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イアンの在位三十年記念式典は、粛々と行われた。
同じ大陸にあるチートス、シャナハン、ユルタの三国のみならず、国交のある他の大陸からも国賓が訪れ、彼の治世を寿いだ。
昼に行われる式典は、国賓と王宮に勤める各組織の長のみの厳粛なものだが、夜に行われる夜会はまた、雰囲気が異なるものとなる。
式典の参列者に加え、国内の主だった貴族に、他国からも交流のある貴族が訪れるのだが、アマリアは人目を避けるべく早い時間に入場した為、広々とした王宮の大広間はまだ、ガランとしている。
「アマリアさん」
父であるギリアンにエスコートされて広間に入場したアマリアは、声を掛けられて振り返った。
「アレクシス様」
アレクシスは、普段は奔放にはねている黒髪をきっちりと撫でつけ、見慣れた文官の白い宮廷服ではなく、黒の礼装に身を包んでいる。
上背があり、顔立ちも甘く整っているだけに、目を引く立ち姿だ。
声を掛けたものの、アレクシスはアマリアの顔を見て、呆然と口を開けて黙り込む。
「あの…アレクシス様?」
「あ、あぁ、すみません。えぇと…とてもお似合いです」
「まぁ、有難うございます」
ふわり、と微笑むアマリアを見て、アレクシスは、確かにアマリアだ、と胸を撫で下ろした。
普段は薄く整えるだけの化粧が、今日はアマリアの華やかな顔立ちが映えるように施され、いつもまとめ上げている深紅の髪が下ろされているだけで、全く雰囲気が違う。
侍女のお仕着せを着ている彼女を見慣れている身からすると、華やかな夜会用のドレスが眩しい。
「ヘイネード殿、お願い出来るだろうか?」
ギリアンは、事前の取り決め通り、アマリアの腕を離してアレクシスへと引き渡す。
書記官長であるギリアンが隣にいては、アマリアの正体が直ぐに周知されてしまう。
「はい、お任せ下さい」
アマリアは、アレクシスの誘導に従って、人目に付きにくい場所へと移動した。
そこに、淡い水色の髪をふわふわと揺らし、砂糖菓子のように柔らかなピンクのドレスを纏った、少女のように可憐な女性が立っている。
頭に入れた来賓の情報を検索し、アレクシスの婚約者であろうと推測した。
「アマリアさん。こちらが、俺の婚約者のオルカ・マキアス子爵令嬢です。オルカ、アマリア嬢だよ」
参列者の耳を気にして、会話に注意を払っているのだろう。
アマリアの家名を告げずに紹介する。
紹介を受けて、オルカは膝を折って優雅に挨拶をした。
「アマリア様。初めまして、オルカと申します。…アレクから、お話は兼々伺っております」
「ご丁寧に有難うございます、オルカ様。アマリアと申します。…あの、お話とは?」
不安そうに尋ねるアマリアに、オルカはにっこりと笑った。
「うふふ。ご心配なさらなくても、いいお話ばかりですわ」
無垢な表情ながら、心の裡を見せない様子は、流石、ランドールの懐刀の婚約者と言った所だろうか。
「アマリアさん。本日は、俺とオルカが暫く、付き添わせて頂きますね」
アマリアの身をランドールが現れるまで守る為に、と、ランドールはアレクシスにアマリアの付き添いを命じていた。
オルカが共に居れば、要らぬ詮索もされないだろう。
「ですが…お二人も踊られるのでは」
「問題ありませんわ、アマリア様。寧ろ、感謝しております。アレクは普段、殿下のお傍についておりますから、このように夜会で共に居られるなんて、滅多にない事なんですのよ」
にこにこと微笑むオルカに、アレクシスが苦笑する。
「と、言うわけです、アマリアさん。どうぞ、機が満ちるまで我々と歓談なさって下さい」
アレクシスが補佐官長である事は、有力貴族であれば誰もが知っている事だ。
その彼が、婚約者と共に囲む女性に、ちらちらと視線が送られる。
普段になく高い踵の靴を履いてきた為、今日のアマリアは周囲の令嬢よりも、頭一つ、背が高いのだ。
長身のアレクシスが傍に居るから、平均的だと錯覚しそうになるが、オルカと比較すれば、その長身は一目瞭然。
すらりとした長身と痩身、そして目立つ深紅の髪を見て、あの令嬢はどこの家の…?と囁く声が、アレクシスの耳に届く。
「それにしても…女性にこのような言葉は失礼かもしれませんが、すっかり見違えました」
「うん、失礼だわ、アレク。素直に、見惚れた、って言えばいいのに」
オルカの言葉に、アレクシスは頭を掻く。
「いやぁ…まぁ、確かにそうなんだけど、そんな事言うと、後が怖くて」
「?」
アマリアが首を傾げると、その動きに従って、長く真っ直ぐな髪が揺れる。
念入りに香油で梳られた髪には、所々に銀色に輝く小さな飾りが留めてあり、広間の装飾灯の光を受けて、アマリアが動く度にきらきらと反射した。
「アマリア様、そのドレスもとっても素敵!どちらで仕立てられましたの?」
「あの、ミーシャ・ハンクスさんの工房で」
「まぁ!ミーシャのドレスですのね!わたくしもミーシャに仕立てて貰いましたの」
そう言って、オルカがその場でくるりと一回転すると、ふわふわとした髪とドレスが翻った。
シフォンの柔らかな生地を何層にも重ねたスカートに、膨らんだ袖が、愛らしい顔立ちのオルカによく似合っている。
「可愛らしくて、とてもお似合いですわ。オルカ様の愛らしさにぴったりです」
ほぅ、と、アマリアが感嘆の溜息を吐くと、オルカは鼻息を荒くして、婚約者を見上げた。
「ほら!やっぱり似合ってるって!可愛いって!アマリア様、聞いて下さいます?アレクってば、全然、褒めてくれないんですのよ」
「そうなのですか?ですが…アレクシス様はオルカ様のお話になると、『可愛い』『可愛い』っていつも、」
「わぁ~~~!アマリアさん、止めて!恥ずかしいから!」
顔を真っ赤にしたアレクシスに遮られて、アマリアはきょとんとする。
「え、でも、」
「恥ずかしすぎて死ねる…」
「何ですか、アマリア様!アレクが私の事を…?!」
「『可愛いオルカ』っていつも…」
「アレクっ」
思わず、婚約者の腕に抱き着くオルカに、アレクシスが真っ赤に染まった顔を向けた。
「私には言ってくれないのに、お外では惚気てるの?」
「……うん」
観念したように頷くアレクシスに、オルカが満面の笑みを浮かべる。
「なぁんだ。アレクったらもう、恥ずかしがり屋さんなんだから」
仲の良い婚約者達の姿を、アマリアは微笑みながら見つめた。
以前は…元婚約者との関係が上手く行っていなかった時は、仲の良い婚約者達を見るとモヤモヤしたものが胸の内にあったが、今では、微笑ましく思える。
これも、成長したと言う事なのだろうか。
「本当にお二人は、仲がよろしいのですね。素敵です」
「アマリア様もでしょう?」
不思議そうなオルカの言葉に、アマリアもまた、首を傾げて答える。
「私…?」
誰との事を指しているのだろう。
その時、静かに流れていた楽団の音楽が変わった。
「あぁ、来賓の皆様の入場ですね」
自国の招待客が全て入場し終えたので、他国からの来賓が入場するのだ。
アレクシスの言葉に、アマリアとオルカが姿勢を正すと、大きく広間の扉が開いた。
広間の中央を通路として開け、目の前を来賓が通った時に頭を下げて礼をする。
アマリアは頭の中で、アレクシスに渡された資料の外見情報と照らし合わせる作業をしながら、来賓を見守った。
爵位の低い順に他国の貴族が入場し終えると、続いて、他国王族が入場を始める。
「シェイラ・ユルタ王女殿下、ユリアス・ヤクト・ロイスワルズ殿下」
まずは、王弟エリクの息子であるユリアスが、近衛騎士団長の正装を身に纏い、婚約者であるユルタ王国シェイラ王女をエスコートして入場する。
ユリアスは、エリクに似て太陽のように輝く金髪とリリーナ譲りの琥珀色の瞳、騎士団で鍛え上げた素晴らしい筋肉を持つ美丈夫だ。
彼の傍らに寄り添うシェイラは、内側から輝くように艶やかな黒髪と、黒曜石のような黒い瞳の美女で、鮮やかな碧玉色のドレスを身に纏っている。
二人は入口で一度立ち止まり、ユリアスがシェイラに微笑みかけ、シェイラがユリアスを恍惚と見上げてから歩を進めた。
「ランダ・シャナハン王太子殿下」
マグダレナ王妃の弟の息子に当たる王太子ランダは、線の細い柔らかな風貌の美青年だ。
薄紫の髪を長く伸ばし、左肩の前で緩く編んで垂らしている。
シャナハンの民族衣装に身を包んだ彼は、銀色の瞳を細めて笑みを浮かべ、ゆったりと会場を見渡すと、堂々とした足取りで広間へと足を踏み入れる。
未婚で、伯母のマグダレナに似て麗しい王太子の姿に、令嬢達の密やかな歓声が上がった。
「レナルド・チートス国王陛下」
自領であるコバルは、チートスとの国境に近い為、他の国よりも興味がある。
レナルドの姿を見ようと、アマリアは僅かに顔を上げた。
赤銅色の髪には幾らか白いものが混じっているが、豪奢な衣装の上からでも筋骨隆々とした体格が見て取れる。
鋭い瞳の色は、書類によれば紫に銀が混じっている筈だ。
娘のアンジェリカとは似ている要素がないように見えるが、くっきりと華やかで整った顔立ちは、チートス王族らしさと言えるだろう。
その時。
彼の視線とアマリアの視線が、ぶつかった気がした。
(え…?)
国王ともなれば、その視線は全体を見て、一人の人物へと向けられるものではない。
だから、気のせいだとは思うのだが…。
(何かしら)
何だか心がザワザワして、アマリアの眉が顰められる。
続いて、ロイスワルズの王族が入場した為、アマリアの意識はそちらに逸れた。
「エイダ・ナーシャ・ロイスワルズ王女殿下、ランドール・クレス・ロイスワルズ殿下」
まずは、第五王女エイダと、ランドール。
エイダは、金の巻き髪によく映える深紅のドレスを着て、膨らませたスカートの分、距離があるランドールの腕を半ば強引に引き寄せ、エスコートと言う以上に強く抱き着いているように見える。
その姿に、令嬢達から悲鳴のような細い声が上がった。
ランドールが眉を顰めるが、エイダはにこりと笑うだけ。
ランドールの姿は、アマリアが想像していた以上に美麗だった。
長身を包む真っ白な礼装は、ジャケットの裾と袖口に、艶のある藍色で繊細な刺繍が施されている。
白に近い銀髪は後ろに綺麗に撫でつけられており、肩口にかかった毛先が、礼装の白をより一層映えさせていた。
甘えるようにランドールを見上げるエイダに、蜜色の瞳を向ける事なく、口元を引き結んで真っ直ぐに前を向いて中へと進んでいく。
「ソフィア・マディ・ロイスワルズ王女殿下、シャナハン近衛騎士団第二副団長ケイン・アイゼン様」
次に、第四王女ソフィアが、婚約者候補となっているシャナハン王国のケイン・アイゼン公爵令息にエスコートされ、入場する。
五人姉妹の中で、一番大人しい性格と言われるソフィアは、垂れた空色の瞳の美しい王女だ。
瞳に合わせた空色のドレスが、彼女が動くとキラキラと光を反射するのは、小ぶりの宝石で飾られているからだろう。
エスコートを任ぜられたケインは、シャナハン王家の縁戚にあたる。
濃紫の髪を短く切り揃えた彼は、軍服のような装飾の施された服を身に纏っている。
アマリアが事前に読んだ資料によれば、それはシャナハンの近衛騎士団の礼服の筈だ。
ケインは、シャナハン近衛騎士団で第二副団長の地位にあり、いずれは団長の地位に上るであろうと目されている人物である。
凛々しい眉と精悍な顔立ちが、騎士の名に相応しい。
ソフィアは、はにかんだような笑顔を傍らのケインに向けてから、そっと彼の腕に手を添えてゆったりと歩いて行く。
「エリク・セザー・ロイスワルズ王弟殿下、リリーナ・ロイスワルズ王弟妃殿下」
その後ろから、エリクとリリーナの王弟夫妻が堂々たる姿を現した。
太陽のような金髪に菫色の瞳のエリクと、銀髪に琥珀色の瞳のリリーナは、結婚してもう直ぐ三十年になると言うのに、相変わらず仲睦まじい。
王族らしく堂々とした態度でありながらも不遜さは感じさせないのは、浮かべている柔らかな笑みが理由だろう。
「イアン・スート・ロイスワルズ国王陛下、マグダレナ・ロイスワルズ王妃殿下」
最後に、本日の主役である国王イアンと王妃マグダレナが入場した。
エリクそっくりのイアンと、薄紫の髪に空色の瞳のマグダレナには、王弟夫妻とはまた異なる威厳が感じられる。
招待客と来賓に迎えられたイアンが、ゆったりと玉座につくと、会場が割れんばかりの拍手に包まれた。
それを、錫杖を掲げたイアンが制する。
「この平和に、深く感謝する。これからも、更なる我が国と大陸の発展の為に尽くしていく事を、ここに約束する」
イアンが厳かな声で宣言すると、静まり返っていた広間に再び、拍手が沸き起こった。
「今宵は、楽しんで欲しい」
イアンの言葉を受けて、楽団の奏でる音楽が変わる。
イアンはマグダレナに手を差し伸べ、広間の中央へと足を運んだ。
人々が注目する中、二人は向かい合って優雅な礼を交わすと、慣れた様子で手を組み、息の合った素晴らしいダンスを踊る。
一曲を踊り終え、国王夫妻が玉座へと下がり、続いて各国王族とロイスワルズ王族が広間の中央に進み出た。
エスコートの相手がいなかったランダとレナルドは、それぞれ自国から招待されていた貴族の女性を相手に選び、王族らしい堂々としたダンスを踊る。
彼等も注目されていたが、令嬢達の視線は、社交界デビューとなったエイダと、彼女をエスコートするランドールに釘付けになっていた。
アマリアも、その内の一人だ。
エイダは、今夜がデビューとは思えない位、堂々とした態度で優雅に踊り、ランドールはその彼女を引き立てるように、一歩引いてリードしているように見える。
楽しそうに笑顔を浮かべるエイダに対して、ランドールは『氷血の貴公子』の字名に相応しい人形めいた無表情だが、彼の変化に乏しい表情は常の事なので、令嬢達は気にしない。
指先まで美しい動きを見つめ、ほぅ、と溜息を吐くばかりだ。
王族達のダンスが終わった所で、壁際で王族のダンスを鑑賞していた招待客達が、続々と広間へ広がっていく。
広間の中央はダンスを踊る人々で、その周囲は歓談する人々で満たされ、広間は人いきれともまた異なる熱気に包まれた。
王族達の動きはそれぞれで、王弟夫妻は国王夫妻と同じく、一段高い所に設けられた席へと下がったが、ユリアスと婚約者シェイラは続けて二曲目も踊る体勢へ、ソフィアと婚約者候補ケインは歓談する輪へと加わった。
ランドールの姿は、アマリアの立つ位置からでは人々の姿に遮られて確認出来ない。
(待っていて欲しい、と仰って下さったようだけれど…)
独占欲を露わにしたエイダの様子を見ていると、エスコートを代わるのは難しいのではないだろうか。
そこでふと、アレクシスと彼の婚約者の事を思い出す。
「アレクシス様。オルカ様をダンスにお誘いになっては?」
「そうですね、後で誘います」
「ですが…」
「そう言うお約束ですから」
にこやかに言われてしまうと、アマリアには何も言えない。
その時だった。
「アレクシス、オルカ嬢、ご歓談中の所を失礼。私はキース・カイナンと申します。美しい方、よろしければ、お名前を伺ってもよろしいでしょうか?」
アレクシスの名が呼ばれた事に気づいて一歩下がろうとした所で、最後の問い掛けの内容に戸惑う。
オルカの顔を見ると、彼女は苦笑して首を振り、アレクシスもまた、困ったような笑みで首を振った。
「…どなたの事でしょう?」
「この特別な夜会で出会えた、貴女の事ですよ」
アマリアは戸惑いと共に、声を掛けて来た男性の顔を見つめる。
銀色のゆるいウェーブがかった髪、藍玉のように透き通った瞳の、貴公子らしく整った顔立ちに甘い笑みを浮かべているのは、確かにカイナン公爵家嫡男のキースだろう。
王弟妃であるリリーナの実家に当たる、ロイスワルズの筆頭公爵家の令息が、何の用事だろうか。
「あぁ、やっとその視界に私を映して下さいましたね。この広間に一歩足を踏み入れた時から、貴女の事が気になって仕方がなかったのです。よろしければ、一目で恋に落ちた憐れな男に、お名前を聞かせて頂いても?」
これが、中央貴族の一般的な挨拶なのだろうか。
社交界慣れしていないアマリアは、歯の浮くような美辞麗句に喜ぶよりも困惑するのだが、目の前の男性はそれが礼儀だと思っているようだ。
「おい、キース、抜け駆けはしないでくれないか」
軽く片手を胸に当てて礼をしているキースの肩を、別の男性が掴むと、彼の体を押しのけてアマリアに挨拶をする。
「私は、サイモン・ブランドーと申します。私の挨拶も受けて下さい、麗しの君」
「私は、」
サイモンを切っ掛けに、続々と若い高位貴族の男性達の挨拶を受けて、アマリアは面食らって思わず後退ったが、期待の込められた眼差しに、精一杯胸を張って笑みを浮かべると、完璧な所作で膝を折って挨拶を返す。
アマリア本人が思っているよりも艶やかな笑みに、令息達はほぅ、と溜息を洩らした。
「皆様、お声掛け下さいまして、光栄でございます。わたくしは、アマリアと申します」
アレクシスに注意された通り、家名は名乗らない。
「アマリア嬢、美しい名だ」
「夜会に咲く一輪の薔薇」
踵の高い靴を履いているアマリアと、然程身長が変わらない筈なのに、彼らは気にした様子もなく、じりじりと距離を詰めてくる。
思い掛けない反応に、怖気づいてオルカを振り返ると、オルカは一つ頷いて、アマリアの腕を取った。
「アマリア様が怯えてらっしゃいますわ。乙女に相応しい距離と言うものがおありでしょう」
小柄なオルカからの叱責に、気まずそうな顔をした令息達は、僅かにアマリアと距離を取って、彼女の表情を覗き込んだ。
これまでの夜会では、積極的に迫った方が、自尊心が満たされて対応の良くなる令嬢が多かったのだが、アマリアはそうではない事に気づいたのだろう。
「アマリア嬢、失礼致しました。余りに恋敵が多いもので、焦ってしまったようです。お気を悪くされていないでしょうか」
最初に声を掛けてきたキースの問い掛けに、アマリアは緩く首を振る。
「いいえ、そのような事は。お声を掛けて頂いた事に感謝しております」
「では、私に貴女と一曲踊る栄誉を与えてはくれませんか?」
いや、私が、私が、と手を差し出す令息達の姿に、アマリアは心底困惑した。
アレクシスに、最初の一曲はランドールの為に、と言われた時は、他にダンスに誘ってくれる相手等いるわけがないのに、と切り捨てていた筈が、この状況はどういう事だろう。
彼らは、元婚約者が疎んでいたアマリアの深紅の髪も、赤い瞳も、長身も、痩せぎすの体も、低い声も、気にしないと言うのだろうか。
「あの…有難いお申し出ではあるのですが、申し訳ございません。お待ちしている方がいらっしゃるのです」
ざっ、と一斉に上がった顔を見て、思わず後退る。
「その方と、踊った後でよろしければ…」
小さくなる声に、真剣だった令息達の顔に笑みが戻る。
待ち合わせをしていても、一曲のみしか踊らないと言う事は、相手は婚約者ではない。つまりは、自分にも機会がある、と言う事だ。
中央貴族達は、一瞬でそこまで考えると、
「では、お相手がいらっしゃるまで、一緒にお話し致しましょう」
と、アマリアを取り囲んだ。
その様子に、アレクシスとオルカは顔を見合わせる。
中央貴族らしい婉曲的なお断りがアマリアに出来るとは思っていなかったが、まさか、ここまで正直に返事をするとは…と、頭が痛い。
だが同時に、待ち合わせている相手がランドールである時点で、彼らは勝ち目のなさを悟ってくれるだろうから、まぁ、いいか、とも思う。
「待ち人が来るまで、私のお相手を願えないかな?」
アマリアを囲う輪の外から聞こえた重厚な男性の声に顔を上げた令息達が、声の主を確認して、焦って輪を崩した。続いて、自分達はさっと遠巻きに眺める位置に下がる。
アマリアもまた、声の主に目を遣って、慌てて礼を取った。
「レナルド陛下」
覇気、と呼ばれるものだろうか。
広間へと入場してきた時には気づかなかったが、対面すると、その体から吹き付けるような何かを感じる。
高圧的でも威圧的でもない声と表情なのに、思わず頭を下げ、膝を折らねばならない気になるのだ。
アマリアの後ろで、同じように膝を折ったアレクシスは、背筋に冷や汗を掻いていた。
ロイスワルズの貴族であれば、先程のアマリアの断り文句でもダンスを拒否する事は出来るが、相手は国賓、しかも国王。
王弟令息であるランドールよりも上の身分の相手に、同じ言い訳は出来ない。
これが他の相手であれば、ランドールも先を越されたとしても何も言わないかもしれないが、よりによって最も警戒しているレナルドとは。
最悪の事態に、顔を俯かせたまま、下唇を噛む。
「ロイスワルズの花は愛らしいが、ちと小さ過ぎる。それに、そなたと少し、話をしてみたいのだ」
返事を躊躇するアマリアに、レナルドが重ねて声を掛ける。
これ以上は、引き延ばせない…レナルドが差し出した手に、アマリアがおずおずと指を伸ばそうとした時に。
「失礼、レナルド陛下」
ぐい、とアマリアの腰が後ろから強く引かれた。
よろめく体を力強い腕が抱き留め、自らの体に引き寄せる。
「彼女には、私の先約が入っております」
「ランドール殿」
突如現れたランドールの姿に、先程までアマリアを囲んでいた令息達から、ざわめきと嘆息が漏れた。
同時に、ランドールに気づいた令嬢達の悲鳴もまた上がる。
「陛下ともあろうお方が、健気な若者の交わした約束を、踏みにじったりはなさいませんでしょう?」
「…そうだな」
レナルドは鼻白んだように返事をすると、
「仕方あるまい。ここは、ランドール殿を立てるとしよう」
と、意味あり気な視線をランドールに送り、立ち去って行った。
「さて、諸君」
レナルドの後姿を厳しい目で追っていたランドールは、彼が十分離れたのを確認してから、様子を伺っていた令息達へと視線を向け直す。
「アマリアの話し相手をしてくれていた事、感謝する。後は、私に任せてくれるな?」
薄っすらと浮かべた冷酷な笑みに、彼らの背筋が凍り付く。
噂には聞いていたが、『氷血の貴公子』の本領の一端を覗き見た気がした。
「アマリア、こちらに」
腰に回されたままのランドールの腕に戸惑っていたアマリアは、ランドールの声に、慌てて彼らに礼をすると、半ば引きずられるようにして連れて行かれた。
「…アレクシス…あれは一体…」
ランドールの感謝と言う名の怒りを直接ぶつけられたキースが、恐る恐る、アレクシスに尋ねる。
王都でまことしやかに流れていた噂によれば、ランドールが若い女性を伴って休暇を過ごしたとの事だが…眉唾と思っていた噂が、まさか。
ランドールのこれまでの女性関係を知っているからこそ、信じがたい思いでいるキースに、ランドールの忠実な腹心は、苦笑を返した。
「ご覧になった通りです」
「アマリア嬢の待ち人は、ランドール殿下…?」
「まぁ、そう言う事ですね」
「だ、だが、婚約者ではないのだろう。殿下と一曲踊った後は、我々にも機会が…っ」
「う~ん…今の殿下の様子を見てると…どう思います?」
お互いの顔を見合わせて黙り込む令息達に、アレクシスは気の毒そうに追い打ちを掛ける。
「それより皆さん、お気づきになりましたか?」
「な、何に…」
頭をひねった所に、オルカが明るく、
「アマリア様の首飾りと、ランドール殿下のスカーフピン、お揃いですのねっ」
とわざとらしく声を上げる。
「お、お揃い…?」
「お気の毒様です」
意気消沈して、蹌踉とした足取りで立ち去っていく令息達を見送ると、アレクシスとオルカは顔を見合わせた。
「殿下、怖い…」
「言っただろ?最近、殿下が判らない、って」
「これが、権力者の本気の外堀埋め…」
ともあれ、彼らの当座の役目は終わった。
ランドール達が踊る間位は、婚約者としてダンスを楽しむ事も出来るだろう。
「すまないけどオルカ、一曲踊ったら、俺は殿下の元に行かないといけないから」
「承知しております。…頑張ってね」
「ん」
イアンの在位三十年記念式典は、粛々と行われた。
同じ大陸にあるチートス、シャナハン、ユルタの三国のみならず、国交のある他の大陸からも国賓が訪れ、彼の治世を寿いだ。
昼に行われる式典は、国賓と王宮に勤める各組織の長のみの厳粛なものだが、夜に行われる夜会はまた、雰囲気が異なるものとなる。
式典の参列者に加え、国内の主だった貴族に、他国からも交流のある貴族が訪れるのだが、アマリアは人目を避けるべく早い時間に入場した為、広々とした王宮の大広間はまだ、ガランとしている。
「アマリアさん」
父であるギリアンにエスコートされて広間に入場したアマリアは、声を掛けられて振り返った。
「アレクシス様」
アレクシスは、普段は奔放にはねている黒髪をきっちりと撫でつけ、見慣れた文官の白い宮廷服ではなく、黒の礼装に身を包んでいる。
上背があり、顔立ちも甘く整っているだけに、目を引く立ち姿だ。
声を掛けたものの、アレクシスはアマリアの顔を見て、呆然と口を開けて黙り込む。
「あの…アレクシス様?」
「あ、あぁ、すみません。えぇと…とてもお似合いです」
「まぁ、有難うございます」
ふわり、と微笑むアマリアを見て、アレクシスは、確かにアマリアだ、と胸を撫で下ろした。
普段は薄く整えるだけの化粧が、今日はアマリアの華やかな顔立ちが映えるように施され、いつもまとめ上げている深紅の髪が下ろされているだけで、全く雰囲気が違う。
侍女のお仕着せを着ている彼女を見慣れている身からすると、華やかな夜会用のドレスが眩しい。
「ヘイネード殿、お願い出来るだろうか?」
ギリアンは、事前の取り決め通り、アマリアの腕を離してアレクシスへと引き渡す。
書記官長であるギリアンが隣にいては、アマリアの正体が直ぐに周知されてしまう。
「はい、お任せ下さい」
アマリアは、アレクシスの誘導に従って、人目に付きにくい場所へと移動した。
そこに、淡い水色の髪をふわふわと揺らし、砂糖菓子のように柔らかなピンクのドレスを纏った、少女のように可憐な女性が立っている。
頭に入れた来賓の情報を検索し、アレクシスの婚約者であろうと推測した。
「アマリアさん。こちらが、俺の婚約者のオルカ・マキアス子爵令嬢です。オルカ、アマリア嬢だよ」
参列者の耳を気にして、会話に注意を払っているのだろう。
アマリアの家名を告げずに紹介する。
紹介を受けて、オルカは膝を折って優雅に挨拶をした。
「アマリア様。初めまして、オルカと申します。…アレクから、お話は兼々伺っております」
「ご丁寧に有難うございます、オルカ様。アマリアと申します。…あの、お話とは?」
不安そうに尋ねるアマリアに、オルカはにっこりと笑った。
「うふふ。ご心配なさらなくても、いいお話ばかりですわ」
無垢な表情ながら、心の裡を見せない様子は、流石、ランドールの懐刀の婚約者と言った所だろうか。
「アマリアさん。本日は、俺とオルカが暫く、付き添わせて頂きますね」
アマリアの身をランドールが現れるまで守る為に、と、ランドールはアレクシスにアマリアの付き添いを命じていた。
オルカが共に居れば、要らぬ詮索もされないだろう。
「ですが…お二人も踊られるのでは」
「問題ありませんわ、アマリア様。寧ろ、感謝しております。アレクは普段、殿下のお傍についておりますから、このように夜会で共に居られるなんて、滅多にない事なんですのよ」
にこにこと微笑むオルカに、アレクシスが苦笑する。
「と、言うわけです、アマリアさん。どうぞ、機が満ちるまで我々と歓談なさって下さい」
アレクシスが補佐官長である事は、有力貴族であれば誰もが知っている事だ。
その彼が、婚約者と共に囲む女性に、ちらちらと視線が送られる。
普段になく高い踵の靴を履いてきた為、今日のアマリアは周囲の令嬢よりも、頭一つ、背が高いのだ。
長身のアレクシスが傍に居るから、平均的だと錯覚しそうになるが、オルカと比較すれば、その長身は一目瞭然。
すらりとした長身と痩身、そして目立つ深紅の髪を見て、あの令嬢はどこの家の…?と囁く声が、アレクシスの耳に届く。
「それにしても…女性にこのような言葉は失礼かもしれませんが、すっかり見違えました」
「うん、失礼だわ、アレク。素直に、見惚れた、って言えばいいのに」
オルカの言葉に、アレクシスは頭を掻く。
「いやぁ…まぁ、確かにそうなんだけど、そんな事言うと、後が怖くて」
「?」
アマリアが首を傾げると、その動きに従って、長く真っ直ぐな髪が揺れる。
念入りに香油で梳られた髪には、所々に銀色に輝く小さな飾りが留めてあり、広間の装飾灯の光を受けて、アマリアが動く度にきらきらと反射した。
「アマリア様、そのドレスもとっても素敵!どちらで仕立てられましたの?」
「あの、ミーシャ・ハンクスさんの工房で」
「まぁ!ミーシャのドレスですのね!わたくしもミーシャに仕立てて貰いましたの」
そう言って、オルカがその場でくるりと一回転すると、ふわふわとした髪とドレスが翻った。
シフォンの柔らかな生地を何層にも重ねたスカートに、膨らんだ袖が、愛らしい顔立ちのオルカによく似合っている。
「可愛らしくて、とてもお似合いですわ。オルカ様の愛らしさにぴったりです」
ほぅ、と、アマリアが感嘆の溜息を吐くと、オルカは鼻息を荒くして、婚約者を見上げた。
「ほら!やっぱり似合ってるって!可愛いって!アマリア様、聞いて下さいます?アレクってば、全然、褒めてくれないんですのよ」
「そうなのですか?ですが…アレクシス様はオルカ様のお話になると、『可愛い』『可愛い』っていつも、」
「わぁ~~~!アマリアさん、止めて!恥ずかしいから!」
顔を真っ赤にしたアレクシスに遮られて、アマリアはきょとんとする。
「え、でも、」
「恥ずかしすぎて死ねる…」
「何ですか、アマリア様!アレクが私の事を…?!」
「『可愛いオルカ』っていつも…」
「アレクっ」
思わず、婚約者の腕に抱き着くオルカに、アレクシスが真っ赤に染まった顔を向けた。
「私には言ってくれないのに、お外では惚気てるの?」
「……うん」
観念したように頷くアレクシスに、オルカが満面の笑みを浮かべる。
「なぁんだ。アレクったらもう、恥ずかしがり屋さんなんだから」
仲の良い婚約者達の姿を、アマリアは微笑みながら見つめた。
以前は…元婚約者との関係が上手く行っていなかった時は、仲の良い婚約者達を見るとモヤモヤしたものが胸の内にあったが、今では、微笑ましく思える。
これも、成長したと言う事なのだろうか。
「本当にお二人は、仲がよろしいのですね。素敵です」
「アマリア様もでしょう?」
不思議そうなオルカの言葉に、アマリアもまた、首を傾げて答える。
「私…?」
誰との事を指しているのだろう。
その時、静かに流れていた楽団の音楽が変わった。
「あぁ、来賓の皆様の入場ですね」
自国の招待客が全て入場し終えたので、他国からの来賓が入場するのだ。
アレクシスの言葉に、アマリアとオルカが姿勢を正すと、大きく広間の扉が開いた。
広間の中央を通路として開け、目の前を来賓が通った時に頭を下げて礼をする。
アマリアは頭の中で、アレクシスに渡された資料の外見情報と照らし合わせる作業をしながら、来賓を見守った。
爵位の低い順に他国の貴族が入場し終えると、続いて、他国王族が入場を始める。
「シェイラ・ユルタ王女殿下、ユリアス・ヤクト・ロイスワルズ殿下」
まずは、王弟エリクの息子であるユリアスが、近衛騎士団長の正装を身に纏い、婚約者であるユルタ王国シェイラ王女をエスコートして入場する。
ユリアスは、エリクに似て太陽のように輝く金髪とリリーナ譲りの琥珀色の瞳、騎士団で鍛え上げた素晴らしい筋肉を持つ美丈夫だ。
彼の傍らに寄り添うシェイラは、内側から輝くように艶やかな黒髪と、黒曜石のような黒い瞳の美女で、鮮やかな碧玉色のドレスを身に纏っている。
二人は入口で一度立ち止まり、ユリアスがシェイラに微笑みかけ、シェイラがユリアスを恍惚と見上げてから歩を進めた。
「ランダ・シャナハン王太子殿下」
マグダレナ王妃の弟の息子に当たる王太子ランダは、線の細い柔らかな風貌の美青年だ。
薄紫の髪を長く伸ばし、左肩の前で緩く編んで垂らしている。
シャナハンの民族衣装に身を包んだ彼は、銀色の瞳を細めて笑みを浮かべ、ゆったりと会場を見渡すと、堂々とした足取りで広間へと足を踏み入れる。
未婚で、伯母のマグダレナに似て麗しい王太子の姿に、令嬢達の密やかな歓声が上がった。
「レナルド・チートス国王陛下」
自領であるコバルは、チートスとの国境に近い為、他の国よりも興味がある。
レナルドの姿を見ようと、アマリアは僅かに顔を上げた。
赤銅色の髪には幾らか白いものが混じっているが、豪奢な衣装の上からでも筋骨隆々とした体格が見て取れる。
鋭い瞳の色は、書類によれば紫に銀が混じっている筈だ。
娘のアンジェリカとは似ている要素がないように見えるが、くっきりと華やかで整った顔立ちは、チートス王族らしさと言えるだろう。
その時。
彼の視線とアマリアの視線が、ぶつかった気がした。
(え…?)
国王ともなれば、その視線は全体を見て、一人の人物へと向けられるものではない。
だから、気のせいだとは思うのだが…。
(何かしら)
何だか心がザワザワして、アマリアの眉が顰められる。
続いて、ロイスワルズの王族が入場した為、アマリアの意識はそちらに逸れた。
「エイダ・ナーシャ・ロイスワルズ王女殿下、ランドール・クレス・ロイスワルズ殿下」
まずは、第五王女エイダと、ランドール。
エイダは、金の巻き髪によく映える深紅のドレスを着て、膨らませたスカートの分、距離があるランドールの腕を半ば強引に引き寄せ、エスコートと言う以上に強く抱き着いているように見える。
その姿に、令嬢達から悲鳴のような細い声が上がった。
ランドールが眉を顰めるが、エイダはにこりと笑うだけ。
ランドールの姿は、アマリアが想像していた以上に美麗だった。
長身を包む真っ白な礼装は、ジャケットの裾と袖口に、艶のある藍色で繊細な刺繍が施されている。
白に近い銀髪は後ろに綺麗に撫でつけられており、肩口にかかった毛先が、礼装の白をより一層映えさせていた。
甘えるようにランドールを見上げるエイダに、蜜色の瞳を向ける事なく、口元を引き結んで真っ直ぐに前を向いて中へと進んでいく。
「ソフィア・マディ・ロイスワルズ王女殿下、シャナハン近衛騎士団第二副団長ケイン・アイゼン様」
次に、第四王女ソフィアが、婚約者候補となっているシャナハン王国のケイン・アイゼン公爵令息にエスコートされ、入場する。
五人姉妹の中で、一番大人しい性格と言われるソフィアは、垂れた空色の瞳の美しい王女だ。
瞳に合わせた空色のドレスが、彼女が動くとキラキラと光を反射するのは、小ぶりの宝石で飾られているからだろう。
エスコートを任ぜられたケインは、シャナハン王家の縁戚にあたる。
濃紫の髪を短く切り揃えた彼は、軍服のような装飾の施された服を身に纏っている。
アマリアが事前に読んだ資料によれば、それはシャナハンの近衛騎士団の礼服の筈だ。
ケインは、シャナハン近衛騎士団で第二副団長の地位にあり、いずれは団長の地位に上るであろうと目されている人物である。
凛々しい眉と精悍な顔立ちが、騎士の名に相応しい。
ソフィアは、はにかんだような笑顔を傍らのケインに向けてから、そっと彼の腕に手を添えてゆったりと歩いて行く。
「エリク・セザー・ロイスワルズ王弟殿下、リリーナ・ロイスワルズ王弟妃殿下」
その後ろから、エリクとリリーナの王弟夫妻が堂々たる姿を現した。
太陽のような金髪に菫色の瞳のエリクと、銀髪に琥珀色の瞳のリリーナは、結婚してもう直ぐ三十年になると言うのに、相変わらず仲睦まじい。
王族らしく堂々とした態度でありながらも不遜さは感じさせないのは、浮かべている柔らかな笑みが理由だろう。
「イアン・スート・ロイスワルズ国王陛下、マグダレナ・ロイスワルズ王妃殿下」
最後に、本日の主役である国王イアンと王妃マグダレナが入場した。
エリクそっくりのイアンと、薄紫の髪に空色の瞳のマグダレナには、王弟夫妻とはまた異なる威厳が感じられる。
招待客と来賓に迎えられたイアンが、ゆったりと玉座につくと、会場が割れんばかりの拍手に包まれた。
それを、錫杖を掲げたイアンが制する。
「この平和に、深く感謝する。これからも、更なる我が国と大陸の発展の為に尽くしていく事を、ここに約束する」
イアンが厳かな声で宣言すると、静まり返っていた広間に再び、拍手が沸き起こった。
「今宵は、楽しんで欲しい」
イアンの言葉を受けて、楽団の奏でる音楽が変わる。
イアンはマグダレナに手を差し伸べ、広間の中央へと足を運んだ。
人々が注目する中、二人は向かい合って優雅な礼を交わすと、慣れた様子で手を組み、息の合った素晴らしいダンスを踊る。
一曲を踊り終え、国王夫妻が玉座へと下がり、続いて各国王族とロイスワルズ王族が広間の中央に進み出た。
エスコートの相手がいなかったランダとレナルドは、それぞれ自国から招待されていた貴族の女性を相手に選び、王族らしい堂々としたダンスを踊る。
彼等も注目されていたが、令嬢達の視線は、社交界デビューとなったエイダと、彼女をエスコートするランドールに釘付けになっていた。
アマリアも、その内の一人だ。
エイダは、今夜がデビューとは思えない位、堂々とした態度で優雅に踊り、ランドールはその彼女を引き立てるように、一歩引いてリードしているように見える。
楽しそうに笑顔を浮かべるエイダに対して、ランドールは『氷血の貴公子』の字名に相応しい人形めいた無表情だが、彼の変化に乏しい表情は常の事なので、令嬢達は気にしない。
指先まで美しい動きを見つめ、ほぅ、と溜息を吐くばかりだ。
王族達のダンスが終わった所で、壁際で王族のダンスを鑑賞していた招待客達が、続々と広間へ広がっていく。
広間の中央はダンスを踊る人々で、その周囲は歓談する人々で満たされ、広間は人いきれともまた異なる熱気に包まれた。
王族達の動きはそれぞれで、王弟夫妻は国王夫妻と同じく、一段高い所に設けられた席へと下がったが、ユリアスと婚約者シェイラは続けて二曲目も踊る体勢へ、ソフィアと婚約者候補ケインは歓談する輪へと加わった。
ランドールの姿は、アマリアの立つ位置からでは人々の姿に遮られて確認出来ない。
(待っていて欲しい、と仰って下さったようだけれど…)
独占欲を露わにしたエイダの様子を見ていると、エスコートを代わるのは難しいのではないだろうか。
そこでふと、アレクシスと彼の婚約者の事を思い出す。
「アレクシス様。オルカ様をダンスにお誘いになっては?」
「そうですね、後で誘います」
「ですが…」
「そう言うお約束ですから」
にこやかに言われてしまうと、アマリアには何も言えない。
その時だった。
「アレクシス、オルカ嬢、ご歓談中の所を失礼。私はキース・カイナンと申します。美しい方、よろしければ、お名前を伺ってもよろしいでしょうか?」
アレクシスの名が呼ばれた事に気づいて一歩下がろうとした所で、最後の問い掛けの内容に戸惑う。
オルカの顔を見ると、彼女は苦笑して首を振り、アレクシスもまた、困ったような笑みで首を振った。
「…どなたの事でしょう?」
「この特別な夜会で出会えた、貴女の事ですよ」
アマリアは戸惑いと共に、声を掛けて来た男性の顔を見つめる。
銀色のゆるいウェーブがかった髪、藍玉のように透き通った瞳の、貴公子らしく整った顔立ちに甘い笑みを浮かべているのは、確かにカイナン公爵家嫡男のキースだろう。
王弟妃であるリリーナの実家に当たる、ロイスワルズの筆頭公爵家の令息が、何の用事だろうか。
「あぁ、やっとその視界に私を映して下さいましたね。この広間に一歩足を踏み入れた時から、貴女の事が気になって仕方がなかったのです。よろしければ、一目で恋に落ちた憐れな男に、お名前を聞かせて頂いても?」
これが、中央貴族の一般的な挨拶なのだろうか。
社交界慣れしていないアマリアは、歯の浮くような美辞麗句に喜ぶよりも困惑するのだが、目の前の男性はそれが礼儀だと思っているようだ。
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軽く片手を胸に当てて礼をしているキースの肩を、別の男性が掴むと、彼の体を押しのけてアマリアに挨拶をする。
「私は、サイモン・ブランドーと申します。私の挨拶も受けて下さい、麗しの君」
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サイモンを切っ掛けに、続々と若い高位貴族の男性達の挨拶を受けて、アマリアは面食らって思わず後退ったが、期待の込められた眼差しに、精一杯胸を張って笑みを浮かべると、完璧な所作で膝を折って挨拶を返す。
アマリア本人が思っているよりも艶やかな笑みに、令息達はほぅ、と溜息を洩らした。
「皆様、お声掛け下さいまして、光栄でございます。わたくしは、アマリアと申します」
アレクシスに注意された通り、家名は名乗らない。
「アマリア嬢、美しい名だ」
「夜会に咲く一輪の薔薇」
踵の高い靴を履いているアマリアと、然程身長が変わらない筈なのに、彼らは気にした様子もなく、じりじりと距離を詰めてくる。
思い掛けない反応に、怖気づいてオルカを振り返ると、オルカは一つ頷いて、アマリアの腕を取った。
「アマリア様が怯えてらっしゃいますわ。乙女に相応しい距離と言うものがおありでしょう」
小柄なオルカからの叱責に、気まずそうな顔をした令息達は、僅かにアマリアと距離を取って、彼女の表情を覗き込んだ。
これまでの夜会では、積極的に迫った方が、自尊心が満たされて対応の良くなる令嬢が多かったのだが、アマリアはそうではない事に気づいたのだろう。
「アマリア嬢、失礼致しました。余りに恋敵が多いもので、焦ってしまったようです。お気を悪くされていないでしょうか」
最初に声を掛けてきたキースの問い掛けに、アマリアは緩く首を振る。
「いいえ、そのような事は。お声を掛けて頂いた事に感謝しております」
「では、私に貴女と一曲踊る栄誉を与えてはくれませんか?」
いや、私が、私が、と手を差し出す令息達の姿に、アマリアは心底困惑した。
アレクシスに、最初の一曲はランドールの為に、と言われた時は、他にダンスに誘ってくれる相手等いるわけがないのに、と切り捨てていた筈が、この状況はどういう事だろう。
彼らは、元婚約者が疎んでいたアマリアの深紅の髪も、赤い瞳も、長身も、痩せぎすの体も、低い声も、気にしないと言うのだろうか。
「あの…有難いお申し出ではあるのですが、申し訳ございません。お待ちしている方がいらっしゃるのです」
ざっ、と一斉に上がった顔を見て、思わず後退る。
「その方と、踊った後でよろしければ…」
小さくなる声に、真剣だった令息達の顔に笑みが戻る。
待ち合わせをしていても、一曲のみしか踊らないと言う事は、相手は婚約者ではない。つまりは、自分にも機会がある、と言う事だ。
中央貴族達は、一瞬でそこまで考えると、
「では、お相手がいらっしゃるまで、一緒にお話し致しましょう」
と、アマリアを取り囲んだ。
その様子に、アレクシスとオルカは顔を見合わせる。
中央貴族らしい婉曲的なお断りがアマリアに出来るとは思っていなかったが、まさか、ここまで正直に返事をするとは…と、頭が痛い。
だが同時に、待ち合わせている相手がランドールである時点で、彼らは勝ち目のなさを悟ってくれるだろうから、まぁ、いいか、とも思う。
「待ち人が来るまで、私のお相手を願えないかな?」
アマリアを囲う輪の外から聞こえた重厚な男性の声に顔を上げた令息達が、声の主を確認して、焦って輪を崩した。続いて、自分達はさっと遠巻きに眺める位置に下がる。
アマリアもまた、声の主に目を遣って、慌てて礼を取った。
「レナルド陛下」
覇気、と呼ばれるものだろうか。
広間へと入場してきた時には気づかなかったが、対面すると、その体から吹き付けるような何かを感じる。
高圧的でも威圧的でもない声と表情なのに、思わず頭を下げ、膝を折らねばならない気になるのだ。
アマリアの後ろで、同じように膝を折ったアレクシスは、背筋に冷や汗を掻いていた。
ロイスワルズの貴族であれば、先程のアマリアの断り文句でもダンスを拒否する事は出来るが、相手は国賓、しかも国王。
王弟令息であるランドールよりも上の身分の相手に、同じ言い訳は出来ない。
これが他の相手であれば、ランドールも先を越されたとしても何も言わないかもしれないが、よりによって最も警戒しているレナルドとは。
最悪の事態に、顔を俯かせたまま、下唇を噛む。
「ロイスワルズの花は愛らしいが、ちと小さ過ぎる。それに、そなたと少し、話をしてみたいのだ」
返事を躊躇するアマリアに、レナルドが重ねて声を掛ける。
これ以上は、引き延ばせない…レナルドが差し出した手に、アマリアがおずおずと指を伸ばそうとした時に。
「失礼、レナルド陛下」
ぐい、とアマリアの腰が後ろから強く引かれた。
よろめく体を力強い腕が抱き留め、自らの体に引き寄せる。
「彼女には、私の先約が入っております」
「ランドール殿」
突如現れたランドールの姿に、先程までアマリアを囲んでいた令息達から、ざわめきと嘆息が漏れた。
同時に、ランドールに気づいた令嬢達の悲鳴もまた上がる。
「陛下ともあろうお方が、健気な若者の交わした約束を、踏みにじったりはなさいませんでしょう?」
「…そうだな」
レナルドは鼻白んだように返事をすると、
「仕方あるまい。ここは、ランドール殿を立てるとしよう」
と、意味あり気な視線をランドールに送り、立ち去って行った。
「さて、諸君」
レナルドの後姿を厳しい目で追っていたランドールは、彼が十分離れたのを確認してから、様子を伺っていた令息達へと視線を向け直す。
「アマリアの話し相手をしてくれていた事、感謝する。後は、私に任せてくれるな?」
薄っすらと浮かべた冷酷な笑みに、彼らの背筋が凍り付く。
噂には聞いていたが、『氷血の貴公子』の本領の一端を覗き見た気がした。
「アマリア、こちらに」
腰に回されたままのランドールの腕に戸惑っていたアマリアは、ランドールの声に、慌てて彼らに礼をすると、半ば引きずられるようにして連れて行かれた。
「…アレクシス…あれは一体…」
ランドールの感謝と言う名の怒りを直接ぶつけられたキースが、恐る恐る、アレクシスに尋ねる。
王都でまことしやかに流れていた噂によれば、ランドールが若い女性を伴って休暇を過ごしたとの事だが…眉唾と思っていた噂が、まさか。
ランドールのこれまでの女性関係を知っているからこそ、信じがたい思いでいるキースに、ランドールの忠実な腹心は、苦笑を返した。
「ご覧になった通りです」
「アマリア嬢の待ち人は、ランドール殿下…?」
「まぁ、そう言う事ですね」
「だ、だが、婚約者ではないのだろう。殿下と一曲踊った後は、我々にも機会が…っ」
「う~ん…今の殿下の様子を見てると…どう思います?」
お互いの顔を見合わせて黙り込む令息達に、アレクシスは気の毒そうに追い打ちを掛ける。
「それより皆さん、お気づきになりましたか?」
「な、何に…」
頭をひねった所に、オルカが明るく、
「アマリア様の首飾りと、ランドール殿下のスカーフピン、お揃いですのねっ」
とわざとらしく声を上げる。
「お、お揃い…?」
「お気の毒様です」
意気消沈して、蹌踉とした足取りで立ち去っていく令息達を見送ると、アレクシスとオルカは顔を見合わせた。
「殿下、怖い…」
「言っただろ?最近、殿下が判らない、って」
「これが、権力者の本気の外堀埋め…」
ともあれ、彼らの当座の役目は終わった。
ランドール達が踊る間位は、婚約者としてダンスを楽しむ事も出来るだろう。
「すまないけどオルカ、一曲踊ったら、俺は殿下の元に行かないといけないから」
「承知しております。…頑張ってね」
「ん」
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