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二章 複雑な恋模様
悠里サイド ねえ、恋の神様。
しおりを挟むふあふあとした感覚が今も胸一杯に溢れていてどこか落ち着かない。
やっぱりかっこいい。
やっぱり好きだ。
そういう女子めいた感情にどうしても陥ってしまう。
だってあんなの見せられたら、どうしようもなくそんな底なし沼に沈んでしまう。
(あれが私の好きな相手なんだぞっ! どうだ! 今惚れたって遅いぞ!)
なんて思いをこの口から吐き出したい。……まあ、みんなに駿の良さを知られたくないから言うつもりはないんだけどね。
そんな罪作りな駿は嫌いだ……うそ、好き。
だけど、そんな恋物語っていうのはいつだってうまくいかないものなのだろう。
あの瞬間、誰より欲しかった駿の一番をやっぱり彼女は奪い去っていった。
駿が一番で駆け抜けたそのゴールの喜びは、私ではない実菜ちゃんへと向かった。
なぜだろう。
その時吹き抜けていった夏風は、暖かいはずなのに私にはとても冷たく感じた。
なんでなんで、この期間誰よりも駿の近くにいたはずなのに……なのにどうしてあなたの思いの矛先は私ではないあの子の元に向かっているの。
言葉で好きじゃないと言われるよりもハッキリと私に突きつけて来る何かがそこにあった。
やっぱり私は彼の恋人にはなれない。
彼にとっての私、児玉悠里というポジションは友達という関係を越えることはできない。その前にはどうしても越えられない壁のようなものがあるのだとハッキリと思い知らされた。
恋人という関係がなくなっても尚、彼の心の奥底には彼女の存在が根強くいるのだ。
ゴール前で駿を囲む私たちよりも遥か遠くにいるはずなのに、なぜか心の距離のようなものは私よりももっと近くにいる。
「はあ……」
こんなみんな盛りがっている場面には似つかわしくないため息、思わずぽろり。
「何ため息なんてついてんだよ」
「なんで私のため息聞こえてるのさ」
「そりゃあ、こんだけ近くにいればいやでも聞こえて来るっての」
駿は、私たちの元を離れてクラスメイトに囲まれていた。もみくちゃにされている彼を見ているのは楽しい。だけどそんな楽しさもどこか楽しんでいるように見せているだけのハリボテに感じる。
心は全然、そこになんてなかった。
「まあ、お前見てれば分かるけど、本当に気づいて欲しかったのは俺じゃなくてあいつなんだろうな」
どこかそっけない口調で正樹がいう。
「ほんとだよばか、今すぐその場所駿と入れ替われ!」
「無茶言うな」
私の前ではいつの間にか雨が降っている。
ちがう、これは雨なんかじゃない。涙だ。
堰き止めていたはずのその思いも、気持ちも涙となって瞳から溢れ出て来る。
「ここにいるのが俺ですまんな」
「あやまんなばかぁ」
まだ振られたわけじゃないのに。
なのに、なんでこんなに心が苦しいんだ。
ねえ、教えてよ恋の神様。
なんで恋ってこんなにも私の心を突き刺したように痛めつけるの。
ねえ、教えてよ恋の神様。
どうやったら彼の心は私の方に向いてくれるのでしょうか。
ねえ、恋の神様。
私の恋は報われるのでしょうか。
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