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エレオノーラ・ヘーデル公爵令嬢が、西域騎士団の兵営に乗り込んで来たのは、エディスとジェレマイアが配偶者の齎す効用について話をした一週間後の事だった。
「エディス様!助けて下さい!」
そう、涙目のダレンが、厩舎でポチと遊んでいたエディスの元に駆け込んで来たのだ。
「どうしたの?ダレン」
魔法騎士らしく、普段は冷静沈着が売りのダレンが此処まで慌てるとは、尋常ではない。
「そ、それが…ヘーデル公爵家のご令嬢が、先触れなくおいでになって…!」
ヘーデル公爵令嬢は、頻繁にジェレマイアに、身上書と夜会の招待状を送ってくるご令嬢だ。
他にも、複数回、身上書と招待状を送って来ているご令嬢はいるが、ヘーデル公爵令嬢が最も多い。
手紙を出すのも無料ではない事を思うと、そこはやはり、公爵家と言う所か。
少しずつ、身上書にはお断り、招待状には欠席の返信を送っているものの、手紙が先方に届くまで、一~二週間かかる間に、次が届く。
手紙の遣り取りに時間が掛かるのは当然なのだから待っていて欲しい所を、エディスからすれば掟破りな事を繰り返しているのだ。
なかなかジェレマイアから良い返事が来ない事に業を煮やし、彼に会いに来たのだろうが、ジェレマイアは、用事があると言って昨日から留守にしていた。
「所用でお留守だと説明しても、信じて頂けないんです…!」
今は、何とか貴賓用応接室に留め置いているものの、家探ししかねない勢いなのだとか。
団長と副団長の二人が留守にしている西域騎士団で、次に地位が高い者達は、皆、エレオノーラの勢いに腰が引けてしまっている。
何しろ、彼女は公爵令嬢。
西域騎士団で公爵家に連なるのは、ユーキタス家だけだ。
サンクリアーニ王国の騎士は、剣技と魔法を併用する為、魔力量に恵まれた貴族出身者が多い。
だが、貴族の子息であっても男所帯が長いものだから、騎士団と無縁の生粋の貴族令嬢が相手となると、どうすればいいものやら、判らない。
ラングリード家は男爵位ではあるものの、代々、魔獣が跋扈する東域を預かる騎士団長を輩出する家として、尊敬を集めている。
ジェレマイアの補佐を務められるエディスなら、何とかなるのでは、と、藁にも縋る思いで探していたのだと言う。
「う~ん…まぁ、私でよければ、少しお相手をしようか」
ジェレマイアが何処まで出掛けているのかは、知らない。
ただ、今日には帰ると聞いている。
ダレンに縋りつかれながら、貴賓用応接室に向かったエディスは、扉を開けた瞬間、噎せ返るような香水の香りに思わず、立ち止まった。
騎士団では、騎獣や魔獣を不要に興奮させない為、強い香りのするものを置いていない。
ご令嬢のエスコートには慣れているエディスだが…ジェレマイアが、エレオノーラと顔を合わせる事に尻込みしていた気持ちが、少し判る気がする。
「お待たせして申し訳ございません、ヘーデル公爵令嬢。私は、ユーキタス副団長の補佐を務めております、エディス・ラングリードと申します。只今、副団長は兵営を留守にしております。副団長の代理には不足ですが、お相手させて頂きます」
本来は、西域騎士団所属ではない上に、助っ人に過ぎない。だが、余計な情報を入れない方がいいだろう。
エレオノーラの姿絵は、散々、見ている。
三人がゆったりと掛けられる長椅子の真ん中に、姿勢良く腰を掛けているご令嬢がそうだ。
眩い金髪は丁寧に梳られ、華奢な肩を覆っていた。
垂れ目気味の青い瞳の縁が濃く彩られており、目力が強調されている。
抜けるような白い肌は、何処まで白粉の力なのか不明だが、美しいご令嬢と言っていいだろう。
ほっそりと折れそうな体躯に対し、アンバランスな位に強調された胸。
南域の領地を治める家と聞いたが、そこから馬車だとすれば、二週間は掛かる筈だ。
流石に、旅行中ずっと、コルセットを締め続けていたとは思いたくない。
コルセット等、一度も着用した事のないエディスには、考えられない事だ。
それとも、生粋のご令嬢なら、朝飯前なのだろうか。
エレオノーラの背後には、彼女程ではないものの、侍女と言うには豪華なドレスを纏うご令嬢が二名。
そのいずれもの顔を、エディスは姿絵で確認していた。
「…これは、気が利かず、申し訳ございません。ハンギス侯爵令嬢、サウザー侯爵令嬢」
メアリ・ハンギス侯爵令嬢、アネット・サウザー侯爵令嬢も、姿絵の常連と言っていい。
騎士団入団以降、たまの夜会でしか社交界との繋がりがない団員達は、ご令嬢の容姿から素性を推測する事に慣れていない。
名乗ったのがエレオノーラだけだった為に、背後のご令嬢を侍女と決めつけてしまったのだろう。
椅子すら、用意されていない。
一言、エレオノーラが指示すればいいだけの話なのだが…彼女達の間の刺々しい空気を見るに、和気藹々とジェレマイアに会いにやって来た仲良しグループと言うわけではないらしい。
恐らくは、エレオノーラが彼女達に名乗らせすらしなかったのだ。
椅子を用意するようダレンに指示したエディスを見て、エレオノーラは目を眇めるようにして、扇子で口元を隠した。
「まぁ、よろしいのよ?この方達の事は気になさらなくて。わたくしが、宿で待っていて良いとお話ししたのに、勝手について来たのですもの」
「エレオノーラ様!ウェルトにおいでになるから、道中のお話し相手に、とわたくし達の同行を望まれたのはエレオノーラ様ではございませんか!」
抗議したのは、メアリだった。
「えぇ、そうよ?王都からウェルトは遠いのですもの。一人では暇を持て余してしまいますわ。でも、わたくしが同行を求めたのは、ウェルトまで。西域騎士団について来て欲しいだなんて、一言も言っていなくてよ」
怒りからか、顔を赤くしてふるふると震える二人のご令嬢と、不快気に眉を顰めるエレオノーラの会話を聞いて、エディスは情報を整理する。
エレオノーラは、南域の自領ではなく、王都の屋敷からウェルトまで来たらしい。
幾ら公爵家の馬車と言えども、ご令嬢の体に負担が掛からない速度であれば、優に一週間掛かる。
その間、一人でじっと馬車に乗っているのではつまらないから、と、二人のご令嬢に同行を求めた。
ウェルト、と聞いたご令嬢方は、西域騎士団、つまりは、ジェレマイアに面会するのだ、と理解して、喜んで同行した。
だが、ウェルト領に着いた途端、宿に下ろされ、「では、また、帰りに」と置いて行かれそうになったのだ、と言う事だ。
ウェルトは、ユーキタス公爵領。
王族の訪問もあるから、高位貴族の宿泊に向いた宿もあるが、そう言う問題ではない。
「…折角、おいでになったのですから、兵営をご覧になりませんか?普段、ユーキタス副団長が生活しておられる場ですので、ご興味をお持ちでは?」
いつ、ジェレマイアが戻って来るのか判らない以上、応接室で時間を潰すには限界がある。
宿を取ってあるのに、ジェレマイアが留守であると伝えても出直す気がないと言う事は、会えるまで、ここで粘るつもりなのだろう。
そもそも、彼女達がジェレマイアの婚約者の座を求めるのであれば、騎士団の実態を知るのは必須だ。
「…本当に、ジェレマイア様はお留守なんですの?」
エレオノーラは、不機嫌そうに質問する。
「えぇ。今週、副団長は四カ月振りの休暇が取れたのです」
エディスは、四カ月振り、と言う言葉を強調した。
「今年の西域騎士団は、例年にない大きな魔獣が出没した為、大変多忙を極めております。疲労は判断力を損ないますから、一般の騎士には、例えどんなに多忙でも、規定通りの休暇を取らせます。ですが、幹部ともなれば、状況次第で後回しにせざるを得ないのです。その為、副団長は、個人的な用件が滞っていると伺っております」
実際、エディスは、その『個人的な用件』の処理も手伝っているわけだが、おくびにも出さない。
「では、ジェレマイア様は、個人的な用件をお済ましになる為に、お留守にしていらっしゃるのだと?」
「私は騎士団での補佐ですから、実際の所は存じ上げませんが、諸々が滞っている事を憂慮されているのは確かです」
「そう…」
エレオノーラ達は、納得が行ったのか、頷いた。
希望のようなものが目に浮かんでいるのは、ジェレマイアがいよいよ縁談の選定に向き合うのだと、考えたからか。
「いかがなさいますか?副団長は、本日には帰還予定ではありますが、休暇中ですし、皆様のご来訪をご存知ないので、何時頃にお戻りになるか定かではありません。ご足労頂く事になりますが、明日、改めてお時間を頂く方が、確実です」
「折角来たのですもの、お待ちするわ。お戻りになるまで、中を案内なさい。お戻りになったら、直ぐに判るのでしょう?」
予想はしていたが、再訪を勧めるエディスの提案に乗る者はいなかった。
「では、ご案内致します」
エディスが立ち上がると、三人のご令嬢方も立ち上がる。
彼女達の歩幅に配慮しながら、エディスはにこやかに兵営を案内し始めた。
ダレン達の目に、感謝の念が浮かぶのを見て、小さく頷く。
うん、これは、上級者向けの相手だ。
「こちらは、鍛錬場です。騎士には大きく分けて二種類あり、武器を使う者と、魔法を使う者がおりますが、いずれにせよ、体を鍛える必要があります。その為、」
「嫌だわ、埃っぽいし、汗臭い。早く、次に行ってちょうだい」
「こちらは、食堂です。深淵の森からは、いつ何時魔獣が溢れるか判りませんので、三交代制で見張りをしております。いつでも温かな食事を摂れるように、」
「…まぁ、このような粗末なものをジェレマイア様が…お労しい…」
「こちらは、厩舎です。西域と接する深淵の森は広い為、騎獣を持つ騎士は少なくありません。副団長も、愛騎をお持ちで、」
「おぉ、怖い!騎獣とは、魔獣でしょう?獣臭い臭いが染みついてしまうわ」
これは、手強い。
先日、同じコースを案内したエリナは、熱心に話を聞いてくれたのだが。
騎士の妻となる以上は、夫が暮らす場をよく知らなければ、と言って。
思わず小さく溜息を零すと、聞き咎めたメアリが、エディスに噛みつく。
「何ですの?!このような場所ばかり連れ回して。わざと、汚らしい場所ばかり案内しているのではなくて?!わたくし達を、何だと思っているのかしら」
「副団長とご縁を結びたいご令嬢、と認識しておりましたが、間違っておりましたか?」
「な…わたくし達は、国を守る騎士団の方々を労おうと、慰労訪問しただけですわ!その辺りにいる浮ついたご令嬢と一緒になさらないで頂ける?!」
「…なるほど、つまり、副団長とのご縁は望んでいらっしゃらない、と」
「そんな事は言っていないじゃない!」
エディスは、やんわりと微笑んだ。
「ご存知の通り、副団長はユーキタス公爵令息であると同時に、西域騎士団副団長です。そして副団長は、騎士として、魔獣を討伐し、国と民を守る事に、何よりも誇りを抱いている方です。副団長をお慕いになるのであれば、あの方が普段、お過ごしの場所をよく知り、何を思い、危険な魔獣討伐と向き合っておられるのか、よくよくお考えになられた方が、よろしいのでは、と愚考したのですが…余計な事を致しました」
ご令嬢方が知っているのは、社交界でのジェレマイアだけだろう。
騎士の姿が想像出来ないのは、仕方がない。
だが、公爵令息としての面にしか興味がないのでは、彼の配偶者にはなれない。
騎士の配偶者に求められているものは、貴族の奥方に求められているものと異なるのだから。
そう懇々と説明すると、エレオノーラが、不快気に片眉を上げた。
「貴方ね。片田舎のご令嬢はともかく、このわたくしを言い包められると思っているのならば、それは大きな間違いよ。ラングリードと言えば、男爵家よね?貴族の末席でしかない貴方が、ジェレマイア様の将来の婚約者であるわたくしに対して、随分と過ぎた口を利くのね?それに、ジェレマイア様の補佐をしているだけなのでしょう?何故、たかだか補佐の貴方が、ジェレマイア様の婚約者選びに口を出すの」
おっと、そう来たか。
別に、彼女達にケチをつけたいわけではなく、騎士への理解が深い方が、ジェレマイアと親しくなれるだろう、との親切心のつもりだったのだが。
――…いや、違うか。
ジェレマイアには、魔獣討伐と言う、危険で心削られる任務がある。
消耗した心と体を、愛する人の傍で癒して欲しい。
そして、長生きして、天寿を全うして欲しいのだ。
「補佐だからこそ、です。私は、騎士団で過ごして十年経ちます。配偶者が騎士の任務を十分に理解しているか否かで、怪我の程度と回復速度が変わると言う事を、この目で見て実感しております。副団長には是非とも、大きな怪我なくお過ごし頂きたいですから、理解ある配偶者を求める事に不思議はございませんでしょう?」
「ジェレマイア様は副団長でしょう。何故、貴方達、一般の騎士がその大切な御身を守ろうとしないの」
…あぁ。
これは、理解して貰うのは難しいかもしれない。
貴族の中でも高い身分に生まれついた彼女達には、「周囲が動いて当然」、「自分は護られるべき存在」との意識が、根強く沁みついている。
貴族の奥方としては、ある意味、正しい姿なのだが、彼女達が望むのは、騎士であるジェレマイアの配偶者の座だ。
「私達が戦っている相手は、魔獣です。獣なのです。こちらの予測通りに動くものではありません。ですから、副団長だけではなく、団長も、討伐の現場に立てば一騎士同様。己の身は己の力で守るしかないのですよ。そんな時に大切なのが、帰る場所です。愛する人が待っていると思うからこそ、騎士達は力を発揮する事が出来るのです」
「えぇ、判っているわ。だからこそ、わたくしが、ジェレマイア様に相応しい、と言っているのです」
エレオノーラが、堂々と胸を張る。
「わたくしは、ユーキタス家と同格の公爵家の娘。そして、ジェレマイア様のお隣に立つに相応しくあるべく、容姿も社交術も磨いてきたのだもの。配偶者として、これ以上の令嬢は存在しないわ。ジェレマイア様も、わたくしをお選びになる事は間違いなくってよ」
「なる、ほど…?」
自信を持つのは、いい事だ。
ただ、エレオノーラには、ジェレマイアの心を慮ろうと言う意識がない。
これでは、お勧めしようがないな、と、心の中で嘆息したエディスが、足が疲れた、靴が汚れた、ドレスに匂いがついた、と姦しいご令嬢方を応接室に連れ戻すべく、前庭に移動した所で。
「あ」
遠く彼方より、こちらに一直線に飛んでくる騎影を見つけて声を上げる。
「皆様、一歩、お下がり下さい」
背にご令嬢方を庇った所で、騎影がぐんぐんと近づいて、ぶわ、と風が巻き起こった。
立ち上る土埃に悲鳴が上がると同時に、ストン、と地面に降り立つ者がいる。
「お帰りなさい」
「ただいま、エディス」
「ヴァージル、お帰り」
エディスにすりすりと顔を寄せるヴァージルの姿を背後から覗いたご令嬢方は、ひっ、と小さく悲鳴を上げた。
「ジェレマイア、お客様がいらしていますよ」
「客?そのような予定はなかった筈だが」
エディスの後ろに立つご令嬢三人の姿は、上空からも見えていただろうに、ジェレマイアはそう嘯く。
その声の冷たさに、また小さく悲鳴が上がった。
王都の夜会で、冴え冴えとした美貌ながらも穏やかな貴公子然とした姿しか見た事のなかったご令嬢方には、『仕事場』でのジェレマイアの姿が全く想像出来ていなかったのだ。
「まさか、命の遣り取りをする現場を訪問するのに、先触れなしと言う事はなかろう。見逃していたか?」
ジェレマイアがわざと問うているのは、ご令嬢方にも判る。
何度、訪問を打診しても断られるから、と、先触れなく訪れたのだが、如何に無礼な真似をしたのか。
此処は、深淵の森の目と鼻の先。
騎士達の、命を懸けた戦場であるのだと言う事実に、漸く気が付いた。
「お疲れだとは思いますが、一先ず、お茶でもいかがです?」
ジェレマイアの機嫌の悪さを感じ取ったエディスが、やんわりと背を押すと、ジェレマイアは、仕方ない、と言いたげに溜息をついた。
「まずは、ヴァージルを厩舎に連れて行って、世話をせねば」
「そうですね」
ヴァージルは、半分馬体のヒポグリフだ。
掻いた汗をそのままにしておいては体によくない為、直ぐに拭ってやる必要がある。
野生のヒポグリフであれば、汗を掻く前に自分で調整出来るが、ヴァージルは騎獣だ。
人間の都合で動く以上、ヴァージルの為に、省く事の出来ない世話だった。
ヴァージルは温厚とは言え、騎乗後の世話を厩務員に任せる事は出来ない。
エディスには随分と懐いているから、騎獣大好きな厩務員ハインツが、悔しそうな顔をしている。
「では、私も手伝いましょう。リック。ご令嬢方を、応接室にお連れして」
「はっ、はい!」
ジェレマイアの帰還を聞いたリックが、早速迎えに出ているのに気づいて、エディスが声を掛けると、エレオノーラ以外の二人のご令嬢は、ホッと息を吐いた。
これ以上、不機嫌なジェレマイアの傍にいるのは怖いのか、エディスを見る目には、感謝すら籠っているように見える。
しかし、エレオノーラは。
「いえ、わたくしは、お手伝い致しますわ。これでも、領地では馬に一人で乗っているのです」
騎士の妻として相応しい、とのアピールか。
胸を張り、ヴァージルの傍に近寄ると、慣れている事を示す為か、突然、撫でようとした。
エディスにすり寄る姿を見て、魔獣と言っても大した事はない、自分も触れると思ったのだろう。
だが、例え、馬であったとしても、初対面の相手にそんな行動を取られて、平静でいられるものではない。
ましてや、ヴァージルは魔獣。
反射的に鋭い嘴で突こうとしたヴァージルの手綱を、ジェレマイアが強く引き、エディスは咄嗟にエレオノーラを抱き込んで庇う。
既の所でヴァージルは動きを止めたが、嘴がエディスの首筋を掠め、血が散った。
「エディス!」
ジェレマイアが焦ったように名を呼ぶと、エディスは、痛みなど感じさせない笑みを浮かべる。
「大丈夫ですよ、ヴァージルはいい子ですから、直ぐに止まってくれました」
鉤裂きに裂けた白いシャツの襟に飛び散る、赤い飛沫。
それを見て、ふら、とわざとらしくよろめいたエレオノーラの腕を、ジェレマイアが掴む。
「ジェレマイア様…血が…」
ジェレマイアに、縋りつこうとしたようだが。
「ヘーデル公爵令嬢、貴方がした行動の結果だ。しっかりと、目を開けて見ろ」
と、厳しく叱責され、びくり、と、体を震わせた。
一方でジェレマイアは、エディスに心配そうに声を掛ける。
「エディス、直ぐに手当てを」
「掠り傷です。まずは、ヴァージルを厩舎に連れて行かなくては。…大丈夫だよ、ヴァージル。私は痛くないから」
申し訳なさそうに、くぅくぅと鳴きながらすり寄るヴァージルの首筋を、エディスは優しく撫でる。
「ジェレマイア、ヴァージルの世話は私に任せて頂けますか。貴方は旅装を解いて、ご令嬢方のお相手をなさって下さい。リック、皆様を応接室に。申し訳ございません、お見苦しいものをお見せしました」
最後は、血を見た事と、厳しいジェレマイアの声に蒼白になったご令嬢方に向けて。
右の拳を左胸に当てる騎士の礼で詫びると、エディスはヴァージルに魔石を一つ与え、
「今日は、私が世話をするからね」
と手綱を取って、厩舎へと向かった。
その背中を視線で追って、ジェレマイアは、背後で立ち竦む令嬢達に、チッと舌打ちをする。
「リック、エディスの言った通りに。俺は着替えてくる」
「はい!」
ヴァージルの世話をして、傷口の消毒だけ手早く終え、血で汚れた衣服を着替えたエディスが応接室に向かうと、部屋の空気は、これ以上ない程に張りつめていた。
ジェレマイアは、秀麗な顔に「不機嫌」と書いて、腕組みをして座っているし、エレオノーラ以外のご令嬢は、蒼白な顔で小刻みに震えながら俯いている。
エレオノーラだけは、流石、公爵令嬢と言うべきか、気丈にもジェレマイアに話し掛け続けているのだが、その反応は芳しいものではない。
「エディス」
エディスを見て、ジェレマイアは明らかにホッとした顔を見せた。
「ご用件はお聞きになりましたか?」
「いや。要領を得ない」
ばっさりと切り捨てられたエレオノーラが、一瞬、口を開けてから、グッと奥歯を噛み締める。
「ヘーデル公爵令嬢。先触れなく、魔獣討伐の最前線である兵営にいらっしゃるとは、どのような緊急のご用件なのか、端的にお聞かせ願えますか」
ジェレマイアが、声を押し殺して尋ねると、エレオノーラは、昂然と頭を上げた。
「ジェレマイア様が、騎士団のお仕事がご多忙で、縁談を先延ばしにしている事は存じ上げております。けれど、わたくしももう二十一。貴族の娘として、婚約せねばなりません」
十八で成人すると、多くの令嬢は二十までに婚約を済ませる。
二十を過ぎると、本人も周囲も、焦りを感じ始めるのだ。その結果の、身上書攻勢だったのだろう。
つまり、彼女は、『早く私と婚約してよ』と言っている。
震えていた筈のご令嬢方が、殺気の籠った目でエレオノーラを睨みつけた。
それが判っているだろうに、ジェレマイアは平然とした顔で、
「なるほど。では、近々、ご婚約されるのですか?おめでとうございます」
と返す。
「わざわざご足労頂かずとも、遠からず、王都の夜会に顔を出す予定でしたから、そこでお聞きすれば十分だったのですが。…あぁ、頂いていた身上書と姿絵は、全てお返し致しますので、ご安心を」
エレオノーラが、初めて顔を青褪めさせた。
「そ、そうではなくて、」
「実は、私も婚約が調いまして」
さり気ない告白に、ご令嬢方が息を飲む。
「父が持ち込んだ縁談に、昨日、私自身から改めて、先方の家に結婚を申し込んで参りました。次の夜会で発表するつもりでしたが、まぁ、皆様にはお伝えしても問題ないでしょう」
「ジェレマイア様っ」
上がる悲鳴。
ジェレマイアは、うっすらと笑った。
「どうぞ、家名でお呼び下さい。婚約者に勘違いされて、気を遣わせたくはありませんから」
「傷を見せてみろ」
「大丈夫ですって。本当に掠り傷なんですから」
ジェレマイアは、エディスの体に残る傷跡を知っている。
月狼につけられた傷に比べれば、嘴が掠めた程度、何て事はない。
「いいから」
茫然として、ふらふらと覚束ない足取りのご令嬢方を馬車に押し込むのは、ダレン達に任せ、ジェレマイアはエディスの傷の確認を求めた。
絶対に引く気のないジェレマイアに溜息を吐くと、エディスはシャツのボタンを二つ程外して、首筋を見せる。
鋭い嘴に引っ掛けられた痕は、五センチ程の切り傷になっていた。
「…ほら、大した事ないでしょう?」
「あぁ…これなら、綺麗に治るだろう」
「だから、言ったのに」
エディスがボタンを留め直そうとするのを、ジェレマイアの手が留め、傷口にそっと触れた。
ちり、とした痛みが走る。
急所を晒していると言うのに、相手がジェレマイアだからか、エディスに恐れはなかった。
「ジェレマイア?」
「ヴァージルが、すまなかった」
「ヴァージルは、何も悪くありませんよ」
「貴方はどうして、直ぐに他人を庇おうとするんだ」
「どうして、って…公爵令嬢に怪我を負わせたら、ヴァージルが可哀想な事になるかもしれないでしょう?」
幾ら、人間側に責任があろうが、相手は公爵家。
例え、掠り傷で済んでも、娘に怪我を負わされたとなれば、ヘーデル公爵家側が何を言い出すか、判らない。
ジェレマイアは、きょとん、と目を見開いた。
「…ヘーデル嬢を、庇ったわけではないのか?」
改めて問われて、エディスは首を傾げる。
「そう、ですね…咄嗟に考えたのは、ヴァージルに何かあったら、貴方が悲しむだろうな、と言う事ですが」
ジェレマイアがヴァージルを可愛がっているのは、よく判る。
エディスだって、ポチが人間を傷つけたせいで処分を求められでもしたら、確実に取り乱すだろう。
ジェレマイアの頬に、朱が上った。
「…全く、貴方と言う人は」
先程とは違い、声に勢いがない。
そのまま、赤く染まった頬を隠すように、大きな右手で顔を覆ったジェレマイアの顔を、エディスは、傷の痛みとは異なるズキズキした胸の痛みと共に見ていた。
『婚約が調いまして』
ジェレマイアは、確かにそう言っていた。
一時しのぎの嘘かと思ったけれど、夜会で発表するつもりとまで言ったと言う事は、事実なのだろう。
それも、親が調えた縁談なのに、改めて結婚の申し入れをしたと言う事は、ジェレマイア自身が乗り気と言う事だ。
「…婚約とは、いいものだな」
照れ臭そうに笑う、ジェレマイア。
その顔が、とても満たされているようで美しいと思うと同時に、エディスの胸にぽっかりと穴が開く。
その空虚の理由が、自分では判らない。
彼が幸せになれる事を、望んでいた筈なのに。
「エディス様!助けて下さい!」
そう、涙目のダレンが、厩舎でポチと遊んでいたエディスの元に駆け込んで来たのだ。
「どうしたの?ダレン」
魔法騎士らしく、普段は冷静沈着が売りのダレンが此処まで慌てるとは、尋常ではない。
「そ、それが…ヘーデル公爵家のご令嬢が、先触れなくおいでになって…!」
ヘーデル公爵令嬢は、頻繁にジェレマイアに、身上書と夜会の招待状を送ってくるご令嬢だ。
他にも、複数回、身上書と招待状を送って来ているご令嬢はいるが、ヘーデル公爵令嬢が最も多い。
手紙を出すのも無料ではない事を思うと、そこはやはり、公爵家と言う所か。
少しずつ、身上書にはお断り、招待状には欠席の返信を送っているものの、手紙が先方に届くまで、一~二週間かかる間に、次が届く。
手紙の遣り取りに時間が掛かるのは当然なのだから待っていて欲しい所を、エディスからすれば掟破りな事を繰り返しているのだ。
なかなかジェレマイアから良い返事が来ない事に業を煮やし、彼に会いに来たのだろうが、ジェレマイアは、用事があると言って昨日から留守にしていた。
「所用でお留守だと説明しても、信じて頂けないんです…!」
今は、何とか貴賓用応接室に留め置いているものの、家探ししかねない勢いなのだとか。
団長と副団長の二人が留守にしている西域騎士団で、次に地位が高い者達は、皆、エレオノーラの勢いに腰が引けてしまっている。
何しろ、彼女は公爵令嬢。
西域騎士団で公爵家に連なるのは、ユーキタス家だけだ。
サンクリアーニ王国の騎士は、剣技と魔法を併用する為、魔力量に恵まれた貴族出身者が多い。
だが、貴族の子息であっても男所帯が長いものだから、騎士団と無縁の生粋の貴族令嬢が相手となると、どうすればいいものやら、判らない。
ラングリード家は男爵位ではあるものの、代々、魔獣が跋扈する東域を預かる騎士団長を輩出する家として、尊敬を集めている。
ジェレマイアの補佐を務められるエディスなら、何とかなるのでは、と、藁にも縋る思いで探していたのだと言う。
「う~ん…まぁ、私でよければ、少しお相手をしようか」
ジェレマイアが何処まで出掛けているのかは、知らない。
ただ、今日には帰ると聞いている。
ダレンに縋りつかれながら、貴賓用応接室に向かったエディスは、扉を開けた瞬間、噎せ返るような香水の香りに思わず、立ち止まった。
騎士団では、騎獣や魔獣を不要に興奮させない為、強い香りのするものを置いていない。
ご令嬢のエスコートには慣れているエディスだが…ジェレマイアが、エレオノーラと顔を合わせる事に尻込みしていた気持ちが、少し判る気がする。
「お待たせして申し訳ございません、ヘーデル公爵令嬢。私は、ユーキタス副団長の補佐を務めております、エディス・ラングリードと申します。只今、副団長は兵営を留守にしております。副団長の代理には不足ですが、お相手させて頂きます」
本来は、西域騎士団所属ではない上に、助っ人に過ぎない。だが、余計な情報を入れない方がいいだろう。
エレオノーラの姿絵は、散々、見ている。
三人がゆったりと掛けられる長椅子の真ん中に、姿勢良く腰を掛けているご令嬢がそうだ。
眩い金髪は丁寧に梳られ、華奢な肩を覆っていた。
垂れ目気味の青い瞳の縁が濃く彩られており、目力が強調されている。
抜けるような白い肌は、何処まで白粉の力なのか不明だが、美しいご令嬢と言っていいだろう。
ほっそりと折れそうな体躯に対し、アンバランスな位に強調された胸。
南域の領地を治める家と聞いたが、そこから馬車だとすれば、二週間は掛かる筈だ。
流石に、旅行中ずっと、コルセットを締め続けていたとは思いたくない。
コルセット等、一度も着用した事のないエディスには、考えられない事だ。
それとも、生粋のご令嬢なら、朝飯前なのだろうか。
エレオノーラの背後には、彼女程ではないものの、侍女と言うには豪華なドレスを纏うご令嬢が二名。
そのいずれもの顔を、エディスは姿絵で確認していた。
「…これは、気が利かず、申し訳ございません。ハンギス侯爵令嬢、サウザー侯爵令嬢」
メアリ・ハンギス侯爵令嬢、アネット・サウザー侯爵令嬢も、姿絵の常連と言っていい。
騎士団入団以降、たまの夜会でしか社交界との繋がりがない団員達は、ご令嬢の容姿から素性を推測する事に慣れていない。
名乗ったのがエレオノーラだけだった為に、背後のご令嬢を侍女と決めつけてしまったのだろう。
椅子すら、用意されていない。
一言、エレオノーラが指示すればいいだけの話なのだが…彼女達の間の刺々しい空気を見るに、和気藹々とジェレマイアに会いにやって来た仲良しグループと言うわけではないらしい。
恐らくは、エレオノーラが彼女達に名乗らせすらしなかったのだ。
椅子を用意するようダレンに指示したエディスを見て、エレオノーラは目を眇めるようにして、扇子で口元を隠した。
「まぁ、よろしいのよ?この方達の事は気になさらなくて。わたくしが、宿で待っていて良いとお話ししたのに、勝手について来たのですもの」
「エレオノーラ様!ウェルトにおいでになるから、道中のお話し相手に、とわたくし達の同行を望まれたのはエレオノーラ様ではございませんか!」
抗議したのは、メアリだった。
「えぇ、そうよ?王都からウェルトは遠いのですもの。一人では暇を持て余してしまいますわ。でも、わたくしが同行を求めたのは、ウェルトまで。西域騎士団について来て欲しいだなんて、一言も言っていなくてよ」
怒りからか、顔を赤くしてふるふると震える二人のご令嬢と、不快気に眉を顰めるエレオノーラの会話を聞いて、エディスは情報を整理する。
エレオノーラは、南域の自領ではなく、王都の屋敷からウェルトまで来たらしい。
幾ら公爵家の馬車と言えども、ご令嬢の体に負担が掛からない速度であれば、優に一週間掛かる。
その間、一人でじっと馬車に乗っているのではつまらないから、と、二人のご令嬢に同行を求めた。
ウェルト、と聞いたご令嬢方は、西域騎士団、つまりは、ジェレマイアに面会するのだ、と理解して、喜んで同行した。
だが、ウェルト領に着いた途端、宿に下ろされ、「では、また、帰りに」と置いて行かれそうになったのだ、と言う事だ。
ウェルトは、ユーキタス公爵領。
王族の訪問もあるから、高位貴族の宿泊に向いた宿もあるが、そう言う問題ではない。
「…折角、おいでになったのですから、兵営をご覧になりませんか?普段、ユーキタス副団長が生活しておられる場ですので、ご興味をお持ちでは?」
いつ、ジェレマイアが戻って来るのか判らない以上、応接室で時間を潰すには限界がある。
宿を取ってあるのに、ジェレマイアが留守であると伝えても出直す気がないと言う事は、会えるまで、ここで粘るつもりなのだろう。
そもそも、彼女達がジェレマイアの婚約者の座を求めるのであれば、騎士団の実態を知るのは必須だ。
「…本当に、ジェレマイア様はお留守なんですの?」
エレオノーラは、不機嫌そうに質問する。
「えぇ。今週、副団長は四カ月振りの休暇が取れたのです」
エディスは、四カ月振り、と言う言葉を強調した。
「今年の西域騎士団は、例年にない大きな魔獣が出没した為、大変多忙を極めております。疲労は判断力を損ないますから、一般の騎士には、例えどんなに多忙でも、規定通りの休暇を取らせます。ですが、幹部ともなれば、状況次第で後回しにせざるを得ないのです。その為、副団長は、個人的な用件が滞っていると伺っております」
実際、エディスは、その『個人的な用件』の処理も手伝っているわけだが、おくびにも出さない。
「では、ジェレマイア様は、個人的な用件をお済ましになる為に、お留守にしていらっしゃるのだと?」
「私は騎士団での補佐ですから、実際の所は存じ上げませんが、諸々が滞っている事を憂慮されているのは確かです」
「そう…」
エレオノーラ達は、納得が行ったのか、頷いた。
希望のようなものが目に浮かんでいるのは、ジェレマイアがいよいよ縁談の選定に向き合うのだと、考えたからか。
「いかがなさいますか?副団長は、本日には帰還予定ではありますが、休暇中ですし、皆様のご来訪をご存知ないので、何時頃にお戻りになるか定かではありません。ご足労頂く事になりますが、明日、改めてお時間を頂く方が、確実です」
「折角来たのですもの、お待ちするわ。お戻りになるまで、中を案内なさい。お戻りになったら、直ぐに判るのでしょう?」
予想はしていたが、再訪を勧めるエディスの提案に乗る者はいなかった。
「では、ご案内致します」
エディスが立ち上がると、三人のご令嬢方も立ち上がる。
彼女達の歩幅に配慮しながら、エディスはにこやかに兵営を案内し始めた。
ダレン達の目に、感謝の念が浮かぶのを見て、小さく頷く。
うん、これは、上級者向けの相手だ。
「こちらは、鍛錬場です。騎士には大きく分けて二種類あり、武器を使う者と、魔法を使う者がおりますが、いずれにせよ、体を鍛える必要があります。その為、」
「嫌だわ、埃っぽいし、汗臭い。早く、次に行ってちょうだい」
「こちらは、食堂です。深淵の森からは、いつ何時魔獣が溢れるか判りませんので、三交代制で見張りをしております。いつでも温かな食事を摂れるように、」
「…まぁ、このような粗末なものをジェレマイア様が…お労しい…」
「こちらは、厩舎です。西域と接する深淵の森は広い為、騎獣を持つ騎士は少なくありません。副団長も、愛騎をお持ちで、」
「おぉ、怖い!騎獣とは、魔獣でしょう?獣臭い臭いが染みついてしまうわ」
これは、手強い。
先日、同じコースを案内したエリナは、熱心に話を聞いてくれたのだが。
騎士の妻となる以上は、夫が暮らす場をよく知らなければ、と言って。
思わず小さく溜息を零すと、聞き咎めたメアリが、エディスに噛みつく。
「何ですの?!このような場所ばかり連れ回して。わざと、汚らしい場所ばかり案内しているのではなくて?!わたくし達を、何だと思っているのかしら」
「副団長とご縁を結びたいご令嬢、と認識しておりましたが、間違っておりましたか?」
「な…わたくし達は、国を守る騎士団の方々を労おうと、慰労訪問しただけですわ!その辺りにいる浮ついたご令嬢と一緒になさらないで頂ける?!」
「…なるほど、つまり、副団長とのご縁は望んでいらっしゃらない、と」
「そんな事は言っていないじゃない!」
エディスは、やんわりと微笑んだ。
「ご存知の通り、副団長はユーキタス公爵令息であると同時に、西域騎士団副団長です。そして副団長は、騎士として、魔獣を討伐し、国と民を守る事に、何よりも誇りを抱いている方です。副団長をお慕いになるのであれば、あの方が普段、お過ごしの場所をよく知り、何を思い、危険な魔獣討伐と向き合っておられるのか、よくよくお考えになられた方が、よろしいのでは、と愚考したのですが…余計な事を致しました」
ご令嬢方が知っているのは、社交界でのジェレマイアだけだろう。
騎士の姿が想像出来ないのは、仕方がない。
だが、公爵令息としての面にしか興味がないのでは、彼の配偶者にはなれない。
騎士の配偶者に求められているものは、貴族の奥方に求められているものと異なるのだから。
そう懇々と説明すると、エレオノーラが、不快気に片眉を上げた。
「貴方ね。片田舎のご令嬢はともかく、このわたくしを言い包められると思っているのならば、それは大きな間違いよ。ラングリードと言えば、男爵家よね?貴族の末席でしかない貴方が、ジェレマイア様の将来の婚約者であるわたくしに対して、随分と過ぎた口を利くのね?それに、ジェレマイア様の補佐をしているだけなのでしょう?何故、たかだか補佐の貴方が、ジェレマイア様の婚約者選びに口を出すの」
おっと、そう来たか。
別に、彼女達にケチをつけたいわけではなく、騎士への理解が深い方が、ジェレマイアと親しくなれるだろう、との親切心のつもりだったのだが。
――…いや、違うか。
ジェレマイアには、魔獣討伐と言う、危険で心削られる任務がある。
消耗した心と体を、愛する人の傍で癒して欲しい。
そして、長生きして、天寿を全うして欲しいのだ。
「補佐だからこそ、です。私は、騎士団で過ごして十年経ちます。配偶者が騎士の任務を十分に理解しているか否かで、怪我の程度と回復速度が変わると言う事を、この目で見て実感しております。副団長には是非とも、大きな怪我なくお過ごし頂きたいですから、理解ある配偶者を求める事に不思議はございませんでしょう?」
「ジェレマイア様は副団長でしょう。何故、貴方達、一般の騎士がその大切な御身を守ろうとしないの」
…あぁ。
これは、理解して貰うのは難しいかもしれない。
貴族の中でも高い身分に生まれついた彼女達には、「周囲が動いて当然」、「自分は護られるべき存在」との意識が、根強く沁みついている。
貴族の奥方としては、ある意味、正しい姿なのだが、彼女達が望むのは、騎士であるジェレマイアの配偶者の座だ。
「私達が戦っている相手は、魔獣です。獣なのです。こちらの予測通りに動くものではありません。ですから、副団長だけではなく、団長も、討伐の現場に立てば一騎士同様。己の身は己の力で守るしかないのですよ。そんな時に大切なのが、帰る場所です。愛する人が待っていると思うからこそ、騎士達は力を発揮する事が出来るのです」
「えぇ、判っているわ。だからこそ、わたくしが、ジェレマイア様に相応しい、と言っているのです」
エレオノーラが、堂々と胸を張る。
「わたくしは、ユーキタス家と同格の公爵家の娘。そして、ジェレマイア様のお隣に立つに相応しくあるべく、容姿も社交術も磨いてきたのだもの。配偶者として、これ以上の令嬢は存在しないわ。ジェレマイア様も、わたくしをお選びになる事は間違いなくってよ」
「なる、ほど…?」
自信を持つのは、いい事だ。
ただ、エレオノーラには、ジェレマイアの心を慮ろうと言う意識がない。
これでは、お勧めしようがないな、と、心の中で嘆息したエディスが、足が疲れた、靴が汚れた、ドレスに匂いがついた、と姦しいご令嬢方を応接室に連れ戻すべく、前庭に移動した所で。
「あ」
遠く彼方より、こちらに一直線に飛んでくる騎影を見つけて声を上げる。
「皆様、一歩、お下がり下さい」
背にご令嬢方を庇った所で、騎影がぐんぐんと近づいて、ぶわ、と風が巻き起こった。
立ち上る土埃に悲鳴が上がると同時に、ストン、と地面に降り立つ者がいる。
「お帰りなさい」
「ただいま、エディス」
「ヴァージル、お帰り」
エディスにすりすりと顔を寄せるヴァージルの姿を背後から覗いたご令嬢方は、ひっ、と小さく悲鳴を上げた。
「ジェレマイア、お客様がいらしていますよ」
「客?そのような予定はなかった筈だが」
エディスの後ろに立つご令嬢三人の姿は、上空からも見えていただろうに、ジェレマイアはそう嘯く。
その声の冷たさに、また小さく悲鳴が上がった。
王都の夜会で、冴え冴えとした美貌ながらも穏やかな貴公子然とした姿しか見た事のなかったご令嬢方には、『仕事場』でのジェレマイアの姿が全く想像出来ていなかったのだ。
「まさか、命の遣り取りをする現場を訪問するのに、先触れなしと言う事はなかろう。見逃していたか?」
ジェレマイアがわざと問うているのは、ご令嬢方にも判る。
何度、訪問を打診しても断られるから、と、先触れなく訪れたのだが、如何に無礼な真似をしたのか。
此処は、深淵の森の目と鼻の先。
騎士達の、命を懸けた戦場であるのだと言う事実に、漸く気が付いた。
「お疲れだとは思いますが、一先ず、お茶でもいかがです?」
ジェレマイアの機嫌の悪さを感じ取ったエディスが、やんわりと背を押すと、ジェレマイアは、仕方ない、と言いたげに溜息をついた。
「まずは、ヴァージルを厩舎に連れて行って、世話をせねば」
「そうですね」
ヴァージルは、半分馬体のヒポグリフだ。
掻いた汗をそのままにしておいては体によくない為、直ぐに拭ってやる必要がある。
野生のヒポグリフであれば、汗を掻く前に自分で調整出来るが、ヴァージルは騎獣だ。
人間の都合で動く以上、ヴァージルの為に、省く事の出来ない世話だった。
ヴァージルは温厚とは言え、騎乗後の世話を厩務員に任せる事は出来ない。
エディスには随分と懐いているから、騎獣大好きな厩務員ハインツが、悔しそうな顔をしている。
「では、私も手伝いましょう。リック。ご令嬢方を、応接室にお連れして」
「はっ、はい!」
ジェレマイアの帰還を聞いたリックが、早速迎えに出ているのに気づいて、エディスが声を掛けると、エレオノーラ以外の二人のご令嬢は、ホッと息を吐いた。
これ以上、不機嫌なジェレマイアの傍にいるのは怖いのか、エディスを見る目には、感謝すら籠っているように見える。
しかし、エレオノーラは。
「いえ、わたくしは、お手伝い致しますわ。これでも、領地では馬に一人で乗っているのです」
騎士の妻として相応しい、とのアピールか。
胸を張り、ヴァージルの傍に近寄ると、慣れている事を示す為か、突然、撫でようとした。
エディスにすり寄る姿を見て、魔獣と言っても大した事はない、自分も触れると思ったのだろう。
だが、例え、馬であったとしても、初対面の相手にそんな行動を取られて、平静でいられるものではない。
ましてや、ヴァージルは魔獣。
反射的に鋭い嘴で突こうとしたヴァージルの手綱を、ジェレマイアが強く引き、エディスは咄嗟にエレオノーラを抱き込んで庇う。
既の所でヴァージルは動きを止めたが、嘴がエディスの首筋を掠め、血が散った。
「エディス!」
ジェレマイアが焦ったように名を呼ぶと、エディスは、痛みなど感じさせない笑みを浮かべる。
「大丈夫ですよ、ヴァージルはいい子ですから、直ぐに止まってくれました」
鉤裂きに裂けた白いシャツの襟に飛び散る、赤い飛沫。
それを見て、ふら、とわざとらしくよろめいたエレオノーラの腕を、ジェレマイアが掴む。
「ジェレマイア様…血が…」
ジェレマイアに、縋りつこうとしたようだが。
「ヘーデル公爵令嬢、貴方がした行動の結果だ。しっかりと、目を開けて見ろ」
と、厳しく叱責され、びくり、と、体を震わせた。
一方でジェレマイアは、エディスに心配そうに声を掛ける。
「エディス、直ぐに手当てを」
「掠り傷です。まずは、ヴァージルを厩舎に連れて行かなくては。…大丈夫だよ、ヴァージル。私は痛くないから」
申し訳なさそうに、くぅくぅと鳴きながらすり寄るヴァージルの首筋を、エディスは優しく撫でる。
「ジェレマイア、ヴァージルの世話は私に任せて頂けますか。貴方は旅装を解いて、ご令嬢方のお相手をなさって下さい。リック、皆様を応接室に。申し訳ございません、お見苦しいものをお見せしました」
最後は、血を見た事と、厳しいジェレマイアの声に蒼白になったご令嬢方に向けて。
右の拳を左胸に当てる騎士の礼で詫びると、エディスはヴァージルに魔石を一つ与え、
「今日は、私が世話をするからね」
と手綱を取って、厩舎へと向かった。
その背中を視線で追って、ジェレマイアは、背後で立ち竦む令嬢達に、チッと舌打ちをする。
「リック、エディスの言った通りに。俺は着替えてくる」
「はい!」
ヴァージルの世話をして、傷口の消毒だけ手早く終え、血で汚れた衣服を着替えたエディスが応接室に向かうと、部屋の空気は、これ以上ない程に張りつめていた。
ジェレマイアは、秀麗な顔に「不機嫌」と書いて、腕組みをして座っているし、エレオノーラ以外のご令嬢は、蒼白な顔で小刻みに震えながら俯いている。
エレオノーラだけは、流石、公爵令嬢と言うべきか、気丈にもジェレマイアに話し掛け続けているのだが、その反応は芳しいものではない。
「エディス」
エディスを見て、ジェレマイアは明らかにホッとした顔を見せた。
「ご用件はお聞きになりましたか?」
「いや。要領を得ない」
ばっさりと切り捨てられたエレオノーラが、一瞬、口を開けてから、グッと奥歯を噛み締める。
「ヘーデル公爵令嬢。先触れなく、魔獣討伐の最前線である兵営にいらっしゃるとは、どのような緊急のご用件なのか、端的にお聞かせ願えますか」
ジェレマイアが、声を押し殺して尋ねると、エレオノーラは、昂然と頭を上げた。
「ジェレマイア様が、騎士団のお仕事がご多忙で、縁談を先延ばしにしている事は存じ上げております。けれど、わたくしももう二十一。貴族の娘として、婚約せねばなりません」
十八で成人すると、多くの令嬢は二十までに婚約を済ませる。
二十を過ぎると、本人も周囲も、焦りを感じ始めるのだ。その結果の、身上書攻勢だったのだろう。
つまり、彼女は、『早く私と婚約してよ』と言っている。
震えていた筈のご令嬢方が、殺気の籠った目でエレオノーラを睨みつけた。
それが判っているだろうに、ジェレマイアは平然とした顔で、
「なるほど。では、近々、ご婚約されるのですか?おめでとうございます」
と返す。
「わざわざご足労頂かずとも、遠からず、王都の夜会に顔を出す予定でしたから、そこでお聞きすれば十分だったのですが。…あぁ、頂いていた身上書と姿絵は、全てお返し致しますので、ご安心を」
エレオノーラが、初めて顔を青褪めさせた。
「そ、そうではなくて、」
「実は、私も婚約が調いまして」
さり気ない告白に、ご令嬢方が息を飲む。
「父が持ち込んだ縁談に、昨日、私自身から改めて、先方の家に結婚を申し込んで参りました。次の夜会で発表するつもりでしたが、まぁ、皆様にはお伝えしても問題ないでしょう」
「ジェレマイア様っ」
上がる悲鳴。
ジェレマイアは、うっすらと笑った。
「どうぞ、家名でお呼び下さい。婚約者に勘違いされて、気を遣わせたくはありませんから」
「傷を見せてみろ」
「大丈夫ですって。本当に掠り傷なんですから」
ジェレマイアは、エディスの体に残る傷跡を知っている。
月狼につけられた傷に比べれば、嘴が掠めた程度、何て事はない。
「いいから」
茫然として、ふらふらと覚束ない足取りのご令嬢方を馬車に押し込むのは、ダレン達に任せ、ジェレマイアはエディスの傷の確認を求めた。
絶対に引く気のないジェレマイアに溜息を吐くと、エディスはシャツのボタンを二つ程外して、首筋を見せる。
鋭い嘴に引っ掛けられた痕は、五センチ程の切り傷になっていた。
「…ほら、大した事ないでしょう?」
「あぁ…これなら、綺麗に治るだろう」
「だから、言ったのに」
エディスがボタンを留め直そうとするのを、ジェレマイアの手が留め、傷口にそっと触れた。
ちり、とした痛みが走る。
急所を晒していると言うのに、相手がジェレマイアだからか、エディスに恐れはなかった。
「ジェレマイア?」
「ヴァージルが、すまなかった」
「ヴァージルは、何も悪くありませんよ」
「貴方はどうして、直ぐに他人を庇おうとするんだ」
「どうして、って…公爵令嬢に怪我を負わせたら、ヴァージルが可哀想な事になるかもしれないでしょう?」
幾ら、人間側に責任があろうが、相手は公爵家。
例え、掠り傷で済んでも、娘に怪我を負わされたとなれば、ヘーデル公爵家側が何を言い出すか、判らない。
ジェレマイアは、きょとん、と目を見開いた。
「…ヘーデル嬢を、庇ったわけではないのか?」
改めて問われて、エディスは首を傾げる。
「そう、ですね…咄嗟に考えたのは、ヴァージルに何かあったら、貴方が悲しむだろうな、と言う事ですが」
ジェレマイアがヴァージルを可愛がっているのは、よく判る。
エディスだって、ポチが人間を傷つけたせいで処分を求められでもしたら、確実に取り乱すだろう。
ジェレマイアの頬に、朱が上った。
「…全く、貴方と言う人は」
先程とは違い、声に勢いがない。
そのまま、赤く染まった頬を隠すように、大きな右手で顔を覆ったジェレマイアの顔を、エディスは、傷の痛みとは異なるズキズキした胸の痛みと共に見ていた。
『婚約が調いまして』
ジェレマイアは、確かにそう言っていた。
一時しのぎの嘘かと思ったけれど、夜会で発表するつもりとまで言ったと言う事は、事実なのだろう。
それも、親が調えた縁談なのに、改めて結婚の申し入れをしたと言う事は、ジェレマイア自身が乗り気と言う事だ。
「…婚約とは、いいものだな」
照れ臭そうに笑う、ジェレマイア。
その顔が、とても満たされているようで美しいと思うと同時に、エディスの胸にぽっかりと穴が開く。
その空虚の理由が、自分では判らない。
彼が幸せになれる事を、望んでいた筈なのに。
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