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<9/グロリアーナ>
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水の曜日。
体と心の持ち主が別々の場合、生活習慣は心の持ち主に依存するらしい。
日中、学園で書類仕事を進めていた分、王宮に戻ってからしなければいけない作業を減らす事はできたものの、マクシミリアン程の処理速度がないようで、昨夜のグロリアーナの就寝時間は真夜中だった。
普段、二十二時にはベッドに入るようにしているグロリアーナにとって、かなり思い切った夜更かしだ。
エイミーが聞いたら、
「お肌が…っ」
と、卒倒した事だろう。
であるにも関わらず、起床は五時半。
ケビンに頼んで置いて行って貰った書類を見ながら、ストレッチに続いて軽い筋力トレーニングをする。
流石と言うべきか、マクシミリアンの筋肉はしなやかで力強く、全く負荷を感じない。
この様子だと、グロリアーナが行っているトレーニングでは、効果がないかもしれない。
日中に書類が追加される事を踏まえた上で、用意された分を終わらせると、グロリアーナは、ふぅ、と溜息を吐いた。
どうせなら、夜ではなく朝に仕事をした方が、効率がいいのではないだろうか。
マクシミリアンに提案してみようか、と思いながら、通学の為の馬車に向かった所で、見慣れた姿が待っていた。
「オズワルド?」
「おはよう、兄さん」
「あぁ、おはよう」
「話したい事があるんだけど、一緒に登校してもいいか?」
「勿論」
本当は、余り嬉しくない。
グロリアーナがオズワルドと知り合ってから、八年。
七歳だった少年は、十五歳になった。
十歳から十八歳も大きな成長だけれど、七歳から十五歳は、もっと大きな変化だ。
小さな頃は、茶会で共に会話する事もあったものの、学園に入ってからの交流は、多いとは言えない。
その為、マクシミリアンとオズワルドの関係を、きちんと把握できているとは思えなかった。
「…あのさ」
「うん?」
馬車が走り出して少しすると、オズワルドが、思い切ったように口を開いた。
「グロリアーナ嬢の事…なんだけど…」
「…何か、あったか?」
(まさか、入れ替わりに気づかれた…?)
グロリアーナの背に、じわりと汗が滲む。
「その…ほら…噂、があるだろ?」
「噂?どの?」
「だからっ…兄さんが…今年留学して来た女子生徒と親しくしてる、って言う…」
「…信じているわけじゃないだろう?」
どうやら、疑われていたわけではないらしい。
ホッとした様子を見せないように気を付けつつ、呆れた顔を見せると、オズワルドは、うぐ、と言葉に詰まった。
「そりゃ、その…だから、これまでずっと、聞かずにいたんじゃないか」
「では、何で今更?」
オズワルドは、はぁ、と溜息を吐くと、苛立たし気にガシガシと橙色の髪を掻き回す。
「その、前から時々、話し掛けられてはいたんだけどさ。昨日、改めて例の令嬢が、話し掛けて来て…」
「…何?」
オズワルドにも護衛がついているから、アシュリーがオズワルドに接触していた事は、マクシミリアンも知っているだろう。
確かに、アシュリーは次代のフローニカを背負うであろう令息ばかりに話し掛けていた為、学年が違うにせよ、オズワルドに声を掛けていても不思議はないように思う。
「その令嬢がさ、『私は特別な存在なので、フローニカ王家には私が必要ですよ』って言ったんだ」
「……」
「兄さんが、あの令嬢と恋仲だから彼女を選ぶ、って話なら、端から信じる気はなかった。兄さんは、私心で家同士の大切な約束事を破るような人じゃないからな。でも…国の利益になる、いや、選ばなければ国が亡ぶ、とまで言われたら…」
「彼女は、そんな事まで言ったのか?」
「…」
こくり、とオズワルドが頷くのを見て、グロリアーナは溜息を吐いて、額に手を当てる。
女神の愛し子。
女神フロリーナは愛し子を愛しているから、加護を授ける。
そこまでは理解できるけれど、マクシミリアンが彼女を選ばなければ、国が亡ぶ、だなんて。
気紛れとは言え、フロリーナは女神。
王子を脅すような人物を、愛し子に選ぶだろうか?
「…兄さんは、父上が彼女と結婚するようにと命じたら、従うんだろ…?」
オズワルドが、ぽつ、と告げた言葉に、グロリアーナは背筋を冷たい氷の塊が流れ落ちた気がした。
判っている。
頭では、判っている。
それが本当にフローニカ王国の為になるのならば、グロリアーナには国の決断に従う他はない。
…でも。
(…何で、こんなに胸が痛いのかしら)
これまでの八年の努力が、水泡に帰すから?
アシュリーの言動に、王子妃、ひいては王妃となる令嬢として不安を感じるから?
それが、全くない、とは言い切れない。
だが、それだけではなくて。
(…殿下の隣に他のご令嬢が立つのを、見たくないわ…)
湧き上がった思いに、グロリアーナは下唇を噛む。
これは、独占欲だ。
でも、王子であるマクシミリアンに対して、独占欲を感じるなんて。
婚約者だからと言って、政略結婚の相手として選ばれただけなのに、傲慢ではないか。
「兄さん」
躊躇うように下を向いていたオズワルドが、真正面からグロリアーナと視線を合わせる。
「もし。もしも、だよ。もしも…父上が、兄さんにグロリアーナ嬢以外との結婚を望むなら」
ドクン、と心臓が一つ、大きな音を立てた。
「そしたら…俺が、グロリアーナ嬢と結婚する」
「、は?」
何故、オズワルドが。
「何で」
「婚約を解消したとしても、国益の為と理由があれば、彼女の傷にはならないと思う。でも、ラウリントン公爵家と釣り合うような家柄の同年代の令息には、既に婚約者がいるから、ラウリントン家が納得できるような縁談を王家が用意するのは難しいだろ?それに、彼女は八年も王子妃になる為の努力をして来てくれたし、その時間が無駄になるのも、彼女が得られる筈だった名誉を得られなくなるのも、嫌だし……ともかく、他の誰かに嫁ぐのは嫌、なんだ。兄さんが相手なら諦められるけど、他の人じゃ嫌だ」
オズワルドは、きっぱりと言い切った。
「彼女は、俺の初恋の人だから」
余りの衝撃に、グロリアーナはその後、オズワルドとどのような言葉を交わしたのか覚えていない。
弟のジャレッドより、一つ年下のオズワルド。
不敬にも、もう一人の可愛い弟のように思っていたのに。
第三王子のローデリックは、チェスターの跡を継いで神職になると決まっているから生涯独身だけれど、十五歳になるオズワルドに婚約者候補すらいない理由は、まさか…。
考え込んでいたグロリアーナは、一言も口を利かなくなった彼女を、思わせ振りな目でオズワルドが見ていたと、気づく事はなかった。
グロリアーナの衝撃は、オズワルドの一件だけではすまなかった。
順調に午前の授業を終え、ランチは小部屋に逃げ込むか、東屋にするか…と悩むグロリアーナの両脇を、がし、と固める男子生徒が二人。
視界の端で、マクシミリアンが慌てて立ち上がった姿が見える。
「…エイドリアン?ユージーン?何を…」
騎士団長を父に持つエイドリアン・アナキンス侯爵令息と、宰相を父に持つユージーン・スペルカス公爵令息は、いずれもマクシミリアンの側近候補で幼馴染だ。
グロリアーナとの婚約が結ばれる以前から、彼等は遊び友達として王宮に招かれ、順調に友誼を深めて来たらしい。
公的な場ではきちんと振る舞うけれど、私的な場ではマクシミリアンと対等な口が利ける数少ない人間だった。
「ちょぉっと、顔貸して頂きましょうか、殿下」
「大切なお話がありますからね」
一見、丁寧でありながら、その実、不穏当な発言と共に、ぐいぐいと腕を引かれるがまま、廊下の端、人目の届きにくい所まで連れて来られてしまったグロリアーナは、茫然と彼等の顔を見つめた。
二人がマクシミリアンと親しい仲なのは知っているけれど、グロリアーナもいる場では表向きの顔しか見せてくれないし、ここ半年は彼等との距離も開いているものだから、どんな話をされるのか、全く見当がつかない。
「マクシミリアン」
黒い短髪をつんつんと立てたエイドリアンが、金色の目を眇めて、グロリアーナを上から覗き込む。
マクシミリアンも長身の方だけれど、エイドリアンは更に大柄なので、正直、怖い。
「もう限界だ」
「え」
続いて、さらさらの金髪を一つに結わえて左肩に流し、菫色の目に眼鏡を掛けた優し気な面立ちのユージーンが、くい、と眼鏡のブリッジを指先で上げると、顔立ちに似合わず厳しい表情でグロリアーナを睨みつける。
「これ以上は無理」
「なに」
反射的に、じり、と後退ろうとしたグロリアーナの腕が、がっちりと掴まれた。
「ドクターストップだよ、マクシミリアン」
「ユージーン?」
「君が、あの令嬢について調査してるのも、その調査が思うように進んでないのも、重々承知してる。でも、もう限界だ。これ以上、あの令嬢を好きにさせておくわけにはいかない」
(スペルカス様達は、殿下のお考えをご存知だったと言う事…?)
「…それは、判って…」
「判ってない」
きっぱりと切り捨てられて、グロリアーナは唖然と口を開く。
「君さ、最近、ラウリントン嬢ときちんと話してる?いや、朝、いつもの挨拶をしてるのも、一緒に公務に出掛けたのも知ってる。彼女は、どれだけ君と不仲になろうが、『役割』から逃れる人じゃないからね」
「…判ってる、きちんと話し合い出来てないって事は、」
「だから、判ってない、って言ってるだろ」
ユージーンは、マクシミリアンにはこんなにも厳しい人だったのか。
グロリアーナの前では、にこにこと微笑んで何もかも柳のように躱す人だったから、意外だ。
「…僕の読みが甘かった事は謝るよ。まさか、ラウリントン嬢が、あそこまであの令嬢の体面に配慮すると思っていなかった」
ユージーンの言葉の意味が判らず、グロリアーナは首を傾げた。
目で続きを促すと、ユージーンは溜息を吐いて、額を押さえる。
「あの令嬢がしている事は、ラウリントン嬢に対する明確な侮辱だ。何しろ、虚偽の発言で名誉を棄損しているんだからね。それを理由に、言動の自由を奪い、場合によっては学園から追い出すだろう、と予想していた。もっと早く君を頼り、『王子の婚約者』の権威を使うだろう、と。そのフォローを確実に出来るように準備していたけど、彼女は一向に、他の生徒の前であの令嬢を注意する事も、非難する事も、君に相談を持ち掛ける事すらもなかった…人目につかない所では、忠告していたようだけどね。それでも、叱責ではなく、あくまで忠告だ。ラウリントン嬢は、僕が考えていた以上に、懐の広く我慢強い方のようだね、それも、一人で抱え込んで解決しようとするタイプの」
『我々の行動に何か疑念でもあるようでしたら、殿下にご相談なさってはいかがです?ラウリントン嬢は、婚約者なのですから』
かつて、ユージーンから投げかけられた言葉だ。
グロリアーナはそれを、「余計な口出しをするな」との牽制であると同時に、「婚約者ならば、マクシミリアンにアシュリーの言動を問題視させた上で、問題解決してみせろ」と言われたように感じた。
それができないようでは、王子妃に相応しくない、と。
だが、まさか、あの言葉は嫌味ではなく、助言だったのか。
「それだけに、先日、衆人環視の教室で初めて声を上げた事が気に掛かる」
ユージーンの言葉を、エイドリアンが引き継ぐ。
「最近のラウリントン嬢を見ていれば、彼女の溜息が増えた事に気づく筈だ。特に、ここ三日、急激に増えてる。朝から顔色が悪い事もあるし、憂鬱そうに目を伏せてる事も多い」
それは明らかに、グロリアーナとマクシミリアンの中身が入れ替わった影響なのだけれど。
体はグロリアーナでも、中身はマクシミリアンなのだ。
朝に弱い彼が、エイミーに早朝叩き起こされるのは、かなりの負担なのだろう。
「ラウリントン嬢は、もう限界が来てるんだ。あの令嬢は、忠告を受けるだけじゃ、反省しないようだからな」
「…随分、しっかりと観察してるんだな?」
「当たり前だろう!お前が婚約者の責任を一時放棄している以上、お前の友人である俺達がフォローする必要があるだろうが!今だって、クレイグがあの令嬢を見張ってるんだぞ?!」
エイドリアンが、声を押し殺しながら怒鳴る、と言う器用な技を見せる。
クレイグ・アーレイバーク伯爵令息は、幼馴染の一人で外務大臣を父に持つ。
婚約者は既に昨年、学園を卒業している為、今回の騒動には巻き込まれていないものの、学園内部の情報が入りにくい為に、かえって不安を募らせていると聞く。
「婚約者の責任を、放棄…」
「まさか、気づいてないだなんて、お花畑な事を抜かすなよ?この婚約が、お前にとってどんな意味を持つものなのか、判ってないわけないよなぁ?」
脳筋で、全てを肉体言語で解決するタイプだと思っていたエイドリアンが、政略結婚に対して常識的な発言をする事に、思わず感心していると、
「それに、君も、」
と、ユージーンに頬を突かれて、注意を促される。
「酷い顔をしている。平静を装っているつもりみたいだけど、こんな思い詰めた顔をして…」
溜息を吐くと、ユージーンは最後に、グロリアーナの額をピンと指で弾いた。
そんな事、グロリアーナは今まで誰にもされた事はなく、茫然とユージーンを見返す。
「あの令嬢、ここ数日、これまで以上に派手に動いているからね。何か知らないけど、自分に絶対的な自信があるみたいだ。君が彼女に絆されたわけではない事は判っているけど、それは、僕達だけが知っていればいいものではない」
一旦、言葉を区切ると、ユージーンはじっと、グロリアーナの目を見つめた。
「いいかい、マクシミリアン。きちんとラウリントン嬢と話し合うんだ。包み隠さず、王家の秘匿事項に触れる事以外、話せる事は全部」
(王家の秘匿事項…?そんな重要な事に、ハミルトンさんは関係しているの…?)
「それにだな…」
エイドリアンが、ぎり、と眦を決する。
「俺もいい加減、限界だ。このまま、アビゲイルに愛想を尽かされたら、お前を一生恨む羽目になるぞ」
アビゲイルとは、エイドリアンの婚約者だ。
「…ソフィア嬢も、いつまで口を噤んでいてくれるか…そろそろご機嫌伺いのネタも尽きて来てるんだよね…」
ソフィアとは、ユージーンの婚約者だ。
「…結局は、自分の婚約なんだな?」
思わず、グロリアーナがそう言うと、二人は冷たい目で彼女を睨みつける。
「当たり前だろ」
「政略目的で結ばれた婚約がきっかけであっても、今では、彼女以外の伴侶は考えられないからね。勿論それは、クレイグもそうだからね?ロイドの所は、彼も婚約者も貴族じゃないから、余り影響を受けてないみたいだけど」
(羨ましい…)
思わず、そう思ってしまった事に自分で驚く。
確かに、マクシミリアンはグロリアーナとの婚約を解消する気はないらしい。
けれど…それは、『グロリアーナ以外の伴侶を考えられない』と言う積極的な理由ではなく、『他に条件の合致する令嬢がいない』と言う消極的な選択の結果でしかないだろう。
黙り込んだグロリアーナを見て、エイドリアンが、ぽんぽん、と頭を撫でる。
「まだ、自分では気づいてねぇみたいだな」
「…何、を」
「とにかく、ラウリントン嬢ときちんと話をするんだよ。彼女ならきっと、最後まで話を聞いてくれるから」
怒らないかどうかは、保証しないけど。
そう、最後に付け加えたユージーンに苦笑いを返して、グロリアーナは今後、どうすべきか考えを巡らせるのだった。
体と心の持ち主が別々の場合、生活習慣は心の持ち主に依存するらしい。
日中、学園で書類仕事を進めていた分、王宮に戻ってからしなければいけない作業を減らす事はできたものの、マクシミリアン程の処理速度がないようで、昨夜のグロリアーナの就寝時間は真夜中だった。
普段、二十二時にはベッドに入るようにしているグロリアーナにとって、かなり思い切った夜更かしだ。
エイミーが聞いたら、
「お肌が…っ」
と、卒倒した事だろう。
であるにも関わらず、起床は五時半。
ケビンに頼んで置いて行って貰った書類を見ながら、ストレッチに続いて軽い筋力トレーニングをする。
流石と言うべきか、マクシミリアンの筋肉はしなやかで力強く、全く負荷を感じない。
この様子だと、グロリアーナが行っているトレーニングでは、効果がないかもしれない。
日中に書類が追加される事を踏まえた上で、用意された分を終わらせると、グロリアーナは、ふぅ、と溜息を吐いた。
どうせなら、夜ではなく朝に仕事をした方が、効率がいいのではないだろうか。
マクシミリアンに提案してみようか、と思いながら、通学の為の馬車に向かった所で、見慣れた姿が待っていた。
「オズワルド?」
「おはよう、兄さん」
「あぁ、おはよう」
「話したい事があるんだけど、一緒に登校してもいいか?」
「勿論」
本当は、余り嬉しくない。
グロリアーナがオズワルドと知り合ってから、八年。
七歳だった少年は、十五歳になった。
十歳から十八歳も大きな成長だけれど、七歳から十五歳は、もっと大きな変化だ。
小さな頃は、茶会で共に会話する事もあったものの、学園に入ってからの交流は、多いとは言えない。
その為、マクシミリアンとオズワルドの関係を、きちんと把握できているとは思えなかった。
「…あのさ」
「うん?」
馬車が走り出して少しすると、オズワルドが、思い切ったように口を開いた。
「グロリアーナ嬢の事…なんだけど…」
「…何か、あったか?」
(まさか、入れ替わりに気づかれた…?)
グロリアーナの背に、じわりと汗が滲む。
「その…ほら…噂、があるだろ?」
「噂?どの?」
「だからっ…兄さんが…今年留学して来た女子生徒と親しくしてる、って言う…」
「…信じているわけじゃないだろう?」
どうやら、疑われていたわけではないらしい。
ホッとした様子を見せないように気を付けつつ、呆れた顔を見せると、オズワルドは、うぐ、と言葉に詰まった。
「そりゃ、その…だから、これまでずっと、聞かずにいたんじゃないか」
「では、何で今更?」
オズワルドは、はぁ、と溜息を吐くと、苛立たし気にガシガシと橙色の髪を掻き回す。
「その、前から時々、話し掛けられてはいたんだけどさ。昨日、改めて例の令嬢が、話し掛けて来て…」
「…何?」
オズワルドにも護衛がついているから、アシュリーがオズワルドに接触していた事は、マクシミリアンも知っているだろう。
確かに、アシュリーは次代のフローニカを背負うであろう令息ばかりに話し掛けていた為、学年が違うにせよ、オズワルドに声を掛けていても不思議はないように思う。
「その令嬢がさ、『私は特別な存在なので、フローニカ王家には私が必要ですよ』って言ったんだ」
「……」
「兄さんが、あの令嬢と恋仲だから彼女を選ぶ、って話なら、端から信じる気はなかった。兄さんは、私心で家同士の大切な約束事を破るような人じゃないからな。でも…国の利益になる、いや、選ばなければ国が亡ぶ、とまで言われたら…」
「彼女は、そんな事まで言ったのか?」
「…」
こくり、とオズワルドが頷くのを見て、グロリアーナは溜息を吐いて、額に手を当てる。
女神の愛し子。
女神フロリーナは愛し子を愛しているから、加護を授ける。
そこまでは理解できるけれど、マクシミリアンが彼女を選ばなければ、国が亡ぶ、だなんて。
気紛れとは言え、フロリーナは女神。
王子を脅すような人物を、愛し子に選ぶだろうか?
「…兄さんは、父上が彼女と結婚するようにと命じたら、従うんだろ…?」
オズワルドが、ぽつ、と告げた言葉に、グロリアーナは背筋を冷たい氷の塊が流れ落ちた気がした。
判っている。
頭では、判っている。
それが本当にフローニカ王国の為になるのならば、グロリアーナには国の決断に従う他はない。
…でも。
(…何で、こんなに胸が痛いのかしら)
これまでの八年の努力が、水泡に帰すから?
アシュリーの言動に、王子妃、ひいては王妃となる令嬢として不安を感じるから?
それが、全くない、とは言い切れない。
だが、それだけではなくて。
(…殿下の隣に他のご令嬢が立つのを、見たくないわ…)
湧き上がった思いに、グロリアーナは下唇を噛む。
これは、独占欲だ。
でも、王子であるマクシミリアンに対して、独占欲を感じるなんて。
婚約者だからと言って、政略結婚の相手として選ばれただけなのに、傲慢ではないか。
「兄さん」
躊躇うように下を向いていたオズワルドが、真正面からグロリアーナと視線を合わせる。
「もし。もしも、だよ。もしも…父上が、兄さんにグロリアーナ嬢以外との結婚を望むなら」
ドクン、と心臓が一つ、大きな音を立てた。
「そしたら…俺が、グロリアーナ嬢と結婚する」
「、は?」
何故、オズワルドが。
「何で」
「婚約を解消したとしても、国益の為と理由があれば、彼女の傷にはならないと思う。でも、ラウリントン公爵家と釣り合うような家柄の同年代の令息には、既に婚約者がいるから、ラウリントン家が納得できるような縁談を王家が用意するのは難しいだろ?それに、彼女は八年も王子妃になる為の努力をして来てくれたし、その時間が無駄になるのも、彼女が得られる筈だった名誉を得られなくなるのも、嫌だし……ともかく、他の誰かに嫁ぐのは嫌、なんだ。兄さんが相手なら諦められるけど、他の人じゃ嫌だ」
オズワルドは、きっぱりと言い切った。
「彼女は、俺の初恋の人だから」
余りの衝撃に、グロリアーナはその後、オズワルドとどのような言葉を交わしたのか覚えていない。
弟のジャレッドより、一つ年下のオズワルド。
不敬にも、もう一人の可愛い弟のように思っていたのに。
第三王子のローデリックは、チェスターの跡を継いで神職になると決まっているから生涯独身だけれど、十五歳になるオズワルドに婚約者候補すらいない理由は、まさか…。
考え込んでいたグロリアーナは、一言も口を利かなくなった彼女を、思わせ振りな目でオズワルドが見ていたと、気づく事はなかった。
グロリアーナの衝撃は、オズワルドの一件だけではすまなかった。
順調に午前の授業を終え、ランチは小部屋に逃げ込むか、東屋にするか…と悩むグロリアーナの両脇を、がし、と固める男子生徒が二人。
視界の端で、マクシミリアンが慌てて立ち上がった姿が見える。
「…エイドリアン?ユージーン?何を…」
騎士団長を父に持つエイドリアン・アナキンス侯爵令息と、宰相を父に持つユージーン・スペルカス公爵令息は、いずれもマクシミリアンの側近候補で幼馴染だ。
グロリアーナとの婚約が結ばれる以前から、彼等は遊び友達として王宮に招かれ、順調に友誼を深めて来たらしい。
公的な場ではきちんと振る舞うけれど、私的な場ではマクシミリアンと対等な口が利ける数少ない人間だった。
「ちょぉっと、顔貸して頂きましょうか、殿下」
「大切なお話がありますからね」
一見、丁寧でありながら、その実、不穏当な発言と共に、ぐいぐいと腕を引かれるがまま、廊下の端、人目の届きにくい所まで連れて来られてしまったグロリアーナは、茫然と彼等の顔を見つめた。
二人がマクシミリアンと親しい仲なのは知っているけれど、グロリアーナもいる場では表向きの顔しか見せてくれないし、ここ半年は彼等との距離も開いているものだから、どんな話をされるのか、全く見当がつかない。
「マクシミリアン」
黒い短髪をつんつんと立てたエイドリアンが、金色の目を眇めて、グロリアーナを上から覗き込む。
マクシミリアンも長身の方だけれど、エイドリアンは更に大柄なので、正直、怖い。
「もう限界だ」
「え」
続いて、さらさらの金髪を一つに結わえて左肩に流し、菫色の目に眼鏡を掛けた優し気な面立ちのユージーンが、くい、と眼鏡のブリッジを指先で上げると、顔立ちに似合わず厳しい表情でグロリアーナを睨みつける。
「これ以上は無理」
「なに」
反射的に、じり、と後退ろうとしたグロリアーナの腕が、がっちりと掴まれた。
「ドクターストップだよ、マクシミリアン」
「ユージーン?」
「君が、あの令嬢について調査してるのも、その調査が思うように進んでないのも、重々承知してる。でも、もう限界だ。これ以上、あの令嬢を好きにさせておくわけにはいかない」
(スペルカス様達は、殿下のお考えをご存知だったと言う事…?)
「…それは、判って…」
「判ってない」
きっぱりと切り捨てられて、グロリアーナは唖然と口を開く。
「君さ、最近、ラウリントン嬢ときちんと話してる?いや、朝、いつもの挨拶をしてるのも、一緒に公務に出掛けたのも知ってる。彼女は、どれだけ君と不仲になろうが、『役割』から逃れる人じゃないからね」
「…判ってる、きちんと話し合い出来てないって事は、」
「だから、判ってない、って言ってるだろ」
ユージーンは、マクシミリアンにはこんなにも厳しい人だったのか。
グロリアーナの前では、にこにこと微笑んで何もかも柳のように躱す人だったから、意外だ。
「…僕の読みが甘かった事は謝るよ。まさか、ラウリントン嬢が、あそこまであの令嬢の体面に配慮すると思っていなかった」
ユージーンの言葉の意味が判らず、グロリアーナは首を傾げた。
目で続きを促すと、ユージーンは溜息を吐いて、額を押さえる。
「あの令嬢がしている事は、ラウリントン嬢に対する明確な侮辱だ。何しろ、虚偽の発言で名誉を棄損しているんだからね。それを理由に、言動の自由を奪い、場合によっては学園から追い出すだろう、と予想していた。もっと早く君を頼り、『王子の婚約者』の権威を使うだろう、と。そのフォローを確実に出来るように準備していたけど、彼女は一向に、他の生徒の前であの令嬢を注意する事も、非難する事も、君に相談を持ち掛ける事すらもなかった…人目につかない所では、忠告していたようだけどね。それでも、叱責ではなく、あくまで忠告だ。ラウリントン嬢は、僕が考えていた以上に、懐の広く我慢強い方のようだね、それも、一人で抱え込んで解決しようとするタイプの」
『我々の行動に何か疑念でもあるようでしたら、殿下にご相談なさってはいかがです?ラウリントン嬢は、婚約者なのですから』
かつて、ユージーンから投げかけられた言葉だ。
グロリアーナはそれを、「余計な口出しをするな」との牽制であると同時に、「婚約者ならば、マクシミリアンにアシュリーの言動を問題視させた上で、問題解決してみせろ」と言われたように感じた。
それができないようでは、王子妃に相応しくない、と。
だが、まさか、あの言葉は嫌味ではなく、助言だったのか。
「それだけに、先日、衆人環視の教室で初めて声を上げた事が気に掛かる」
ユージーンの言葉を、エイドリアンが引き継ぐ。
「最近のラウリントン嬢を見ていれば、彼女の溜息が増えた事に気づく筈だ。特に、ここ三日、急激に増えてる。朝から顔色が悪い事もあるし、憂鬱そうに目を伏せてる事も多い」
それは明らかに、グロリアーナとマクシミリアンの中身が入れ替わった影響なのだけれど。
体はグロリアーナでも、中身はマクシミリアンなのだ。
朝に弱い彼が、エイミーに早朝叩き起こされるのは、かなりの負担なのだろう。
「ラウリントン嬢は、もう限界が来てるんだ。あの令嬢は、忠告を受けるだけじゃ、反省しないようだからな」
「…随分、しっかりと観察してるんだな?」
「当たり前だろう!お前が婚約者の責任を一時放棄している以上、お前の友人である俺達がフォローする必要があるだろうが!今だって、クレイグがあの令嬢を見張ってるんだぞ?!」
エイドリアンが、声を押し殺しながら怒鳴る、と言う器用な技を見せる。
クレイグ・アーレイバーク伯爵令息は、幼馴染の一人で外務大臣を父に持つ。
婚約者は既に昨年、学園を卒業している為、今回の騒動には巻き込まれていないものの、学園内部の情報が入りにくい為に、かえって不安を募らせていると聞く。
「婚約者の責任を、放棄…」
「まさか、気づいてないだなんて、お花畑な事を抜かすなよ?この婚約が、お前にとってどんな意味を持つものなのか、判ってないわけないよなぁ?」
脳筋で、全てを肉体言語で解決するタイプだと思っていたエイドリアンが、政略結婚に対して常識的な発言をする事に、思わず感心していると、
「それに、君も、」
と、ユージーンに頬を突かれて、注意を促される。
「酷い顔をしている。平静を装っているつもりみたいだけど、こんな思い詰めた顔をして…」
溜息を吐くと、ユージーンは最後に、グロリアーナの額をピンと指で弾いた。
そんな事、グロリアーナは今まで誰にもされた事はなく、茫然とユージーンを見返す。
「あの令嬢、ここ数日、これまで以上に派手に動いているからね。何か知らないけど、自分に絶対的な自信があるみたいだ。君が彼女に絆されたわけではない事は判っているけど、それは、僕達だけが知っていればいいものではない」
一旦、言葉を区切ると、ユージーンはじっと、グロリアーナの目を見つめた。
「いいかい、マクシミリアン。きちんとラウリントン嬢と話し合うんだ。包み隠さず、王家の秘匿事項に触れる事以外、話せる事は全部」
(王家の秘匿事項…?そんな重要な事に、ハミルトンさんは関係しているの…?)
「それにだな…」
エイドリアンが、ぎり、と眦を決する。
「俺もいい加減、限界だ。このまま、アビゲイルに愛想を尽かされたら、お前を一生恨む羽目になるぞ」
アビゲイルとは、エイドリアンの婚約者だ。
「…ソフィア嬢も、いつまで口を噤んでいてくれるか…そろそろご機嫌伺いのネタも尽きて来てるんだよね…」
ソフィアとは、ユージーンの婚約者だ。
「…結局は、自分の婚約なんだな?」
思わず、グロリアーナがそう言うと、二人は冷たい目で彼女を睨みつける。
「当たり前だろ」
「政略目的で結ばれた婚約がきっかけであっても、今では、彼女以外の伴侶は考えられないからね。勿論それは、クレイグもそうだからね?ロイドの所は、彼も婚約者も貴族じゃないから、余り影響を受けてないみたいだけど」
(羨ましい…)
思わず、そう思ってしまった事に自分で驚く。
確かに、マクシミリアンはグロリアーナとの婚約を解消する気はないらしい。
けれど…それは、『グロリアーナ以外の伴侶を考えられない』と言う積極的な理由ではなく、『他に条件の合致する令嬢がいない』と言う消極的な選択の結果でしかないだろう。
黙り込んだグロリアーナを見て、エイドリアンが、ぽんぽん、と頭を撫でる。
「まだ、自分では気づいてねぇみたいだな」
「…何、を」
「とにかく、ラウリントン嬢ときちんと話をするんだよ。彼女ならきっと、最後まで話を聞いてくれるから」
怒らないかどうかは、保証しないけど。
そう、最後に付け加えたユージーンに苦笑いを返して、グロリアーナは今後、どうすべきか考えを巡らせるのだった。
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