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闘技場の舞台裏となる通路には、敗退した騎士達や、彼等の身の回りの世話をする従者達、また、大会運営関係者が走り回っている。
そんな男性ばかりの中で、気を失った女性を横抱きにして歩く姿が、目立たない筈もない。
「どうなさいましたか?」
コンラートは、慌てた様子で駆け寄って来た救護担当の騎士に、
「知り合いのご婦人なのだが、試合後、私の出血を見て倒れてしまわれたんだ。救護室の空きはあるだろうか?」
と尋ねる。
出血、と聞いた騎士が、コンラートの頬を見たが、既に血が止まっているのを確認して、小さく頷いた。
「怪我人の治療でバタついております…が、ご婦人の為でしたら、ベッドの空きを作る事は出来るかと」
「…だが、血の臭いがするだろう?」
「それは…はい、そうですね」
騎士と言う仕事柄、怪我等日常茶飯事だ。
ジュノ達のように、身内に騎士が居れば、多少の怪我には動じなくなるものだが、
「…この銀髪…もしや、ブライトン伯爵夫人では」
武官と縁のないご婦人は、その限りではない。
「知っているのか」
「えぇ。我が家は貴族の末端ではありますが、大舞踏会に招待されておりますので。社交界の秘花と呼ばれるご夫人の事は、遠目からですが、何度か」
そこまで言ってから、彼はコンラートとヴィヴィアンの顔の間で、視線を数度往復させた。
「お知り合い、でしたか」
「私としては、それ以上だと言い切りたいのだが、な」
そう言いながら、目を閉じたヴィヴィアンの顔を切なそうに眺めるコンラートに、言葉にしない想いを汲み取ったのか、それとも、社交界で密かに出回っている噂を思い出したのか、彼は、少し大袈裟な位に声を大きくした。
「誠に遺憾ながら、闘技場の救護室は満床となっております!ですので、王宮の救護室にお回り頂けませんでしょうか!」
つまりは、誰にも邪魔されない場所へどうぞ!と言う事である。
流石は恋愛至上主義の国。
コンラートは、内心の苦笑を隠して、
「感謝する」
と言うと、ヴィヴィアンを抱いたまま、王宮方面へと向かったのだった。
「…さて、もう大丈夫だ。ヴィヴィアン、目を開けていいよ」
横抱きに抱いたヴィヴィアンの耳元で、コンラートはそっと呼び掛けた。
ヴィヴィアンの、長くたっぷりとした睫毛が、柔らかそうな頬に落とす影を、堪能した後で。
場所は、闘技場と王宮の間にある庭園。
ぱちり、と目を開けたヴィヴィアンは、
「…重かったでしょう、下ろしてちょうだい」
と、開口一番、そう言った。
目を閉じている間に、大分、平静を取り戻したらしい。
「ヴィヴィアン一人抱えられない程、柔な鍛え方はしてない。それとも、此処はお約束通り、『羽のように軽い』とか言うべきか?」
「止めてよ、成人女性がそこそこ重いって事、知らないわけがないでしょ」
「まぁ、流石に羽とまではいかないけど、ヴィヴィアンは軽い。ちゃんと食べてるのか、心配になる位に」
コンラートがヴィヴィアンの顔を覗き込むと、思っていたよりも顔が近い事に驚いたのか、彼女は目を見開いて身動いだ。
「…下ろして、って言ったと思うのだけど」
「気絶はともかく、気分が悪くなったのは事実だろう?まだ、無理はしない方がいい」
「…」
日の光の下で見るヴィヴィアンは、夜会で会うヴィヴィアンとは違った。
夜会でのヴィヴィアンには、隙なく作り込んだ美がある。
何度も夜会で彼女と踊ったが、いつも、違うドレスなのは、流石、クレメント商会と言うべきか。
高位貴族になる程、毎回、異なるドレスを着なくてはならないのは事実だ。
しかし、そこは懐事情もあるので、夜会ごとに優先順位がつけられており、重要度の高い会には惜しみなく金をつぎ込んで最新のものを、優先度の低い会には手直してがらりと雰囲気を変えたものを、と力の入れ方を分散している貴族は少なくない。
だが、ヴィヴィアンのドレスは毎回、全力の最高級だ。
その為なのか、同じようなシルエット、同じような色合いのドレスの中で、彼女の姿は一際目立つ。
流行を身に纏っている筈なのに、埋没しないのだ。
工房も、特定の贔屓を作らないようにしているらしく、一目で最先端のデザインと判らせながらも、それぞれに個性がしっかりと出ているのは、ヴィヴィアンのセンスによるのだろう。
身に付けている宝飾品も同様で、流行りを押さえつつ、廃らないデザインを選ぶ辺り、流石は目利きの商人だ。
この目利きを活かして、彼女自身が、クレメント商会の役員として売り上げに大きく貢献しているのは、疑いようもない。
サーラで自身の商会を立ち上げてもうまくやるだろう、と思う反面、ちり、と胸の奥が焦げるような音がする。
一方、今日のヴィヴィアンは、夜会での艶やかな姿を見ていると、別人と思える程に雰囲気が異なっていた。
首元の詰まった露出の少ないデイドレスは、既婚女性らしい、と言えばそうなのだが、既婚女性の中でも、かなり貞淑な部類に入る。
化粧の仕方も変えているようで、夜会では切れ長の目尻を強調しているアイラインが控えめになっているからなのか、年齢が幾分、下がって見える。
化粧とドレスの相乗効果で、大変清楚な仕上がりになっていた。
大人しくコンラートの腕の中にいる姿だけを見ると、夫と父を出し抜いて、隣国に出奔しようとしている女性には、とてもではないが見えない。
これだけ雰囲気が違うのに、闘技場に入って直ぐに、彼女の姿はコンラートの目に飛び込んで来た。
特徴的な髪色を隠すようにボンネットを被り、遠くからでは目の色等、確認も出来ない。
それでも、そこにヴィヴィアンがいる、と判ったのは、彼女が来ていると知っていたから、だけではない。
「…もう、血は止まったの?」
ヴィヴィアンが、コンラートの顔から視線を逸らして尋ねた。
「あぁ。これ位の傷なら、いつもの事だ」
「痕は残らない?」
「かすり傷だよ」
「そう…」
心配してくれたのか、とは、もう問わない。
ヴィヴィアンの様子を見ていれば、問わずとも判る。
「少し、休もうか」
「えぇ…」
庭園の中の東屋で、コンラートは漸く、据えられたベンチにそっとヴィヴィアンを下ろした。
抱え込んでいた温もりが離れる事に、胸に風が吹き込んだ気がする。
まだ陽射しが暖かいとは言え、晩秋の事。
庭園は色を失っているが、下ろした銀髪が紗のようになっているヴィヴィアンの周囲だけが明るく見えて、コンラートは目を瞬いた。
「…今回、ね。武術大会には、ドキドキを探しに来たの」
ヴィヴィアンが不意に告げた言葉に、コンラートは首を傾げる。
「…ドキドキ…?」
何とも少女趣味な言葉に、夜会で「言えない」と話していた目的か、と思い至った。
「私は…ほら、夫と不仲でしょう?愛されていないし、愛していない。例え、夫と別れられたとしても、きっと、また別の誰かに嫁がされるだけ。そうこうするうちに、女として枯れ果ててしまうわよ、って友人に忠告されたのよ。『女』でいる為には、特定の誰かでなくていいから、ドキドキしたり、ときめいたり、きゅんっとする事が大事なんですって」
何処か他人事のヴィヴィアンの言葉は、コンラートに聞かせるようでいて、独白のようでもある。
小さく相槌を打つだけに留めたコンラートを気にする様子もなく、ヴィヴィアンは言葉を続けた。
「今日は、騎士様を見てみなさい、と連れて来られたの。普段、騎士様の活躍を見る機会はないから、凛々しいお姿に心動かされるんじゃないか、って」
きゅっ、と、ヴィヴィアンは、膝の上に置いた手を握った。
小さく震えている事にコンラートは気づいて、思わず彼女の手に手を重ねる。
ヴィヴィアンは、一瞬、ぴくりと体を強張らせたが、ゆるゆると力を抜いた。
気を許してくれているのだろうか、と、コンラートは嬉しくなって、慌ててその思いを打ち消す。
これは、そう、いつになく弱気な彼女を、協力者として励ます為の行為に過ぎない。
「…最初は、何ともなかったの。頑張ってるんだなぁ、とか、強いなぁ、とか、そんな事を考えた位で。ご夫君の試合を、緊張しながら応援しているご夫人達の姿を見て、羨ましいな、とは思ったけど…」
「羨ましい?」
「えぇ。だって、緊張が好き、って人は余りいないでしょう?でも、自分にとって不快な思いを押してでも応援するのは、心配だから、でしょう。自分自身の気持ちより優先したい特別な存在がいる事が、羨ましいって思って。…私には、そう言うの、よく判らないから」
でも、と、ヴィヴィアンは消えそうな声で呟く。
「心配、って辛いのね。貴方の試合を見てると、胸が痛いし、怖くて仕方ない。確かにドキドキはしたけれど、これは、求めてるのとは違うドキドキなのでしょう?…こんな思いをするのは、嫌。嫌なのに…目を逸らして見ない方が、怖くて。見てない間に何かあったら、と思うと、もっと怖くて。他にも、怪我した人は見た筈なのに…貴方が、怪我してる事に気づいた時、本当に怖かったのよ」
ヴィヴィアンの無意識の告白に、コンラートは大きな手で自身の顔を覆った。
恐らく、今、自分は耳まで赤くなっている。
無警戒だった分、ヴィヴィアンの言葉はコンラートの心の奥深くに、しっかりと刺さった。
ヴィヴィアンは、全く気が付いていない。
彼女にとってコンラートが、『特別な存在』なのだと告げた事に。
…このまま、コンラートもまた、彼女の気持ちの変化にも、己の抱く好意にも、気づいていない振りをすれば、当初の計画通りに進むだろうか。
時期が来れば、協力関係を解消し、互いの道へと進む関係に。
ヴィヴィアンをサーラに送り出した後、彼女の生活が軌道に乗るまでは何度か接触はあるけれど、そこさえ、乗り切れば。
コンラートも、忘れられる筈だ。彼女の姿が、輝いて見える理由を。
コンラートの素性と事情を知れば、彼女は離れていくだろう。
基本的にヴィヴィアンは、面倒事には関わりたくない、心穏やかに生きたい、と考えている女性だ。
ヴィヴィアンは、彼女自身の気持ちにまだ気づいていない。
ならば、コンラートもまた、気づいていない素振りを続けるべきだ。
いずれ、離れていく女性ならば、深入りすべきではない。
互いの好意に気づいた上での別れは、心に傷を残す。
今ならばまだ、引き返せる筈。
「…怖い思いをさせて、すまなかった。けど、本当にかすり傷なんだ。騎士ならば、鍛錬中にこの程度の怪我をする事も、日常なんだよ」
「貴方、騎士様なの?」
「騎士、ではないな。身を守る為に最低限の剣術を教わっているだけだ」
「最低限、だなんて、準決勝まで進んだ人が言うと嫌な感じね」
漸く、ヴィヴィアンに笑顔が見えて、コンラートはホッと胸を撫で下ろす。
「…ヴィヴィアンは、俺の事情について、やっぱり聞かないんだな」
「貴方は、話したければ話すでしょう。言わない、って事は、言いたくない、もしくは、聞いたら私が危険と言う事でしょう?その程度の判断は出来るつもりよ」
雲の切れ目から差し込む陽射しの眩しさに、ヴィヴィアンは目を細めた。
「でも、一つだけ、確認させて欲しいの。今日、私に接触したと言う事は、貴方は、王宮内部…昼の社交場にも、『叶わぬ恋をしている』と噂を流したいのでしょう?夜会では他の女性避けとして、私も貴方に想いを向けているけれど応えられない、と誤解されるように振る舞っているけれど、王宮ではどうすべきなの?」
「そうだな…」
何しろ、恋愛結婚至上主義の国。
諸々の障害を乗り越えて結婚、と言うのは、無責任な観客からすれば、盛り上がる要素しかない。
けれど、実際に結婚するわけにはいかないからこそ、コンラートはヴィヴィアンを相手に選んだのだ。
下手に相思相愛と思われてしまうと、周囲が余計なお節介を焼いて、コンラートの計画に支障が出るのでは、と確認の意味を込めて尋ねたのだが、コンラートの歯切れは悪い。
「正直な所…まだ、決めかねてる。ヴィヴィアンは、この計画を、俺が本意でない婚約を回避する為、と推測していただろ?それは、半分正解。実は、もう一つ、理由があるんだ」
「もう一つ?」
「所謂、お家騒動ってヤツ。俺は当主の座を狙ってなんかいないんだが、そうとは思ってくれない人達がいてね」
「つまり…当主の妻になるには相応しくない女性に恋慕しているので、当主の座に色気は出しませんよ、って事?」
「流石、理解が早いな」
ヴィヴィアンは、コンラートの言葉を頭の中で整理するように、声に出して確認する。
「恋愛結婚推奨のこの国で、望まない婚約を拒否する為に、他に意中の女性がいる、と示したい。特に好意を持つ女性がいないなら、この人を好きになればいいじゃないか、と婚約させられるのを避ける為に」
「あぁ」
「当主の座に就く気はないから、当主の妻に相応しくない女性を慕っている、と示したい。人妻且つ成金男爵家出身なら、まず、諸手を上げて認められる事はないから」
「……あぁ」
今更だが酷い言い草だ、と顔を顰めつつ頷くコンラートに、
「婚約回避しつつ、当主の座と距離を置きつつ、最終的に結婚しない言い訳として、『相手が人妻なので諦めた』としてまとめるつもり…なのよね?で、その間に私は、夫と離婚して、サーラに出国する、と」
ヴィヴィアンは、首を傾げる。
「…えぇと、やっぱり、それって、相思相愛と思われたらまずい案件じゃないの?容易に私の父と夫を説得出来るとは思えないけど、貴方には、私を離縁させられる力があるんでしょう?少しでもタイミングを間違えたら、国を出る前に、私と結婚させられちゃうわよ?」
結婚したくないからこそ、私を取引相手に選んだんでしょう?
ヴィヴィアンの指摘に、コンラートは言葉に詰まる。
確かに、その危機感はコンラートにもあった。
「貴方の本命の女性が、婚約回避やお家騒動には向いてない立場の女性なのかもしれないけど…方針転換したら?人目に晒したくないのでしょうけど、私の存在を広めた後だと、その方がやりづらくなるわ」
「ヴィヴィアン、」
「途中解約になるから、取引条件は不履行で構わないわよ。私も、結構楽しんでたし」
「ヴィヴィアン、ちょっと待て」
「…何」
コンラートの顔を決して見ないヴィヴィアンに、コンラートは席を立つと、彼女の正面に跪いた。
「本命なんて、いない。俺が親しくしてる女性は、ヴィヴィアン、君以外にいない。確かに…確かに、まだ、いや、生涯、結婚したくない、と思ってた。…俺に婚約を申し込んで来たのは、サーラの人間なんだ。けど、俺は彼女に気持ちがない…と言うか、苦手だから、結婚したくない。だから、婚約回避したい。同時に、当主の座も、狙っていない、と関係各所に理解させたい。俺がサーラで結婚すれば、当主を狙ってない事は一目瞭然だが、だからと言って、彼女と結婚はありえない。でも、口でどれだけそう言っても、納得してくれないんだ。どちらか片方だけなら、もっと単純な話だったんだが、同時進行で解決しようとすると、難しくて。だからこそ、何とかひねり出した計画が、『結婚するのに支障のある相手への恋慕』だった。人妻を理由に諦めて、同時に忘れられない相手がいるから、この先も結婚しない、って持ってく、つもりだった…」
コンラートの言葉尻が、どんどん細く、小さくなっていく。
「思いついた時には、完璧な作戦って思ったんだけどな。策士策に溺れる、ってこう言う事かな…。自分の事を、策士、って言うのも調子に乗ってる感じだけど」
「筋は通ってると思うわよ。普通は、私のような立場の女性は、離縁したとしても、親ほど年齢の離れた相手の後妻に行く以外ないもの。貴方のように、瑕疵のない初婚の男性に嫁ぐ事はまずないわ。…考えていた以上に、皆様の私への同情が大きかった、ってだけで…」
社交界から遠ざかり、年に数度の夜会でも、不機嫌な夫の傍で人形のように黙っていただけのヴィヴィアンには、予想出来なかった。
恋愛結婚至上主義のこの国で、ヴィヴィアンは、トビアスとアイリーンの恋路を邪魔した悪。
アイリーンが日陰の身として涙を流し、ヴィヴィアンが公の場でこれ見よがしにトビアスを連れていれば、その評価は正しかっただろう。
だが、愛を貫き通した当人であるトビアスとアイリーンが、ヴィヴィアンの資産を我が物顔で使って傍若無人な振る舞いをし、没落寸前のブライトン家を救ったヴィヴィアンを虐げる事に、当初は二人に同情していた周囲の人々は、次第に眉を顰めていったのだ。
そこに現れた、実際のヴィヴィアン。
冷遇されている正妻ヴィヴィアンへの同情の下地があった上に、夜会で見せる健気な姿に、すっかり絆された人々が、コンラートとヴィヴィアンの恋路を好意的に受け止めるようになってしまった。
「…このままだと、貴方、外堀埋められるわよ?」
本来なら、後妻に行く選択しかないヴィヴィアンだが、これだけ周囲が二人の恋を見守っている状況だと、コンラートと結びつける為に全力で権力を使う人々が出て来ないとも限らない。
何しろ、ランドリック侯爵を始めとした重鎮方が、味方についている。
方針転換するなら、今しかないのだ。
コンラートは、ヴィヴィアンへの好意を示しつつも、深い関係を望む決定的な言葉を言っていない。
ヴィヴィアンは、コンラートの好意を拒否せず、それとなく好感を持っている素振りを見せているだけ。
今ならまだ、「好意はあったけれど、恋愛感情ではなかった」と言い訳出来る。筈だ。
「…君が、相手なら…」
引き返せる、と言いながらも、こんな事を考えてしまうのは、未練がましいだろうか。
「え?何か言った?」
「…いや。すまないが、大舞踏会まで、態度保留のどっちつかずな感じで頼む。…大舞踏会で、俺の素性を知れば…きっと、周囲の目も変わる」
何処か寂しそうなコンラートに、ヴィヴィアンはそれ以上追及する事は出来ず、小さく頷いた。
「車寄せまで送っていこう。途中で、御者に連絡させる」
「…えぇ」
いつものように、完璧なコンラートのエスコート。
だが、そこに、いつもはない薄い壁のようなものを感じて、ヴィヴィアンは普段よりも強く、彼の腕に捉まったのだった。
そんな男性ばかりの中で、気を失った女性を横抱きにして歩く姿が、目立たない筈もない。
「どうなさいましたか?」
コンラートは、慌てた様子で駆け寄って来た救護担当の騎士に、
「知り合いのご婦人なのだが、試合後、私の出血を見て倒れてしまわれたんだ。救護室の空きはあるだろうか?」
と尋ねる。
出血、と聞いた騎士が、コンラートの頬を見たが、既に血が止まっているのを確認して、小さく頷いた。
「怪我人の治療でバタついております…が、ご婦人の為でしたら、ベッドの空きを作る事は出来るかと」
「…だが、血の臭いがするだろう?」
「それは…はい、そうですね」
騎士と言う仕事柄、怪我等日常茶飯事だ。
ジュノ達のように、身内に騎士が居れば、多少の怪我には動じなくなるものだが、
「…この銀髪…もしや、ブライトン伯爵夫人では」
武官と縁のないご婦人は、その限りではない。
「知っているのか」
「えぇ。我が家は貴族の末端ではありますが、大舞踏会に招待されておりますので。社交界の秘花と呼ばれるご夫人の事は、遠目からですが、何度か」
そこまで言ってから、彼はコンラートとヴィヴィアンの顔の間で、視線を数度往復させた。
「お知り合い、でしたか」
「私としては、それ以上だと言い切りたいのだが、な」
そう言いながら、目を閉じたヴィヴィアンの顔を切なそうに眺めるコンラートに、言葉にしない想いを汲み取ったのか、それとも、社交界で密かに出回っている噂を思い出したのか、彼は、少し大袈裟な位に声を大きくした。
「誠に遺憾ながら、闘技場の救護室は満床となっております!ですので、王宮の救護室にお回り頂けませんでしょうか!」
つまりは、誰にも邪魔されない場所へどうぞ!と言う事である。
流石は恋愛至上主義の国。
コンラートは、内心の苦笑を隠して、
「感謝する」
と言うと、ヴィヴィアンを抱いたまま、王宮方面へと向かったのだった。
「…さて、もう大丈夫だ。ヴィヴィアン、目を開けていいよ」
横抱きに抱いたヴィヴィアンの耳元で、コンラートはそっと呼び掛けた。
ヴィヴィアンの、長くたっぷりとした睫毛が、柔らかそうな頬に落とす影を、堪能した後で。
場所は、闘技場と王宮の間にある庭園。
ぱちり、と目を開けたヴィヴィアンは、
「…重かったでしょう、下ろしてちょうだい」
と、開口一番、そう言った。
目を閉じている間に、大分、平静を取り戻したらしい。
「ヴィヴィアン一人抱えられない程、柔な鍛え方はしてない。それとも、此処はお約束通り、『羽のように軽い』とか言うべきか?」
「止めてよ、成人女性がそこそこ重いって事、知らないわけがないでしょ」
「まぁ、流石に羽とまではいかないけど、ヴィヴィアンは軽い。ちゃんと食べてるのか、心配になる位に」
コンラートがヴィヴィアンの顔を覗き込むと、思っていたよりも顔が近い事に驚いたのか、彼女は目を見開いて身動いだ。
「…下ろして、って言ったと思うのだけど」
「気絶はともかく、気分が悪くなったのは事実だろう?まだ、無理はしない方がいい」
「…」
日の光の下で見るヴィヴィアンは、夜会で会うヴィヴィアンとは違った。
夜会でのヴィヴィアンには、隙なく作り込んだ美がある。
何度も夜会で彼女と踊ったが、いつも、違うドレスなのは、流石、クレメント商会と言うべきか。
高位貴族になる程、毎回、異なるドレスを着なくてはならないのは事実だ。
しかし、そこは懐事情もあるので、夜会ごとに優先順位がつけられており、重要度の高い会には惜しみなく金をつぎ込んで最新のものを、優先度の低い会には手直してがらりと雰囲気を変えたものを、と力の入れ方を分散している貴族は少なくない。
だが、ヴィヴィアンのドレスは毎回、全力の最高級だ。
その為なのか、同じようなシルエット、同じような色合いのドレスの中で、彼女の姿は一際目立つ。
流行を身に纏っている筈なのに、埋没しないのだ。
工房も、特定の贔屓を作らないようにしているらしく、一目で最先端のデザインと判らせながらも、それぞれに個性がしっかりと出ているのは、ヴィヴィアンのセンスによるのだろう。
身に付けている宝飾品も同様で、流行りを押さえつつ、廃らないデザインを選ぶ辺り、流石は目利きの商人だ。
この目利きを活かして、彼女自身が、クレメント商会の役員として売り上げに大きく貢献しているのは、疑いようもない。
サーラで自身の商会を立ち上げてもうまくやるだろう、と思う反面、ちり、と胸の奥が焦げるような音がする。
一方、今日のヴィヴィアンは、夜会での艶やかな姿を見ていると、別人と思える程に雰囲気が異なっていた。
首元の詰まった露出の少ないデイドレスは、既婚女性らしい、と言えばそうなのだが、既婚女性の中でも、かなり貞淑な部類に入る。
化粧の仕方も変えているようで、夜会では切れ長の目尻を強調しているアイラインが控えめになっているからなのか、年齢が幾分、下がって見える。
化粧とドレスの相乗効果で、大変清楚な仕上がりになっていた。
大人しくコンラートの腕の中にいる姿だけを見ると、夫と父を出し抜いて、隣国に出奔しようとしている女性には、とてもではないが見えない。
これだけ雰囲気が違うのに、闘技場に入って直ぐに、彼女の姿はコンラートの目に飛び込んで来た。
特徴的な髪色を隠すようにボンネットを被り、遠くからでは目の色等、確認も出来ない。
それでも、そこにヴィヴィアンがいる、と判ったのは、彼女が来ていると知っていたから、だけではない。
「…もう、血は止まったの?」
ヴィヴィアンが、コンラートの顔から視線を逸らして尋ねた。
「あぁ。これ位の傷なら、いつもの事だ」
「痕は残らない?」
「かすり傷だよ」
「そう…」
心配してくれたのか、とは、もう問わない。
ヴィヴィアンの様子を見ていれば、問わずとも判る。
「少し、休もうか」
「えぇ…」
庭園の中の東屋で、コンラートは漸く、据えられたベンチにそっとヴィヴィアンを下ろした。
抱え込んでいた温もりが離れる事に、胸に風が吹き込んだ気がする。
まだ陽射しが暖かいとは言え、晩秋の事。
庭園は色を失っているが、下ろした銀髪が紗のようになっているヴィヴィアンの周囲だけが明るく見えて、コンラートは目を瞬いた。
「…今回、ね。武術大会には、ドキドキを探しに来たの」
ヴィヴィアンが不意に告げた言葉に、コンラートは首を傾げる。
「…ドキドキ…?」
何とも少女趣味な言葉に、夜会で「言えない」と話していた目的か、と思い至った。
「私は…ほら、夫と不仲でしょう?愛されていないし、愛していない。例え、夫と別れられたとしても、きっと、また別の誰かに嫁がされるだけ。そうこうするうちに、女として枯れ果ててしまうわよ、って友人に忠告されたのよ。『女』でいる為には、特定の誰かでなくていいから、ドキドキしたり、ときめいたり、きゅんっとする事が大事なんですって」
何処か他人事のヴィヴィアンの言葉は、コンラートに聞かせるようでいて、独白のようでもある。
小さく相槌を打つだけに留めたコンラートを気にする様子もなく、ヴィヴィアンは言葉を続けた。
「今日は、騎士様を見てみなさい、と連れて来られたの。普段、騎士様の活躍を見る機会はないから、凛々しいお姿に心動かされるんじゃないか、って」
きゅっ、と、ヴィヴィアンは、膝の上に置いた手を握った。
小さく震えている事にコンラートは気づいて、思わず彼女の手に手を重ねる。
ヴィヴィアンは、一瞬、ぴくりと体を強張らせたが、ゆるゆると力を抜いた。
気を許してくれているのだろうか、と、コンラートは嬉しくなって、慌ててその思いを打ち消す。
これは、そう、いつになく弱気な彼女を、協力者として励ます為の行為に過ぎない。
「…最初は、何ともなかったの。頑張ってるんだなぁ、とか、強いなぁ、とか、そんな事を考えた位で。ご夫君の試合を、緊張しながら応援しているご夫人達の姿を見て、羨ましいな、とは思ったけど…」
「羨ましい?」
「えぇ。だって、緊張が好き、って人は余りいないでしょう?でも、自分にとって不快な思いを押してでも応援するのは、心配だから、でしょう。自分自身の気持ちより優先したい特別な存在がいる事が、羨ましいって思って。…私には、そう言うの、よく判らないから」
でも、と、ヴィヴィアンは消えそうな声で呟く。
「心配、って辛いのね。貴方の試合を見てると、胸が痛いし、怖くて仕方ない。確かにドキドキはしたけれど、これは、求めてるのとは違うドキドキなのでしょう?…こんな思いをするのは、嫌。嫌なのに…目を逸らして見ない方が、怖くて。見てない間に何かあったら、と思うと、もっと怖くて。他にも、怪我した人は見た筈なのに…貴方が、怪我してる事に気づいた時、本当に怖かったのよ」
ヴィヴィアンの無意識の告白に、コンラートは大きな手で自身の顔を覆った。
恐らく、今、自分は耳まで赤くなっている。
無警戒だった分、ヴィヴィアンの言葉はコンラートの心の奥深くに、しっかりと刺さった。
ヴィヴィアンは、全く気が付いていない。
彼女にとってコンラートが、『特別な存在』なのだと告げた事に。
…このまま、コンラートもまた、彼女の気持ちの変化にも、己の抱く好意にも、気づいていない振りをすれば、当初の計画通りに進むだろうか。
時期が来れば、協力関係を解消し、互いの道へと進む関係に。
ヴィヴィアンをサーラに送り出した後、彼女の生活が軌道に乗るまでは何度か接触はあるけれど、そこさえ、乗り切れば。
コンラートも、忘れられる筈だ。彼女の姿が、輝いて見える理由を。
コンラートの素性と事情を知れば、彼女は離れていくだろう。
基本的にヴィヴィアンは、面倒事には関わりたくない、心穏やかに生きたい、と考えている女性だ。
ヴィヴィアンは、彼女自身の気持ちにまだ気づいていない。
ならば、コンラートもまた、気づいていない素振りを続けるべきだ。
いずれ、離れていく女性ならば、深入りすべきではない。
互いの好意に気づいた上での別れは、心に傷を残す。
今ならばまだ、引き返せる筈。
「…怖い思いをさせて、すまなかった。けど、本当にかすり傷なんだ。騎士ならば、鍛錬中にこの程度の怪我をする事も、日常なんだよ」
「貴方、騎士様なの?」
「騎士、ではないな。身を守る為に最低限の剣術を教わっているだけだ」
「最低限、だなんて、準決勝まで進んだ人が言うと嫌な感じね」
漸く、ヴィヴィアンに笑顔が見えて、コンラートはホッと胸を撫で下ろす。
「…ヴィヴィアンは、俺の事情について、やっぱり聞かないんだな」
「貴方は、話したければ話すでしょう。言わない、って事は、言いたくない、もしくは、聞いたら私が危険と言う事でしょう?その程度の判断は出来るつもりよ」
雲の切れ目から差し込む陽射しの眩しさに、ヴィヴィアンは目を細めた。
「でも、一つだけ、確認させて欲しいの。今日、私に接触したと言う事は、貴方は、王宮内部…昼の社交場にも、『叶わぬ恋をしている』と噂を流したいのでしょう?夜会では他の女性避けとして、私も貴方に想いを向けているけれど応えられない、と誤解されるように振る舞っているけれど、王宮ではどうすべきなの?」
「そうだな…」
何しろ、恋愛結婚至上主義の国。
諸々の障害を乗り越えて結婚、と言うのは、無責任な観客からすれば、盛り上がる要素しかない。
けれど、実際に結婚するわけにはいかないからこそ、コンラートはヴィヴィアンを相手に選んだのだ。
下手に相思相愛と思われてしまうと、周囲が余計なお節介を焼いて、コンラートの計画に支障が出るのでは、と確認の意味を込めて尋ねたのだが、コンラートの歯切れは悪い。
「正直な所…まだ、決めかねてる。ヴィヴィアンは、この計画を、俺が本意でない婚約を回避する為、と推測していただろ?それは、半分正解。実は、もう一つ、理由があるんだ」
「もう一つ?」
「所謂、お家騒動ってヤツ。俺は当主の座を狙ってなんかいないんだが、そうとは思ってくれない人達がいてね」
「つまり…当主の妻になるには相応しくない女性に恋慕しているので、当主の座に色気は出しませんよ、って事?」
「流石、理解が早いな」
ヴィヴィアンは、コンラートの言葉を頭の中で整理するように、声に出して確認する。
「恋愛結婚推奨のこの国で、望まない婚約を拒否する為に、他に意中の女性がいる、と示したい。特に好意を持つ女性がいないなら、この人を好きになればいいじゃないか、と婚約させられるのを避ける為に」
「あぁ」
「当主の座に就く気はないから、当主の妻に相応しくない女性を慕っている、と示したい。人妻且つ成金男爵家出身なら、まず、諸手を上げて認められる事はないから」
「……あぁ」
今更だが酷い言い草だ、と顔を顰めつつ頷くコンラートに、
「婚約回避しつつ、当主の座と距離を置きつつ、最終的に結婚しない言い訳として、『相手が人妻なので諦めた』としてまとめるつもり…なのよね?で、その間に私は、夫と離婚して、サーラに出国する、と」
ヴィヴィアンは、首を傾げる。
「…えぇと、やっぱり、それって、相思相愛と思われたらまずい案件じゃないの?容易に私の父と夫を説得出来るとは思えないけど、貴方には、私を離縁させられる力があるんでしょう?少しでもタイミングを間違えたら、国を出る前に、私と結婚させられちゃうわよ?」
結婚したくないからこそ、私を取引相手に選んだんでしょう?
ヴィヴィアンの指摘に、コンラートは言葉に詰まる。
確かに、その危機感はコンラートにもあった。
「貴方の本命の女性が、婚約回避やお家騒動には向いてない立場の女性なのかもしれないけど…方針転換したら?人目に晒したくないのでしょうけど、私の存在を広めた後だと、その方がやりづらくなるわ」
「ヴィヴィアン、」
「途中解約になるから、取引条件は不履行で構わないわよ。私も、結構楽しんでたし」
「ヴィヴィアン、ちょっと待て」
「…何」
コンラートの顔を決して見ないヴィヴィアンに、コンラートは席を立つと、彼女の正面に跪いた。
「本命なんて、いない。俺が親しくしてる女性は、ヴィヴィアン、君以外にいない。確かに…確かに、まだ、いや、生涯、結婚したくない、と思ってた。…俺に婚約を申し込んで来たのは、サーラの人間なんだ。けど、俺は彼女に気持ちがない…と言うか、苦手だから、結婚したくない。だから、婚約回避したい。同時に、当主の座も、狙っていない、と関係各所に理解させたい。俺がサーラで結婚すれば、当主を狙ってない事は一目瞭然だが、だからと言って、彼女と結婚はありえない。でも、口でどれだけそう言っても、納得してくれないんだ。どちらか片方だけなら、もっと単純な話だったんだが、同時進行で解決しようとすると、難しくて。だからこそ、何とかひねり出した計画が、『結婚するのに支障のある相手への恋慕』だった。人妻を理由に諦めて、同時に忘れられない相手がいるから、この先も結婚しない、って持ってく、つもりだった…」
コンラートの言葉尻が、どんどん細く、小さくなっていく。
「思いついた時には、完璧な作戦って思ったんだけどな。策士策に溺れる、ってこう言う事かな…。自分の事を、策士、って言うのも調子に乗ってる感じだけど」
「筋は通ってると思うわよ。普通は、私のような立場の女性は、離縁したとしても、親ほど年齢の離れた相手の後妻に行く以外ないもの。貴方のように、瑕疵のない初婚の男性に嫁ぐ事はまずないわ。…考えていた以上に、皆様の私への同情が大きかった、ってだけで…」
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だが、愛を貫き通した当人であるトビアスとアイリーンが、ヴィヴィアンの資産を我が物顔で使って傍若無人な振る舞いをし、没落寸前のブライトン家を救ったヴィヴィアンを虐げる事に、当初は二人に同情していた周囲の人々は、次第に眉を顰めていったのだ。
そこに現れた、実際のヴィヴィアン。
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本来なら、後妻に行く選択しかないヴィヴィアンだが、これだけ周囲が二人の恋を見守っている状況だと、コンラートと結びつける為に全力で権力を使う人々が出て来ないとも限らない。
何しろ、ランドリック侯爵を始めとした重鎮方が、味方についている。
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コンラートは、ヴィヴィアンへの好意を示しつつも、深い関係を望む決定的な言葉を言っていない。
ヴィヴィアンは、コンラートの好意を拒否せず、それとなく好感を持っている素振りを見せているだけ。
今ならまだ、「好意はあったけれど、恋愛感情ではなかった」と言い訳出来る。筈だ。
「…君が、相手なら…」
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「え?何か言った?」
「…いや。すまないが、大舞踏会まで、態度保留のどっちつかずな感じで頼む。…大舞踏会で、俺の素性を知れば…きっと、周囲の目も変わる」
何処か寂しそうなコンラートに、ヴィヴィアンはそれ以上追及する事は出来ず、小さく頷いた。
「車寄せまで送っていこう。途中で、御者に連絡させる」
「…えぇ」
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