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「早いな」
早朝の日課の為に厩舎を訪れたエディスは、熱心に、ポチの鱗にブラシを掛けていた。
ブラッシングと言うよりも、マッサージと言えばいいだろうか。
鱗の生えた向きに逆らわないよう、豚の毛のブラシで、余り力は入れずに擦ってやると、古くなった鱗がポロポロと剥がれ落ちる。
野生の飛竜は、木に体を擦りつけて鱗を剥すようなのだが、騎獣となっている飛竜は、その機会が不足している。
古い鱗が残っていると痒いらしく、そこを引っ掻いて炎症を起こしてしまう為、ブラッシングは飛竜乗りにとって大事なスキンシップとなっていた。
その日課の最中、背後から掛けられた声に、顔を上げる。
「おはようございます、副団長殿」
「おはよう」
ジェレマイアもまた、自身の騎獣の世話に来たのだろう。
昨日とは違い、騎士服ではなく、訓練着であるシンプルなシャツとトラウザーズを身に着けているだけだ。
「ポチは、オスなのか?メスなのか?」
「飛竜の生態はまだ判っていない所が多くて…雌雄を見分ける特徴も判っていないのです。うちにいる飛竜の外見を比較しても、差異が見つけられません。なので、ポチは性別不明、ですね」
ラングリード家では代々、飛竜を騎獣にしているが、どれだけ熱心に観察しても、性別に繋がる個体差が見つけられない。
仲の良い二頭を、番になるのではないかと一緒に置いてみても、本当にただ仲が良いだけで、繁殖活動に繋がるような行動は見せないのだ。
「そうなのか」
日々、魔獣を相手に戦っているからと言って、全ての魔獣に詳しいわけではない。
騎獣になるような魔獣がいる一方で、どうやっても馴らせない魔獣も数多い。
野生の獣とは異なる魔獣の生態は、まだまだ不明な事ばかりだ。
興味津々の顔でポチを眺めているジェレマイアの顔は、二十五と言う年齢を知っていても、少年のように見える。
「綺麗だな」
「有難うございます」
騎獣を褒められて嬉しくない騎士はいない。
エディスが笑みを浮かべると、ジェレマイアは一瞬、言葉に詰まったようだった。
それに気づかず、エディスはジェレマイアに問い掛ける。
「副団長殿の騎獣は何ですか?」
「ヒポグリフだ」
ヒポグリフは、前半身が鷲、後ろ半身が馬の魔獣だ。
翼を持つ為、天空を駆けながら、馬の何倍もの速度で移動する事が出来る。
西域では、馬系統の魔獣が多いと聞いていたが、ヒポグリフはかなりの希少種な筈だ。
「東域では余り見掛けない騎獣です」
「近くで見てみるか?」
ジェレマイアの誘いに有難く頷くと、ブラッシングを急いで終えたエディスは(少々ご機嫌斜めのポチに、いつもより大きめの魔石を上げるのも忘れない)、いそいそとジェレマイアに並んだ。
まだ薄暗い夜明けの光の中、ジェレマイアの白髪は目立つ。
真珠のように淡く輝く姿が、綺麗だ。
隣に並ぶと、彼はエディスよりも背が高い事が判った。
顔が小さいからか、ラングリード兄弟の筋骨隆々とした体のような圧迫される存在感があるわけではなく、昨日は気づかなかった。
だが、人の目を惹くのは、華があるからだろう。
「…どうかしたか?」
「いえ、副団長殿の髪が朝日を反射して、真珠のようだな、と」
「しんじゅ…あぁ、貝から取れる宝石だったか」
海に面していないサンクリアーニ王国では一般的ではないが、エディスは、ポチの鱗に似ていると思って以来、真珠がお気に入りだ。
「えぇ。白なのですが、光の当たり具合で、淡く虹色に光って綺麗なのですよ」
「…そうか」
頬が染まって見えるのは、朝日のせいなのか。
「これは…美しいですね」
ジェレマイアの目的地にいたヒポグリフは、美しい色合いをしていた。
鷲部分は金色がかった白、馬部分は銅色。
何とも派手な色彩だが、その気高い姿によく似合っている。
「俺のヴァージルだ。十六の年に、この森で捕まえて以来、相棒として傍に居る」
少し自慢気な顔が可愛らしいな、とエディスは思い、とっくに成人している男性に『可愛い』はないか、と思い直した。
どうも、弟達と同年代と聞いてから、そのような視線で見てしまう。
気を取り直して、エディスはヴァージルを見上げた。
体高は、地を走る馬の一・五倍程。
鷲の目が鋭くこちらを見据えており、尖った嘴はいつでも、エディスを切り裂く事が出来るだろう。
けれど、ヴァージルからは、森から溢れ出る魔獣のような、殺気は感じない。
ジェレマイアは、慣れた様子でブラシを手に取ると、ヴァージルに一声掛けて、ブラッシングを開始した。
ブラシを掛けるのは主に、馬の姿である後ろ半身の方だ。
喉を鳴らすような声を出しているヴァージルは、とても気持ち良さそうにしている。
だが、幾ら人馴れをしていて、殺気がなくとも、油断をしてはならない。
騎獣として馴らされているとは言え、元は魔獣。
主人と認めた相手以外が、容易に近づけるものではない。
他人の騎獣を見る時には、不用意に触れたり、声を掛けたりすると、興奮させてしまう。
だから、エディスは少し離れた位置から、ヴァージルを眺めた。
主人であるジェレマイアが伴ってきたエディスが気になるのか、ヴァージルもまた、エディスを眺める。
暫く、二者はそうして、見つめ合っていた。
エディスに気負った様子はなく、ただ、美しいものを美しいと素直に称賛するように、目が輝いている。
美しいものも可愛いものも、鑑賞するのは好きだ。
ヴァージルは、じっとこちらを見ていたが、やがて、ひょいと一歩近づくと、頭を下げて軽くエディスの髪を食んだ。
「あ」
思わず、と言った様子で漏れたのは、ジェレマイアの声。
エディスはじっと、ヴァージルにされるがままになっている。
ヒポグリフの特性が、鷲に寄っているのか馬に寄っているのか、エディスには判らないが、恐らくは、毛繕いをしてくれているつもりなのだろう、と思ったからだ。
様子を見る限り、ヴァージルは、ジェレマイアのブラッシングを甚くお気に召している。
暫く、つんつんとエディスの髪を突いた後、ヴァージルは満足そうに小さく鳴いて、エディスから離れた。
エディスもまた、微笑んで、ヴァージルの首筋に手を伸ばす。
すると、ヴァージルは抵抗せずに、寧ろ喜んで体を擦り寄せ、エディスに撫でさせた。
「ヴァージルに、魔石を上げてもいいですか?」
「っ、あ、あぁ」
戸惑っている様子のジェレマイアを気にした様子もなく、エディスは手元の袋から魔石を取り出すと、手ずからヴァージルに与える。
その様子を、ジェレマイアは、唖然とした顔で見ていた。
「優しい子ですね」
「あぁ…そう、なんだが…」
確かに、ヴァージルは人懐こく穏やかな性格をしている。
だが、そうは言っても、初対面の相手の毛繕いをした上に、自分も撫でさせるだなんて、前代未聞だった。
「驚いた…ヴァージルが、ここまで懐くとは」
「私の特技の一つです」
ふふ、と、エディスが笑う。
「昔から、何故か騎獣には好かれる方でして」
騎獣として捕獲される魔獣の殆どがオスだからではないか、と、密かにエディスは推測しているのだが、検証した事はない。
人間のオスにはメスとして認識されないのに、魔獣にはモテるのか、と、少しだけおかしくなって、少しだけ虚しくなったのは、もう随分と前の事。
「…髪が」
不意に、ジェレマイアが、ヴァージルが啄んだエディスの髪に触れる。
朝、櫛を通してうなじで結んで来た髪は、ヴァージルに毛繕いされた事で、乱れていた。
トマスや兄達に触れられた事はあるが、他に触れるような人もいなかった為、エディスはジェレマイアの行動に驚いて、目を見開いて固まってしまう。
ジェレマイアの手が触れた場所が、じんわりと温かい。
「あぁ、すまない、驚かせた。髪が、乱れていたものだから」
「…いえ、ヴァージルと仲良くなれそうで嬉しいです」
「こいつは、俺と同じで、人の好き嫌いが激しいんだ」
エディスが髪を結い直していると、ジェレマイアが小さく付け加える。
ジェレマイアの好き嫌いと言うのは、社交界でのあれこれに絡んでいるのだろうな、と推測して、エディスは鷹揚に頷いた。
「騎獣は基本、相棒にしか心を許さないですからね」
「そうだな…その点も、似ているかもしれない」
公爵家の子息であり、騎士団副団長であり、誰もが認める美形であり、傍から見れば恵まれた要素しかなくても、本人がそれを幸せだと心の底から感じているかは別の話だ。
彼の地位や、外見目当てに寄って来る人物も、少なくないだろう事は、エディスにも判る。
「早速だが、朝食を終えた後はまず、騎士達の鍛錬に付き合って欲しい。その後、書類の整理を。…団長が帰って来れば、騎士団の事務処理は任せられるのだが…王都に行ったきり、戻って来なくてな。領には戻ってきているのかもしれないが、暫く、私邸に帰れなかったから、あちらの事務処理があるのだろう」
「承知致しました。お役に立てますよう、頑張ります」
昨夜の歓迎会は別だが、基本的に食堂は、いつでも好きなタイミングで食事が出来る。
大皿に盛られた料理が数種類並び、食べたい物を食べたいだけ、取っていく形式だ。
団員達は基本、朝番、昼番、夜番の三交代制で任務に当たり、三週勤務したら一週休暇、と言うサイクルになっている。
しかし、大量の魔獣が出た場合や、強敵が現れた場合には、この限りではない。
非番であろうと関係なく、駆り出されるのだ。
その為、いつ出動となり、いつ仕事を終えられるか不明な肉体労働者である団員達の腹を満たせるよう、二十四時間営業になっている。
勿論、何をどれだけ食べようと、お代は騎士団持ちである。
酒だけは出ないが、この場が何の為にあるのかを考えれば当然だ。
騎獣達の世話を終えたエディスとジェレマイアは、その流れで、連れ立って食堂を訪れていた。
エディスは、大振りで固いパンを二つ、山盛りのサラダ、そして鶏胸肉のソテーにふわふわのオムレツ、野菜たっぷりのスープをトレイに取った。
更に、フルーツとヨーグルトを載せたのを見て、ジェレマイアが目を丸くする。
「エディス殿は、朝からよく食べるのだな」
対するジェレマイアのトレイにも似たようなものが載せられているのだが、甘味はない。
「新陳代謝の良さには、自信があります」
エディスは、気にした様子もなく答える。
エディスの性別を知っている東域騎士団の団員達に、大食いだと揶揄われる事は多い。
ご令嬢方の食事は、エディスにとっては小鳥が啄む程度の量にしか見えない。
肉体労働者なのだから、しっかりと食べなくては、と、ある意味、開き直っている。
だが、ジェレマイアの口調に揶揄の気配はなかった。
ただただ純粋に、感嘆しているようだ。
「いや、素晴らしい事だと思う。魔獣討伐は体が資本だ。いつでも、しっかりと食べられるようにならねばな」
そう言うと、ジェレマイアは、背後を振り返った。
ジェレマイアの後ろにはいつの間にか、新人騎士達が列をなしている。
「と、言う事だ、お前達。朝からしっかり食べるのも、騎士としての鍛錬の一つだぞ」
彼等のトレイの上に、パンと牛乳程度しか載っていないのを見て、エディスは目を吊り上げた。
「何だ、その食事は!」
突然、声を荒げたエディスに、新人騎士達が驚いて目を丸くする。
「副団長殿、西域では、このような食事が横行しているのですか。これでは、一日の訓練に体がついていかないでしょう」
「そう言ってるんだがな…」
困ったようなジェレマイアの顔を見て、エディスは新人騎士達に矛先を向ける。
「食堂では、好きな食事を好きなだけ、食べられる筈だ。何故、そんな粗食を?」
新人騎士達は、キムと同じ十八歳。
新人と言えども、厳しい騎士団の入団試験を潜り抜けた猛者達なのだ。
食べても食べても、「お腹が空いた」と言っているキムと同年代の若者達が、これだけしか食べないなんて、エディスからしてみれば、あり得ない。
「…この後の訓練で、満腹だと気持ち悪くなって吐いてしまって…かと言って、空腹でも気持ち悪くって…」
戸惑いつつも一人がそう言うと、他の者達もコクコクと頷く。
エディスが改めて彼等の顔を見回すと、東域の新人騎士と比べて、何処となく品のある者が多い。
東域騎士団は、団長であるトマスが男爵位だからか、比較的爵位の低い貴族出身者が多いが、西域騎士団では、東域と比べて高位の貴族が多いのかもしれない、と、エディスは思い直した。
無料なら、食べられるだけ食べる!と言うがっついた所がないのだ。
「満腹になるまで食べる必要はない。だが、筋肉を作る為にも、動物性蛋白質は摂った方がいい。肉が無理なら、卵だけでもいいから。後は、食後三十分は訓練までの時間を空ける事。眠いのは判るけど、逆算して起床、食堂に来るように。可能なら、訓練までにしっかりとストレッチをする」
「は、はい」
「剣士でも魔法騎士でも、基本は体作りだ。小手先の技でなく、肉体を鍛えるのは大事だよ。副団長殿も仰っていたけど、食べられる時に食べるのは、騎士として重要な事だ。魔獣は、こちらの空腹なんて気にしてくれないんだからね」
エディスが、懇々と新人騎士達を諭していると、遠くからベテラン騎士達が、
「流石、ラングリードのおっかさん…」
と話しているのが耳に入ったが、気にしてはいけない。
いけないったら、いけない。
仕方ないだろう、弟と同年代の若者を見たら、おせっかいをしたくなってしまうのだ。
もしかすると、オバサン化が始まってると言う事なのかもしれないけれど。
でも、それもいいじゃないか、と、エディスは思う。
結婚出来ない、子供を持てないのならば、こうして、疑似の子供がたくさんいる状況だって悪くない。
何かに感動したように、キラキラした目でエディスを見つめる新人騎士達を見て、ジェレマイアが苦笑する。
「エディス殿。こいつらの訓練を、見てやってくれるか?」
「私の方法でよろしければ」
「あぁ。東域のやり方も勉強になる」
その時だった。
食堂の入り口がざわざわとし始め、男達の一団が、雪崩れ込んで来た。
「あ~~~!腹減ったぁぁぁ!」
「…多かったな…角兎とは言え、あれだけ多いとしんどいな…」
恐らく、夜番だった団員だろう、と、エディスは推測すると同時に、彼等の身なりに気づいて悲鳴を上げた。
「何ですか、あの服は!」
大声に驚いた食堂中の人々の目が、エディスに集中する。
「何、とは」
面食らったようなジェレマイアの声にも気づかず、エディスはつかつかと夜番の団員達の元に歩み寄った。
山盛りの食事が乗ったトレイを直ぐ傍のテーブルに置いて、両手を大きく広げて立ち塞がる。
「食堂への入室禁止!急いで自室に帰り、着替える!そんな砂塗れの恰好で、食事をする場に来るんじゃない!」
少し歩くだけで砂が落ち、身動ぎするだけで埃が舞う。
近寄れば、鉄錆のような血の臭いが、むわりと立ち上った。
そんな恰好で食事の場に現れるなんて、エディスからすれば考えられない。
だが、夜番の団員達は、突然現れた見知らぬ相手に、警戒感を露わにした。
「…誰だ、お前」
目を眇める大男を相手にしても、エディスは一歩も引かない。
「騎士団は、生活の場でもある。最低限のマナーは守らねば」
「はぁ?俺達は、腹が減ってるんだ!腹が減っては戦は出来ねぇって言うだろが!」
空腹故に気の立っている大男が、苛立ったようにエディスの胸倉を掴もうとした時。
「こちらは、エディス・ラングリード殿。東域騎士団より、俺の補佐に来て下さっている」
ジェレマイアが落ち着いた声で割り込み、胸元を掴もうとした男の手首を握って止めた。
「副団長…」
「え、ラングリード?あ、ほんとだ、黒髪赤瞳!」
彼等の見る目が明らかに変わった事を感じながら、エディスは一つ、頷く。
「暫く、お世話になります。夜番、お疲れ様です。それはともかくとして。空腹なのは重々承知の上で、より美味しく食事をする為にご協力を。砂埃、血痕を落した上で、さっぱりとした状態で食堂に来て下さい。食事はただ詰め込むものじゃない。美味しく食べなくては、自らの血肉になりませんよ」
毒気を抜かれたように、あぁ、と気の抜けた返事をした男達が、食堂から出て行く後ろ姿を、エディスとジェレマイアは目で追った。
「…すみません、出過ぎた真似を」
彼等の姿を見て、つい反射的に、東域でしているのと同じように口を挟んでしまった。
自分は飽くまでジェレマイアの補佐なのだから、余計なおせっかいは慎まねば…。
「いや、有難い。どうも、西域はその辺りがルーズだったようだ。何か違和感はあったんだが、何がいけないのか気づかずにいた。やはり、違う目で見るのは大事だな」
ジェレマイアが感心したように頷くのを見て、エディスは少し気恥ずかしくなる。
ジェレマイアは、エディスが感じている小さな後悔を汲み取った上で、こちらに気を遣わせないようにしてくれている。
年下だと言うのに、随分と出来た男だ。
「東域では、当番後の食事前には必ず着替えを?」
「全く汚れていなければ別ですし、緊急事態ではその限りにありませんが。幾ら、野営に慣れなくてはならないとは言え、普段の食事まで野営と同じ環境にする必要はありません。折角、料理人が美味しい食事を作ってくれているのに、砂埃や血の臭いと共に食べるのでは、失礼です」
「そうだな。その通りだ」
ジェレマイアが頷くと、騒ぎを聞いて表に出て来ていた料理人達が、エディスに感謝するように頭を下げる。
彼等も、いざと言う時に自分の身を守って逃げられる程度の体術を身に着けてはいるが、料理人としての自我の方が強い為、美味しい料理を美味しく食べて欲しいのだ。
「おっと。食事が冷めてしまうな。エディス殿、俺達も食べよう」
「あ、はい」
答えながらエディスは、夜番の団員の中にも、彼女の名を聞いて飛び上がった者はいなかったな、と思い出していた。
婚約者殿は、一体、何処にいるのだろう?
虫除け希望ならば、先方の事情が落ち着くまで、婚約者の仮面を被っておく事は吝かではない。
けれど、その先にどうせ破棄されるのであれば、おおよその時期でいいから、いつ頃になるのか事前に知っておきたい、と言うのがエディスのなけなしの乙女心だ。
自分にもまだ、傷つくような心があったのだな、と内心で自嘲して、エディスはジェレマイアの後を追った。
早朝の日課の為に厩舎を訪れたエディスは、熱心に、ポチの鱗にブラシを掛けていた。
ブラッシングと言うよりも、マッサージと言えばいいだろうか。
鱗の生えた向きに逆らわないよう、豚の毛のブラシで、余り力は入れずに擦ってやると、古くなった鱗がポロポロと剥がれ落ちる。
野生の飛竜は、木に体を擦りつけて鱗を剥すようなのだが、騎獣となっている飛竜は、その機会が不足している。
古い鱗が残っていると痒いらしく、そこを引っ掻いて炎症を起こしてしまう為、ブラッシングは飛竜乗りにとって大事なスキンシップとなっていた。
その日課の最中、背後から掛けられた声に、顔を上げる。
「おはようございます、副団長殿」
「おはよう」
ジェレマイアもまた、自身の騎獣の世話に来たのだろう。
昨日とは違い、騎士服ではなく、訓練着であるシンプルなシャツとトラウザーズを身に着けているだけだ。
「ポチは、オスなのか?メスなのか?」
「飛竜の生態はまだ判っていない所が多くて…雌雄を見分ける特徴も判っていないのです。うちにいる飛竜の外見を比較しても、差異が見つけられません。なので、ポチは性別不明、ですね」
ラングリード家では代々、飛竜を騎獣にしているが、どれだけ熱心に観察しても、性別に繋がる個体差が見つけられない。
仲の良い二頭を、番になるのではないかと一緒に置いてみても、本当にただ仲が良いだけで、繁殖活動に繋がるような行動は見せないのだ。
「そうなのか」
日々、魔獣を相手に戦っているからと言って、全ての魔獣に詳しいわけではない。
騎獣になるような魔獣がいる一方で、どうやっても馴らせない魔獣も数多い。
野生の獣とは異なる魔獣の生態は、まだまだ不明な事ばかりだ。
興味津々の顔でポチを眺めているジェレマイアの顔は、二十五と言う年齢を知っていても、少年のように見える。
「綺麗だな」
「有難うございます」
騎獣を褒められて嬉しくない騎士はいない。
エディスが笑みを浮かべると、ジェレマイアは一瞬、言葉に詰まったようだった。
それに気づかず、エディスはジェレマイアに問い掛ける。
「副団長殿の騎獣は何ですか?」
「ヒポグリフだ」
ヒポグリフは、前半身が鷲、後ろ半身が馬の魔獣だ。
翼を持つ為、天空を駆けながら、馬の何倍もの速度で移動する事が出来る。
西域では、馬系統の魔獣が多いと聞いていたが、ヒポグリフはかなりの希少種な筈だ。
「東域では余り見掛けない騎獣です」
「近くで見てみるか?」
ジェレマイアの誘いに有難く頷くと、ブラッシングを急いで終えたエディスは(少々ご機嫌斜めのポチに、いつもより大きめの魔石を上げるのも忘れない)、いそいそとジェレマイアに並んだ。
まだ薄暗い夜明けの光の中、ジェレマイアの白髪は目立つ。
真珠のように淡く輝く姿が、綺麗だ。
隣に並ぶと、彼はエディスよりも背が高い事が判った。
顔が小さいからか、ラングリード兄弟の筋骨隆々とした体のような圧迫される存在感があるわけではなく、昨日は気づかなかった。
だが、人の目を惹くのは、華があるからだろう。
「…どうかしたか?」
「いえ、副団長殿の髪が朝日を反射して、真珠のようだな、と」
「しんじゅ…あぁ、貝から取れる宝石だったか」
海に面していないサンクリアーニ王国では一般的ではないが、エディスは、ポチの鱗に似ていると思って以来、真珠がお気に入りだ。
「えぇ。白なのですが、光の当たり具合で、淡く虹色に光って綺麗なのですよ」
「…そうか」
頬が染まって見えるのは、朝日のせいなのか。
「これは…美しいですね」
ジェレマイアの目的地にいたヒポグリフは、美しい色合いをしていた。
鷲部分は金色がかった白、馬部分は銅色。
何とも派手な色彩だが、その気高い姿によく似合っている。
「俺のヴァージルだ。十六の年に、この森で捕まえて以来、相棒として傍に居る」
少し自慢気な顔が可愛らしいな、とエディスは思い、とっくに成人している男性に『可愛い』はないか、と思い直した。
どうも、弟達と同年代と聞いてから、そのような視線で見てしまう。
気を取り直して、エディスはヴァージルを見上げた。
体高は、地を走る馬の一・五倍程。
鷲の目が鋭くこちらを見据えており、尖った嘴はいつでも、エディスを切り裂く事が出来るだろう。
けれど、ヴァージルからは、森から溢れ出る魔獣のような、殺気は感じない。
ジェレマイアは、慣れた様子でブラシを手に取ると、ヴァージルに一声掛けて、ブラッシングを開始した。
ブラシを掛けるのは主に、馬の姿である後ろ半身の方だ。
喉を鳴らすような声を出しているヴァージルは、とても気持ち良さそうにしている。
だが、幾ら人馴れをしていて、殺気がなくとも、油断をしてはならない。
騎獣として馴らされているとは言え、元は魔獣。
主人と認めた相手以外が、容易に近づけるものではない。
他人の騎獣を見る時には、不用意に触れたり、声を掛けたりすると、興奮させてしまう。
だから、エディスは少し離れた位置から、ヴァージルを眺めた。
主人であるジェレマイアが伴ってきたエディスが気になるのか、ヴァージルもまた、エディスを眺める。
暫く、二者はそうして、見つめ合っていた。
エディスに気負った様子はなく、ただ、美しいものを美しいと素直に称賛するように、目が輝いている。
美しいものも可愛いものも、鑑賞するのは好きだ。
ヴァージルは、じっとこちらを見ていたが、やがて、ひょいと一歩近づくと、頭を下げて軽くエディスの髪を食んだ。
「あ」
思わず、と言った様子で漏れたのは、ジェレマイアの声。
エディスはじっと、ヴァージルにされるがままになっている。
ヒポグリフの特性が、鷲に寄っているのか馬に寄っているのか、エディスには判らないが、恐らくは、毛繕いをしてくれているつもりなのだろう、と思ったからだ。
様子を見る限り、ヴァージルは、ジェレマイアのブラッシングを甚くお気に召している。
暫く、つんつんとエディスの髪を突いた後、ヴァージルは満足そうに小さく鳴いて、エディスから離れた。
エディスもまた、微笑んで、ヴァージルの首筋に手を伸ばす。
すると、ヴァージルは抵抗せずに、寧ろ喜んで体を擦り寄せ、エディスに撫でさせた。
「ヴァージルに、魔石を上げてもいいですか?」
「っ、あ、あぁ」
戸惑っている様子のジェレマイアを気にした様子もなく、エディスは手元の袋から魔石を取り出すと、手ずからヴァージルに与える。
その様子を、ジェレマイアは、唖然とした顔で見ていた。
「優しい子ですね」
「あぁ…そう、なんだが…」
確かに、ヴァージルは人懐こく穏やかな性格をしている。
だが、そうは言っても、初対面の相手の毛繕いをした上に、自分も撫でさせるだなんて、前代未聞だった。
「驚いた…ヴァージルが、ここまで懐くとは」
「私の特技の一つです」
ふふ、と、エディスが笑う。
「昔から、何故か騎獣には好かれる方でして」
騎獣として捕獲される魔獣の殆どがオスだからではないか、と、密かにエディスは推測しているのだが、検証した事はない。
人間のオスにはメスとして認識されないのに、魔獣にはモテるのか、と、少しだけおかしくなって、少しだけ虚しくなったのは、もう随分と前の事。
「…髪が」
不意に、ジェレマイアが、ヴァージルが啄んだエディスの髪に触れる。
朝、櫛を通してうなじで結んで来た髪は、ヴァージルに毛繕いされた事で、乱れていた。
トマスや兄達に触れられた事はあるが、他に触れるような人もいなかった為、エディスはジェレマイアの行動に驚いて、目を見開いて固まってしまう。
ジェレマイアの手が触れた場所が、じんわりと温かい。
「あぁ、すまない、驚かせた。髪が、乱れていたものだから」
「…いえ、ヴァージルと仲良くなれそうで嬉しいです」
「こいつは、俺と同じで、人の好き嫌いが激しいんだ」
エディスが髪を結い直していると、ジェレマイアが小さく付け加える。
ジェレマイアの好き嫌いと言うのは、社交界でのあれこれに絡んでいるのだろうな、と推測して、エディスは鷹揚に頷いた。
「騎獣は基本、相棒にしか心を許さないですからね」
「そうだな…その点も、似ているかもしれない」
公爵家の子息であり、騎士団副団長であり、誰もが認める美形であり、傍から見れば恵まれた要素しかなくても、本人がそれを幸せだと心の底から感じているかは別の話だ。
彼の地位や、外見目当てに寄って来る人物も、少なくないだろう事は、エディスにも判る。
「早速だが、朝食を終えた後はまず、騎士達の鍛錬に付き合って欲しい。その後、書類の整理を。…団長が帰って来れば、騎士団の事務処理は任せられるのだが…王都に行ったきり、戻って来なくてな。領には戻ってきているのかもしれないが、暫く、私邸に帰れなかったから、あちらの事務処理があるのだろう」
「承知致しました。お役に立てますよう、頑張ります」
昨夜の歓迎会は別だが、基本的に食堂は、いつでも好きなタイミングで食事が出来る。
大皿に盛られた料理が数種類並び、食べたい物を食べたいだけ、取っていく形式だ。
団員達は基本、朝番、昼番、夜番の三交代制で任務に当たり、三週勤務したら一週休暇、と言うサイクルになっている。
しかし、大量の魔獣が出た場合や、強敵が現れた場合には、この限りではない。
非番であろうと関係なく、駆り出されるのだ。
その為、いつ出動となり、いつ仕事を終えられるか不明な肉体労働者である団員達の腹を満たせるよう、二十四時間営業になっている。
勿論、何をどれだけ食べようと、お代は騎士団持ちである。
酒だけは出ないが、この場が何の為にあるのかを考えれば当然だ。
騎獣達の世話を終えたエディスとジェレマイアは、その流れで、連れ立って食堂を訪れていた。
エディスは、大振りで固いパンを二つ、山盛りのサラダ、そして鶏胸肉のソテーにふわふわのオムレツ、野菜たっぷりのスープをトレイに取った。
更に、フルーツとヨーグルトを載せたのを見て、ジェレマイアが目を丸くする。
「エディス殿は、朝からよく食べるのだな」
対するジェレマイアのトレイにも似たようなものが載せられているのだが、甘味はない。
「新陳代謝の良さには、自信があります」
エディスは、気にした様子もなく答える。
エディスの性別を知っている東域騎士団の団員達に、大食いだと揶揄われる事は多い。
ご令嬢方の食事は、エディスにとっては小鳥が啄む程度の量にしか見えない。
肉体労働者なのだから、しっかりと食べなくては、と、ある意味、開き直っている。
だが、ジェレマイアの口調に揶揄の気配はなかった。
ただただ純粋に、感嘆しているようだ。
「いや、素晴らしい事だと思う。魔獣討伐は体が資本だ。いつでも、しっかりと食べられるようにならねばな」
そう言うと、ジェレマイアは、背後を振り返った。
ジェレマイアの後ろにはいつの間にか、新人騎士達が列をなしている。
「と、言う事だ、お前達。朝からしっかり食べるのも、騎士としての鍛錬の一つだぞ」
彼等のトレイの上に、パンと牛乳程度しか載っていないのを見て、エディスは目を吊り上げた。
「何だ、その食事は!」
突然、声を荒げたエディスに、新人騎士達が驚いて目を丸くする。
「副団長殿、西域では、このような食事が横行しているのですか。これでは、一日の訓練に体がついていかないでしょう」
「そう言ってるんだがな…」
困ったようなジェレマイアの顔を見て、エディスは新人騎士達に矛先を向ける。
「食堂では、好きな食事を好きなだけ、食べられる筈だ。何故、そんな粗食を?」
新人騎士達は、キムと同じ十八歳。
新人と言えども、厳しい騎士団の入団試験を潜り抜けた猛者達なのだ。
食べても食べても、「お腹が空いた」と言っているキムと同年代の若者達が、これだけしか食べないなんて、エディスからしてみれば、あり得ない。
「…この後の訓練で、満腹だと気持ち悪くなって吐いてしまって…かと言って、空腹でも気持ち悪くって…」
戸惑いつつも一人がそう言うと、他の者達もコクコクと頷く。
エディスが改めて彼等の顔を見回すと、東域の新人騎士と比べて、何処となく品のある者が多い。
東域騎士団は、団長であるトマスが男爵位だからか、比較的爵位の低い貴族出身者が多いが、西域騎士団では、東域と比べて高位の貴族が多いのかもしれない、と、エディスは思い直した。
無料なら、食べられるだけ食べる!と言うがっついた所がないのだ。
「満腹になるまで食べる必要はない。だが、筋肉を作る為にも、動物性蛋白質は摂った方がいい。肉が無理なら、卵だけでもいいから。後は、食後三十分は訓練までの時間を空ける事。眠いのは判るけど、逆算して起床、食堂に来るように。可能なら、訓練までにしっかりとストレッチをする」
「は、はい」
「剣士でも魔法騎士でも、基本は体作りだ。小手先の技でなく、肉体を鍛えるのは大事だよ。副団長殿も仰っていたけど、食べられる時に食べるのは、騎士として重要な事だ。魔獣は、こちらの空腹なんて気にしてくれないんだからね」
エディスが、懇々と新人騎士達を諭していると、遠くからベテラン騎士達が、
「流石、ラングリードのおっかさん…」
と話しているのが耳に入ったが、気にしてはいけない。
いけないったら、いけない。
仕方ないだろう、弟と同年代の若者を見たら、おせっかいをしたくなってしまうのだ。
もしかすると、オバサン化が始まってると言う事なのかもしれないけれど。
でも、それもいいじゃないか、と、エディスは思う。
結婚出来ない、子供を持てないのならば、こうして、疑似の子供がたくさんいる状況だって悪くない。
何かに感動したように、キラキラした目でエディスを見つめる新人騎士達を見て、ジェレマイアが苦笑する。
「エディス殿。こいつらの訓練を、見てやってくれるか?」
「私の方法でよろしければ」
「あぁ。東域のやり方も勉強になる」
その時だった。
食堂の入り口がざわざわとし始め、男達の一団が、雪崩れ込んで来た。
「あ~~~!腹減ったぁぁぁ!」
「…多かったな…角兎とは言え、あれだけ多いとしんどいな…」
恐らく、夜番だった団員だろう、と、エディスは推測すると同時に、彼等の身なりに気づいて悲鳴を上げた。
「何ですか、あの服は!」
大声に驚いた食堂中の人々の目が、エディスに集中する。
「何、とは」
面食らったようなジェレマイアの声にも気づかず、エディスはつかつかと夜番の団員達の元に歩み寄った。
山盛りの食事が乗ったトレイを直ぐ傍のテーブルに置いて、両手を大きく広げて立ち塞がる。
「食堂への入室禁止!急いで自室に帰り、着替える!そんな砂塗れの恰好で、食事をする場に来るんじゃない!」
少し歩くだけで砂が落ち、身動ぎするだけで埃が舞う。
近寄れば、鉄錆のような血の臭いが、むわりと立ち上った。
そんな恰好で食事の場に現れるなんて、エディスからすれば考えられない。
だが、夜番の団員達は、突然現れた見知らぬ相手に、警戒感を露わにした。
「…誰だ、お前」
目を眇める大男を相手にしても、エディスは一歩も引かない。
「騎士団は、生活の場でもある。最低限のマナーは守らねば」
「はぁ?俺達は、腹が減ってるんだ!腹が減っては戦は出来ねぇって言うだろが!」
空腹故に気の立っている大男が、苛立ったようにエディスの胸倉を掴もうとした時。
「こちらは、エディス・ラングリード殿。東域騎士団より、俺の補佐に来て下さっている」
ジェレマイアが落ち着いた声で割り込み、胸元を掴もうとした男の手首を握って止めた。
「副団長…」
「え、ラングリード?あ、ほんとだ、黒髪赤瞳!」
彼等の見る目が明らかに変わった事を感じながら、エディスは一つ、頷く。
「暫く、お世話になります。夜番、お疲れ様です。それはともかくとして。空腹なのは重々承知の上で、より美味しく食事をする為にご協力を。砂埃、血痕を落した上で、さっぱりとした状態で食堂に来て下さい。食事はただ詰め込むものじゃない。美味しく食べなくては、自らの血肉になりませんよ」
毒気を抜かれたように、あぁ、と気の抜けた返事をした男達が、食堂から出て行く後ろ姿を、エディスとジェレマイアは目で追った。
「…すみません、出過ぎた真似を」
彼等の姿を見て、つい反射的に、東域でしているのと同じように口を挟んでしまった。
自分は飽くまでジェレマイアの補佐なのだから、余計なおせっかいは慎まねば…。
「いや、有難い。どうも、西域はその辺りがルーズだったようだ。何か違和感はあったんだが、何がいけないのか気づかずにいた。やはり、違う目で見るのは大事だな」
ジェレマイアが感心したように頷くのを見て、エディスは少し気恥ずかしくなる。
ジェレマイアは、エディスが感じている小さな後悔を汲み取った上で、こちらに気を遣わせないようにしてくれている。
年下だと言うのに、随分と出来た男だ。
「東域では、当番後の食事前には必ず着替えを?」
「全く汚れていなければ別ですし、緊急事態ではその限りにありませんが。幾ら、野営に慣れなくてはならないとは言え、普段の食事まで野営と同じ環境にする必要はありません。折角、料理人が美味しい食事を作ってくれているのに、砂埃や血の臭いと共に食べるのでは、失礼です」
「そうだな。その通りだ」
ジェレマイアが頷くと、騒ぎを聞いて表に出て来ていた料理人達が、エディスに感謝するように頭を下げる。
彼等も、いざと言う時に自分の身を守って逃げられる程度の体術を身に着けてはいるが、料理人としての自我の方が強い為、美味しい料理を美味しく食べて欲しいのだ。
「おっと。食事が冷めてしまうな。エディス殿、俺達も食べよう」
「あ、はい」
答えながらエディスは、夜番の団員の中にも、彼女の名を聞いて飛び上がった者はいなかったな、と思い出していた。
婚約者殿は、一体、何処にいるのだろう?
虫除け希望ならば、先方の事情が落ち着くまで、婚約者の仮面を被っておく事は吝かではない。
けれど、その先にどうせ破棄されるのであれば、おおよその時期でいいから、いつ頃になるのか事前に知っておきたい、と言うのがエディスのなけなしの乙女心だ。
自分にもまだ、傷つくような心があったのだな、と内心で自嘲して、エディスはジェレマイアの後を追った。
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