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翌日から、ランドールは通常の執務に戻った。
レナルドは、エミリアを前チートス国王ライアンの娘であると認知、エミリアの娘アマリアはレナルドの姪である旨を記した書面を残すと、早朝に帰国の途に就いた。
チートス一行は、牢に拘留されているアイヴァンを残し、皆、出国した事になる。
王都ロイスから、チートス国境の街ネランドまで馬車で七日、そこからチートス王都のザカリヤまで馬車で六日。
旅程を考えると、今回の記念式典に国王自ら参列した事が、如何に異例な事かよく判る。
レナルドが、自分自身の目でアマリアを確認したかった為なのだが、周辺国には、ロイスワルズとチートスの関係が親密なものであると取られるだろう。
現国王イアンがシャナハン王国王女であったマグダレナと、いずれ王位を継ぐユリアスがユルタ王国王女と縁組した事を考えれば、四国間の均衡を保てている筈だ、と、ランドールは冷静に分析する。
第四王女ソフィアとシャナハン王国アイゼン公爵家令息の縁談が進んでいる事、アマリアがチートス王家の縁者である事から、第五王女エイダの相手は、ロイスワルズ国内の者が望ましい。
エイダはまだ精神的に幼く、此度の件からも縁談は数年先まで待った方がいいだろうが、水面下で相手の選考を進めていかねば、と、思いを新たにする。
身の安全が不安視されていたアマリアの王宮での執務も、状況が明らかになってきた事で、安心して行えるようになった。
レナルドから守護石の魔法陣の使用を許可されてから、急ぎ、サングラにアマリア用の守護石を作らせたのも大きい。
アマリアに贈った首飾りには今、居場所の情報を知らせる黄金色の魔法石の他に、守護の魔法陣を刻んだ透明な守護石が並んでいる。
ただ硝子のように透き通っているのではなく、中に銀色の結晶が散ったものだ。
石が二つついた首飾りでは重くないかと心配したが、アマリアは物心ついてから常に守護石を身に着けていたので、却って落ち着く、と笑っていた。
アマリアが補佐官室に出勤した初日は、大騒ぎとなった。
当然のように男性の文官が出仕すると思っていた補佐官達が、アマリアが王宮の侍女である事を知り、恐慌を起こしたのだ。
ランドールが出仕する際、いつものようにアレクシスを従え、反対側に、背の高い赤い髪の侍女を連れて来た事に、補佐官達の顔に疑問の色が浮かぶ。
ランドールが王宮で勤めるようになってから、いや、その前から、彼が侍女を傍につけた事はなかったからだ。
補佐官達の表情に気づいていながら、ランドールは何でもない事のようにアレクシスに指示をして、自分の執務机の傍にアマリアの机を据えさせる。
「諸君」
ランドールが、補佐官達に声を掛けた。
「以前、話していたように、今日から、私が書類を確認する前に一人、確認要員を入れたい。紹介しよう。アマリア・トゥランジア伯爵令嬢だ。王宮に侍女として仕えてくれているのだが、その才を買って、補佐官室付きに抜擢した」
ランドールに目で促され、アマリアが綺麗な礼を取る。
「アマリア・トゥランジアと申します。ここ三か月、ランドール殿下の元で補佐官室の執務について学ばせて頂きました。皆様のお役に立てますよう、励みたいと思っております。ご指導、よろしくお願い致します」
「最初は戸惑う事もあるかもしれないが、試行錯誤しながら、お互いにとってやりやすい形を探っていこう。何か質問がある者は?」
アマリアの挨拶を受けて、ランドールが補佐官に向けて発言を促した。
アマリアの微笑みに、独身の補佐官達がぽーっと見惚れる様子に、ランドールの眉が寄るが、アレクシスが如才なく割って入った。
「はいはい、皆さん、ここで一つ、残念なお知らせです。アマリアさんには婚約者の方がいらっしゃいます」
声にならない悲鳴が補佐官室内に響き渡るのを確認して、アレクシスはにっこりと満面の笑みを浮かべる。
「アマリアさんが安心してお仕事が出来ない環境であると、婚約者の方に判じられると、お仕事を辞めさせられてしまうそうですよ。俺としては、アマリアさんには末永く勤めて頂きたいので、皆さん、ご協力下さいね」
こくこくと頷く補佐官達の顔を眺めて、ランドールもまた、顎を引いた。
補佐官達は、先日の記念式典の夜会には出席していない。
ランドールがアマリアと踊った事を知る者はいないだろうし、あの夜会のみで、二人が婚約したと推測する者もいないだろう。
「トゥランジア伯爵令嬢と言う事は、書記官長殿のお嬢様でいらっしゃいますか」
残念そうにしながらも、好奇心旺盛な補佐官らしく一人が挙手して問うと、アマリアが口の端を上げて微笑む。
「はい。父は書記官長の責務に任じられております」
「なるほど、書記官長殿の薫陶を受けておられるのですね。私は以前、計算間違いを指摘して頂いたのですが、才女であられる理由がよく判りました」
「トゥランジア伯爵令嬢の婚約者と言いますと、デレク・アイノスですか。私は、彼とは幼年学校で同窓でして」
アマリアの微笑みが僅かに強張った事に、ランドールは気が付いた。
アイノス伯爵は、コバルの隣領を治める領主だ。
デレクとは、アマリアに婚約破棄を突き付けた元婚約者に間違いない。
「デレク様との婚約は、諸事情により解消されたのです」
淡く微笑んで返すアマリアに、問うた補佐官は驚いて、「これは失礼を」と詫びる。
「いいえ。お気になさらず。デレク様はご健勝ですか」
「えぇ。先日も、王都に足を延ばしたからと、顔を見せてくれました」
アマリアの様子から、円満な解消と判断した補佐官が言葉を続けると、アマリアもまた、微笑んだ。
それを見ながら、ランドールは、デレクが何をしにロイスに来たのか、気に掛かる。
アイノス伯爵家は王宮に出仕しておらず、自領の統治に専念している家だ。
王都に来る用事など、そうそうない筈だ。
ましてや、デレクは三男なのだ。
家を継がない貴族は、文官として、または、武官として、王宮に出仕するのが最も一般的だが、デレクはトゥランジア家に婿入りする事を前提に、王宮への出仕を選ばなかったものと思われる。
その彼が、婿入りを拒否した後、どうしているのか。
ランドールは、アマリアの元婚約者について考えるのが嫌で、これまで、調べて来なかった。
その事を、少し後悔する。
「そうなのですね。お互いに行く道は異なりますが、デレク様の幸せを願っております」
社交辞令を述べて、アマリアは話を切り上げた。
その後、婚約者の身分について探るような発言が幾つかあったが、それは新しい婚約者に成り代わって書記官長であるギリアンに取り入りたいと言うよりも、アマリア自身を気に入ったものに見えて、ランドールは心の裡で溜息を零す。
アマリアを補佐官室に連れてくれば、このような展開が起きるであろう事を想定はしていた。
だが、それを目の当たりにした自身の心境までは、十分に想像がついていなかった。
独占欲が強い、と、アレクシスとジェイクに揶揄われたが、どうとでも言え、と思う。
「では、そろそろ今日の執務を始めよう。諸君、よろしく頼む」
終わりそうにない質疑を、半ば強引に遮って、ランドールはアマリアの勤務初日を複雑な心境で始めたのだった。
それから、二か月。
書類が調い、ランドールとアマリアの婚約は正式に認められた。
王族なのだから当然と言えば当然なのだが、証人欄の署名が国王と王妃なのは、なかなかに贅沢だと思う。
後は、時期を見て婚約を公表するだけだが、一か月後のユリアスの結婚式が最有力候補になっていた。
アマリアは、日々、補佐官室に馴染んで来ている。
当初は、これまでにいなかった補佐官室付き侍女と言う存在に浮足立っていた補佐官達も、アマリアの仕事に向き合う姿勢に、次第に落ち着きを取り戻した。
真摯に職務を遂行する姿、幅広い知識、それでいて、誤りを指摘する際に声高に言い立てるのではなく、さり気なく提示する様子が、補佐官達の信頼を得ていくのに時間はそう掛からず、まるで、以前から彼女の席があったかのように、馴染んでいる。
王城の執務室にいた時と、ランドールとアマリアのやり取りは大差ない。
信頼は見えるが、アマリアは親密さを表に出さないので、アマリアの婚約者がランドールであると気づく者はいない。
ランドールは時折、ふとした瞬間に触れたアマリアの指先を掴みたくなるのだが、公私の区別はきちんとつけるよう指導している身を思い出して、理性を全力で動員して我慢していた。
ユリアスとシェイラの式まで後僅かとなり、補佐官室の仕事も増えているものの、これまでと仕事の流れを変えた事、分担出来る業務は他の王族に割り振るようにした事で、殺人的な忙しさは免れている。
アマリアからは、補佐官室での実務に触れる事で、幾つか提言があった。
その中の一つが、補佐官室の職務だけでなく、王宮の機能そのものの見直しだ。
ロイスワルズ王宮では、騎士団を始めとする武力を司る軍務、治水や街道整備等の土木工事を司る工務、税を集め予算を管理する財務等、様々な部門が存在する。
それぞれの部門から出された稟議を最終的に確認するのが宰相であり、宰相に上げるまでの情報の精査を司るのが補佐官室だ。
全ての情報が集約される為、結果として補佐官室と宰相及び宰相補佐が激務となるのだが、アマリアは、この構造自体を見直すべきではないか、とランドールに提案したのだ。
現在の構造では、補佐官室と宰相の責任が重くなる。
裏を返せば、補佐官室と宰相に権力が集中している。
王弟エリク、将来的にランドールが宰相を務めている間は、権力の一極集中でも問題はない。
だが、いずれ、王族以外の人間が宰相になった日に、この構造には問題があるのではないか、とアマリアは指摘した。
王族相手に露骨に贈収賄を行うような貴族はいないが、貴族の宰相が立つようになれば、状況は変わる。
アマリアに指摘される以前から、ランドールもその点を危惧してはいたものの、日々の忙しさにかまけて、後回しになっていた事は否めない。
勤めて日が浅い分、王宮の構造に馴染みのないアマリアにずばりと指摘された事で、補佐官室の人々は一層の危機感を持ったと言っていいだろう。
一朝一夕に変更出来るものではないが、イアン、エリク、ユリアスと相談して、少しずつ変革を起こしていく想定で、今後の計画を立てている。
「出過ぎた真似を致しました。…ですが、ランドール殿下のお体が心配で…」
思いついた事を話しただけなのに、予想以上にランドールが真剣に話を聞いて、直ぐに取り組み始めた事に、アマリアは恐縮していた。
だが、体を心配していると言われてしまえば、ランドールが動かない理由はない。
いずれ結婚した時、現在の激務の状況では、夫婦の時間等、ないに等しいのだから。
そのような仕事上の話ばかりで、以前よりも余裕があると言ってもアマリアと過ごす時間を作れるわけでもなく、婚約が調ったのに、二人きりになれた事がない。
アマリアが温室で襲われそうになった日が最後で、あの口づけすら、自分の妄想だったのではないかと不安になる位だ。
そして、それを、アマリアが気に掛けていない様子である事もまた、心配だった。
浮かない顔をしていたら、アレクシスに、
「俺の気持ちが判りましたか?」
と、意地悪く問われた。
アレクシスにもまた、滅多に会う事の出来ない婚約者がいるのだ。
職場で会える分、ランドールの方が幸せと取るべきなのか、会えるのに触れられない切なさを不幸と取るべきなのか、悩ましい所だ。
アマリアの元婚約者であるデレクの事は、気にはなっていたが、私的な調査に割く時間を取る事が出来ず、放置されていた。
そんな時、ランドールの元に、チートスの使者から親書が届いた。
王都ロイスに到着したから、都合のつく時に面談したい、との内容だ。
ランドールは早速、使者との面談を設定する。
王宮ではなく、王城に用意した応接間に入って来た男は、長身の体をチートスの騎士団服に包んでいた。
ランドールは初見で、レナルドの信が篤い騎士か、と思い、次に、その赤銅色の髪に既視感を覚える。
「ランドール殿下。ご多忙の中、早速、お時間を頂き、有難く存じます」
へりくだっているのに、何処か優雅な様子を伺いながら、ランドールの脳内に閃くものがあった。
「遠路遥々、ようこそおいで下さいました、ローワン王太子殿下」
彼が頭を下げる時に、ちらり、と見えた瞳は、少し明るい菫色に、濃い藍色が混ざっている。
あれは、宝石の瞳だろう。
王太子、と呼ばれた彼は、優美な表情を一変させて、不敵な笑みを浮かべた。
「まさか、もうバレるとは。初対面だった筈だが?」
「えぇ、初めまして。先日は、レナルド陛下に大変お世話になりました」
「いいって事よ。親父殿の本望が叶ったんだからな、たまには国外でも働くべきだろ」
「ご存知でしたか?」
「意外かもしれんが、親父殿とは仲がいいんだ。数年前から、親父殿の人探しに一口噛んでる」
改めて顔立ちを見ると、レナルドによく似ている。
ローワンは今年、二十六。ランドールと同い年の筈だ。
王妃の四番目の子で、上に三人、姉がいたと記憶している。
華やかで、繊細と言うよりも豪快、ぱっと人目を惹く容姿だった。
しっかりと太い眉、高い鼻梁、長い睫毛に肉厚の唇。
それらが、絶妙の均衡を保って、かっちりとした顎を持つ顔に配置されている。
「ローワン王太子殿下御自らが、使者に立って下さるとは、思いもしませんでした」
「固い口調はなしにしようぜ、兄弟。そちらがどう言うつもりかは知らんが、親父殿は今後、ロイスワルズと末永ぁく仲良くする心積もりだからな。俺達も、親友と呼び合う間柄になりたい所だ」
にやりと笑うローワンに、ランドールは苦笑を返す。
「では、お言葉に甘えて。…アンジェリカ王女の一件は、片付いたと考えていいのか?」
「ん、まぁ、そうだな」
ローワンはそう言うと、唇を湿すように、茶を口にした。
「お、美味いな。穀倉地帯ロイスワルズは、茶葉まで違うのか」
「気に入ったようなら、土産に持っていくといい」
「おぉ、頼むわ。おふくろさんが、茶が好きでな」
和やかな会話を交わすと、ローワンが、ふ、と嘆息する。
「結論から言うと、アンジェリカは蟄居させた。表向きは、出家して修道女になった事になっているが、送り込まれたのは、断崖絶壁の天辺に建ってる厳しい修行で有名な修道院でな。あいつが真面目に修行する事は、誰も期待してない。だが、生涯、出て来る事はないから安心して欲しい。ついでと言うか、きっかけとなったあいつの母親も、王籍を剥奪された。ほとぼりが冷めた頃に、何らかの刑を受けるだろうな」
王籍の剥奪、と言う言葉に、ランドールが片眉を上げて、首を傾げた。
「きっかけ?」
「あぁ。んじゃ、順を追って話をしようか。まず、親父殿が、正妃である俺のおふくろさんの他に、側室を三人持っているのは知ってるか?」
「知識としては」
「宝石の瞳について、以前、説明したと聞いたんだが」
「あぁ、王妃の産んだ四人の子と、アンジェリカ王女のみが宝石の瞳で、他の六人の子供は違う、と聞いた。だが、王家の血を引く子が必ず宝石の瞳を持つと言う確信はない、とも」
「そう言う事だ。だが、建前はどうであれ、親父殿の中では、宝石の瞳を持たない子供は、自分の子じゃなかったんだろうな。実際には、宝石の瞳を持つ子供と、他のきょうだいの扱いは違ってた。宝石の瞳を持つ俺自身がそう思うんだから、他のきょうだいはもっと感じてただろう」
一旦、言葉を切って、ローワンは憂えるような影を浮かべる。
「正妃であるおふくろさんの子以外に、宝石の瞳を持っていたのはアンジェリカだけだ。俺は、正妃の産んだ王子、それも三人の王女が続いた後の待望の嫡男と言う事で、生まれた時から目を掛けられていたが、アンジェリカもまた、側室が産んだ宝石の瞳を持つ姫として、親父殿は気に掛けてた。だが、アンジェリカを産んだ側室ヘレーナとは、合わなかったようでな。アンジェリカを産むと、義務は果たしたとばかりに、親父殿を拒むようになったと聞く。ヘレーナは、チートスの侯爵家の生まれなんだが、噂によると、好いた男がいたのに、王家に嫁がされたとか何とか。ま、気持ちは判る。王家の要請は断れないとは言え、気持ちのない男に嫁がされる上に、正妃ですらなく、側室なんだからな。誇りなんてもんはズタボロだろう。だが、そんな彼女でも、自分の産んだ娘は可愛いのか、大切にしていたようだったから、親父殿は、いずれ降嫁する姫なのだし、と、母子の生活を邪魔しないようにしていたんだ」
「お会いした時の話でも、アンジェリカ王女には相応の配慮をされていたようだからな」
「姫なのに、あの年まで縁談を強要しなかった事だけ取っても、そう見えるだろ」
宝石の瞳を持たない他の姫達は、成人したら直ぐに降嫁させられたんだが、と、ローワンは苦笑した。
「親父殿なりに、アンジェリカの事は可愛がっていたんだが、ヘレーナは親父殿に反発する余り、と、アンジェリカ可愛さの余り、アンジェリカの教育を誤った」
「どう言う意味だ?」
「俺達、王家の人間にとって、血を次代に繋ぐ事は、義務だ。それは姫だろうが同じ事で、あいつは降嫁しようが、その家に『チートス王家の血』を混ぜる事を求められてるわけだ」
降嫁する姫は王籍から離籍するが、娶る側はチートス王家との血縁を望んで娶るのだ。
「だが、ヘレーナは…貴族女性として自分の自由にならなかった結婚を、アンジェリカに強いたくない、と嘯いて、己の不満を吹き込んだ。愛のない相手と、後継者を作る為だけに行為する苦痛、屈辱。望みもしない妊娠の結果、己の体と美貌が如何に崩れ、衰えたか。その上で、アンジェリカは誰よりも美しいのだから、子孫を望む男の欲の犠牲になどなる必要はない、子を授ける為の腹になってはならない、と、幼い頃から言い聞かせていたらしい」
「それは…」
これは、ヘレーナの復讐だ。
血統を繋ぐ事を求められる王家の姫に、歪んだ価値観を植え付け、王家の内部をかき乱す。
「アンジェリカは、幼い頃から、お前が最も美しいと言われ続けた結果、肥大した自尊心と自己顕示欲を持つに至った。不幸にも、と言うべきか分からんが、アンジェリカはあの顔だからな。ヘレーナだけでなく、多くの人間の賛美を受け続けて、己の美こそが唯一絶対の価値になったんだ。あいつは、自分しか愛してない。愛せない。究極の自己愛の塊だ。お前に求婚したのだって、伴侶として自分の隣に立ってもいい、と唯一認められる容姿を持っているから。より、自分自身を輝かせる為。ただ、それだけだ」
ローワンの突き放すような口調からは、異母姉に対する思いは読み取れない。
父が同じとは言え、それぞれ別の母親の元で育てられていれば、そうなるのかもしれない。
「アンジェリカは、自分の美貌を維持する方法を探した。最初は、どれだけ長く若さと美貌を保てるか、美容について研究していたようだが、限界はある。そんな時、ヘレーナの伝手で、ある魔術師と知り合い、教えを乞うたそうだ」
「魔術師…」
「その魔術師曰く。魔力とはすなわち、生命力。定期的に魔力を注入する事で、肉体を活性化させ、若さと美貌を維持出来る、と聞いたアンジェリカは、魔力の注入に執着するようになる。最初は、ヘレーナの援助の元、採掘された魔法石から魔力を得ていたらしい。本来、体内の魔力が先天的に少ない虚弱体質の人間に適用される方法だが、アンジェリカは自身が既に持っている魔力以上の力を注入されても、耐えられたようだ。これは、ある意味、王家の人間だから器が強かった、と言えるんだろうな」
アマリアの母であるエミリアは、先天的な虚弱体質で、魔法石から魔力を補充しないと倒れたと言うが、健康体であるアンジェリカが魔力を補充すると、若さを保てるとは。
ランドールは、考えた事もなかった手法に、驚くばかりだ。
「だが、次第にアンジェリカは、魔法石から魔力を注入するだけでは物足りなくなった。つまり、少しずつとは言え、彼女の時計は進んでいったんだ。そこで、アンジェリカは考えた。魔法石に内包される魔力は、所詮、地脈に凝った自然物。量こそ確実に得られるが、質が十分ではないのではないか。もしも、これが、自分と同じように美しい人間が持つ魔力…生命力ならば、より高品質な魔力が得られるのでは、と」
「まさか……」
「あぁ。アイヴァンの予想通りだった。アンジェリカは、自分の侍従から、魔力…生命力を、奪っていたんだ」
愕然として、ランドールはローワンの顔を凝視した。
確かに、アイヴァンの推測を聞いていた。
だが、魔術の知識が浅いランドールは、現実のものとして、捉える事が出来ていなかったのかもしれない。
「では…アイヴァン達以外の侍従は…」
「…皆、魔力を奪われ、死んでいた」
「何と言う事を…!いや、だが、魔力を吸い出す魔法陣自体は禁術ではないと聞いた。人を死に至らしめる程に魔力を吸い出す等、可能なのか?」
「可能だった、としか言えんな」
ローワンは既に、アンジェリカの欲望により人死にが出た衝撃を受け止めた後だからだろう。
淡々と答える。
「アンジェリカは、見目の良い侍従を集め、その最も美しい時期に彼等の魔力を奪い、魔法石に溜め込んでいた。それを定期的に、『虚弱体質改善の為』と称して、自身に使用していたんだ。アイヴァンの推測は、何から何まで正しかった。実際に、効果はあったんだろうよ。あいつが若く見えるのは、何て事はない、十六の肉体を維持してるからなんだ」
表情が強張ったままのランドールを見遣って、ローワンがゆっくりと言葉を続けた。
「これは、殺人だ。それは、親父殿も判ってる。だがな、こんな事件を、国民に公表は出来ない。内情を公表せずに処理出来る限界が、出家だった。お前に話したのは、事件の当事者だからだ。俺達は、アイヴァンの減刑を願えるような立場じゃない。だが、悪いのは、アンジェリカと、あいつのやってる事に気づかなかった俺達チートス王家の人間だ。母親のヘレーナは、アンジェリカの価値観を歪めた罪、あいつのしている事に薄々気づいていながら、それを止めなかった罪、王である親父殿に報告しなかった罪で、王籍を剥奪された。貴族から王族になったヘレーナと違い、アンジェリカの扱いは慎重を要する。だが、いずれはきっと、事故死か病死に見せ掛けて処分されるだろう。これらを踏まえて…ロイスワルズ王家の配慮を期待する」
「検討しよう」
ランドールは、含みを持たせるに留めた。
「アイヴァンが身に着けていた耳飾りについては」
「あぁ、あれはほんまもんの禁術だ。何処から掘り返してきたんだか、アイヴァン達双子が、アンジェリカの秘密に気づいたのではと察知して、身に着けさせたようだな。本来は二つとも一人の人間につけさせて、相手の言動も行動も縛る完全監視用だ。あいつらが双子で、互いが互いの人質になる事から、別々に分けて使ったんだろう。恐ろしいのが、魔力の強奪は、他言されると罰せられるような事だ、とは思ってなかった事なんだが」
「どう言う事だ?」
「あいつは…アンジェリカは、心底狂っちまってる。侍従達は、アンジェリカに魔力を吸収される事を望み、心の底から喜んでいる、と言うんだ。あのいつもの口調で、『美しいわたくしの一部になれる特別な選ばれた存在なのだから、幸福に決まっているでしょう?』だと」
「だが、虚弱体質改善の為の魔法石と偽っていたのだろう?本当に悪意がないと言うのであれば、堂々と侍従に公表するんじゃないのか?」
「『わたくしの傍を泣く泣く離れないといけない侍従に、最後のご褒美として教えてあげるの。皆、涙を流して喜ぶのよ』と言っていたな」
それは明らかに喜びの涙ではないだろうが、アンジェリカには判らなかったらしい。
「では、何故、口止めを」
「あいつは、子供を産む気がない事に気づかれたと思ったんだよ。あいつは、今の自分を愛してる。当然、体形が崩れるような妊娠は絶対したくないし、血を分けていようが子供も愛せない。そもそも、自分しか愛してないから、子供が出来るような行為もしたくない。はなから子供を産むつもりがない事をロイスワルズ側に知られたら、お前との結婚を妨害されるかもしれない、と考えたらしいな。その程度には、血を繋ぐ事が義務であると理解していたようだ。お前自身に求婚を拒否されるとは考えてなかった辺りが、まぁ、あいつらしいんだが」
「馬鹿な事を…」
アンジェリカが、いつから狂っていったのかは分からない、と、ローワンは続けた。
同じ城内で暮らしているとは言え、母親も違うし性別も違う。
幼い頃から、顔を合わせる機会もそうなかったから、と。
「親父殿は、今回の事で、法律を改正するそうだ。手始めに、側室制度を廃止する。お陰で俺は、種馬扱いされなくなるわけだな。その一点だけは、アンジェリカに感謝してやってもいい」
「…そう言えば、まだ独身だったな」
「同い年のお前に言われたかねぇよ。…親父殿は、アマリアがロイスワルズで不幸そうだったら、連れ帰って俺に娶せる事も考えてたみたいだけどな?」
揶揄われているのは判るが、ランドールは思わずムッとして、ローワンを睨みつける。
「従妹とは言え、親父殿とエミリア殿は母親が違うから、十分、血も離れてる。俺も、いい加減、縁談攻勢に疲れたから、それもいっかなーと思ってたんだけど…その様子だと、手放す気はないようだな」
「当たり前だろう」
「だが、従兄として、婚約祝いを述べる位は、許してくれるんだろ?」
「…時間を作るとしよう」
「ん、判ってくれてよかった」
満足そうに頷いたローワンは、ふ、と表情を真面目なものに切り替えた。
「…そう言うわけなんで、今回の件は、チートス王家が全面的に悪い。親父殿には全権委任されてるから、交渉は俺としてくれ」
「では、宰相からの言葉を伝える。我が国は、魔法石の鉱脈に乏しく、長い事、魔術の後進国に甘んじてきた。だが、今回の件を受けて、これからは魔術師の育成に力を入れていきたいと考えている」
「その方がいいだろうな。せめて、王宮だけでも、魔術的防衛をした方がいい」
「そうしたいのはやまやまなんだが、物的資源も人的資源も、圧倒的に足りない。…チートスに、教えを請いたい」
ローワンは、赤銅色の髪をかき上げると、太い笑みを浮かべる。
「アマリアがこの国にいる以上、チートスに断る選択など、あるわけないな。魔法石の輸出に関して、新たに契約を交わそう。その上で、指導者となれる魔術師を派遣する。どうだ?」
「頼んだ」
ほっと息をついたランドールに、ローワンが意味ありげに笑い掛けた。
「実際、会ってみるまで、噂の宰相補佐殿はどんな奴かと思ってたが、やっぱ噂なんて当てにならんな。…思ってたよりもずっと、素直だ」
「…褒められたと受け取っておこう」
「だから、親父殿に内緒で一つ、教えといてやるよ。お前とアマリアが、離宮に行ったと言う噂を流したのは、チートスの間者だ」
「な…っ」
どれだけ探らせても判明しなかった噂の発生元を、あっさりと知らされて、ランドールは驚愕する。
「親父殿は、それでロイスワルズ国内がどう動くのか、見たかったのさ。お前達が、アマリアを切り捨てる方向に動くか、何としても守ろうとするか。一つの試金石だ。とことん身内は大切にする御人なんでな」
「…それは、先日の会見で骨身に染みている」
「つまり、だ」
ローワンは、くっと喉を鳴らして笑った。
「気をつけろよ。チートスは、親父殿は、常にアマリアの様子を窺ってる。少しでも疎かに扱われてると感じたら…判るよな?」
「あぁ…アマリアを粗略に扱うなどありえないが、肝に銘じておこう」
翌日から、ランドールは通常の執務に戻った。
レナルドは、エミリアを前チートス国王ライアンの娘であると認知、エミリアの娘アマリアはレナルドの姪である旨を記した書面を残すと、早朝に帰国の途に就いた。
チートス一行は、牢に拘留されているアイヴァンを残し、皆、出国した事になる。
王都ロイスから、チートス国境の街ネランドまで馬車で七日、そこからチートス王都のザカリヤまで馬車で六日。
旅程を考えると、今回の記念式典に国王自ら参列した事が、如何に異例な事かよく判る。
レナルドが、自分自身の目でアマリアを確認したかった為なのだが、周辺国には、ロイスワルズとチートスの関係が親密なものであると取られるだろう。
現国王イアンがシャナハン王国王女であったマグダレナと、いずれ王位を継ぐユリアスがユルタ王国王女と縁組した事を考えれば、四国間の均衡を保てている筈だ、と、ランドールは冷静に分析する。
第四王女ソフィアとシャナハン王国アイゼン公爵家令息の縁談が進んでいる事、アマリアがチートス王家の縁者である事から、第五王女エイダの相手は、ロイスワルズ国内の者が望ましい。
エイダはまだ精神的に幼く、此度の件からも縁談は数年先まで待った方がいいだろうが、水面下で相手の選考を進めていかねば、と、思いを新たにする。
身の安全が不安視されていたアマリアの王宮での執務も、状況が明らかになってきた事で、安心して行えるようになった。
レナルドから守護石の魔法陣の使用を許可されてから、急ぎ、サングラにアマリア用の守護石を作らせたのも大きい。
アマリアに贈った首飾りには今、居場所の情報を知らせる黄金色の魔法石の他に、守護の魔法陣を刻んだ透明な守護石が並んでいる。
ただ硝子のように透き通っているのではなく、中に銀色の結晶が散ったものだ。
石が二つついた首飾りでは重くないかと心配したが、アマリアは物心ついてから常に守護石を身に着けていたので、却って落ち着く、と笑っていた。
アマリアが補佐官室に出勤した初日は、大騒ぎとなった。
当然のように男性の文官が出仕すると思っていた補佐官達が、アマリアが王宮の侍女である事を知り、恐慌を起こしたのだ。
ランドールが出仕する際、いつものようにアレクシスを従え、反対側に、背の高い赤い髪の侍女を連れて来た事に、補佐官達の顔に疑問の色が浮かぶ。
ランドールが王宮で勤めるようになってから、いや、その前から、彼が侍女を傍につけた事はなかったからだ。
補佐官達の表情に気づいていながら、ランドールは何でもない事のようにアレクシスに指示をして、自分の執務机の傍にアマリアの机を据えさせる。
「諸君」
ランドールが、補佐官達に声を掛けた。
「以前、話していたように、今日から、私が書類を確認する前に一人、確認要員を入れたい。紹介しよう。アマリア・トゥランジア伯爵令嬢だ。王宮に侍女として仕えてくれているのだが、その才を買って、補佐官室付きに抜擢した」
ランドールに目で促され、アマリアが綺麗な礼を取る。
「アマリア・トゥランジアと申します。ここ三か月、ランドール殿下の元で補佐官室の執務について学ばせて頂きました。皆様のお役に立てますよう、励みたいと思っております。ご指導、よろしくお願い致します」
「最初は戸惑う事もあるかもしれないが、試行錯誤しながら、お互いにとってやりやすい形を探っていこう。何か質問がある者は?」
アマリアの挨拶を受けて、ランドールが補佐官に向けて発言を促した。
アマリアの微笑みに、独身の補佐官達がぽーっと見惚れる様子に、ランドールの眉が寄るが、アレクシスが如才なく割って入った。
「はいはい、皆さん、ここで一つ、残念なお知らせです。アマリアさんには婚約者の方がいらっしゃいます」
声にならない悲鳴が補佐官室内に響き渡るのを確認して、アレクシスはにっこりと満面の笑みを浮かべる。
「アマリアさんが安心してお仕事が出来ない環境であると、婚約者の方に判じられると、お仕事を辞めさせられてしまうそうですよ。俺としては、アマリアさんには末永く勤めて頂きたいので、皆さん、ご協力下さいね」
こくこくと頷く補佐官達の顔を眺めて、ランドールもまた、顎を引いた。
補佐官達は、先日の記念式典の夜会には出席していない。
ランドールがアマリアと踊った事を知る者はいないだろうし、あの夜会のみで、二人が婚約したと推測する者もいないだろう。
「トゥランジア伯爵令嬢と言う事は、書記官長殿のお嬢様でいらっしゃいますか」
残念そうにしながらも、好奇心旺盛な補佐官らしく一人が挙手して問うと、アマリアが口の端を上げて微笑む。
「はい。父は書記官長の責務に任じられております」
「なるほど、書記官長殿の薫陶を受けておられるのですね。私は以前、計算間違いを指摘して頂いたのですが、才女であられる理由がよく判りました」
「トゥランジア伯爵令嬢の婚約者と言いますと、デレク・アイノスですか。私は、彼とは幼年学校で同窓でして」
アマリアの微笑みが僅かに強張った事に、ランドールは気が付いた。
アイノス伯爵は、コバルの隣領を治める領主だ。
デレクとは、アマリアに婚約破棄を突き付けた元婚約者に間違いない。
「デレク様との婚約は、諸事情により解消されたのです」
淡く微笑んで返すアマリアに、問うた補佐官は驚いて、「これは失礼を」と詫びる。
「いいえ。お気になさらず。デレク様はご健勝ですか」
「えぇ。先日も、王都に足を延ばしたからと、顔を見せてくれました」
アマリアの様子から、円満な解消と判断した補佐官が言葉を続けると、アマリアもまた、微笑んだ。
それを見ながら、ランドールは、デレクが何をしにロイスに来たのか、気に掛かる。
アイノス伯爵家は王宮に出仕しておらず、自領の統治に専念している家だ。
王都に来る用事など、そうそうない筈だ。
ましてや、デレクは三男なのだ。
家を継がない貴族は、文官として、または、武官として、王宮に出仕するのが最も一般的だが、デレクはトゥランジア家に婿入りする事を前提に、王宮への出仕を選ばなかったものと思われる。
その彼が、婿入りを拒否した後、どうしているのか。
ランドールは、アマリアの元婚約者について考えるのが嫌で、これまで、調べて来なかった。
その事を、少し後悔する。
「そうなのですね。お互いに行く道は異なりますが、デレク様の幸せを願っております」
社交辞令を述べて、アマリアは話を切り上げた。
その後、婚約者の身分について探るような発言が幾つかあったが、それは新しい婚約者に成り代わって書記官長であるギリアンに取り入りたいと言うよりも、アマリア自身を気に入ったものに見えて、ランドールは心の裡で溜息を零す。
アマリアを補佐官室に連れてくれば、このような展開が起きるであろう事を想定はしていた。
だが、それを目の当たりにした自身の心境までは、十分に想像がついていなかった。
独占欲が強い、と、アレクシスとジェイクに揶揄われたが、どうとでも言え、と思う。
「では、そろそろ今日の執務を始めよう。諸君、よろしく頼む」
終わりそうにない質疑を、半ば強引に遮って、ランドールはアマリアの勤務初日を複雑な心境で始めたのだった。
それから、二か月。
書類が調い、ランドールとアマリアの婚約は正式に認められた。
王族なのだから当然と言えば当然なのだが、証人欄の署名が国王と王妃なのは、なかなかに贅沢だと思う。
後は、時期を見て婚約を公表するだけだが、一か月後のユリアスの結婚式が最有力候補になっていた。
アマリアは、日々、補佐官室に馴染んで来ている。
当初は、これまでにいなかった補佐官室付き侍女と言う存在に浮足立っていた補佐官達も、アマリアの仕事に向き合う姿勢に、次第に落ち着きを取り戻した。
真摯に職務を遂行する姿、幅広い知識、それでいて、誤りを指摘する際に声高に言い立てるのではなく、さり気なく提示する様子が、補佐官達の信頼を得ていくのに時間はそう掛からず、まるで、以前から彼女の席があったかのように、馴染んでいる。
王城の執務室にいた時と、ランドールとアマリアのやり取りは大差ない。
信頼は見えるが、アマリアは親密さを表に出さないので、アマリアの婚約者がランドールであると気づく者はいない。
ランドールは時折、ふとした瞬間に触れたアマリアの指先を掴みたくなるのだが、公私の区別はきちんとつけるよう指導している身を思い出して、理性を全力で動員して我慢していた。
ユリアスとシェイラの式まで後僅かとなり、補佐官室の仕事も増えているものの、これまでと仕事の流れを変えた事、分担出来る業務は他の王族に割り振るようにした事で、殺人的な忙しさは免れている。
アマリアからは、補佐官室での実務に触れる事で、幾つか提言があった。
その中の一つが、補佐官室の職務だけでなく、王宮の機能そのものの見直しだ。
ロイスワルズ王宮では、騎士団を始めとする武力を司る軍務、治水や街道整備等の土木工事を司る工務、税を集め予算を管理する財務等、様々な部門が存在する。
それぞれの部門から出された稟議を最終的に確認するのが宰相であり、宰相に上げるまでの情報の精査を司るのが補佐官室だ。
全ての情報が集約される為、結果として補佐官室と宰相及び宰相補佐が激務となるのだが、アマリアは、この構造自体を見直すべきではないか、とランドールに提案したのだ。
現在の構造では、補佐官室と宰相の責任が重くなる。
裏を返せば、補佐官室と宰相に権力が集中している。
王弟エリク、将来的にランドールが宰相を務めている間は、権力の一極集中でも問題はない。
だが、いずれ、王族以外の人間が宰相になった日に、この構造には問題があるのではないか、とアマリアは指摘した。
王族相手に露骨に贈収賄を行うような貴族はいないが、貴族の宰相が立つようになれば、状況は変わる。
アマリアに指摘される以前から、ランドールもその点を危惧してはいたものの、日々の忙しさにかまけて、後回しになっていた事は否めない。
勤めて日が浅い分、王宮の構造に馴染みのないアマリアにずばりと指摘された事で、補佐官室の人々は一層の危機感を持ったと言っていいだろう。
一朝一夕に変更出来るものではないが、イアン、エリク、ユリアスと相談して、少しずつ変革を起こしていく想定で、今後の計画を立てている。
「出過ぎた真似を致しました。…ですが、ランドール殿下のお体が心配で…」
思いついた事を話しただけなのに、予想以上にランドールが真剣に話を聞いて、直ぐに取り組み始めた事に、アマリアは恐縮していた。
だが、体を心配していると言われてしまえば、ランドールが動かない理由はない。
いずれ結婚した時、現在の激務の状況では、夫婦の時間等、ないに等しいのだから。
そのような仕事上の話ばかりで、以前よりも余裕があると言ってもアマリアと過ごす時間を作れるわけでもなく、婚約が調ったのに、二人きりになれた事がない。
アマリアが温室で襲われそうになった日が最後で、あの口づけすら、自分の妄想だったのではないかと不安になる位だ。
そして、それを、アマリアが気に掛けていない様子である事もまた、心配だった。
浮かない顔をしていたら、アレクシスに、
「俺の気持ちが判りましたか?」
と、意地悪く問われた。
アレクシスにもまた、滅多に会う事の出来ない婚約者がいるのだ。
職場で会える分、ランドールの方が幸せと取るべきなのか、会えるのに触れられない切なさを不幸と取るべきなのか、悩ましい所だ。
アマリアの元婚約者であるデレクの事は、気にはなっていたが、私的な調査に割く時間を取る事が出来ず、放置されていた。
そんな時、ランドールの元に、チートスの使者から親書が届いた。
王都ロイスに到着したから、都合のつく時に面談したい、との内容だ。
ランドールは早速、使者との面談を設定する。
王宮ではなく、王城に用意した応接間に入って来た男は、長身の体をチートスの騎士団服に包んでいた。
ランドールは初見で、レナルドの信が篤い騎士か、と思い、次に、その赤銅色の髪に既視感を覚える。
「ランドール殿下。ご多忙の中、早速、お時間を頂き、有難く存じます」
へりくだっているのに、何処か優雅な様子を伺いながら、ランドールの脳内に閃くものがあった。
「遠路遥々、ようこそおいで下さいました、ローワン王太子殿下」
彼が頭を下げる時に、ちらり、と見えた瞳は、少し明るい菫色に、濃い藍色が混ざっている。
あれは、宝石の瞳だろう。
王太子、と呼ばれた彼は、優美な表情を一変させて、不敵な笑みを浮かべた。
「まさか、もうバレるとは。初対面だった筈だが?」
「えぇ、初めまして。先日は、レナルド陛下に大変お世話になりました」
「いいって事よ。親父殿の本望が叶ったんだからな、たまには国外でも働くべきだろ」
「ご存知でしたか?」
「意外かもしれんが、親父殿とは仲がいいんだ。数年前から、親父殿の人探しに一口噛んでる」
改めて顔立ちを見ると、レナルドによく似ている。
ローワンは今年、二十六。ランドールと同い年の筈だ。
王妃の四番目の子で、上に三人、姉がいたと記憶している。
華やかで、繊細と言うよりも豪快、ぱっと人目を惹く容姿だった。
しっかりと太い眉、高い鼻梁、長い睫毛に肉厚の唇。
それらが、絶妙の均衡を保って、かっちりとした顎を持つ顔に配置されている。
「ローワン王太子殿下御自らが、使者に立って下さるとは、思いもしませんでした」
「固い口調はなしにしようぜ、兄弟。そちらがどう言うつもりかは知らんが、親父殿は今後、ロイスワルズと末永ぁく仲良くする心積もりだからな。俺達も、親友と呼び合う間柄になりたい所だ」
にやりと笑うローワンに、ランドールは苦笑を返す。
「では、お言葉に甘えて。…アンジェリカ王女の一件は、片付いたと考えていいのか?」
「ん、まぁ、そうだな」
ローワンはそう言うと、唇を湿すように、茶を口にした。
「お、美味いな。穀倉地帯ロイスワルズは、茶葉まで違うのか」
「気に入ったようなら、土産に持っていくといい」
「おぉ、頼むわ。おふくろさんが、茶が好きでな」
和やかな会話を交わすと、ローワンが、ふ、と嘆息する。
「結論から言うと、アンジェリカは蟄居させた。表向きは、出家して修道女になった事になっているが、送り込まれたのは、断崖絶壁の天辺に建ってる厳しい修行で有名な修道院でな。あいつが真面目に修行する事は、誰も期待してない。だが、生涯、出て来る事はないから安心して欲しい。ついでと言うか、きっかけとなったあいつの母親も、王籍を剥奪された。ほとぼりが冷めた頃に、何らかの刑を受けるだろうな」
王籍の剥奪、と言う言葉に、ランドールが片眉を上げて、首を傾げた。
「きっかけ?」
「あぁ。んじゃ、順を追って話をしようか。まず、親父殿が、正妃である俺のおふくろさんの他に、側室を三人持っているのは知ってるか?」
「知識としては」
「宝石の瞳について、以前、説明したと聞いたんだが」
「あぁ、王妃の産んだ四人の子と、アンジェリカ王女のみが宝石の瞳で、他の六人の子供は違う、と聞いた。だが、王家の血を引く子が必ず宝石の瞳を持つと言う確信はない、とも」
「そう言う事だ。だが、建前はどうであれ、親父殿の中では、宝石の瞳を持たない子供は、自分の子じゃなかったんだろうな。実際には、宝石の瞳を持つ子供と、他のきょうだいの扱いは違ってた。宝石の瞳を持つ俺自身がそう思うんだから、他のきょうだいはもっと感じてただろう」
一旦、言葉を切って、ローワンは憂えるような影を浮かべる。
「正妃であるおふくろさんの子以外に、宝石の瞳を持っていたのはアンジェリカだけだ。俺は、正妃の産んだ王子、それも三人の王女が続いた後の待望の嫡男と言う事で、生まれた時から目を掛けられていたが、アンジェリカもまた、側室が産んだ宝石の瞳を持つ姫として、親父殿は気に掛けてた。だが、アンジェリカを産んだ側室ヘレーナとは、合わなかったようでな。アンジェリカを産むと、義務は果たしたとばかりに、親父殿を拒むようになったと聞く。ヘレーナは、チートスの侯爵家の生まれなんだが、噂によると、好いた男がいたのに、王家に嫁がされたとか何とか。ま、気持ちは判る。王家の要請は断れないとは言え、気持ちのない男に嫁がされる上に、正妃ですらなく、側室なんだからな。誇りなんてもんはズタボロだろう。だが、そんな彼女でも、自分の産んだ娘は可愛いのか、大切にしていたようだったから、親父殿は、いずれ降嫁する姫なのだし、と、母子の生活を邪魔しないようにしていたんだ」
「お会いした時の話でも、アンジェリカ王女には相応の配慮をされていたようだからな」
「姫なのに、あの年まで縁談を強要しなかった事だけ取っても、そう見えるだろ」
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「俺達、王家の人間にとって、血を次代に繋ぐ事は、義務だ。それは姫だろうが同じ事で、あいつは降嫁しようが、その家に『チートス王家の血』を混ぜる事を求められてるわけだ」
降嫁する姫は王籍から離籍するが、娶る側はチートス王家との血縁を望んで娶るのだ。
「だが、ヘレーナは…貴族女性として自分の自由にならなかった結婚を、アンジェリカに強いたくない、と嘯いて、己の不満を吹き込んだ。愛のない相手と、後継者を作る為だけに行為する苦痛、屈辱。望みもしない妊娠の結果、己の体と美貌が如何に崩れ、衰えたか。その上で、アンジェリカは誰よりも美しいのだから、子孫を望む男の欲の犠牲になどなる必要はない、子を授ける為の腹になってはならない、と、幼い頃から言い聞かせていたらしい」
「それは…」
これは、ヘレーナの復讐だ。
血統を繋ぐ事を求められる王家の姫に、歪んだ価値観を植え付け、王家の内部をかき乱す。
「アンジェリカは、幼い頃から、お前が最も美しいと言われ続けた結果、肥大した自尊心と自己顕示欲を持つに至った。不幸にも、と言うべきか分からんが、アンジェリカはあの顔だからな。ヘレーナだけでなく、多くの人間の賛美を受け続けて、己の美こそが唯一絶対の価値になったんだ。あいつは、自分しか愛してない。愛せない。究極の自己愛の塊だ。お前に求婚したのだって、伴侶として自分の隣に立ってもいい、と唯一認められる容姿を持っているから。より、自分自身を輝かせる為。ただ、それだけだ」
ローワンの突き放すような口調からは、異母姉に対する思いは読み取れない。
父が同じとは言え、それぞれ別の母親の元で育てられていれば、そうなるのかもしれない。
「アンジェリカは、自分の美貌を維持する方法を探した。最初は、どれだけ長く若さと美貌を保てるか、美容について研究していたようだが、限界はある。そんな時、ヘレーナの伝手で、ある魔術師と知り合い、教えを乞うたそうだ」
「魔術師…」
「その魔術師曰く。魔力とはすなわち、生命力。定期的に魔力を注入する事で、肉体を活性化させ、若さと美貌を維持出来る、と聞いたアンジェリカは、魔力の注入に執着するようになる。最初は、ヘレーナの援助の元、採掘された魔法石から魔力を得ていたらしい。本来、体内の魔力が先天的に少ない虚弱体質の人間に適用される方法だが、アンジェリカは自身が既に持っている魔力以上の力を注入されても、耐えられたようだ。これは、ある意味、王家の人間だから器が強かった、と言えるんだろうな」
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「だが、次第にアンジェリカは、魔法石から魔力を注入するだけでは物足りなくなった。つまり、少しずつとは言え、彼女の時計は進んでいったんだ。そこで、アンジェリカは考えた。魔法石に内包される魔力は、所詮、地脈に凝った自然物。量こそ確実に得られるが、質が十分ではないのではないか。もしも、これが、自分と同じように美しい人間が持つ魔力…生命力ならば、より高品質な魔力が得られるのでは、と」
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「可能だった、としか言えんな」
ローワンは既に、アンジェリカの欲望により人死にが出た衝撃を受け止めた後だからだろう。
淡々と答える。
「アンジェリカは、見目の良い侍従を集め、その最も美しい時期に彼等の魔力を奪い、魔法石に溜め込んでいた。それを定期的に、『虚弱体質改善の為』と称して、自身に使用していたんだ。アイヴァンの推測は、何から何まで正しかった。実際に、効果はあったんだろうよ。あいつが若く見えるのは、何て事はない、十六の肉体を維持してるからなんだ」
表情が強張ったままのランドールを見遣って、ローワンがゆっくりと言葉を続けた。
「これは、殺人だ。それは、親父殿も判ってる。だがな、こんな事件を、国民に公表は出来ない。内情を公表せずに処理出来る限界が、出家だった。お前に話したのは、事件の当事者だからだ。俺達は、アイヴァンの減刑を願えるような立場じゃない。だが、悪いのは、アンジェリカと、あいつのやってる事に気づかなかった俺達チートス王家の人間だ。母親のヘレーナは、アンジェリカの価値観を歪めた罪、あいつのしている事に薄々気づいていながら、それを止めなかった罪、王である親父殿に報告しなかった罪で、王籍を剥奪された。貴族から王族になったヘレーナと違い、アンジェリカの扱いは慎重を要する。だが、いずれはきっと、事故死か病死に見せ掛けて処分されるだろう。これらを踏まえて…ロイスワルズ王家の配慮を期待する」
「検討しよう」
ランドールは、含みを持たせるに留めた。
「アイヴァンが身に着けていた耳飾りについては」
「あぁ、あれはほんまもんの禁術だ。何処から掘り返してきたんだか、アイヴァン達双子が、アンジェリカの秘密に気づいたのではと察知して、身に着けさせたようだな。本来は二つとも一人の人間につけさせて、相手の言動も行動も縛る完全監視用だ。あいつらが双子で、互いが互いの人質になる事から、別々に分けて使ったんだろう。恐ろしいのが、魔力の強奪は、他言されると罰せられるような事だ、とは思ってなかった事なんだが」
「どう言う事だ?」
「あいつは…アンジェリカは、心底狂っちまってる。侍従達は、アンジェリカに魔力を吸収される事を望み、心の底から喜んでいる、と言うんだ。あのいつもの口調で、『美しいわたくしの一部になれる特別な選ばれた存在なのだから、幸福に決まっているでしょう?』だと」
「だが、虚弱体質改善の為の魔法石と偽っていたのだろう?本当に悪意がないと言うのであれば、堂々と侍従に公表するんじゃないのか?」
「『わたくしの傍を泣く泣く離れないといけない侍従に、最後のご褒美として教えてあげるの。皆、涙を流して喜ぶのよ』と言っていたな」
それは明らかに喜びの涙ではないだろうが、アンジェリカには判らなかったらしい。
「では、何故、口止めを」
「あいつは、子供を産む気がない事に気づかれたと思ったんだよ。あいつは、今の自分を愛してる。当然、体形が崩れるような妊娠は絶対したくないし、血を分けていようが子供も愛せない。そもそも、自分しか愛してないから、子供が出来るような行為もしたくない。はなから子供を産むつもりがない事をロイスワルズ側に知られたら、お前との結婚を妨害されるかもしれない、と考えたらしいな。その程度には、血を繋ぐ事が義務であると理解していたようだ。お前自身に求婚を拒否されるとは考えてなかった辺りが、まぁ、あいつらしいんだが」
「馬鹿な事を…」
アンジェリカが、いつから狂っていったのかは分からない、と、ローワンは続けた。
同じ城内で暮らしているとは言え、母親も違うし性別も違う。
幼い頃から、顔を合わせる機会もそうなかったから、と。
「親父殿は、今回の事で、法律を改正するそうだ。手始めに、側室制度を廃止する。お陰で俺は、種馬扱いされなくなるわけだな。その一点だけは、アンジェリカに感謝してやってもいい」
「…そう言えば、まだ独身だったな」
「同い年のお前に言われたかねぇよ。…親父殿は、アマリアがロイスワルズで不幸そうだったら、連れ帰って俺に娶せる事も考えてたみたいだけどな?」
揶揄われているのは判るが、ランドールは思わずムッとして、ローワンを睨みつける。
「従妹とは言え、親父殿とエミリア殿は母親が違うから、十分、血も離れてる。俺も、いい加減、縁談攻勢に疲れたから、それもいっかなーと思ってたんだけど…その様子だと、手放す気はないようだな」
「当たり前だろう」
「だが、従兄として、婚約祝いを述べる位は、許してくれるんだろ?」
「…時間を作るとしよう」
「ん、判ってくれてよかった」
満足そうに頷いたローワンは、ふ、と表情を真面目なものに切り替えた。
「…そう言うわけなんで、今回の件は、チートス王家が全面的に悪い。親父殿には全権委任されてるから、交渉は俺としてくれ」
「では、宰相からの言葉を伝える。我が国は、魔法石の鉱脈に乏しく、長い事、魔術の後進国に甘んじてきた。だが、今回の件を受けて、これからは魔術師の育成に力を入れていきたいと考えている」
「その方がいいだろうな。せめて、王宮だけでも、魔術的防衛をした方がいい」
「そうしたいのはやまやまなんだが、物的資源も人的資源も、圧倒的に足りない。…チートスに、教えを請いたい」
ローワンは、赤銅色の髪をかき上げると、太い笑みを浮かべる。
「アマリアがこの国にいる以上、チートスに断る選択など、あるわけないな。魔法石の輸出に関して、新たに契約を交わそう。その上で、指導者となれる魔術師を派遣する。どうだ?」
「頼んだ」
ほっと息をついたランドールに、ローワンが意味ありげに笑い掛けた。
「実際、会ってみるまで、噂の宰相補佐殿はどんな奴かと思ってたが、やっぱ噂なんて当てにならんな。…思ってたよりもずっと、素直だ」
「…褒められたと受け取っておこう」
「だから、親父殿に内緒で一つ、教えといてやるよ。お前とアマリアが、離宮に行ったと言う噂を流したのは、チートスの間者だ」
「な…っ」
どれだけ探らせても判明しなかった噂の発生元を、あっさりと知らされて、ランドールは驚愕する。
「親父殿は、それでロイスワルズ国内がどう動くのか、見たかったのさ。お前達が、アマリアを切り捨てる方向に動くか、何としても守ろうとするか。一つの試金石だ。とことん身内は大切にする御人なんでな」
「…それは、先日の会見で骨身に染みている」
「つまり、だ」
ローワンは、くっと喉を鳴らして笑った。
「気をつけろよ。チートスは、親父殿は、常にアマリアの様子を窺ってる。少しでも疎かに扱われてると感じたら…判るよな?」
「あぁ…アマリアを粗略に扱うなどありえないが、肝に銘じておこう」
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あれは事故だった。
けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。
だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。
何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。
どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。
私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。
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