長年付き合った彼女と別れた

一章 長年の恋が終わった

Girl's Side

　男子二人が買い出しに行ってくれている最中での出来事。

　二人はご飯を受け取るまでのその退屈な時間を話をすることで解消しているようだ。こちらを見ているので大きく手を振ってみると正樹はなんだかおかしそうに、駿は同じように手を振り返してくれる。やっぱ駿はいいよなぁ～。

「あのさ、ここで一つ聞いておきたいんだけど……」

　ここでうちの方から一つ、先制攻撃を仕掛けてみることに決めた。
　自分自身の気持ちを抑えたままに出来ない。それが自分自身で分かっているからこそ早めにこの問題を解決しておきたいと思った。

　二人が驚いたように私の顔を見る。

「実菜ちゃんは、どうして駿に対してあんなことをしたの？」
「知ってたの……」

　ばつが悪そうな表情で私を見つめる。そんな表情をしたからといって自分がやったことを無かったことにできるわけじゃない。

「だからって駿が悪いわけじゃないからね、半ば無理やり聞き出したみたいなものだから」
「いえ、どのみち知られると思っていたから……それにやったことは事実だし」
「そう、それならいいんだ。ただうちもだけどそんなことをした実菜ちゃんに対してなんでそんな駿を裏切るようなことをしたのか聞き出したい気持ちはあるんだよ」

　そう、だってその行動は誰も幸せにしない行動であることは本人ですら理解しているはず。なのにもかかわらずなんでそんな行動をとるのに至ったのか、その思考を知りたかった。

「まず、最初は駿の浮気と思える現場を見かけたから……というのが始まりだった」
「でもそれって本当に浮気だったの？」
「非難される覚悟で言うけど、その時の私はそう思ってしまったの。でも真偽は話し合っていないから分からない」

　なんて自分本位な考え方なのだと思った。
　だってその言葉の先に彼女が“浮気をする理由”なんてものは存在しなかったからだ。

「でもそこに実菜ちゃんが浮気をする理由は無いよね？」

　尚も私は質問をやめない。

「……うん」

　最後まで悪い人でいてくれたのならもっと非難することできた。
　ここまでの態度を見せるのであればなんでそんな行動をしたのだろうか……。

「じゃあ、なんでしたの？」

　それでも私は逃がさない。
　駿が負った痛みはこんなものじゃない。だから決して曖昧なままこの問題を終わらせるわけには行かない。

「それは……」
「説明できないってことは正当性が無いってこと？　それとも本気でしたいからしたの？」
「それは――ないっ！」
「ねえ、悠里……もうっ……」
「ここでハッキリしないといつまでも逃げちゃうよ」
「…………」

　その場の声が一瞬消える。

「私は、駿にふらふらしていると他の人に取られるよって思わせたかった。だからその時たまたま会った、友達にお願いしたんだ」
「それって話し合いで解決することも出来たし、そもそも駿を傷つけてまですること？　もし勘違いにしろそういう場に居合わせたのなら、それこそ実菜ちゃん自身がその辛さを知っているはずなんじゃないの？　何でその痛みを相手にも味わわせようって気持ちになるの？」

　昂たかぶった感情に抑えは利かず、溢れ出る気持ちのままに彼女を攻撃してしまう。

「そう……ね。それは本当にそうだと思う」

　だめだ……そう思ったときには私の目からは再び涙が溢れ出す。まったく緩い涙腺だ……。

「悠里っ……」
「あなたが一方的に傷つけた駿はそれでもあなたのことを考えてくれているんだよ？　そんな馬鹿でアホで優しい駿をもう、解放してあげてよぉ……」

　ポロポロと優しさの涙が悠里の頬を濡らす。
　誰も何も言わなかった。

　ほんの数分のはずなのに長時間話し合っているようなそんな気にさせられ、残された時間がもうほとんど無いことを思い出す。

　だから私は、彼女に対し一つだけ宣誓することを決めた。

「私が、実菜ちゃんの代わりに駿を救ってあげたい。だから私はもう実菜ちゃんを応援することは出来ない」

　宣誓よりもむしろこれはもう宣戦布告だろうか……。
　だけど私は自分の発言に後悔は無い。だって私は――


　――――だって私は、本当に駿のことが好きなんだから。