私の悠々自適な引きこもり生活は、可愛い女の子によって終わりを迎えてしまいました。

神楽咲久來

文字の大きさ
上 下
29 / 35

第二十九話 科学の力ってスゲー!

しおりを挟む
「あのさ、最近私たちずっと月の部屋に来てる気がするんだけど」
「え? そうかな」
今日も私たちは月の部屋にお邪魔している。いい加減うっとうしく思われてないか不安になってくる。
「別に来ても構わないけどさ。こう何度もこられると研究とかが出来ないんだよね」
「だよな。ほら日菜、月もこう言ってるし今日は帰るぞ」
「え~? まだここでゆっくりしたい~!」
日菜が夢中になっているときに何を言っても無駄なことは分かっているので、日菜を肩に担いで連れ帰る。

「はぁ~・・・・・・。どこで遊ぼうかな・・・・・・」
「そもそも学校は遊ぶところじゃない」
別に月のところに毎度毎度行かずとも、この学校なら遊ぶ場所たくさんあるだろ。
「あ、何かいい匂いがする」
「この匂いは・・・・・・、べっこう飴か?」
「美味しそうだからちょっと行ってくる!」
「あっ、バカ!」
廊下を走りながら匂いの元へ行ってしまった。

「ここって、実験室?」
ドアの前に掛けられているネームプレートには、『奏上(そうじょう)研究所』と書かれている。
「随分おしゃれな名前だな」
「失礼しまーす!」
毎度恒例の、日菜のドア破壊を披露し入室した。そして私が代わりに弁償する流れだ。一体どんだけ私にドア買わせれば気が済むんだよ!
「おっ。どうしたのかな? 見学なら見て行っても構わないよ」
オーバーサイズの白衣を着た少女が薬品を手に持ちながら話しかけてきた。
「いやアンタ冷静だな、自室のドア破壊されてんのに」
「えっと、君の名前は? 私は神楽日菜だよ」
「自分から名乗るとは、礼儀がいい子だ。私の名前は奏上綾目(そうじょうあやめ)だ。よろしく」
人の部屋のドアを破壊して入室してくる女のどこが礼儀正しいんだよ。
「今はおやつを作っているから、完成するまで座っててね」
「すみません・・・・・・」

「それで、君たちはどうしてここに来たのかな?」
綾目はべっこう飴を舐めながら話す。
「何か美味しそうな匂いがしたから来ちゃった! 他にはどんなお菓子があるの?」
「人の部屋に入って、菓子をねだるな」
「積極性のある子は嫌いじゃないよ。他にも作ってあげるから待ってて」
席を立ち調理の準備をする綾目を私は慌てて制止する。
「おいおい、やらなくていいんだぞ。あまりこいつを甘やかさないでくれ」
このセリフ前にもどこかで言ったな。
「構わないさ。 こういう子が科学に興味を持ってくれたら、科学者として嬉しいことはないよ。最近の子供は理系分野が好きではない子が多いと聞くからね。科学はこんなにも楽しいのに本当にもったいない」
「お前いくつだよ」
「歳は気にしないでくれ。君も食べたいものはあるかい?」
「別に私は大丈夫だが・・・・・・」
連れがやったとはいえ、ドア破壊した上に菓子まで食わせてもらって本当に申し訳ない・・・・・・。
「子供が遠慮するもんじゃないよ。私はある程度の料理なら出来るから言ってくれないか」
「じゃあ、お言葉に甘えさせていただこうか」

「皆で食べるご飯は美味しいね。ここ三日間ぐらい何も食べていなかったからそれがエッセンスになってさらに美味しく感じるよ」
綾目と私はスパゲッティを、日菜は追加の飴を食べながら談笑する。
「飯くらいちゃんと食え」
私が言えることじゃないけど。
「実験をやっているときは食事なんてどうでもいいからね。エナジードリンクとエナジーバーで済ませてるよ」
「こういうやつが将来生活習慣病になるんだな。よく分かったよ」
「二人は食べてていいよ。私は実験を再開するからね」
「そうか。気をつけろよ」
私は一気にスパゲッティを口へかき込む。
「ごっそさん。帰るぞ日菜」
「わー! 何この液体! あ、こっちもすごい!」
「君も科学に興味があるのかい? 科学は楽しいよ」
「たわけぇ! (※バカ者)」
これ以上問題を起こされると私のメンタルが持たないので、急いで日菜を連れ帰ることにする。というよりメンタルが持たないどころか最近日菜のせいでストレス溜まって胃が痛い。
「ははは。いいんだよ。子供は自由に学ばせてあげないとね」
綾目は白衣のポケットに入っていた試験管を開けビーカーの中に注ぐ。何その薬品、見たことない色してんだけど。
「こいつは余計なことまで学ぶんだよ」
「この世の中に知ってて損することはないんだよ。全部自分の一部となって未来に役立つんだからね。日菜ちゃんもやってみるかい?」
綾目は日菜に試験管を手渡す。
「ありがとう! やってみる!」
「もう勝手にしてくれ・・・・・・」
ここまで来ると逆に呆れてくる。全国の親御さんたちが祖父祖母の孫に対する甘やかしを阻止する理由がよく分かった。
ドガン!
「何だ!?」
何かが爆発する音がした。おそらくさっきの薬品だろう。
「おい日菜! 大丈夫か!」
「ん? 大丈夫だよ、私結構頑丈だからね」
爆発に巻き込まれて無傷なのは、もう頑丈とは言わない。
「そういえば綾目は?」
横を向くと、体中から血を流して床に倒れている綾目がいた。
「は!? おい綾目! しっかりしろ!」
「お、お医者さん呼ばなくちゃ!」
「バカ者、救急車を呼ぶんだよ!」
流石の私もリアルで人命救助はしたことがないので、当然パニックになる。すると・・・・・・
「あー・・・・・・、また死んじゃったなぁ。失敗失敗」
「・・・・・・は?」
次の瞬間、綾目はゾンビのように体をひねり、再び立ち上がった。
「え? 言い方悪いけど何で無事なんだ・・・・・・?」
「そういえば言ってなかったね。私、体を改造してるから死なないよ」
死なない・・・・・・? 聞き間違いかな?
「私は半分ゾンビのような存在だからね。不老不死の存在だよ」
「・・・・・・日菜、私は夢を見ているのか?」
「現実だよ、実ちゃん」
「と、とりあえず詳しく話してもらえないかな? あとこっちに近づかないでくれ」
ゾンビと言われて近づこうとする人間はいない。私たちは綾目から心理的にも物理的にも距離をとる。だって噛まれたらゾンビになるもん。
「さっきも言ったけど、私は体を改造して不老不死になっているんだ。『半ゾンビ』と言った方が良いかな」
「何で改造なんてしたんだよ。まさか自分の体で人体実験でもしたのか?」
「半分正解だね。人体実験はしたいけど、被験者がいないから自分の体を使うしかない。事実、私の体の内臓、何個か摘出して実験に使ったから」
「ぎゃああああああああ!」
「そりゃ日菜も悲鳴上げるわな。日菜に恐怖を覚えさせるなんてやるなお前」
「そして、ある日いつも通り自分の体を使って人体実験をしていたら、こうなっていたってわけ」
「その『ある日』に一体何をやったんだよ」
「何で綾目ちゃんはそんなに実験をしたいの?」
日菜が問いかける。
「それはね・・・・・・私は『人の極』が見てみたいんだよ。言い換えると人の終着点とも言えるかな」
「人の終着点・・・・・・?」
「そう。人がどこまで成長できるのか。人がどこまで強くなれるのか。人はどこまで進化できるのか。そして、最高に美しい、人の終わり方とは何なのか。それを私はこの目で見てみたいんだよ。私の目的はそれ以上でもそれ以下でもない」
「な、なるほどな」
「その為に私は永遠に研究を続けられる体を作った。私の今の最高傑作は、私自身だよ」
この人、俗に言う『マッドサイエンティスト』か?
「何か、月と気が合いそうな奴だな・・・・・・」
「今度会わせてあげようよ。仲良く慣れるかもね」
「君たち、月を知ってるのかい?」
「知ってるが何か?」

月の部屋
「月ちゃーん! 今日はお友達を連れてきたよ!」
「だからボクは忙しいんだよ・・・・・・」
その後ろから、綾目が部屋の中に入ってくる。
「久しぶりですね。月さん」
「綾目!? 何でここにいるんだ!?」
「やっぱり知り合いか」
「うん。私と月さんは、昔同じ研究所にいたんだ。月さんは先輩だったけどね」
だが、月の顔が青ざめていく。
「二人とも・・・・・・、何故綾目をここに案内したんだ」
「え? だめだったかな」
「こいつにだけは二度と会いたくなかったのに・・・・・・」
「そんな事言わないでくださいよ、久々の再開なんですからもっと喜んでくださいよ」
月はため息をつきながら、手で目を覆う。
「綾目は、昔からいかれた頭の持ち主だったんだよ・・・・・・。研究所の後輩とか同期を誘拐しては人体実験を始めるし、そこらへんの野良犬や野良猫に躊躇なく注射器で薬品投与するし」
「いや怖すぎだろ」
「本当に彼女はマッドサイエンティストの鏡のような存在だったよ。それで、結局何か進歩したのかい?」
月は座っていた椅子をくるくる回しながら話す。目が回りそうだ。
「進歩ですか。体を改造して半ゾンビになりました! どうですか? 私も成長しましたよ!」
「お前・・・・・・、ついにやったか・・・・・・。あれほど自分の体で人体実験をするのはやめろと言ったはずなのに・・・・・・」
「ほめてくれないんですか?」
「後輩が人間じゃなくなって喜ぶ先輩がどこにいるんだよ・・・・・・」
珍しく月が精神的ダメージを受けている。
「でも、なってしまったものは仕方ないですし、どうせもう死にたくても死ねないんでずっと研究してますよ」
「その根性をもっと良い方向に向けられなかったのか?」
「あのー、私たちはそろそろ帰っても良いか?」
「待て。今日は勝手に私の部屋に綾目を連れ込んだ罰として、たっぷりと綾目に対する愚痴を聞いてもらうぞ」
「えぇ~・・・・・・、めんどくさいな」

その後私たちは、月の愚痴を聞くはずが綾目が菓子を持ってきたので、なぜかパーティを開く羽目になってしまった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

〈社会人百合〉アキとハル

みなはらつかさ
恋愛
 女の子拾いました――。  ある朝起きたら、隣にネイキッドな女の子が寝ていた!?  主人公・紅(くれない)アキは、どういったことかと問いただすと、酔っ払った勢いで、彼女・葵(あおい)ハルと一夜をともにしたらしい。  しかも、ハルは失踪中の大企業令嬢で……? 絵:Novel AI

百合系サキュバスにモテてしまっていると言う話

釧路太郎
キャラ文芸
名門零楼館高校はもともと女子高であったのだが、様々な要因で共学になって数年が経つ。 文武両道を掲げる零楼館高校はスポーツ分野だけではなく進学実績も全国レベルで見ても上位に食い込んでいるのであった。 そんな零楼館高校の歴史において今まで誰一人として選ばれたことのない“特別指名推薦”に選ばれたのが工藤珠希なのである。 工藤珠希は身長こそ平均を超えていたが、運動や学力はいたって平均クラスであり性格の良さはあるものの特筆すべき才能も無いように見られていた。 むしろ、彼女の幼馴染である工藤太郎は様々な部活の助っ人として活躍し、中学生でありながら様々な競技のプロ団体からスカウトが来るほどであった。更に、学力面においても優秀であり国内のみならず海外への進学も不可能ではないと言われるほどであった。 “特別指名推薦”の話が学校に来た時は誰もが相手を間違えているのではないかと疑ったほどであったが、零楼館高校関係者は工藤珠希で間違いないという。 工藤珠希と工藤太郎は血縁関係はなく、複雑な家庭環境であった工藤太郎が幼いころに両親を亡くしたこともあって彼は工藤家の養子として迎えられていた。 兄妹同然に育った二人ではあったが、お互いが相手の事を守ろうとする良き関係であり、恋人ではないがそれ以上に信頼しあっている。二人の関係性は苗字が同じという事もあって夫婦と揶揄されることも多々あったのだ。 工藤太郎は県外にあるスポーツ名門校からの推薦も来ていてほぼ内定していたのだが、工藤珠希が零楼館高校に入学することを決めたことを受けて彼も零楼館高校を受験することとなった。 スポーツ分野でも名をはせている零楼館高校に工藤太郎が入学すること自体は何の違和感もないのだが、本来入学する予定であった高校関係者は落胆の声をあげていたのだ。だが、彼の出自も相まって彼の意志を否定する者は誰もいなかったのである。 二人が入学する零楼館高校には外に出ていない秘密があるのだ。 零楼館高校に通う生徒のみならず、教員職員運営者の多くがサキュバスでありそのサキュバスも一般的に知られているサキュバスと違い女性を対象とした変異種なのである。 かつては“秘密の花園”と呼ばれた零楼館女子高等学校もそういった意味を持っていたのだった。 ちなみに、工藤珠希は工藤太郎の事を好きなのだが、それは誰にも言えない秘密なのである。 この作品は「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルアッププラス」「ノベルバ」「ノベルピア」にも掲載しております。

【⁉】意味がわかると怖い話【解説あり】

絢郷水沙
ホラー
普通に読めばそうでもないけど、よく考えてみたらゾクッとする、そんな怖い話です。基本1ページ完結。 下にスクロールするとヒントと解説があります。何が怖いのか、ぜひ推理しながら読み進めてみてください。 ※全話オリジナル作品です。

交換した性別

廣瀬純七
ファンタジー
幼い頃に魔法で性別を交換した男女の話

君の隣で奏でたい

朝海いよ
青春
高校1年生の春日美奈は、毎日どこかつまらない日々を送っていた。クラスの表面的な友人関係に馴染みつつも、孤独を感じていたある日、遅刻常習犯らしき女子生徒・松波奏と出会う。 奏は吹奏楽部には所属せず、一人でトランペットを吹く自由な少女だった。学校をサボる彼女を興味本位で追いかけた美奈は、海辺で奏の演奏を目の当たりにし、その圧倒的な輝きに心を奪われる。 自分とは違う、自由でまっすぐな奏に惹かれた美奈は、彼女の勧めでトランペットに触れてみることに。奏との出会いをきっかけに、美奈の退屈だった日常が少しずつ変わり始める。

ベスティエンⅣ

熒閂
ライト文芸
美少女と強面との美女と野獣っぽい青春恋愛物語。 恋するオトメと武人のプライドの狭間で葛藤するちょっと天然の少女と、モンスターと恐れられるほどの力を持つ強面との、たまにシリアスたまにコメディな学園生活。 名門お嬢様学校に通う少女が、彼氏を追いかけて地元で恐れられる最悪の不良校に入学。 女子生徒数はわずか1%という環境でかなり注目を集めるなか、入学早々に不良をのしてしまったり暴走族にさらわれてしまったり、彼氏の心配をよそに前途多難な学園生活。 不良たちに暴君と恐れられる彼氏に溺愛されながらも、さらに事件に巻き込まれていく。 人間の女に恋をしたモンスターのお話がハッピーエンドだったことはない。 鐵のような両腕を持ち、鋼のような無慈悲さで、鬼と怖れられ獣と罵られ、己のサガを自覚しながらも 恋して焦がれて、愛さずにはいられない。

処理中です...