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疑惑の第二王子。
リンデンバーグ国王エイデンの第四子アーヴァインは、王宮で密かに、そう呼ばれていた。
体の弱い第一子イグナス、二人の王女の後に、年が離れて授かったアーヴァインは、産み月を過ぎ、大きな体で生まれた。
泣き声も大きく、一度泣けば、城中に響いたと言う。
その彼の出自に、疑惑の目が向けられるようになったのは、薄毛だった髪が次第にしっかりと生えて来た一歳の頃。
眩い金髪のエイデン王と、隣国から嫁いだ明るい金茶の髪のシェリー王妃の間に生まれたアーヴァインの髪色は、暗い茶色だったのだ。
成長につれて、どんどん明度が下がり、黒くなっていく髪色は、金髪ばかりのリンデンバーグ王家の中で、酷く目立った。
シェリー王妃の護衛騎士の中に、リンデンバーグでは珍しい黒髪の騎士がいた事も、悪かったのだろう。
王妃の不貞。
いつしか、囁かれるようになった噂だ。
勿論、エイデンもシェリーも、そのような噂を相手にしなかった。
むきになって否定する程、真実味が増すものだとも思っていた。
彼等は、アーヴァインが二人の子供だと言う事実を、自分達がきちんと伝えさえすれば、それで大丈夫だと考えていたのだ。
だが、一体、誰がそれを証明出来ると言うのだろう。
二人がどれだけアーヴァインを大切にしようと、一度芽生えた疑惑の芽を、完全に摘み取る事は出来なかった。
そればかりか、虚弱なイグナスを廃し、疑惑のアーヴァインを玉座に就けるつもりなのでは、とあらぬ疑いを掛けられる始末。
リンデンバーグ王家の血が流れていないかもしれない王子を、国の最高責任者にしては、人心が乱れる、と強く主張したのは、サンテリオ公爵を中心とした一派だった。
事実はどうであれ、一度、疑惑を持たれた王子が玉座に座す事など、あってはならない、との主張には、確かに一理ある。
その疑惑が、全くの事実無根であるとしても。
サンテリオ公爵の目的は、明らかだった。
彼は、アーヴァイン誕生までに、偶然を装って娘のジゼルをイグナスに近づけ、二人の関係を親しいものにしていた。
第一子であるイグナスが、慣例通り、玉座に就けば、サンテリオ公爵家は王家の外戚となる。
体の弱いイグナスであれば、傀儡とし、国政へのサンテリオ公爵家の影響力を強められる、との魂胆が透けて見えている。
エイデンとシェリーにとって、イグナスもアーヴァインも、可愛い我が子だ。
それに変わりはない。
けれど、親の愛だけを盾に、国の重臣達の思いを縛る事は、出来なかった。
国とは、王だけで成り立つものではないからだ。
一方で、アーヴァインの周辺では不穏な噂が消える事なく、彼は孤立していく。
心を許した人々の度重なる裏切りと、己の出自を疑う噂に、幼いアーヴァインの心は消耗し、彼はいつしか、表情を凍らせ、人との距離を置くようになった。
身辺につけた護衛騎士ですら、信じられなくなったアーヴァインは、常に、一人で行動するようになる。
いつ襲われるかもしれない彼の身を案じたエイデンは、本来ならば十歳頃の少年から始める騎士の訓練に、まだ六歳のアーヴァインを参加させる事にした。
体の大きなアーヴァインならば、ついていけるだろう、との目算もあったし、一人でも多くの味方を作ってやりたい、との願いもあった。
そこで知り合ったキャナリー公爵令息レイモンドや、ウェリントン侯爵令息ヴィクターを始めとする人々は、アーヴァインがどのような子供だったのかを、よく知っている。
ミドルネームの「コンラート」を名乗り、第二王子と言う身分は公には伏せられていたが、偶然を装って、エイデンやシェリーが練習を見学していたのを見れば、彼が何者なのか、推測出来る。
噂は、噂に過ぎない。
アーヴァインは、確かにこの国の国王夫妻が愛する息子なのだ。
だが、アーヴァインを蹴り落としたい人々の計画は、綿密なものだった。
繰り返される心無い噂と誹謗中傷に、大きな赤子を産み落とした後、体調を崩しがちだった王妃シェリーは、次第に臥せる日々が増えていく。
己に不貞がない事は、誰よりも彼女が知っている。
けれど、彼女の言葉は、届かない。
それは、虚弱な王子と、疑惑の王子を生んだせいなのか。
愛する人の妻になれた事に喜び、彼を支える為に隣に立つ努力をしてきたつもりだった。
その努力は、足りなかったと言う事なのか。
サンテリオ公爵の妹が、エイデンの妻の座を望んでいた事は知っている。
恋破れた彼女が、悲しみのうちに病没した事も。
これは、その仕打ちなのだろうか。
だが、決定打となったのは、病床で思い悩むシェリーに掛けられた、エイデンの何気ない一言だった。
「アーヴァインが、私に似ずに良かった」
エイデンからすれば、深い意味はなかった。
エイデンは、繊弱ではないが、アーヴァイン程、立派な体格でもない。
イグナスは病弱で、剣を取るどころか、一年の四分の一は臥しているし、二人の王女も、儚げな少女達だ。
エイデンの年の離れた弟ラウルも、頑健な性質でない為に、妻を娶らず、王家に残っている。
エイデンは、虚弱な体質はリンデンバーグ王家の血筋によるものだと考えていた。
髪色だけではなく、アーヴァインには、リンデンバーグ王家の特徴が薄い。
だからこそ、溌溂と健康なアーヴァインを見ていると心強い、と言う意味合いで発した彼の言葉は、憔悴していたシェリーに、「夫に疑念を抱かれた」と受け取られた。
直ぐに、己の失言を悟ったエイデンは、発言の真意を説明したものの、一度発した言葉が取り消せるわけではない。
心身共に弱っていたシェリーは、それから間もなく、幼い子供達を遺して儚くなったのである。
一番の味方であった母シェリーを失ったアーヴァインは、一層、頑なになった。
彼は、剣技に長けただけではなく、勉学の面でも優秀な成績を修めていたが、目立つと必ず、横槍が入る。
イグナスとアーヴァイン、二人に限って言えば、関係性は悪くない。
イグナスは、己の体の弱さを受け入れ、心優しい青年に育ち、年の離れた弟を殊の外、可愛がっていた。
アーヴァインも、優しく博識な兄を慕い、彼が玉座に座す時には、傍で支えようと誓っていた。
だが、二人の間に、別の人間が入って来ると、事はそう簡単に運ばない。
イグナスが、長年交流のあったサンテリオ公爵令嬢ジゼルと結婚し、彼女が息子ナシエルを生んでからは、なおの事。
イグナスとジゼルは、大恋愛の末の結婚、と市井で評判だが、それは事実とは異なる。
彼女は、公爵令嬢の地位を利用して、イグナスと接触する可能性のある令嬢を一人ずつ、排除していった。
排除、と言っても、社交界で権勢を誇るサンテリオ公爵家の名を利用して、圧力を掛け、ご令嬢達に第一王子妃の地位を諦めさせただけだ。
イグナスはイグナスで、体質の関係で気楽な街歩きも出来ず、夜会で連続してダンスを踊る体力もない身の為、ご令嬢と知り合う機会もない。
ジゼルの腹黒ささえ理解していれば、それでいい。存外、二人の時は可愛い人なんだ。サンテリオ公爵の野望だけ、留意しておけばいい、と、彼女との結婚を決めたのだが、ナシエルが生まれてからのジゼルのアーヴァインへの態度は、目に余った。
どれだけアーヴァインが、玉座に興味はない、兄上を支える、と話しても、ジゼルは疑う事を止めない。
「イグナス様のお命を狙っているのだろう!」
と、鼠一匹入り込む隙間のない位に、イグナスとナシエルの護りを固め、アーヴァインに噛みつく姿は、王宮内の不安を煽り、揺らぎやすい思春期のアーヴァインの心を乱す。
結局、アーヴァインが安心して暮らせるように、と、伯父である現サーラ国王と、エイデン、イグナスの話し合いの結果、アーヴァインをサーラ王家に預ける事に決定したのが、アーヴァインが十五歳の時の事。
その後の事は、状況の変化に応じて考えよう。
見切り発車となったアーヴァインの遊学だが、母シェリーは、サーラ王家の姫。
サーラに骨を埋める事となっても、アーヴァインが心穏やかに幸せに暮らせるのならば、それでいい、と、エイデンとイグナスは考えていた。
サーラでの生活は、アーヴァインに合っていた。
サーラ王家の人々は、アーヴァイン程ではないが、立派な体格が多い。
金茶や焦げ茶の髪が多いサーラ王族と並び立つと、アーヴァインの髪色が目立つ事はないし、何よりも、東国から嫁いだ高祖母は、夜闇のように真っ黒な髪を持っていたと言う。
アーヴァインは、高祖母の特徴を濃く受け継いだと言うだけだったのだ。
両親の愛情を信じていても、母は幼くして亡くなり、父は以来、腫れ物に触れるように彼と接する中、何処か、心に剥落した部分があった。
サーラでの日々は、疑惑の王子として向けられる不躾な視線もなく、王位を狙っているのだろう、と神経質に叫ぶ兄嫁の声もなく、アーヴァインの欠けた心は、少しずつ、少しずつ、元の形を取り戻していった。
サーラの人々は、隣国に嫁いだ姫の遺児を温かく迎えてくれたし、信頼出来る人々も出来、このまま、サーラで暮らすのもいい、と考え始めた折に、降って湧いたリンジーとの縁談。
七つ年下のリンジーは、シェリーの弟の娘で、アーヴァインにとって従妹にあたる。
リンジーの母は、サンテリオ公爵の次女。
彼女は、王女として生まれた娘を、『叱らない育児』で育てた。
乳母や教育係が、リンジーの我儘な言動を注意すると、彼女はリンジーを庇い、乳母達を叱責する。
『叱らない育児』とは、好き勝手自由にさせる育児ではないのだ、と説明しても聞く耳を持たず、その結果、とんでもない我儘な娘に育った。
多忙な王弟が気づいた時には、矯正が困難な状況に陥っていたのである。
リンジーの母の母国でもあるリンデンバーグからやって来たアーヴァインに、好奇心旺盛にまとわりつき、アーヴァインの引いた境界を気にも掛けず土足で踏みにじり、その上、己の優位を疑わない娘。
「何で、サーラに来たの?」
「リンデンバーグを追い出されたの?」
「皆、貴方が嫌いなの?」
「貴方、可哀想な人なのね」
「可哀想だから、優しくしてあげるわ」
天真爛漫、と言えば聞こえはいいが、他人の心を慮る事の出来ない彼女の事が、元より人間関係に不審を持っていたアーヴァインは、苦手だった。
サーラでの生活で、唯一、負担に感じていたのがリンジーの存在だ。
彼女は、自分の気分や考えで周囲を振り回す。
そして、それを諫めるアーヴァインに食って掛かる。
寧ろ、アーヴァインを怒らせたいからこそ、問題を起こすのではないか、とまで考えていた。
出会った時の印象が強いからか、アーヴァインが、リンジーにとって自分は、突くと面白い玩具のようなものだと認識していた所への、求婚だった。
ずっと好きだった、と告白もされたけれど、アーヴァインにとっては、青天の霹靂。
まずは、定石通り、「妹のようにしか見られない」として断った。
ならば、これから一人の女性として見ればいい、と、楽観的な回答が返って来た。
年が離れている。
三十も四十も離れているわけではないのだから、大丈夫。
兄イグナスが、サンテリオ公爵の娘ジゼルと結婚している上に、アーヴァインもまた、サンテリオ公爵の孫娘であるリンジーと結婚するのは、王宮内の力の均衡を考えると問題がある。
リンデンバーグであれば問題かもしれないが、サーラならば関係ない。
はっきり言ってしまえば、女性として好ましく思えない。
私は、貴方が好き。
――何を言っても、拒絶が伝わらない。
好いている相手ならば、障害を乗り越える方法が提示されるのは喜ばしいのだが、軋轢を生まないように女性からの求婚を拒む、と言うのは、なかなかに難しかった。
リンデンバーグでもサーラでも、通常、求婚は男性から女性に向けて行うもの。
女性からの求婚はすなわち、「絶対に成立する」との自信の下に、されるものだ。
「貴方がグズグズしてるから、こっちから機会を上げたのよ。まさか、この私を振るなんてありえないわよね?」
と、限りなく上から目線でした行動なのだ。
サーラ王家の人々は、アーヴァインの困惑に一定の理解を示しつつも、
「折角なら、アーヴァインが正式にサーラ王家に入ってくれれば…」
との期待も感じられる。
女児として生まれた為に、本来ならば、結婚によって王籍から離れるリンジー。
だが、リンデンバーグの王子であるアーヴァインと婚姻する事で、特例として王族のままに留めおく事を考えていたらしい。
思った以上に自己中心的に育ったリンジーを、臣下に押し付けるわけにもいかない、との思惑もあったのだろう。
このまま、サーラにいるのは危険だ、と考えたアーヴァインは、引き留める人々を振り切って、リンデンバーグに帰国。
エイデンとイグナスに協力を求め、リンジーとの婚姻を成立させないよう画策したのだが、そこに待ったを掛けたのが、兄嫁ジゼルだった。
未だにアーヴァインがリンデンバーグ国王の座を狙っていると考えているジゼルは、姪であるリンジーの恋の成就と、アーヴァインの排除の一石二鳥を目論んだのだ。
アーヴァインの気持ちを優先してやれ、と言うエイデンとイグナスに対し、
「これまで、サーラで浮いたお話一つなかったアーヴァイン殿下ですのよ?周囲が良いお相手を探して差し上げないと。サーラの王女であるリンジー殿下でしたら、身分の釣り合いも取れますし、十年も共に暮らしたのですから、お互い、気心も知れているでしょう」
と、最もらしい事を言って反論を封じ、大舞踏会で、お披露目と同時にリンジーとの婚約を発表しよう、と提案。
退っ引きならない状況に陥ったアーヴァインが咄嗟に口にしたのが、「好きな女性がいるから、結婚出来ない」と言う偽りの告白だった。
当初は架空の人物で考えていた「好きな女性」について、ジゼルが、本当に実在するのか、いるなら何故紹介しない、と迫って来た為、止むに止まれず、計画に巻き込んだのが、ヴィヴィアンだったのだ。
望まぬ結婚を回避する為の、偽装の恋のお相手。
偽装婚約ではない。
例え偽装であろうと婚約を匂わせれば、逸った父が強引に婚姻を結ばせてしまうだろう。
婚約出来ない相手。
好意を伝える事が出来ない相手。
ならば、既婚者がいい。
夫婦仲の良い既婚者では、単なる横恋慕だ。
夫婦間に要らぬ亀裂が入っては、困る。
今更、亀裂の入りようがない程に溝の深い不仲の夫婦。
それでいて、容易にアーヴァインに恋に落ちない女性。
アーヴァイン自身に外見の拘りはないが、リンジーとジゼルを説得する以上は、ある程度、目立つ容姿である方が望ましい。
そんな困難な条件の女性が、本当に見つかるとは思っていなかった。
藁にも縋る思いで、何かこの状況を打破する突破口はないか、と焦りながら夜会に潜り込んでいた時に見つけたのが、ヴィヴィアンだった。
リンデンバーグでは珍しい銀の髪に、珊瑚色の瞳。
目を惹かれたのは、彼女の美しい容姿だけではなく、何処か居場所を探しているような、心許ない風情が気に掛かったせいだろうか。
彼女は、人目を避けるように、自ら進んで壁際で過ごしていた。
夜会が始まってからひっそりと訪れ、散会する前にひっそりと辞去する彼女は、特に歓談するわけでもなく、ダンスに誘われるわけでもなく、ただ、そこにいる。
広間全体を見渡して、何処か茫洋とした視線で、時折、溜息を吐く様子は、どう見ても、望んで臨席しているとは思えない。
完璧な微笑を浮かべながらも、物憂げに見えるのは、彼女が決して、この場を楽しんでいるわけではないからだ。
同時に、周囲から漏れ聞こえる彼女の『噂』に衝撃を受けた。
恋慕する男を手に入れる為、実家の力で政略結婚に持ち込んだ悪女。
夫は、結婚にこそ応じたものの、愛を貫き、今も嘗ての恋人と暮らしている。
夫に顧みられない寂しさを埋める為、一夜の遊び相手を探しに、夜会に参加しているのだろう――…。
アーヴァインの望む理想的な『好意を伝えられない相手』が、本当に存在するとは。
火遊びの相手を探していても、心が夫の下にあるのなら、真剣な交際、ましてや、結婚を求められる事もない。
悪女に翻弄された愚かな男と言う評判はつくだろうが、この先も独身を通すのだから、別に問題はない。
だが、調べた事実に、打ちのめされた。
事実は、噂よりも非道なものだったからだ。
父親のスタンリーも、夫のトビアスも、彼女を意思なき人形として、自分達の気の赴くままに、好き勝手に扱っている。
世間の噂とは真逆の実情に、アーヴァインは心を痛めた。
欠片も想いを寄せていない男に嫁がされ、その夫に冷遇されている女性。
調べるうちに、実家の商会の売り上げに貢献している事も判った。
ヴィヴィアンは、見た目通りの儚い女性ではなく、機を見るに聡い女性でもある。
彼女ならば、きちんと条件さえ整えれば、この自分勝手極まりない依頼を、仕事の契約として聞き入れてくれるのではないだろうか。
――一縷の望みを懸けて言葉を交わしたヴィヴィアンは、アーヴァインの想像以上に朗らかで、実利を重んじ、くるくると表情の変わる女性だった。
自らを打算的だと言い、条件と契約を大事にし、頑なに懐に人を入れまいとするのは、実は情が深いからなのだ。
彼女を知る程に、誰かに心を許す事はない、と誓った過去の傷跡が、ジクジクと傷む。
『人妻を理由に諦めて、同時に忘れられない相手がいるから、結婚しない、って持ってく、つもりだった…』
確実に、そうなる予感がしていた。
ヴィヴィアンを、忘れられるわけがない。
いっそ、この想いごと、全てを明かしてしまいたい。
だが、同時に、決して悟られてはならない、とも思う。
リンデンバーグでのアーヴァインは、今でも、疑惑の第二王子だ。
王族と言う地位だけでも重いのに、母の不貞疑惑がある男の傍に、好んで立ちたい女性はいない。
下手をすれば、相手まで蔑みの対象として巻き込んでしまう。
そのような事情のあるアーヴァインの手を、誰よりも穏やかに暮らしたいと願っているヴィヴィアンが、取ってくれる筈がないのだから。
リンデンバーグ国王エイデンの第四子アーヴァインは、王宮で密かに、そう呼ばれていた。
体の弱い第一子イグナス、二人の王女の後に、年が離れて授かったアーヴァインは、産み月を過ぎ、大きな体で生まれた。
泣き声も大きく、一度泣けば、城中に響いたと言う。
その彼の出自に、疑惑の目が向けられるようになったのは、薄毛だった髪が次第にしっかりと生えて来た一歳の頃。
眩い金髪のエイデン王と、隣国から嫁いだ明るい金茶の髪のシェリー王妃の間に生まれたアーヴァインの髪色は、暗い茶色だったのだ。
成長につれて、どんどん明度が下がり、黒くなっていく髪色は、金髪ばかりのリンデンバーグ王家の中で、酷く目立った。
シェリー王妃の護衛騎士の中に、リンデンバーグでは珍しい黒髪の騎士がいた事も、悪かったのだろう。
王妃の不貞。
いつしか、囁かれるようになった噂だ。
勿論、エイデンもシェリーも、そのような噂を相手にしなかった。
むきになって否定する程、真実味が増すものだとも思っていた。
彼等は、アーヴァインが二人の子供だと言う事実を、自分達がきちんと伝えさえすれば、それで大丈夫だと考えていたのだ。
だが、一体、誰がそれを証明出来ると言うのだろう。
二人がどれだけアーヴァインを大切にしようと、一度芽生えた疑惑の芽を、完全に摘み取る事は出来なかった。
そればかりか、虚弱なイグナスを廃し、疑惑のアーヴァインを玉座に就けるつもりなのでは、とあらぬ疑いを掛けられる始末。
リンデンバーグ王家の血が流れていないかもしれない王子を、国の最高責任者にしては、人心が乱れる、と強く主張したのは、サンテリオ公爵を中心とした一派だった。
事実はどうであれ、一度、疑惑を持たれた王子が玉座に座す事など、あってはならない、との主張には、確かに一理ある。
その疑惑が、全くの事実無根であるとしても。
サンテリオ公爵の目的は、明らかだった。
彼は、アーヴァイン誕生までに、偶然を装って娘のジゼルをイグナスに近づけ、二人の関係を親しいものにしていた。
第一子であるイグナスが、慣例通り、玉座に就けば、サンテリオ公爵家は王家の外戚となる。
体の弱いイグナスであれば、傀儡とし、国政へのサンテリオ公爵家の影響力を強められる、との魂胆が透けて見えている。
エイデンとシェリーにとって、イグナスもアーヴァインも、可愛い我が子だ。
それに変わりはない。
けれど、親の愛だけを盾に、国の重臣達の思いを縛る事は、出来なかった。
国とは、王だけで成り立つものではないからだ。
一方で、アーヴァインの周辺では不穏な噂が消える事なく、彼は孤立していく。
心を許した人々の度重なる裏切りと、己の出自を疑う噂に、幼いアーヴァインの心は消耗し、彼はいつしか、表情を凍らせ、人との距離を置くようになった。
身辺につけた護衛騎士ですら、信じられなくなったアーヴァインは、常に、一人で行動するようになる。
いつ襲われるかもしれない彼の身を案じたエイデンは、本来ならば十歳頃の少年から始める騎士の訓練に、まだ六歳のアーヴァインを参加させる事にした。
体の大きなアーヴァインならば、ついていけるだろう、との目算もあったし、一人でも多くの味方を作ってやりたい、との願いもあった。
そこで知り合ったキャナリー公爵令息レイモンドや、ウェリントン侯爵令息ヴィクターを始めとする人々は、アーヴァインがどのような子供だったのかを、よく知っている。
ミドルネームの「コンラート」を名乗り、第二王子と言う身分は公には伏せられていたが、偶然を装って、エイデンやシェリーが練習を見学していたのを見れば、彼が何者なのか、推測出来る。
噂は、噂に過ぎない。
アーヴァインは、確かにこの国の国王夫妻が愛する息子なのだ。
だが、アーヴァインを蹴り落としたい人々の計画は、綿密なものだった。
繰り返される心無い噂と誹謗中傷に、大きな赤子を産み落とした後、体調を崩しがちだった王妃シェリーは、次第に臥せる日々が増えていく。
己に不貞がない事は、誰よりも彼女が知っている。
けれど、彼女の言葉は、届かない。
それは、虚弱な王子と、疑惑の王子を生んだせいなのか。
愛する人の妻になれた事に喜び、彼を支える為に隣に立つ努力をしてきたつもりだった。
その努力は、足りなかったと言う事なのか。
サンテリオ公爵の妹が、エイデンの妻の座を望んでいた事は知っている。
恋破れた彼女が、悲しみのうちに病没した事も。
これは、その仕打ちなのだろうか。
だが、決定打となったのは、病床で思い悩むシェリーに掛けられた、エイデンの何気ない一言だった。
「アーヴァインが、私に似ずに良かった」
エイデンからすれば、深い意味はなかった。
エイデンは、繊弱ではないが、アーヴァイン程、立派な体格でもない。
イグナスは病弱で、剣を取るどころか、一年の四分の一は臥しているし、二人の王女も、儚げな少女達だ。
エイデンの年の離れた弟ラウルも、頑健な性質でない為に、妻を娶らず、王家に残っている。
エイデンは、虚弱な体質はリンデンバーグ王家の血筋によるものだと考えていた。
髪色だけではなく、アーヴァインには、リンデンバーグ王家の特徴が薄い。
だからこそ、溌溂と健康なアーヴァインを見ていると心強い、と言う意味合いで発した彼の言葉は、憔悴していたシェリーに、「夫に疑念を抱かれた」と受け取られた。
直ぐに、己の失言を悟ったエイデンは、発言の真意を説明したものの、一度発した言葉が取り消せるわけではない。
心身共に弱っていたシェリーは、それから間もなく、幼い子供達を遺して儚くなったのである。
一番の味方であった母シェリーを失ったアーヴァインは、一層、頑なになった。
彼は、剣技に長けただけではなく、勉学の面でも優秀な成績を修めていたが、目立つと必ず、横槍が入る。
イグナスとアーヴァイン、二人に限って言えば、関係性は悪くない。
イグナスは、己の体の弱さを受け入れ、心優しい青年に育ち、年の離れた弟を殊の外、可愛がっていた。
アーヴァインも、優しく博識な兄を慕い、彼が玉座に座す時には、傍で支えようと誓っていた。
だが、二人の間に、別の人間が入って来ると、事はそう簡単に運ばない。
イグナスが、長年交流のあったサンテリオ公爵令嬢ジゼルと結婚し、彼女が息子ナシエルを生んでからは、なおの事。
イグナスとジゼルは、大恋愛の末の結婚、と市井で評判だが、それは事実とは異なる。
彼女は、公爵令嬢の地位を利用して、イグナスと接触する可能性のある令嬢を一人ずつ、排除していった。
排除、と言っても、社交界で権勢を誇るサンテリオ公爵家の名を利用して、圧力を掛け、ご令嬢達に第一王子妃の地位を諦めさせただけだ。
イグナスはイグナスで、体質の関係で気楽な街歩きも出来ず、夜会で連続してダンスを踊る体力もない身の為、ご令嬢と知り合う機会もない。
ジゼルの腹黒ささえ理解していれば、それでいい。存外、二人の時は可愛い人なんだ。サンテリオ公爵の野望だけ、留意しておけばいい、と、彼女との結婚を決めたのだが、ナシエルが生まれてからのジゼルのアーヴァインへの態度は、目に余った。
どれだけアーヴァインが、玉座に興味はない、兄上を支える、と話しても、ジゼルは疑う事を止めない。
「イグナス様のお命を狙っているのだろう!」
と、鼠一匹入り込む隙間のない位に、イグナスとナシエルの護りを固め、アーヴァインに噛みつく姿は、王宮内の不安を煽り、揺らぎやすい思春期のアーヴァインの心を乱す。
結局、アーヴァインが安心して暮らせるように、と、伯父である現サーラ国王と、エイデン、イグナスの話し合いの結果、アーヴァインをサーラ王家に預ける事に決定したのが、アーヴァインが十五歳の時の事。
その後の事は、状況の変化に応じて考えよう。
見切り発車となったアーヴァインの遊学だが、母シェリーは、サーラ王家の姫。
サーラに骨を埋める事となっても、アーヴァインが心穏やかに幸せに暮らせるのならば、それでいい、と、エイデンとイグナスは考えていた。
サーラでの生活は、アーヴァインに合っていた。
サーラ王家の人々は、アーヴァイン程ではないが、立派な体格が多い。
金茶や焦げ茶の髪が多いサーラ王族と並び立つと、アーヴァインの髪色が目立つ事はないし、何よりも、東国から嫁いだ高祖母は、夜闇のように真っ黒な髪を持っていたと言う。
アーヴァインは、高祖母の特徴を濃く受け継いだと言うだけだったのだ。
両親の愛情を信じていても、母は幼くして亡くなり、父は以来、腫れ物に触れるように彼と接する中、何処か、心に剥落した部分があった。
サーラでの日々は、疑惑の王子として向けられる不躾な視線もなく、王位を狙っているのだろう、と神経質に叫ぶ兄嫁の声もなく、アーヴァインの欠けた心は、少しずつ、少しずつ、元の形を取り戻していった。
サーラの人々は、隣国に嫁いだ姫の遺児を温かく迎えてくれたし、信頼出来る人々も出来、このまま、サーラで暮らすのもいい、と考え始めた折に、降って湧いたリンジーとの縁談。
七つ年下のリンジーは、シェリーの弟の娘で、アーヴァインにとって従妹にあたる。
リンジーの母は、サンテリオ公爵の次女。
彼女は、王女として生まれた娘を、『叱らない育児』で育てた。
乳母や教育係が、リンジーの我儘な言動を注意すると、彼女はリンジーを庇い、乳母達を叱責する。
『叱らない育児』とは、好き勝手自由にさせる育児ではないのだ、と説明しても聞く耳を持たず、その結果、とんでもない我儘な娘に育った。
多忙な王弟が気づいた時には、矯正が困難な状況に陥っていたのである。
リンジーの母の母国でもあるリンデンバーグからやって来たアーヴァインに、好奇心旺盛にまとわりつき、アーヴァインの引いた境界を気にも掛けず土足で踏みにじり、その上、己の優位を疑わない娘。
「何で、サーラに来たの?」
「リンデンバーグを追い出されたの?」
「皆、貴方が嫌いなの?」
「貴方、可哀想な人なのね」
「可哀想だから、優しくしてあげるわ」
天真爛漫、と言えば聞こえはいいが、他人の心を慮る事の出来ない彼女の事が、元より人間関係に不審を持っていたアーヴァインは、苦手だった。
サーラでの生活で、唯一、負担に感じていたのがリンジーの存在だ。
彼女は、自分の気分や考えで周囲を振り回す。
そして、それを諫めるアーヴァインに食って掛かる。
寧ろ、アーヴァインを怒らせたいからこそ、問題を起こすのではないか、とまで考えていた。
出会った時の印象が強いからか、アーヴァインが、リンジーにとって自分は、突くと面白い玩具のようなものだと認識していた所への、求婚だった。
ずっと好きだった、と告白もされたけれど、アーヴァインにとっては、青天の霹靂。
まずは、定石通り、「妹のようにしか見られない」として断った。
ならば、これから一人の女性として見ればいい、と、楽観的な回答が返って来た。
年が離れている。
三十も四十も離れているわけではないのだから、大丈夫。
兄イグナスが、サンテリオ公爵の娘ジゼルと結婚している上に、アーヴァインもまた、サンテリオ公爵の孫娘であるリンジーと結婚するのは、王宮内の力の均衡を考えると問題がある。
リンデンバーグであれば問題かもしれないが、サーラならば関係ない。
はっきり言ってしまえば、女性として好ましく思えない。
私は、貴方が好き。
――何を言っても、拒絶が伝わらない。
好いている相手ならば、障害を乗り越える方法が提示されるのは喜ばしいのだが、軋轢を生まないように女性からの求婚を拒む、と言うのは、なかなかに難しかった。
リンデンバーグでもサーラでも、通常、求婚は男性から女性に向けて行うもの。
女性からの求婚はすなわち、「絶対に成立する」との自信の下に、されるものだ。
「貴方がグズグズしてるから、こっちから機会を上げたのよ。まさか、この私を振るなんてありえないわよね?」
と、限りなく上から目線でした行動なのだ。
サーラ王家の人々は、アーヴァインの困惑に一定の理解を示しつつも、
「折角なら、アーヴァインが正式にサーラ王家に入ってくれれば…」
との期待も感じられる。
女児として生まれた為に、本来ならば、結婚によって王籍から離れるリンジー。
だが、リンデンバーグの王子であるアーヴァインと婚姻する事で、特例として王族のままに留めおく事を考えていたらしい。
思った以上に自己中心的に育ったリンジーを、臣下に押し付けるわけにもいかない、との思惑もあったのだろう。
このまま、サーラにいるのは危険だ、と考えたアーヴァインは、引き留める人々を振り切って、リンデンバーグに帰国。
エイデンとイグナスに協力を求め、リンジーとの婚姻を成立させないよう画策したのだが、そこに待ったを掛けたのが、兄嫁ジゼルだった。
未だにアーヴァインがリンデンバーグ国王の座を狙っていると考えているジゼルは、姪であるリンジーの恋の成就と、アーヴァインの排除の一石二鳥を目論んだのだ。
アーヴァインの気持ちを優先してやれ、と言うエイデンとイグナスに対し、
「これまで、サーラで浮いたお話一つなかったアーヴァイン殿下ですのよ?周囲が良いお相手を探して差し上げないと。サーラの王女であるリンジー殿下でしたら、身分の釣り合いも取れますし、十年も共に暮らしたのですから、お互い、気心も知れているでしょう」
と、最もらしい事を言って反論を封じ、大舞踏会で、お披露目と同時にリンジーとの婚約を発表しよう、と提案。
退っ引きならない状況に陥ったアーヴァインが咄嗟に口にしたのが、「好きな女性がいるから、結婚出来ない」と言う偽りの告白だった。
当初は架空の人物で考えていた「好きな女性」について、ジゼルが、本当に実在するのか、いるなら何故紹介しない、と迫って来た為、止むに止まれず、計画に巻き込んだのが、ヴィヴィアンだったのだ。
望まぬ結婚を回避する為の、偽装の恋のお相手。
偽装婚約ではない。
例え偽装であろうと婚約を匂わせれば、逸った父が強引に婚姻を結ばせてしまうだろう。
婚約出来ない相手。
好意を伝える事が出来ない相手。
ならば、既婚者がいい。
夫婦仲の良い既婚者では、単なる横恋慕だ。
夫婦間に要らぬ亀裂が入っては、困る。
今更、亀裂の入りようがない程に溝の深い不仲の夫婦。
それでいて、容易にアーヴァインに恋に落ちない女性。
アーヴァイン自身に外見の拘りはないが、リンジーとジゼルを説得する以上は、ある程度、目立つ容姿である方が望ましい。
そんな困難な条件の女性が、本当に見つかるとは思っていなかった。
藁にも縋る思いで、何かこの状況を打破する突破口はないか、と焦りながら夜会に潜り込んでいた時に見つけたのが、ヴィヴィアンだった。
リンデンバーグでは珍しい銀の髪に、珊瑚色の瞳。
目を惹かれたのは、彼女の美しい容姿だけではなく、何処か居場所を探しているような、心許ない風情が気に掛かったせいだろうか。
彼女は、人目を避けるように、自ら進んで壁際で過ごしていた。
夜会が始まってからひっそりと訪れ、散会する前にひっそりと辞去する彼女は、特に歓談するわけでもなく、ダンスに誘われるわけでもなく、ただ、そこにいる。
広間全体を見渡して、何処か茫洋とした視線で、時折、溜息を吐く様子は、どう見ても、望んで臨席しているとは思えない。
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事実は、噂よりも非道なものだったからだ。
父親のスタンリーも、夫のトビアスも、彼女を意思なき人形として、自分達の気の赴くままに、好き勝手に扱っている。
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欠片も想いを寄せていない男に嫁がされ、その夫に冷遇されている女性。
調べるうちに、実家の商会の売り上げに貢献している事も判った。
ヴィヴィアンは、見た目通りの儚い女性ではなく、機を見るに聡い女性でもある。
彼女ならば、きちんと条件さえ整えれば、この自分勝手極まりない依頼を、仕事の契約として聞き入れてくれるのではないだろうか。
――一縷の望みを懸けて言葉を交わしたヴィヴィアンは、アーヴァインの想像以上に朗らかで、実利を重んじ、くるくると表情の変わる女性だった。
自らを打算的だと言い、条件と契約を大事にし、頑なに懐に人を入れまいとするのは、実は情が深いからなのだ。
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『人妻を理由に諦めて、同時に忘れられない相手がいるから、結婚しない、って持ってく、つもりだった…』
確実に、そうなる予感がしていた。
ヴィヴィアンを、忘れられるわけがない。
いっそ、この想いごと、全てを明かしてしまいたい。
だが、同時に、決して悟られてはならない、とも思う。
リンデンバーグでのアーヴァインは、今でも、疑惑の第二王子だ。
王族と言う地位だけでも重いのに、母の不貞疑惑がある男の傍に、好んで立ちたい女性はいない。
下手をすれば、相手まで蔑みの対象として巻き込んでしまう。
そのような事情のあるアーヴァインの手を、誰よりも穏やかに暮らしたいと願っているヴィヴィアンが、取ってくれる筈がないのだから。
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