2 / 31
<1>
しおりを挟む
「謹んで、お受けいたします」
リタ・フレマイア侯爵令嬢は、一瞬の躊躇もなく、そう言った。
俺はまだ、
「君に、頼みがある」
としか、言っていないというのに。
シャルイナ王国第二王子である俺とリタの婚約が結ばれたのは、今から六年前。
だが、その婚約は時期が来れば破棄する事を前提に結ばれたものであり、俺が彼女と顔を合わせたのは、婚約式と今日の二回きりだった。
俺は王城のある王都で生活しているため、もしも、リタが遠く離れた領地で暮らしていれば、それも当然だっただろう。
しかし、リタは婚約した当初から現在まで、王都にあるフレマイア侯爵邸での生活を続けている。
であるにもかかわらず、婚約者の義務として誕生日に花束とカードを贈らせる以外は、フレマイア家からなんの接触もないのをいい事に、まったく交流してこなかった。
俺と同じようにアカデミーに在籍していれば、もう少し、婚約者らしい交流をしていたとは思う。
シャルイナのアカデミーには十三歳を迎える年齢から入学でき、十八歳の誕生日を迎えた後の学年末に卒業する。
学業だけならば家庭教師と共に学ぶ方法もあるが、シャルイナ全土だけではなく他国からも貴族の子女が集まって来るのは、学業を学び、研鑽を積む場であると同時に、小さな社交界でもあるからだ。
だからこそ、余程の事情がない限り、シャルイナ貴族はアカデミーの入学を望む。
俺とリタは一歳差。アカデミーでの在籍期間は五年間重なる事になる。
婚約者が学内にいるのであれば、学内行事のパートナーはすべて婚約者が務めるのが基本だ。
だからこそ、順調な婚約関係の遂行のために、年上の婚約者の背中を追うようにアカデミー入学を目指すのだ。
しかし、リタは、十三歳になってもアカデミーに入学しなかった。
シャルイナの中でも大貴族であるフレマイア侯爵家の令嬢なのだから、高額な学費が払えない、という理由である筈もなく、ならば、能力が不足しているか、体が弱く通学に耐えられないかのどちらかだろう。
――それすらも調べようとした事がないほどに、俺はこれまで、リタに興味がなかった。
彼女がアカデミーに入学して来なかったのも、余計な手間を取られずに済んで良かったと思ったくらいだ。
そのうえ、リタは、通常十六歳で行う社交界デビューも果たしていないため、俺は彼女にエスコートを頼まれた事もない。
本来ならば、どの夜会でデビューするのかを確認すべきだったのだろうけれど、要望がないのを理由に、こちらから探るような事もしなかった。
どうせ、いずれは婚約を破棄する相手だ。
彼女と親しくなる必要性を感じていなかったのだ。
だが、俺の予想に反し、目の前にいる令嬢は虚弱であるようにも、能力が低いようにも思えない。
完璧な立ち居振る舞い、高い教養を感じさせる物腰、細く華奢ではあるけれどピンと伸びた背筋。
そして、シャルイナ国内でまず遭遇する事がない、純白の髪。
(……本当に、魔力がないんだな……)
婚約式の時にも思った事を、改めて実感する。
シャルイナは、魔法使いが興した国だ。
魔力が多く魔法の扱いに長けた一部の者が王侯貴族となり、それ以外の者が平民となってから千年。
髪色は魔法属性によって異なるため、俺の髪は、黒に見紛うほどに濃い青だ。
これは、水属性の極めて強力な魔力を持つ事を示す。
水属性以外の魔法をまったく使えないわけではないが、初級から精々中級程度しか扱えず、適性があるのは水魔法だ。
貴族の多くが濃い髪色を持つ一方で、平民は淡い髪色の者が多い。
魔力属性の多くは遺伝により引き継がれ、シャルイナ王家には建国王と同じく水属性の者が生まれやすい。
水属性の青。
火属性の赤。
風属性の緑。
地属性の茶。
そして、突然変異的に誕生する光属性の金と、闇属性の黒。
光属性と闇属性を持つ者の総数は少なく、現在、アカデミーに通っている約六百名の学生の中でも、光属性が三名、闇属性に至っては一人もいない。
だから、シャルイナ人の中で金髪と黒髪は希少な存在だ。
しかし、それ以上に少ないのが、リタのように真っ白な髪の持ち主――俗に『白の者』と呼ばれる人々だった。
魔法学者によれば、本来、人間の髪は白いのだという。
その白い髪が、生まれ持つ魔法属性によって色づく事で、様々な髪色が生まれる。
魔力量によって色の濃淡こそあるものの、極わずかにでも魔力があれば属性の色味を帯びるのに、何色にも染まる事のない白の者は、体内に魔力を蓄積する魔導器官を持っていないのだ。
つまり、純白の髪は、魔力がまったくない事を示している。
この国は、魔法使いの国。
すべての道具が魔力で起動する事を前提に作られているため、魔力を持たない人間は、ただ生きていく事すら難しい。
それゆえに、平民は白髪の子どもが生まれると、その場で間引くのだと聞いた。
リタが生きているのは、彼女が自身の手で何もせずとも暮らしていける貴族令嬢だからに他ならない。
――そして、彼女が白の令嬢だからこそ、俺は彼女と婚約を結んだ。
俺に必要なのは、彼女の持つ侯爵令嬢の身分と、魔力なしである事実のみ。
「……私はまだ、『頼みがある』としか言っていないのだが、一体、何の件だと思ったんだ?」
「アカデミーの卒業を控えたこの時期にわたくしをお呼びになるのですから、婚約破棄の件ではございませんか?」
アカデミーを卒業すれば、成人として扱われる。
そうすれば、婚約は単なる紙面上の契約ではなく、現実的な婚姻への約束の色を濃くする。
だから、その前に婚約者との関係を改めて考える人々が多いのは事実だ。
だが。
(……婚約破棄だと思いながら、『謹んで受ける』と答えたのか?)
「フレマイア侯爵が、君にそう言ったのか?」
リタの問いに答える事なく、問いを返す。
「いいえ」
淡々とした、感情の色のない声。
(では……なぜ、婚約破棄だと考えた?)
その時。
俺は初めて、まともにリタの顔を見た。
これまでも、目に映してはいたけれど、ただ漠然と存在を捉えていただけで、個人としてしっかりと認識した事はなかった。
純白の髪の印象があまりにも強くて、他の部分が目に入って来なかったというのもある。
腰までまっすぐ伸びた癖のない髪は、結われもせず、髪飾りの一つもつけていない。
貴族に生まれながらも髪色の薄い者は、できる限り、髪をまとめ、帽子や髪飾りで隠そうとするものなのに、リタは堂々と魔力がない証拠を晒している。
瞳の色は、灰色がかった淡い銀。わずかに紫がかっているのか、落ち着いた色に見える。
父親であるフレマイア侯爵も灰色の瞳だが、彼よりも薄い色だろうか。
少し垂れた目尻、ぽってりとした唇、小さな顎、薔薇色の頬。
どこか、浮世離れした美しさだった。
髪色のせいなのか、侯爵夫妻にも、リタの兄であり俺の級友でもあるアシュトンとも、あまり似ているようには見えない。
素顔に見えるくらい、必要最低限の化粧しかしていないようだが、元の顔立ちが整っているためか、そうは感じさせない。
むしろ、化粧の方向性を誤ると、妙に婀娜っぽくなってしまうだろう。
もしかすると、リタにも自覚があるのかもしれない。
王城に上がり、婚約者である俺に会うというのに、着ている若草色のドレスも最低限の体裁を整えたという風情で、自分をより美しく見せようという令嬢らしいプライドが感じられない。
(いや……それだけじゃないな、この違和感は。
なんだ? 一体、何が……)
「では、なぜ、婚約破棄などと……」
「なぜ、ですか?」
リタは、何を言われたのかわからない、という顔をした。
そんな表情をすると、年齢相応に見える。
(彼女は、俺の一つ下だったな……つい先日、誕生祝を送ったとラルフに報告されていた筈だ。十七歳には、まったく見えないが……)
落ち着きのせいなのか、表情のせいなのか。
俺の知る十七歳の令嬢は、どこかもっとふわふわと浮ついたところがあるけれど、リタにはそれがない。
むしろ、俺よりも経験豊富な年上に感じる、と言ったら、年頃の令嬢には不快だろうか。
「婚約者への初めての頼みが婚約破棄だなんて。なぜ、そう思ったんだ?」
改めて、問い掛ける。
確かに、いずれは破棄する婚約だ。
けれど、今はまだ、その時ではない。
それは、フレマイア侯爵もよくわかっている筈だ。
だが、リタは当然の顔で言った。
「この婚約は、破棄する前提で結ばれたものではございませんか」
(! まさか)
疑問符すらつかない、確信を持った言葉。
「侯爵が、君にそう伝えたのか?」
婚約を結んだ時、リタはまだ誕生日前で、十歳でしかなかった。
俺も十二歳だったものの、貴族の令嬢と王子は、違う。
複雑な王家の事情もあり、俺は周囲の十二歳よりも、少しばかりませた子どもだった。
そのためだろう。
フレマイア侯爵の提案に、即座に頷いたのは。
だが、俺はあの時、侯爵にリタには真意を伝えないよう、頼んだのに。
破棄前提の婚約を望む令嬢など……ましてや、それがまだたったの十ならば、いる筈がないのだから。
そうとわかりつつ、身勝手な婚約を望んだのは、俺がそれだけ、追い詰められていたという事でもある。
「いいえ、先ほども申し上げましたが、父、からは、何も聞いておりません」
父、と呼ぶ声に、わずかな躊躇いを感じた。
まるで、呼び慣れていないかのように。
「では、なんと言われたんだ?」
「わたくしが承知しているのは、『ルシアン第二王子殿下と婚約を結ぶ』との一点のみでございます」
「それ以外には、何も?」
「はい」
飽くまでも淡々と。
リタは、まったく感情を見せない口調でそう言った。
「……君は、リタ・フレマイア侯爵令嬢本人なのか?」
(貴族令嬢にとって、婚約もその破棄も、人生を決める重大事項だろう? なぜ、こんなにも落ち着いているんだ?)
本来ならば、対面した時に確認せねばならなかった事に、今更、気がつく。
「殿下が他にリタ・フレマイアをご存知ないのでしたら、そうでございます」
魔法ですべてを執り行うこの国で、魔力の少ない者の生活は裕福ではない事が多いし、そもそも魔力が皆無でありながら生き永らえている者はほとんど存在しない。
少なくとも、俺がこれまでの十八年の人生で遭遇した白の者は、リタただ一人。
だから、このように手入れの行き届いた白髪で、リタと同年代の娘が存在する可能性は低いが、フレマイア侯爵ほどの権力と財力があれば、愛娘を矢面に立たせないため、身代わりを仕立てる事がないとは言えない。
しかし、例え、そうだとしても、婚約式の時に顔をきちんと見る事もなく、それ以降の交流もなかった俺には、真贋の判断がつかない。
「君が、リタ・フレマイア侯爵令嬢である、という証拠は?」
俺がフレマイア家に送った書状を持参しているから王宮内部に通されたものの、フレマイア侯爵が家ぐるみで何か企てていないとは言い切れない。
「困りましたわね……わたくしがわたくしである、と証立てするのは、ひどく困難なように思います。ご存知の通り、わたくしはアカデミーにも在籍しておりませんし、社交界に顔を出した事もございません。わたくしを『リタ・フレマイアである』と認識されている方が、いらっしゃるのかどうか」
リタは、考えるかのように、その華奢な人差し指の先を唇に当てた。
困った、と言いながらも、たいして困った様子に聞こえないのは気のせいだろうか。
「あぁ、ならば、フレマイア侯を呼ぼう。今日は仕事で登城している筈だ」
彼女がリタ本人であっても、そうではなくても、さすがに、父親であるフレマイア侯爵の表情を見れば、判断できる筈だ。
俺だって、伊達に王宮に潜む狐狸とやり合って来たわけではない。
だが。
「それは……いかがかと……」
リタは、言葉を濁した。
「なぜだ?」
俺の招待でリタが今日登城している事を、一家の主であるフレマイア侯爵もよくわかっているだろうに。
リタは、アカデミーにも通わず、社交界に出た事もない箱入り娘なのだ。
今も、そわそわと仕事が手につかないのではないか?
息子であるアシュトンに対してすら、過保護だと周囲に揶揄されるくらいに気に掛けているのだから、アカデミーにも通わせていない箱入り娘ならば、なおさらだろう。
声を掛ければ、勇んで飛び込んでくる筈だ。
「……何か、問題でも?」
思わず、目を眇めた。
――目の前にいるこの女性がリタ本人ならば、なんの問題もある筈がない。
拒むと言う事は、フレマイア家は一家で俺を謀ろうとしているという事か?
だが、リタの返答は、俺にとって意外なものだった。
「父をお呼びになるのは結構ですが……殿下がお望みの結果は得られないと存じます」
「なぜだ?」
「父は、わたくしを『娘のリタだ』と申し上げるでしょう。けれど、殿下はわたくしが『リタ・フレマイアである』と確信を持つには至らないのではないでしょうか」
(俺が、侯爵の対応で真贋を確かめようとしている事に、気づいているのか)
「……どういう意味だ」
「殿下のお耳を汚す事になりますので、詳しくは申し上げられません」
「話せ」
リタは、逸らしていた視線を、まっすぐ、俺に向けた。
「それは、ご命令でしょうか」
反抗的な口調ではなく、あくまでも、確認として問われる。
おそらく、彼女は命令ならば話してもよい、と考えている。
王子に命令されたから、とフレマイア侯爵への弁明に使うつもりだろう。
世間知らずかと思いきや、意外に図太い。
「あぁ、命令だ」
「では、父がわたくしの身元を保証できない理由をお話しいたします」
リタの口元は、柔らかく微笑んでいる。
けれど、そこにはなんの感情も見えない。
……そう、俺は伊達に、宮中の狐狸とやり合って来たわけではないのだ。
笑顔の裏の感情を読む術は、年齢相応以上に鍛えている。
「わたくしは先日、十七の誕生日を迎えましたが、今日まで、父と顔を合わせた機会は記憶にある限り、二度でございます。その折にも、わたくしはずっと頭を下げておりましたから、父はおそらく、わたくしの顔など知らないでしょう」
「な、に……?」
想定外の言葉に、思わず、動揺を表に見せてしまった。
『不憫な娘なのです』
そう、十二歳の俺に言ったフレマイア侯爵。
『白の者として生まれた娘です。侯爵家の爵位を持ってしても、より高い魔力を持つ娘を娶りたい高位貴族の家に嫁ぐ事は不可能でございましょう。下位貴族すら、諸手を挙げて歓迎する事はあり得ない。それでも、私には娘の命を奪う事など、できなかったのです。嫡男であるアシュトンも月が満ちずに生まれ、当初は魔導器官が不完全な状態でした。娘が生まれた頃は、明日をも危ぶまれる状態だったのですよ。懸命の看護の結果、ようやく、落ち着いて人並みの生活を送れるようになったのは、ここ最近の事です。妻は難産の末に、子供をこれ以上望めない体となりましたから、私の子供が新たに生まれる事もございません』
そう言って、フレマイア侯爵は、苦しそうに笑った。
『おそらく、娘は人並みの幸せを得る事はできないでしょう。それでも、殿下にご婚約して頂けたら、ひと時の夢を見る事ができます。殿下のお望みが叶い、婚約を破棄するとしても、王子の婚約者であった娘であれば、他家から請われる可能性が微々たるものとはいえ、ないとも限りません。ルシアン殿下。どうか、ご自身のお望みと、娘の未来のために、ご決断いただけませんか』
「それはまた……随分と劇的な設定だな」
暗に「信じられるか」と言うと、予想に反して、リタは微笑んだ。
「何を信じるも信じないも、殿下のご随意になさってくださいませ」
俺の知る限り、自らを悲劇的な立場に立たせたい令嬢は、疑心を見せると、
「信じてくださらないのですか……?」
と涙を見せて縋りつくものなのだが。
彼女には、俺がこれまで培ってきた手練手管が容易には通じないらしい。
(見た目通りのか弱い娘ではなさそうだ……随分と肝が据わっている)
「確かに、そうだな。何を提示されようと、最後に信じるかどうかは、私の判断だ」
リタは、うっすらと微笑んで目線を下げただけで、返事をしない。
「では、君がリタ・フレマイア侯爵令嬢だと私は信じる事にしよう。頼みとは、他でもない。二ヶ月後にあるアカデミーの卒業パーティに、私のパートナーとして出席して欲しい」
「承知いたしました」
随分と、素直に頷くのだな。
アカデミーに通わず、社交界にも出ないのは、何か理由があったのではないのか。
アカデミーの卒業パーティの参列者は、卒業生と在校生。
つまりは、次世代の社交界を担う人々だというのに、彼らの前に立つ躊躇を微塵も見せない姿に、戸惑う。
彼女は、誰もが色眼鏡で見る白の者であるうえに、王子の婚約者という妬まれやすい立場だというのに。
「卒業パーティで何をするのか、わかっているのか」
「本日のお招きが婚約についてのお話ではないのでしたら、卒業パーティの場で、婚約の破棄を宣言なさるおつもりでは?」
「……何?」
「次世代のシャルイナを担う貴族達の目の前で、わたくしとの婚約を破棄すると周知なさるのが目的だと思っておりましたが」
「逆だ」
「え」
初めて、リタの表情が崩れた。
「君が一切、人前に出て来ない事から、私の婚約を知らない人間が増えて来た。公の場で、君の存在を改めて強調しておきたい」
あぁ、とリタは得心した様子を見せた。
「なるほど……クリフォード殿下の立太子を、いまだに認めていない方々がいらっしゃるのですね?」
淡々と語る顔を、思わず凝視する。
一体、彼女は何をどこまで知っている?
本当に、ただの箱入り娘なのか……?
どうやら、リタ・フレマイア侯爵令嬢は、俺が思っていたのとは、まったく違う女性のようだ。
リタ・フレマイア侯爵令嬢は、一瞬の躊躇もなく、そう言った。
俺はまだ、
「君に、頼みがある」
としか、言っていないというのに。
シャルイナ王国第二王子である俺とリタの婚約が結ばれたのは、今から六年前。
だが、その婚約は時期が来れば破棄する事を前提に結ばれたものであり、俺が彼女と顔を合わせたのは、婚約式と今日の二回きりだった。
俺は王城のある王都で生活しているため、もしも、リタが遠く離れた領地で暮らしていれば、それも当然だっただろう。
しかし、リタは婚約した当初から現在まで、王都にあるフレマイア侯爵邸での生活を続けている。
であるにもかかわらず、婚約者の義務として誕生日に花束とカードを贈らせる以外は、フレマイア家からなんの接触もないのをいい事に、まったく交流してこなかった。
俺と同じようにアカデミーに在籍していれば、もう少し、婚約者らしい交流をしていたとは思う。
シャルイナのアカデミーには十三歳を迎える年齢から入学でき、十八歳の誕生日を迎えた後の学年末に卒業する。
学業だけならば家庭教師と共に学ぶ方法もあるが、シャルイナ全土だけではなく他国からも貴族の子女が集まって来るのは、学業を学び、研鑽を積む場であると同時に、小さな社交界でもあるからだ。
だからこそ、余程の事情がない限り、シャルイナ貴族はアカデミーの入学を望む。
俺とリタは一歳差。アカデミーでの在籍期間は五年間重なる事になる。
婚約者が学内にいるのであれば、学内行事のパートナーはすべて婚約者が務めるのが基本だ。
だからこそ、順調な婚約関係の遂行のために、年上の婚約者の背中を追うようにアカデミー入学を目指すのだ。
しかし、リタは、十三歳になってもアカデミーに入学しなかった。
シャルイナの中でも大貴族であるフレマイア侯爵家の令嬢なのだから、高額な学費が払えない、という理由である筈もなく、ならば、能力が不足しているか、体が弱く通学に耐えられないかのどちらかだろう。
――それすらも調べようとした事がないほどに、俺はこれまで、リタに興味がなかった。
彼女がアカデミーに入学して来なかったのも、余計な手間を取られずに済んで良かったと思ったくらいだ。
そのうえ、リタは、通常十六歳で行う社交界デビューも果たしていないため、俺は彼女にエスコートを頼まれた事もない。
本来ならば、どの夜会でデビューするのかを確認すべきだったのだろうけれど、要望がないのを理由に、こちらから探るような事もしなかった。
どうせ、いずれは婚約を破棄する相手だ。
彼女と親しくなる必要性を感じていなかったのだ。
だが、俺の予想に反し、目の前にいる令嬢は虚弱であるようにも、能力が低いようにも思えない。
完璧な立ち居振る舞い、高い教養を感じさせる物腰、細く華奢ではあるけれどピンと伸びた背筋。
そして、シャルイナ国内でまず遭遇する事がない、純白の髪。
(……本当に、魔力がないんだな……)
婚約式の時にも思った事を、改めて実感する。
シャルイナは、魔法使いが興した国だ。
魔力が多く魔法の扱いに長けた一部の者が王侯貴族となり、それ以外の者が平民となってから千年。
髪色は魔法属性によって異なるため、俺の髪は、黒に見紛うほどに濃い青だ。
これは、水属性の極めて強力な魔力を持つ事を示す。
水属性以外の魔法をまったく使えないわけではないが、初級から精々中級程度しか扱えず、適性があるのは水魔法だ。
貴族の多くが濃い髪色を持つ一方で、平民は淡い髪色の者が多い。
魔力属性の多くは遺伝により引き継がれ、シャルイナ王家には建国王と同じく水属性の者が生まれやすい。
水属性の青。
火属性の赤。
風属性の緑。
地属性の茶。
そして、突然変異的に誕生する光属性の金と、闇属性の黒。
光属性と闇属性を持つ者の総数は少なく、現在、アカデミーに通っている約六百名の学生の中でも、光属性が三名、闇属性に至っては一人もいない。
だから、シャルイナ人の中で金髪と黒髪は希少な存在だ。
しかし、それ以上に少ないのが、リタのように真っ白な髪の持ち主――俗に『白の者』と呼ばれる人々だった。
魔法学者によれば、本来、人間の髪は白いのだという。
その白い髪が、生まれ持つ魔法属性によって色づく事で、様々な髪色が生まれる。
魔力量によって色の濃淡こそあるものの、極わずかにでも魔力があれば属性の色味を帯びるのに、何色にも染まる事のない白の者は、体内に魔力を蓄積する魔導器官を持っていないのだ。
つまり、純白の髪は、魔力がまったくない事を示している。
この国は、魔法使いの国。
すべての道具が魔力で起動する事を前提に作られているため、魔力を持たない人間は、ただ生きていく事すら難しい。
それゆえに、平民は白髪の子どもが生まれると、その場で間引くのだと聞いた。
リタが生きているのは、彼女が自身の手で何もせずとも暮らしていける貴族令嬢だからに他ならない。
――そして、彼女が白の令嬢だからこそ、俺は彼女と婚約を結んだ。
俺に必要なのは、彼女の持つ侯爵令嬢の身分と、魔力なしである事実のみ。
「……私はまだ、『頼みがある』としか言っていないのだが、一体、何の件だと思ったんだ?」
「アカデミーの卒業を控えたこの時期にわたくしをお呼びになるのですから、婚約破棄の件ではございませんか?」
アカデミーを卒業すれば、成人として扱われる。
そうすれば、婚約は単なる紙面上の契約ではなく、現実的な婚姻への約束の色を濃くする。
だから、その前に婚約者との関係を改めて考える人々が多いのは事実だ。
だが。
(……婚約破棄だと思いながら、『謹んで受ける』と答えたのか?)
「フレマイア侯爵が、君にそう言ったのか?」
リタの問いに答える事なく、問いを返す。
「いいえ」
淡々とした、感情の色のない声。
(では……なぜ、婚約破棄だと考えた?)
その時。
俺は初めて、まともにリタの顔を見た。
これまでも、目に映してはいたけれど、ただ漠然と存在を捉えていただけで、個人としてしっかりと認識した事はなかった。
純白の髪の印象があまりにも強くて、他の部分が目に入って来なかったというのもある。
腰までまっすぐ伸びた癖のない髪は、結われもせず、髪飾りの一つもつけていない。
貴族に生まれながらも髪色の薄い者は、できる限り、髪をまとめ、帽子や髪飾りで隠そうとするものなのに、リタは堂々と魔力がない証拠を晒している。
瞳の色は、灰色がかった淡い銀。わずかに紫がかっているのか、落ち着いた色に見える。
父親であるフレマイア侯爵も灰色の瞳だが、彼よりも薄い色だろうか。
少し垂れた目尻、ぽってりとした唇、小さな顎、薔薇色の頬。
どこか、浮世離れした美しさだった。
髪色のせいなのか、侯爵夫妻にも、リタの兄であり俺の級友でもあるアシュトンとも、あまり似ているようには見えない。
素顔に見えるくらい、必要最低限の化粧しかしていないようだが、元の顔立ちが整っているためか、そうは感じさせない。
むしろ、化粧の方向性を誤ると、妙に婀娜っぽくなってしまうだろう。
もしかすると、リタにも自覚があるのかもしれない。
王城に上がり、婚約者である俺に会うというのに、着ている若草色のドレスも最低限の体裁を整えたという風情で、自分をより美しく見せようという令嬢らしいプライドが感じられない。
(いや……それだけじゃないな、この違和感は。
なんだ? 一体、何が……)
「では、なぜ、婚約破棄などと……」
「なぜ、ですか?」
リタは、何を言われたのかわからない、という顔をした。
そんな表情をすると、年齢相応に見える。
(彼女は、俺の一つ下だったな……つい先日、誕生祝を送ったとラルフに報告されていた筈だ。十七歳には、まったく見えないが……)
落ち着きのせいなのか、表情のせいなのか。
俺の知る十七歳の令嬢は、どこかもっとふわふわと浮ついたところがあるけれど、リタにはそれがない。
むしろ、俺よりも経験豊富な年上に感じる、と言ったら、年頃の令嬢には不快だろうか。
「婚約者への初めての頼みが婚約破棄だなんて。なぜ、そう思ったんだ?」
改めて、問い掛ける。
確かに、いずれは破棄する婚約だ。
けれど、今はまだ、その時ではない。
それは、フレマイア侯爵もよくわかっている筈だ。
だが、リタは当然の顔で言った。
「この婚約は、破棄する前提で結ばれたものではございませんか」
(! まさか)
疑問符すらつかない、確信を持った言葉。
「侯爵が、君にそう伝えたのか?」
婚約を結んだ時、リタはまだ誕生日前で、十歳でしかなかった。
俺も十二歳だったものの、貴族の令嬢と王子は、違う。
複雑な王家の事情もあり、俺は周囲の十二歳よりも、少しばかりませた子どもだった。
そのためだろう。
フレマイア侯爵の提案に、即座に頷いたのは。
だが、俺はあの時、侯爵にリタには真意を伝えないよう、頼んだのに。
破棄前提の婚約を望む令嬢など……ましてや、それがまだたったの十ならば、いる筈がないのだから。
そうとわかりつつ、身勝手な婚約を望んだのは、俺がそれだけ、追い詰められていたという事でもある。
「いいえ、先ほども申し上げましたが、父、からは、何も聞いておりません」
父、と呼ぶ声に、わずかな躊躇いを感じた。
まるで、呼び慣れていないかのように。
「では、なんと言われたんだ?」
「わたくしが承知しているのは、『ルシアン第二王子殿下と婚約を結ぶ』との一点のみでございます」
「それ以外には、何も?」
「はい」
飽くまでも淡々と。
リタは、まったく感情を見せない口調でそう言った。
「……君は、リタ・フレマイア侯爵令嬢本人なのか?」
(貴族令嬢にとって、婚約もその破棄も、人生を決める重大事項だろう? なぜ、こんなにも落ち着いているんだ?)
本来ならば、対面した時に確認せねばならなかった事に、今更、気がつく。
「殿下が他にリタ・フレマイアをご存知ないのでしたら、そうでございます」
魔法ですべてを執り行うこの国で、魔力の少ない者の生活は裕福ではない事が多いし、そもそも魔力が皆無でありながら生き永らえている者はほとんど存在しない。
少なくとも、俺がこれまでの十八年の人生で遭遇した白の者は、リタただ一人。
だから、このように手入れの行き届いた白髪で、リタと同年代の娘が存在する可能性は低いが、フレマイア侯爵ほどの権力と財力があれば、愛娘を矢面に立たせないため、身代わりを仕立てる事がないとは言えない。
しかし、例え、そうだとしても、婚約式の時に顔をきちんと見る事もなく、それ以降の交流もなかった俺には、真贋の判断がつかない。
「君が、リタ・フレマイア侯爵令嬢である、という証拠は?」
俺がフレマイア家に送った書状を持参しているから王宮内部に通されたものの、フレマイア侯爵が家ぐるみで何か企てていないとは言い切れない。
「困りましたわね……わたくしがわたくしである、と証立てするのは、ひどく困難なように思います。ご存知の通り、わたくしはアカデミーにも在籍しておりませんし、社交界に顔を出した事もございません。わたくしを『リタ・フレマイアである』と認識されている方が、いらっしゃるのかどうか」
リタは、考えるかのように、その華奢な人差し指の先を唇に当てた。
困った、と言いながらも、たいして困った様子に聞こえないのは気のせいだろうか。
「あぁ、ならば、フレマイア侯を呼ぼう。今日は仕事で登城している筈だ」
彼女がリタ本人であっても、そうではなくても、さすがに、父親であるフレマイア侯爵の表情を見れば、判断できる筈だ。
俺だって、伊達に王宮に潜む狐狸とやり合って来たわけではない。
だが。
「それは……いかがかと……」
リタは、言葉を濁した。
「なぜだ?」
俺の招待でリタが今日登城している事を、一家の主であるフレマイア侯爵もよくわかっているだろうに。
リタは、アカデミーにも通わず、社交界に出た事もない箱入り娘なのだ。
今も、そわそわと仕事が手につかないのではないか?
息子であるアシュトンに対してすら、過保護だと周囲に揶揄されるくらいに気に掛けているのだから、アカデミーにも通わせていない箱入り娘ならば、なおさらだろう。
声を掛ければ、勇んで飛び込んでくる筈だ。
「……何か、問題でも?」
思わず、目を眇めた。
――目の前にいるこの女性がリタ本人ならば、なんの問題もある筈がない。
拒むと言う事は、フレマイア家は一家で俺を謀ろうとしているという事か?
だが、リタの返答は、俺にとって意外なものだった。
「父をお呼びになるのは結構ですが……殿下がお望みの結果は得られないと存じます」
「なぜだ?」
「父は、わたくしを『娘のリタだ』と申し上げるでしょう。けれど、殿下はわたくしが『リタ・フレマイアである』と確信を持つには至らないのではないでしょうか」
(俺が、侯爵の対応で真贋を確かめようとしている事に、気づいているのか)
「……どういう意味だ」
「殿下のお耳を汚す事になりますので、詳しくは申し上げられません」
「話せ」
リタは、逸らしていた視線を、まっすぐ、俺に向けた。
「それは、ご命令でしょうか」
反抗的な口調ではなく、あくまでも、確認として問われる。
おそらく、彼女は命令ならば話してもよい、と考えている。
王子に命令されたから、とフレマイア侯爵への弁明に使うつもりだろう。
世間知らずかと思いきや、意外に図太い。
「あぁ、命令だ」
「では、父がわたくしの身元を保証できない理由をお話しいたします」
リタの口元は、柔らかく微笑んでいる。
けれど、そこにはなんの感情も見えない。
……そう、俺は伊達に、宮中の狐狸とやり合って来たわけではないのだ。
笑顔の裏の感情を読む術は、年齢相応以上に鍛えている。
「わたくしは先日、十七の誕生日を迎えましたが、今日まで、父と顔を合わせた機会は記憶にある限り、二度でございます。その折にも、わたくしはずっと頭を下げておりましたから、父はおそらく、わたくしの顔など知らないでしょう」
「な、に……?」
想定外の言葉に、思わず、動揺を表に見せてしまった。
『不憫な娘なのです』
そう、十二歳の俺に言ったフレマイア侯爵。
『白の者として生まれた娘です。侯爵家の爵位を持ってしても、より高い魔力を持つ娘を娶りたい高位貴族の家に嫁ぐ事は不可能でございましょう。下位貴族すら、諸手を挙げて歓迎する事はあり得ない。それでも、私には娘の命を奪う事など、できなかったのです。嫡男であるアシュトンも月が満ちずに生まれ、当初は魔導器官が不完全な状態でした。娘が生まれた頃は、明日をも危ぶまれる状態だったのですよ。懸命の看護の結果、ようやく、落ち着いて人並みの生活を送れるようになったのは、ここ最近の事です。妻は難産の末に、子供をこれ以上望めない体となりましたから、私の子供が新たに生まれる事もございません』
そう言って、フレマイア侯爵は、苦しそうに笑った。
『おそらく、娘は人並みの幸せを得る事はできないでしょう。それでも、殿下にご婚約して頂けたら、ひと時の夢を見る事ができます。殿下のお望みが叶い、婚約を破棄するとしても、王子の婚約者であった娘であれば、他家から請われる可能性が微々たるものとはいえ、ないとも限りません。ルシアン殿下。どうか、ご自身のお望みと、娘の未来のために、ご決断いただけませんか』
「それはまた……随分と劇的な設定だな」
暗に「信じられるか」と言うと、予想に反して、リタは微笑んだ。
「何を信じるも信じないも、殿下のご随意になさってくださいませ」
俺の知る限り、自らを悲劇的な立場に立たせたい令嬢は、疑心を見せると、
「信じてくださらないのですか……?」
と涙を見せて縋りつくものなのだが。
彼女には、俺がこれまで培ってきた手練手管が容易には通じないらしい。
(見た目通りのか弱い娘ではなさそうだ……随分と肝が据わっている)
「確かに、そうだな。何を提示されようと、最後に信じるかどうかは、私の判断だ」
リタは、うっすらと微笑んで目線を下げただけで、返事をしない。
「では、君がリタ・フレマイア侯爵令嬢だと私は信じる事にしよう。頼みとは、他でもない。二ヶ月後にあるアカデミーの卒業パーティに、私のパートナーとして出席して欲しい」
「承知いたしました」
随分と、素直に頷くのだな。
アカデミーに通わず、社交界にも出ないのは、何か理由があったのではないのか。
アカデミーの卒業パーティの参列者は、卒業生と在校生。
つまりは、次世代の社交界を担う人々だというのに、彼らの前に立つ躊躇を微塵も見せない姿に、戸惑う。
彼女は、誰もが色眼鏡で見る白の者であるうえに、王子の婚約者という妬まれやすい立場だというのに。
「卒業パーティで何をするのか、わかっているのか」
「本日のお招きが婚約についてのお話ではないのでしたら、卒業パーティの場で、婚約の破棄を宣言なさるおつもりでは?」
「……何?」
「次世代のシャルイナを担う貴族達の目の前で、わたくしとの婚約を破棄すると周知なさるのが目的だと思っておりましたが」
「逆だ」
「え」
初めて、リタの表情が崩れた。
「君が一切、人前に出て来ない事から、私の婚約を知らない人間が増えて来た。公の場で、君の存在を改めて強調しておきたい」
あぁ、とリタは得心した様子を見せた。
「なるほど……クリフォード殿下の立太子を、いまだに認めていない方々がいらっしゃるのですね?」
淡々と語る顔を、思わず凝視する。
一体、彼女は何をどこまで知っている?
本当に、ただの箱入り娘なのか……?
どうやら、リタ・フレマイア侯爵令嬢は、俺が思っていたのとは、まったく違う女性のようだ。
372
お気に入りに追加
882
あなたにおすすめの小説
里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます
結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります>
政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・?
※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています

夫から「余計なことをするな」と言われたので、後は自力で頑張ってください
今川幸乃
恋愛
アスカム公爵家の跡継ぎ、ベンの元に嫁入りしたアンナは、アスカム公爵から「息子を助けてやって欲しい」と頼まれていた。幼いころから政務についての教育を受けていたアンナはベンの手が回らないことや失敗をサポートするために様々な手助けを行っていた。
しかしベンは自分が何か失敗するたびにそれをアンナのせいだと思い込み、ついに「余計なことをするな」とアンナに宣言する。
ベンは周りの人がアンナばかりを称賛することにコンプレックスを抱えており、だんだん彼女を疎ましく思ってきていた。そしてアンナと違って何もしないクラリスという令嬢を愛するようになっていく。
しかしこれまでアンナがしていたことが全部ベンに回ってくると、次第にベンは首が回らなくなってくる。
最初は「これは何かの間違えだ」と思うベンだったが、次第にアンナのありがたみに気づき始めるのだった。
一方のアンナは空いた時間を楽しんでいたが、そこである出会いをする。
捨てられた王妃は情熱王子に攫われて
きぬがやあきら
恋愛
厳しい外交、敵対勢力の鎮圧――あなたと共に歩む未来の為に手を取り頑張って来て、やっと王位継承をしたと思ったら、祝賀の夜に他の女の元へ通うフィリップを目撃するエミリア。
貴方と共に国の繁栄を願って来たのに。即位が叶ったらポイなのですか?
猛烈な抗議と共に実家へ帰ると啖呵を切った直後、エミリアは隣国ヴァルデリアの王子に攫われてしまう。ヴァルデリア王子の、エドワードは影のある容姿に似合わず、強い情熱を秘めていた。私を愛しているって、本当ですか? でも、もうわたくしは誰の愛も信じたくないのです。
疑心暗鬼のエミリアに、エドワードは誠心誠意向に向き合い、愛を得ようと少しずつ寄り添う。一方でエミリアの失踪により国政が立ち行かなくなるヴォルティア王国。フィリップは自分の功績がエミリアの内助であると思い知り――
ざまあ系の物語です。

訳あり侯爵様に嫁いで白い結婚をした虐げられ姫が逃亡を目指した、その結果
柴野
恋愛
国王の側妃の娘として生まれた故に虐げられ続けていた王女アグネス・エル・シェブーリエ。
彼女は父に命じられ、半ば厄介払いのような形で訳あり侯爵様に嫁がされることになる。
しかしそこでも不要とされているようで、「きみを愛することはない」と言われてしまったアグネスは、ニヤリと口角を吊り上げた。
「どうせいてもいなくてもいいような存在なんですもの、さっさと逃げてしまいましょう!」
逃亡して自由の身になる――それが彼女の長年の夢だったのだ。
あらゆる手段を使って脱走を実行しようとするアグネス。だがなぜか毎度毎度侯爵様にめざとく見つかってしまい、その度失敗してしまう。
しかも日に日に彼の態度は温かみを帯びたものになっていった。
気づけば一日中彼と同じ部屋で過ごすという軟禁状態になり、溺愛という名の雁字搦めにされていて……?
虐げられ姫と女性不信な侯爵によるラブストーリー。
※小説家になろうに重複投稿しています。

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。
だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。
その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

甘やかされて育ってきた妹に、王妃なんて務まる訳がないではありませんか。
木山楽斗
恋愛
侯爵令嬢であるラフェリアは、実家との折り合いが悪く、王城でメイドとして働いていた。
そんな彼女は優秀な働きが認められて、第一王子と婚約することになった。
しかしその婚約は、すぐに破談となる。
ラフェリアの妹であるメレティアが、王子を懐柔したのだ。
メレティアは次期王妃となることを喜び、ラフェリアの不幸を嘲笑っていた。
ただ、ラフェリアはわかっていた。甘やかされて育ってきたわがまま妹に、王妃という責任ある役目は務まらないということを。
その兆候は、すぐに表れた。以前にも増して横暴な振る舞いをするようになったメレティアは、様々な者達から反感を買っていたのだ。

【完結】私、四女なんですけど…?〜四女ってもう少しお気楽だと思ったのに〜
まりぃべる
恋愛
ルジェナ=カフリークは、上に三人の姉と、弟がいる十六歳の女の子。
ルジェナが小さな頃は、三人の姉に囲まれて好きな事を好きな時に好きなだけ学んでいた。
父ヘルベルト伯爵も母アレンカ伯爵夫人も、そんな好奇心旺盛なルジェナに甘く好きな事を好きなようにさせ、良く言えば自主性を尊重させていた。
それが、成長し、上の姉達が思わぬ結婚などで家から出て行くと、ルジェナはだんだんとこの家の行く末が心配となってくる。
両親は、貴族ではあるが貴族らしくなく領地で育てているブドウの事しか考えていないように見える為、ルジェナはこのカフリーク家の未来をどうにかしなければ、と思い立ち年頃の男女の交流会に出席する事を決める。
そして、そこで皆のルジェナを想う気持ちも相まって、無事に幸せを見つける。
そんなお話。
☆まりぃべるの世界観です。現実とは似ていても違う世界です。
☆現実世界と似たような名前、土地などありますが現実世界とは関係ありません。
☆現実世界でも使うような単語や言葉を使っていますが、現実世界とは違う場合もあります。
楽しんでいただけると幸いです。

〖完結〗もうあなたを愛する事はありません。
藍川みいな
恋愛
愛していた旦那様が、妹と口付けをしていました…。
「……旦那様、何をしているのですか?」
その光景を見ている事が出来ず、部屋の中へと入り問いかけていた。
そして妹は、
「あら、お姉様は何か勘違いをなさってますよ? 私とは口づけしかしていません。お義兄様は他の方とはもっと凄いことをなさっています。」と…
旦那様には愛人がいて、その愛人には子供が出来たようです。しかも、旦那様は愛人の子を私達2人の子として育てようとおっしゃいました。
信じていた旦那様に裏切られ、もう旦那様を信じる事が出来なくなった私は、離縁を決意し、実家に帰ります。
設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。
全8話で完結になります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる