の間は、落ち人との婚姻を申し出る者はいないだろう。
王弟が望んでいる女性に言い寄れば、王家の不興を買いかねない。
悔し気な顔で退室していく重鎮達をよそに、ディーンもまた、ウルヴスとライオネルを従えて、ニーナを後宮へと連れて行く事にした。
「殿下、随分と演技がお上手で」
「ウルヴスを参考にしたんだ」
ウルヴスが笑顔のままで固まり、ライオネルが堪えきれずに吹き出す。
「それに…あながち、演技、ってわけじゃないよ」
真っ直ぐに背筋を伸ばして前を見るニーナの横顔に、ぽつり、と、ディーンが零す。
その言葉は、翻訳機能を遮断したままのニーナには、理解できていない。
「…いいんだ、まずは、一つずつ、だから」
こうして、ニーナと聖女の関連性を完全に否定しきる事はできなかったものの、ニーナが異世界人である事、ディーンが保護者となった事を強く印象付けて、会議は終了したのだった。
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