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一章 長年の恋が終わった

前準備

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 長かったような、それでもどこか短かったような週末も終わり世間にとっては何よりも怖い存在である月曜日が出迎える。月曜日ってやつはなぜか一番最初にやってくるのにラスボスみたいな恐ろしさだからな……。

 週末は私服で歩いている人の多かったこの通学路も今は制服を身に纏った人たちで溢れかえっている。

 その集団の大半から「だりぃ」とか、「一週間が始まった」なんてマイナス面の多い言葉が聞こえてくるが、俺の気持ちはそれらの声とは少しだけ違った。

 やっと始まってくれた。そんな気持ちで一杯だった。

 週末、特に日曜は悩みに悩んだ一日だっただけに、その悩みの一部を解消できる舞台となる学校が待ち遠しかった。

「おっは、正樹」

 学校に向かう道のりで気だるそうに欠伸をしていた正樹に声をかけた。

「おっは、珍しいな通学路で会うの」
「確かに」

 普段は正樹よりも先に教室に居る俺だけど、今日はいつもより遅い時間に家を出た。運がよければこいつに会えるんじゃないかと思っていたから。

「あのさ正樹」
「ん……? どした?」
「お願いしたいことがある」
「いいぜ」

 二つ返事で回答が返ってくる。

「まだ内容を言ってないんだが?」
「どうせ、真剣な内容だろ? なら別に断らんよ……まあ誰かを傷つける内容じゃなければだがな」
「実菜のことだよ」

 俺のこのお願いが正樹の言うところの“誰かを傷つける内容”な可能性もあるわけだが、これに関しては正樹に判断を任せる。

「なら尚更だな」
「正樹には俺ら二人の間に立って欲しいんだ、正樹ならいい意味で中立だから公平な判断をしてくれるだろうしな」
「しゃあねえな、飲み物奢れよ?」
「ああ」

 むしろそれだけで済んでよかったと思ったのは正樹には秘密だ。

「それじゃあ、あとで実菜にも声かけに行くか」
「一人で行くんじゃねえぞ、お前一人だとトラブル起こしかねないからな」
「わかった」

 こればっかりは正樹の意見を聞いておくべきだろう。

「それじゃあ声かけに行くのは昼休みだな」
「了解」

 そこからは二人とも他愛の無い会話を交わしつつ学校までの道のりを歩いていく。



「おい実菜、少し時間いいか?」
「なに正樹……それに駿も」

 昼休み、食事を終えた俺らは実菜に声をかける。明らかに気まずそうな表情を浮かべた実菜を見て少しだけ心が重くなる。それでも声をかけたのが正樹だったから良かったのか、何も言わずにその場で俺らの話を聞いてくれる。

「ちょっと廊下でようぜ」
「うん……」

 実菜を連れて、廊下の端までやってくる。ここならそう簡単に声も聞かれないだろう

「今日の放課後時間あるか?」
「……うん、大丈夫」

 チラッと俺に視線を向ける。なんとなく察しはついているのだろう。

「じゃ、学校帰りにどっか寄ろうぜ」
「わかった」「了解」

 俺にとって本当の意味での始まりとするための話し合いのセッティングはこれで完了する。これから先の話し合いが両者にとって納得いくものであることを祈るばかりだ。

「じゃあ、私は戻るわね」
「ああ、授業終わったら玄関で待っててくれ」
「うん」

 一人上履きのパタパタという音を奏でて教室に戻っていく。

「上手く話し合いで解決するといいけどな」
「そればっかりは実菜の言う、お前の浮気ってやつが本当に浮気と呼べるものなのか、ただのあいつの勘違いなのかによるんじゃないのか?」
「それはそうだな」
「ただ、これだけは言っておくぞ。実際に実菜にも非があることとはいえ、お前がそういう行動をとっていたって認められる場合は俺は味方しないし、軽蔑もするからな」
「ああ」

 こういうところこそ、正樹が信用に足る人間である部分だろうか。

 何はともあれ舞台は整った。
 俺のこの長年の恋に対する一応の決着をつけに行こうじゃないか。
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