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「ごめん、ニーナ」
「ん?」
いつもの大衆居酒屋。
金曜日の夜らしく、開放的になってざわざわと人のさんざめく声の中、そう言って、男は頭を下げた。
「何?ハヤト、どうしたの?あ、もしかして、また、お財布忘れた?いいよ、ここは出すし」
「そう、じゃなくて…」
言いながら、視線をちら、とニーナの顔から右に逸らす。
何か言い出しにくい事がある時のハヤトの癖だと、ニーナには判っていた。
付き合って五年。
互いの癖はもう、熟知している。
「…何?」
だから、ニーナの勘が、何か不穏なものを告げていた。
「はーい、お通しでーす」
二人の間に漂う微妙な空気に気づかない様子で、アルバイトの店員が、目の前に美味しそうなポテトサラダを二つ、置いていく。
「ほら、ポテサラ来たよ。食べよう?」
殊更、明るい声でハヤトを促すものの。
「…ごめん…ニーナ」
「え?」
あぁ、この先は、聞きたくない。
「別れて欲しい」
「な…」
「子供ができたんだ」
少し早口で、ニーナの目を見ないまま、彼は言った。
そのまま、上着を掴んで、ペコリと頭を下げて。
ハヤトは、出て行ってしまう。
「は…?」
確かに、ここは払うとは言ったけれど。
それは、付き合っている男だからであって、別れ話をした男の分を払う気はないのだけれど。
ぎこちなくハヤトの背を視線で追うと、居酒屋の自動ドアの外で、ニーナをじっと見ている若い女性がいた。
店から出て来たハヤトの腕にこれみよがしに抱き着いて、こちらを見て勝ち誇った顔をする女性に、ニーナは一気に脱力する。
あれは確か、ハヤトが今いる部署の後輩だ。
ニーナも、顔だけは知っている。
「何なの…」
五年付き合っていた相手に、この仕打ちって。
前回、会った時に、結婚情報誌を持って来たのはハヤトだったと言うのに。
隣の席に置いた鞄から、やたらと自己主張する分厚い結婚情報誌の背表紙が見えて、ニーナはきつく、下唇を噛んだ。
***
ニーナがハヤトと出会ったのは、五年前。
先輩社員と、新入社員としてだった。
ハヤトは、姉が二人いる末っ子長男で、年上女性に甘える事に慣れていた。
少し抜けている所のある彼を指導していくうちに告白されて、付き合うようになった、と言う、ありがちな出会いだ。
丁度その頃、恋人と結婚観の相違で別れた所だったのもあって、押されるがままに受け入れてしまった、と言うのはある。
年下ならば、すぐに結婚とか子供とか言い出さないだろう、と言う気持ちも、全くなかったとは言えない。
育ての親だった祖母が大学時代に亡くなってから、ニーナには『家族』と呼べる存在がいない。
だから、一人でいる事に寂しさを感じていたのは事実だ。
これまでの交際相手の中で最長の五年間、付き合いが続いたのは、ハヤトがニーナのペースを乱さずにいてくれたから。
一人でいるのは寂しいとは言え、密に連絡を取ってベタベタしたいタイプではないニーナと、ハヤトはつかず離れずの距離感で付き合ってくれた。
何しろ、職場恋愛なので、会社でも顔を見る。
今では部署は違うが、会おうと思えばいくらでも会える距離にいるのだ。
そんなハヤトが、はにかんだ顔で結婚情報誌を持って来たのは、一か月前の事。
「次のデートは、こう言う所もいいと思って」
披露宴で提供されるコース料理を試食出来る、結婚式場の人寄せイベント。
直接、言葉でプロポーズされたわけではない。
けれど、あぁ、彼はこの先の人生、私の隣で過ごすつもりなのか、と、こそばゆいような気持ちと共に、既婚者の友人達の言葉が脳内で再生されて。
これがきっと、タイミングでありご縁なのだろう、と思っていたら…これだ。
確かに、デートは久し振りになってしまった。
だが、それは職場が繁忙期に入ったが故の事。
連絡を絶っていたわけではないし、ニーナが多忙だったのは、同じ職場であるハヤトにも十分に判っていた筈。
そもそも、子供ができた、って。
別れる前から他の女性と関係を持っていたと言う事は、明確な浮気じゃないか。
「…くだらない」
やっぱり、結婚なんて、くだらない。
「…あ~~…来週、会社行きたくないな…」
部署が違うと言っても、社内でうろうろしていたら、ハヤトに会ってしまう。
ニーナに向かって、勝った、と顔に書いていた後輩女性にも。
プスプスと腹の中に渦巻くこの気持ちを、どうしてくれよう。
そもそも、婚約、ってどこから始まるのだろうか。
結婚情報誌を渡されて、「式場巡りしよう。どう言う所が好きか、見てみてよ」と言われたら、結婚しよう、って事だと思うじゃないか。
でも、少なくともハヤトにとっては、それはイコール婚約ではなかったのだ。
海外セレブみたいに契約書を作っておけば、違約金でも貰えただろうか。
少なくとも、お通しと生ビール代位は払って欲しい。
請求しても、いいだろうか。
「…飲もう」
一人で取り残された居酒屋で飲み続ける気持ちにはなれなくて、席に着いたと同時に頼んだ生ビールを二人分飲んで、帰って来てしまった。
普段、家で飲む事はないから、家の冷蔵庫にはハヤトが泊まりに来た時に買って余った缶ビールが、一本しかなかった。
それを空けた所で、酔えるわけでも、むしゃくしゃが収まるわけでもなく。
コンビニで買って来よう、と重い腰を上げた。
「…タイミング、ねぇ…」
確かに、ここ一年位、ハヤトは結婚を匂わせていたように思う。
ニーナももうすぐ三十になるし、とか何とか。
イマドキ、三十過ぎての初婚なんて当たり前だ。
都会であればある程、初婚の平均年齢は上がっていくものなのだから。
けれど、彼の姉二人が二十代後半で結婚して「駆け込みセーフ」と言っていたから、ハヤトの中では一つの線引きだったのだろう。
気づかない振りをして、躱し続けた結果がこれなのか。
…だったら、やはり、自分に結婚は向いていない。
「あぁ!もう、やめやめ」
一人暮らしになってから、独り言は明らかに増えた。
これまでは返事をしてくれる祖母がいたのに、祖母が亡くなってから借りた2Kの部屋の中で、返って来る言葉はない。
もう少し可愛い部屋着にしたら?と言われても、頑として変えなかった杢グレーにゆるキャラがプリントされたスウェットのルームウェアのまま、前髪をちょんまげに結って、風呂上りのすっぴんに眼鏡、スマホと家の鍵を手に、ニーナは外に出た。
さやかな夜風に、顎のラインで切り揃えた髪が揺れる。
足元はサンダル履きだが、最寄りのコンビニは、のんびり歩いても三分だ。
残業が長引くと夕食を買う為によく寄るコンビニだから、本当は余り、気の抜けた格好で行きたくはない。
けれど、やけ酒を買いに行く為だけに、身綺麗にする気にもなれなかった。
「やけ酒…」
そうか、失恋したのか、と改めて気が付いて、ニーナは顔を歪めた。
熱烈な恋をしていた、とは思えない。
どちらかと言うと、ハヤトの熱量に負けた、と思っていた。
なのに、フラれたのは自分だなんて。
「…今日、誕生日だったのに」
ニーナは今日、三十になった。
誕生日、しかも、金曜の夜なのに、ハヤトが誘ったのはいつもの居酒屋で、その時点で「あれ?」と全く思わなかったのか、と言われると、多分、何かの予感はしていた。
昔は、友人達からもお祝いメッセージが届いていたものなのに、今年は一通もない。
仕方がない。
元々、それ程、友人の数は多くないし、数少ない友人は皆、育児や仕事で忙しい。
人生の一時を共にしただけのニーナよりも、家族やキャリアが大事なのは当然の事だ。
それこそ、縁があれば、いずれ、また、道が交わる事もあるだろう、と思っていたけれど。
「…何か、疲れたなぁ…」
当然のように、生みの両親からも連絡がない。
彼等は、新しい家庭の事で忙しいのだ。
幼いうちに手離して、成長の様子を見てもいないニーナの事など、意識の片隅にもないのだろう。
そもそも、誕生日を覚えているのかどうか。
幼い頃は、
「パパとママからだよ」
と言いながら、祖母がプレゼントを渡してくれたけれど、あれは、両親に捨てられたニーナに対する祖母の憐みだ。
祖母はいつも、ニーナに、
「可哀想な子」
と言っていたから。
碌に養育費すら払わなかった母は、祖母が生前贈与としてニーナの大学の学費を支払うと決めた時に、「うちの子達の学費も、払ってくれるんでしょうね?」と不満を漏らしていた。
「うちの子」に、当然、ニーナは入っていない。
そんな母を育てたのは祖母だから、娘の罪滅ぼしとして学費を支払ってくれたのだが、そのせいで祖母に遺産らしい遺産がないと判った葬式以降、母からの音沙汰はない。
遺産がないのは、当たり前だ。
養育費が不足していたせいで、祖母は、自分の財産でニーナを育ててくれたのだから。
アパートの二階の部屋から、鉄製の外階段へと向かう。
LEDの街灯がやたらと眩しくて夜空に目を遣ると、いつもよりも大きな満月が見えた。
「今日って、スーパームーンだっけ…?」
ネットニュースのヘッドラインで見た記憶はない。
スーパームーンだとしても、やけに大きく見えるけれど。
月に意識を向けながら、階段を降り始めたのが悪かったのだろう。
「へぁ?!」
ずるり。
サンダルが脱げかけて、階段を踏み外す。
その衝撃で眼鏡が飛んだのが見えて、レンズに傷が入らない事を祈った。
勤務中はコンタクトレンズを使用しているけれど、家にいる間は裸眼で過ごしたい。
慌てて体勢を立て直そうとしたものの、ニーナは後ろに引っ繰り返る。
尻餅をつきながら階段落ちとは、おしりに青痣必須だ。
青痣で済めばいいけれど、尾骶骨骨折も危ぶまれるかもしれない。
何しろ、骨密度に不安を感じ始めるお年頃だ。
来るべき衝撃に備えて、思わず目を閉じたが――…。
「…いっったぁぁ…く、ない…?」
痛くない。
と言うか、寧ろ、柔らかい。
恐る恐る目を開けて、座り込んだ地面に手で触れて確認する。
何とも言えない弾力は、ハヤトと奮発して行った高級ホテルのベッドのようで…。
「え?あれ?」
アパート前の街灯は、あれだけ煌々と光っていたのに、切れてしまったのか。
ニーナの周辺は、暗くて静かだ。
静か?
何故だろう。
アパートは表通りから一本入った所にあるとは言え、まだ、人々が寝るには早い時間だ。
なのに、何でこんなに静かなのだろう。
スマホ。
スマホは?あれで、灯りを付ければいいのでは。
けれど、周囲を探っても、指先は柔らかな布にしか触れない。
「…きみ、は」
思いがけず近くから低い男性の声がして、ニーナは慌てて、顔を上げた。
眼鏡をなくしたせいでぼんやりとした視界の中。
手を伸ばせば触れられる距離に、人影が座っている。
いや、上半身を起こし掛けた形で固まっている、と言った方がいいか。
「君は、どこから来た…?」
押し殺した声は、低いのに聞き取りやすい。
「どこ、って…階段から落ちて…」
背後を振り返ったニーナは、声にならない悲鳴を上げる。
ない。
階段が、ない。
絶対に落ちた筈なのに、そこにあったのは、レースカーテンのような布地。
「…え?」
前後左右を確認してみても、周囲はぐるりとレースカーテンで囲われている。
少しずつ、暗闇に慣れて来た目で、背中に冷や汗を掻きながら確認する。
座り込んでいるのは明らかにベッドのマットレスで、目の前の男性が着ているのは、ナイトウェアだろう。
「…えーっと…えぇ…?」
人間、理解不能な状況に陥ると、何も言葉が出ないらしい、と、ニーナは知った。
「ちょっと、待って…」
誰に急かされたわけでもないけれど、待ってくれ、と言いたくなる。
何だ?何が起きた?
「私…死んだ…?」
酔ってない、と思っていたけれど、自分の認識よりも酔っていたのか。
階段から落ちて、打ち所が悪くて死んでしまったと言う事か。
となると。
「あの、ここって、天国ですか…?」
清廉潔白な人生を歩んで来た、と胸は張れないけれど、地獄に行く程、悪い事をしたとも思えない。
「…天国、では、ないかな」
目の前の男性が、どこか困ったように眉を顰めたのが判る。
ここはどうやら、天蓋で覆われたベッドの上らしい。
レースカーテンのような天蓋を透かして、窓から月明りらしきものが入って来ている。
男性は、はっきりとした年齢は不明だが、声からするとまだ若そうだ。
「えーっと…では…どこ、なんでしょう…?」
「ここは…」
言い掛けながら、男性は、自分が上半身を起こし掛けた状態のまま、固まっていた事に気が付いたらしい。
体を起こし直して、ベッドの上にあぐらを掻いた。
「このような姿で失礼するが…貴方は、落ち人だろうか?」
「オチビト?」
「あぁ。ここは、ガルダ王国と言う国だ。聞き覚えは?」
「ない、です、けど…世界の国名を全部覚えているわけではないので…と言うか、私、日本にいた筈で」
「ニホン?聞き覚えのない名前だ。やはり、君は落ち人なのだな」
男性の落ち着いた声に引きずられるように、少しずつ、ニーナの動揺が収まっていく。
暗闇に慣れて来た目で改めて男性の顔を見ると、色こそ判然としないものの、ぼやけた視界の中でも随分と整っているのが判る。
残念ながらこの距離では判然としないけれど、ハリウッド映画に似たような顔立ちの俳優が出演していた気がする。
「えぇと…?オチビト?って何ですか…?」
「世界の挟間を擦り抜けて、こちらの世界に落ちて来た人の事だ」
「あぁ…落ちた人、で、落ち人…」
頭の中で漢字変換できてすっきりしたものの、外国人顔イケメンに流暢な日本語を話されても、違和感しかない。
「あれですね、異世界転移ってやつ。友達に借りて読んだ事あります。あぁ、あの設定なんだ…はは…」
でも、設定はどうでもいいから、家に帰りたい。
庶民相手に、随分と金の掛かったドッキリだ。
一般人とは思えない顔立ちは、駆け出しの俳優さんと言った所か。
「設定?いや、設定とかではなく、」
「私、早く帰らないと。…まぁ、別に誰が待ってるってわけでもないし、無断外泊を咎めるような相手もいないけど、流石に初対面の人とお泊りって言うのはちょっと」
あはは、と、誤魔化すように笑いながら、ベッドから降りて、天蓋の外に出る。
部屋を見回すと、随分と広い。
部屋の真ん中に、どん、と、四人は寝られる特大サイズの天蓋付きベッドが鎮座していて、左右に大きな窓がある。
月明りはそこから差し込んでいたようだ。
ベッドを正面に見て右手側の壁に、扉が一つ。
扉の横には、クローゼットのような家具が三つ、置いてある。
ベッドと向かい合う位置に、ミニキッチンのような流しと電熱式コンロのような円盤状の板。
左手側には、大きな机と一人掛けの椅子が二脚、書棚が五つ。
扉は右手側にしかないから、これが玄関に向かう為のものだろう。
「お邪魔しました」
「待って」
男性の呼び止める声を無視して、扉を開けて驚いた。
「…お風呂…」
ニーナのアパートのユニットバスが十個は入りそうな広さだけれど、これは、所謂浴室だ。
月明りに浮かぶ洗面台と、猫足のバスタブ、それに湯口らしき四角い管。
隅の方に、蓋のない洋式便座がある。
蓋がないと言う事は、暖房便座じゃないんだな、と、現実逃避のように、ニーナは考えた。
だが、玄関へと向かう扉らしきものはない。
「え…っと?」
そっと、浴室の扉を閉めて振り返ると、いつの間にベッドから降りたのか、男性が困ったような顔をして、立っていた。
「この部屋から、外には出られないよ」
「…は?」
「勿論、私も出られない。そして、この塔全体に魔法を阻む結界を掛けてあるから、魔法を使う事もできないよ」
「魔法…いや、そんなの使えないですけど」
「使えないんだ?!」
「使えるんですか?!」
驚いて問い返すと、男性もまた、驚いたように目を見開いた。
「うん…この世界では、魔法が全く使えないって言う人は聞かないかな…」
「あぁ…そう言う設定…」
「だから、設定じゃないって」
ここは隠しカメラを探すべき場面だろう。
ニーナが、じっと男性の顔を見ると、彼は下げていた眉を益々下げて、
「……うん、まぁ、納得いかないのは、判るけど…」
と言った。
「いいよ、気が済むまでこの部屋を確認してくれて。でも、その前に、窓の外を見てみて。見覚えのある景色かどうか、確認してみるといい。あぁ、でも、手や顔を外に出しちゃダメだよ。結界に触れると、死んじゃうからね」
はいはい、そう言う設定ね。
心の中でそう呟いて、ニーナは促されるままに大きな窓から外を見た。
藍色の夜空には、星が瞬いている。
都会では、真夜中だとしても見られない数だ。
営業中のお店がないのか、夜景を楽しむには随分と暗い。
と言うか、灯りらしき物が、全く見えない。
ニーナは、悪い視力を補う為に目を眇めてみたけれど、何も確認する事はできなかった。
そして…。
「何、あれ…」
異世界のお約束と言うべきなのか。
空には、ぽっかりと丸い月が二つ、浮かんでいたのだった。
「CG…?随分とお金掛けてますね…って言うか、もうネタバレしてるんで、ドッキリは失敗ですよ?」
「シージー?が何なのかは判らないけど、これは現実だよ」
静かな声に、静かな目。
「いやぁ…だって、ねぇ…」
半笑いを返そうとして、ニーナは今更、膝が震えて来た。
うっすらと、理解はしていた。
だって、ニーナの記憶に断絶している部分はない。
気絶するような痛みも感じていないし、尻餅をついた先が鉄製の階段ではなく、あの高級マットレスだった事も、判っている。
「えぇ…?何で……?」
何て誕生日だ。
「ん?」
いつもの大衆居酒屋。
金曜日の夜らしく、開放的になってざわざわと人のさんざめく声の中、そう言って、男は頭を下げた。
「何?ハヤト、どうしたの?あ、もしかして、また、お財布忘れた?いいよ、ここは出すし」
「そう、じゃなくて…」
言いながら、視線をちら、とニーナの顔から右に逸らす。
何か言い出しにくい事がある時のハヤトの癖だと、ニーナには判っていた。
付き合って五年。
互いの癖はもう、熟知している。
「…何?」
だから、ニーナの勘が、何か不穏なものを告げていた。
「はーい、お通しでーす」
二人の間に漂う微妙な空気に気づかない様子で、アルバイトの店員が、目の前に美味しそうなポテトサラダを二つ、置いていく。
「ほら、ポテサラ来たよ。食べよう?」
殊更、明るい声でハヤトを促すものの。
「…ごめん…ニーナ」
「え?」
あぁ、この先は、聞きたくない。
「別れて欲しい」
「な…」
「子供ができたんだ」
少し早口で、ニーナの目を見ないまま、彼は言った。
そのまま、上着を掴んで、ペコリと頭を下げて。
ハヤトは、出て行ってしまう。
「は…?」
確かに、ここは払うとは言ったけれど。
それは、付き合っている男だからであって、別れ話をした男の分を払う気はないのだけれど。
ぎこちなくハヤトの背を視線で追うと、居酒屋の自動ドアの外で、ニーナをじっと見ている若い女性がいた。
店から出て来たハヤトの腕にこれみよがしに抱き着いて、こちらを見て勝ち誇った顔をする女性に、ニーナは一気に脱力する。
あれは確か、ハヤトが今いる部署の後輩だ。
ニーナも、顔だけは知っている。
「何なの…」
五年付き合っていた相手に、この仕打ちって。
前回、会った時に、結婚情報誌を持って来たのはハヤトだったと言うのに。
隣の席に置いた鞄から、やたらと自己主張する分厚い結婚情報誌の背表紙が見えて、ニーナはきつく、下唇を噛んだ。
***
ニーナがハヤトと出会ったのは、五年前。
先輩社員と、新入社員としてだった。
ハヤトは、姉が二人いる末っ子長男で、年上女性に甘える事に慣れていた。
少し抜けている所のある彼を指導していくうちに告白されて、付き合うようになった、と言う、ありがちな出会いだ。
丁度その頃、恋人と結婚観の相違で別れた所だったのもあって、押されるがままに受け入れてしまった、と言うのはある。
年下ならば、すぐに結婚とか子供とか言い出さないだろう、と言う気持ちも、全くなかったとは言えない。
育ての親だった祖母が大学時代に亡くなってから、ニーナには『家族』と呼べる存在がいない。
だから、一人でいる事に寂しさを感じていたのは事実だ。
これまでの交際相手の中で最長の五年間、付き合いが続いたのは、ハヤトがニーナのペースを乱さずにいてくれたから。
一人でいるのは寂しいとは言え、密に連絡を取ってベタベタしたいタイプではないニーナと、ハヤトはつかず離れずの距離感で付き合ってくれた。
何しろ、職場恋愛なので、会社でも顔を見る。
今では部署は違うが、会おうと思えばいくらでも会える距離にいるのだ。
そんなハヤトが、はにかんだ顔で結婚情報誌を持って来たのは、一か月前の事。
「次のデートは、こう言う所もいいと思って」
披露宴で提供されるコース料理を試食出来る、結婚式場の人寄せイベント。
直接、言葉でプロポーズされたわけではない。
けれど、あぁ、彼はこの先の人生、私の隣で過ごすつもりなのか、と、こそばゆいような気持ちと共に、既婚者の友人達の言葉が脳内で再生されて。
これがきっと、タイミングでありご縁なのだろう、と思っていたら…これだ。
確かに、デートは久し振りになってしまった。
だが、それは職場が繁忙期に入ったが故の事。
連絡を絶っていたわけではないし、ニーナが多忙だったのは、同じ職場であるハヤトにも十分に判っていた筈。
そもそも、子供ができた、って。
別れる前から他の女性と関係を持っていたと言う事は、明確な浮気じゃないか。
「…くだらない」
やっぱり、結婚なんて、くだらない。
「…あ~~…来週、会社行きたくないな…」
部署が違うと言っても、社内でうろうろしていたら、ハヤトに会ってしまう。
ニーナに向かって、勝った、と顔に書いていた後輩女性にも。
プスプスと腹の中に渦巻くこの気持ちを、どうしてくれよう。
そもそも、婚約、ってどこから始まるのだろうか。
結婚情報誌を渡されて、「式場巡りしよう。どう言う所が好きか、見てみてよ」と言われたら、結婚しよう、って事だと思うじゃないか。
でも、少なくともハヤトにとっては、それはイコール婚約ではなかったのだ。
海外セレブみたいに契約書を作っておけば、違約金でも貰えただろうか。
少なくとも、お通しと生ビール代位は払って欲しい。
請求しても、いいだろうか。
「…飲もう」
一人で取り残された居酒屋で飲み続ける気持ちにはなれなくて、席に着いたと同時に頼んだ生ビールを二人分飲んで、帰って来てしまった。
普段、家で飲む事はないから、家の冷蔵庫にはハヤトが泊まりに来た時に買って余った缶ビールが、一本しかなかった。
それを空けた所で、酔えるわけでも、むしゃくしゃが収まるわけでもなく。
コンビニで買って来よう、と重い腰を上げた。
「…タイミング、ねぇ…」
確かに、ここ一年位、ハヤトは結婚を匂わせていたように思う。
ニーナももうすぐ三十になるし、とか何とか。
イマドキ、三十過ぎての初婚なんて当たり前だ。
都会であればある程、初婚の平均年齢は上がっていくものなのだから。
けれど、彼の姉二人が二十代後半で結婚して「駆け込みセーフ」と言っていたから、ハヤトの中では一つの線引きだったのだろう。
気づかない振りをして、躱し続けた結果がこれなのか。
…だったら、やはり、自分に結婚は向いていない。
「あぁ!もう、やめやめ」
一人暮らしになってから、独り言は明らかに増えた。
これまでは返事をしてくれる祖母がいたのに、祖母が亡くなってから借りた2Kの部屋の中で、返って来る言葉はない。
もう少し可愛い部屋着にしたら?と言われても、頑として変えなかった杢グレーにゆるキャラがプリントされたスウェットのルームウェアのまま、前髪をちょんまげに結って、風呂上りのすっぴんに眼鏡、スマホと家の鍵を手に、ニーナは外に出た。
さやかな夜風に、顎のラインで切り揃えた髪が揺れる。
足元はサンダル履きだが、最寄りのコンビニは、のんびり歩いても三分だ。
残業が長引くと夕食を買う為によく寄るコンビニだから、本当は余り、気の抜けた格好で行きたくはない。
けれど、やけ酒を買いに行く為だけに、身綺麗にする気にもなれなかった。
「やけ酒…」
そうか、失恋したのか、と改めて気が付いて、ニーナは顔を歪めた。
熱烈な恋をしていた、とは思えない。
どちらかと言うと、ハヤトの熱量に負けた、と思っていた。
なのに、フラれたのは自分だなんて。
「…今日、誕生日だったのに」
ニーナは今日、三十になった。
誕生日、しかも、金曜の夜なのに、ハヤトが誘ったのはいつもの居酒屋で、その時点で「あれ?」と全く思わなかったのか、と言われると、多分、何かの予感はしていた。
昔は、友人達からもお祝いメッセージが届いていたものなのに、今年は一通もない。
仕方がない。
元々、それ程、友人の数は多くないし、数少ない友人は皆、育児や仕事で忙しい。
人生の一時を共にしただけのニーナよりも、家族やキャリアが大事なのは当然の事だ。
それこそ、縁があれば、いずれ、また、道が交わる事もあるだろう、と思っていたけれど。
「…何か、疲れたなぁ…」
当然のように、生みの両親からも連絡がない。
彼等は、新しい家庭の事で忙しいのだ。
幼いうちに手離して、成長の様子を見てもいないニーナの事など、意識の片隅にもないのだろう。
そもそも、誕生日を覚えているのかどうか。
幼い頃は、
「パパとママからだよ」
と言いながら、祖母がプレゼントを渡してくれたけれど、あれは、両親に捨てられたニーナに対する祖母の憐みだ。
祖母はいつも、ニーナに、
「可哀想な子」
と言っていたから。
碌に養育費すら払わなかった母は、祖母が生前贈与としてニーナの大学の学費を支払うと決めた時に、「うちの子達の学費も、払ってくれるんでしょうね?」と不満を漏らしていた。
「うちの子」に、当然、ニーナは入っていない。
そんな母を育てたのは祖母だから、娘の罪滅ぼしとして学費を支払ってくれたのだが、そのせいで祖母に遺産らしい遺産がないと判った葬式以降、母からの音沙汰はない。
遺産がないのは、当たり前だ。
養育費が不足していたせいで、祖母は、自分の財産でニーナを育ててくれたのだから。
アパートの二階の部屋から、鉄製の外階段へと向かう。
LEDの街灯がやたらと眩しくて夜空に目を遣ると、いつもよりも大きな満月が見えた。
「今日って、スーパームーンだっけ…?」
ネットニュースのヘッドラインで見た記憶はない。
スーパームーンだとしても、やけに大きく見えるけれど。
月に意識を向けながら、階段を降り始めたのが悪かったのだろう。
「へぁ?!」
ずるり。
サンダルが脱げかけて、階段を踏み外す。
その衝撃で眼鏡が飛んだのが見えて、レンズに傷が入らない事を祈った。
勤務中はコンタクトレンズを使用しているけれど、家にいる間は裸眼で過ごしたい。
慌てて体勢を立て直そうとしたものの、ニーナは後ろに引っ繰り返る。
尻餅をつきながら階段落ちとは、おしりに青痣必須だ。
青痣で済めばいいけれど、尾骶骨骨折も危ぶまれるかもしれない。
何しろ、骨密度に不安を感じ始めるお年頃だ。
来るべき衝撃に備えて、思わず目を閉じたが――…。
「…いっったぁぁ…く、ない…?」
痛くない。
と言うか、寧ろ、柔らかい。
恐る恐る目を開けて、座り込んだ地面に手で触れて確認する。
何とも言えない弾力は、ハヤトと奮発して行った高級ホテルのベッドのようで…。
「え?あれ?」
アパート前の街灯は、あれだけ煌々と光っていたのに、切れてしまったのか。
ニーナの周辺は、暗くて静かだ。
静か?
何故だろう。
アパートは表通りから一本入った所にあるとは言え、まだ、人々が寝るには早い時間だ。
なのに、何でこんなに静かなのだろう。
スマホ。
スマホは?あれで、灯りを付ければいいのでは。
けれど、周囲を探っても、指先は柔らかな布にしか触れない。
「…きみ、は」
思いがけず近くから低い男性の声がして、ニーナは慌てて、顔を上げた。
眼鏡をなくしたせいでぼんやりとした視界の中。
手を伸ばせば触れられる距離に、人影が座っている。
いや、上半身を起こし掛けた形で固まっている、と言った方がいいか。
「君は、どこから来た…?」
押し殺した声は、低いのに聞き取りやすい。
「どこ、って…階段から落ちて…」
背後を振り返ったニーナは、声にならない悲鳴を上げる。
ない。
階段が、ない。
絶対に落ちた筈なのに、そこにあったのは、レースカーテンのような布地。
「…え?」
前後左右を確認してみても、周囲はぐるりとレースカーテンで囲われている。
少しずつ、暗闇に慣れて来た目で、背中に冷や汗を掻きながら確認する。
座り込んでいるのは明らかにベッドのマットレスで、目の前の男性が着ているのは、ナイトウェアだろう。
「…えーっと…えぇ…?」
人間、理解不能な状況に陥ると、何も言葉が出ないらしい、と、ニーナは知った。
「ちょっと、待って…」
誰に急かされたわけでもないけれど、待ってくれ、と言いたくなる。
何だ?何が起きた?
「私…死んだ…?」
酔ってない、と思っていたけれど、自分の認識よりも酔っていたのか。
階段から落ちて、打ち所が悪くて死んでしまったと言う事か。
となると。
「あの、ここって、天国ですか…?」
清廉潔白な人生を歩んで来た、と胸は張れないけれど、地獄に行く程、悪い事をしたとも思えない。
「…天国、では、ないかな」
目の前の男性が、どこか困ったように眉を顰めたのが判る。
ここはどうやら、天蓋で覆われたベッドの上らしい。
レースカーテンのような天蓋を透かして、窓から月明りらしきものが入って来ている。
男性は、はっきりとした年齢は不明だが、声からするとまだ若そうだ。
「えーっと…では…どこ、なんでしょう…?」
「ここは…」
言い掛けながら、男性は、自分が上半身を起こし掛けた状態のまま、固まっていた事に気が付いたらしい。
体を起こし直して、ベッドの上にあぐらを掻いた。
「このような姿で失礼するが…貴方は、落ち人だろうか?」
「オチビト?」
「あぁ。ここは、ガルダ王国と言う国だ。聞き覚えは?」
「ない、です、けど…世界の国名を全部覚えているわけではないので…と言うか、私、日本にいた筈で」
「ニホン?聞き覚えのない名前だ。やはり、君は落ち人なのだな」
男性の落ち着いた声に引きずられるように、少しずつ、ニーナの動揺が収まっていく。
暗闇に慣れて来た目で改めて男性の顔を見ると、色こそ判然としないものの、ぼやけた視界の中でも随分と整っているのが判る。
残念ながらこの距離では判然としないけれど、ハリウッド映画に似たような顔立ちの俳優が出演していた気がする。
「えぇと…?オチビト?って何ですか…?」
「世界の挟間を擦り抜けて、こちらの世界に落ちて来た人の事だ」
「あぁ…落ちた人、で、落ち人…」
頭の中で漢字変換できてすっきりしたものの、外国人顔イケメンに流暢な日本語を話されても、違和感しかない。
「あれですね、異世界転移ってやつ。友達に借りて読んだ事あります。あぁ、あの設定なんだ…はは…」
でも、設定はどうでもいいから、家に帰りたい。
庶民相手に、随分と金の掛かったドッキリだ。
一般人とは思えない顔立ちは、駆け出しの俳優さんと言った所か。
「設定?いや、設定とかではなく、」
「私、早く帰らないと。…まぁ、別に誰が待ってるってわけでもないし、無断外泊を咎めるような相手もいないけど、流石に初対面の人とお泊りって言うのはちょっと」
あはは、と、誤魔化すように笑いながら、ベッドから降りて、天蓋の外に出る。
部屋を見回すと、随分と広い。
部屋の真ん中に、どん、と、四人は寝られる特大サイズの天蓋付きベッドが鎮座していて、左右に大きな窓がある。
月明りはそこから差し込んでいたようだ。
ベッドを正面に見て右手側の壁に、扉が一つ。
扉の横には、クローゼットのような家具が三つ、置いてある。
ベッドと向かい合う位置に、ミニキッチンのような流しと電熱式コンロのような円盤状の板。
左手側には、大きな机と一人掛けの椅子が二脚、書棚が五つ。
扉は右手側にしかないから、これが玄関に向かう為のものだろう。
「お邪魔しました」
「待って」
男性の呼び止める声を無視して、扉を開けて驚いた。
「…お風呂…」
ニーナのアパートのユニットバスが十個は入りそうな広さだけれど、これは、所謂浴室だ。
月明りに浮かぶ洗面台と、猫足のバスタブ、それに湯口らしき四角い管。
隅の方に、蓋のない洋式便座がある。
蓋がないと言う事は、暖房便座じゃないんだな、と、現実逃避のように、ニーナは考えた。
だが、玄関へと向かう扉らしきものはない。
「え…っと?」
そっと、浴室の扉を閉めて振り返ると、いつの間にベッドから降りたのか、男性が困ったような顔をして、立っていた。
「この部屋から、外には出られないよ」
「…は?」
「勿論、私も出られない。そして、この塔全体に魔法を阻む結界を掛けてあるから、魔法を使う事もできないよ」
「魔法…いや、そんなの使えないですけど」
「使えないんだ?!」
「使えるんですか?!」
驚いて問い返すと、男性もまた、驚いたように目を見開いた。
「うん…この世界では、魔法が全く使えないって言う人は聞かないかな…」
「あぁ…そう言う設定…」
「だから、設定じゃないって」
ここは隠しカメラを探すべき場面だろう。
ニーナが、じっと男性の顔を見ると、彼は下げていた眉を益々下げて、
「……うん、まぁ、納得いかないのは、判るけど…」
と言った。
「いいよ、気が済むまでこの部屋を確認してくれて。でも、その前に、窓の外を見てみて。見覚えのある景色かどうか、確認してみるといい。あぁ、でも、手や顔を外に出しちゃダメだよ。結界に触れると、死んじゃうからね」
はいはい、そう言う設定ね。
心の中でそう呟いて、ニーナは促されるままに大きな窓から外を見た。
藍色の夜空には、星が瞬いている。
都会では、真夜中だとしても見られない数だ。
営業中のお店がないのか、夜景を楽しむには随分と暗い。
と言うか、灯りらしき物が、全く見えない。
ニーナは、悪い視力を補う為に目を眇めてみたけれど、何も確認する事はできなかった。
そして…。
「何、あれ…」
異世界のお約束と言うべきなのか。
空には、ぽっかりと丸い月が二つ、浮かんでいたのだった。
「CG…?随分とお金掛けてますね…って言うか、もうネタバレしてるんで、ドッキリは失敗ですよ?」
「シージー?が何なのかは判らないけど、これは現実だよ」
静かな声に、静かな目。
「いやぁ…だって、ねぇ…」
半笑いを返そうとして、ニーナは今更、膝が震えて来た。
うっすらと、理解はしていた。
だって、ニーナの記憶に断絶している部分はない。
気絶するような痛みも感じていないし、尻餅をついた先が鉄製の階段ではなく、あの高級マットレスだった事も、判っている。
「えぇ…?何で……?」
何て誕生日だ。
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