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一章 長年の恋が終わった
悠里の本音
しおりを挟む「ほら買ってきたぞ」
四人分の飲み物を抱えた正樹が戻ってくる。
「いやぁ~おいしいゲームでしたな!」
「駄目だよ悠里そんなこと言っちゃ」
六球目が過ぎ、勝ちが決まった辺りから何故かよくわからないが悠里が野次を飛ばしていた。その光景を見ていた俺としては正直正樹が不憫に感じてならなかった。ありがとう正樹、今日はお前が主役だぜ。
最後に実菜に飲み物が手渡されてこの勝負はしっかりと決着がついたわけだが、今も実菜はどこか上の空だ。
「なんかさっきからああなんだ。駿が二球目を当てた辺りから」
「そうなのか」
口では理解して無い風を装いながらも途中で聞こえた「あっ」という声が彼女が漏らしたもので、そこからなんだろうなということは薄々分かっていた。
ただ、確証のあることじゃないしほとんど感じただけなので何も言わないことにする。何を思っている、何を考えているのかなんて俺にはわからないし。分かって欲しいとも思ってないだろう。
悠里の方も俺が何も分からないと思ったのか「ま、たまたまだね」といって飲み物をぐびっと飲む。腰掛けたベンチからはみ出た足をぶらぶらさせているのが少し可愛かったりする。
くそっ、なんだか負けた気分だ。
「そんでさ~、駿は今どう思ってんの?」
「ん……? 何を?」
「実菜ちゃんのこと」
そう言えば、なんていうか今の俺の気持ちについてしっかりと考えたことがない。
あるのは過ぎ去った日々の記憶の欠片達に懐かしさや、寂しさといった気持ちを抱いているだけで今の俺が過去ではなく今の彼女に対して抱いている感情は果たして何なのだろう。
……他人に取られたくはないと思う。
だって、言い方は悪いが時を重ねるに連れて彼女の良い点は多くなってきた。
最初は俺の顔を見て話せないほどに緊張しいで、抱きしめるときも照れながら、手を繋ぐことすら難しかった彼女は、いつしかそれに慣れ、普通にできるようになってきた。
それなのに、それが出来るようになった彼女が……まるでそれが当たり前のようにその部分だけが他の男子に評価されて他の人に取られる、それが堪らなく嫌だった。
彼女の本質を理解していない、これまでの彼女を知らない、表面上の彼女しか知らない。そんなやつらにいいとこ取りだけされるなんて胸糞悪い。
こんな未練のような感情を持つのは果たして傲慢なのだろうか。束縛のような気持ちを抱いている自分に嫌な気持ちを抱いてしまう。
「なんかさ、悠里だから聞きたいんだけどさ……」
それを皮切りに俺は自分が抱えている悩みというか未練のようなものを話す。俺目線での話がそうでも女性目線、他人目線から見るとどう映るのか、それが気になった。
自分の気持ちについて考えるのは他人の評価を聞いてからでも遅くはない。
「そうだねぇ~、正直私は駿の気持ちわかるよ。そりゃあいい気はしないよね。でも、逆に言うとさ? それって表面に出ていないってだけで元々はそういう性格なんだし付き合ってからその相手が理解することになるし、それによってもしかしたら本当に自分のことを理解してくれていたのが駿だって改めて気づくいいきっかけになるかもしれない……と思うよ」
なるほどな……確かにそうだ。
俺の考えは他の人から見れば逆の考えなのかもしれない。
俺にとっては実菜の元々の、本質とも言うべき部分を知って仲良くなった。そして付き合ってる中で彼女も改善してきた。だがその改善してきたものだってそれは薄れているだけであって元々彼女の核たる部分だ。そうそう変えられるものではない。なので今は表面上良く見えているだけで彼女の本質を気づいた相手がギャップを感じることもあるのかもしれない。逆に実菜もまた然り、「あれ、この人には通用しない……」そういったように今まで理解してくれていた俺に対して――。
その先を考えるのは駄目だな……。
「たださ、もし今駿が実菜ちゃんとやり直したいという気持ちがあるのだとしたらそれはオススメしないな」
「それはどうして……?」
「だってそれはさ、四年間も一緒に居たのに今更気づくようなことなのかな? ……それに――」
“それに”に続く言葉、それはなんなのかが気になって思わず前のめりになってしまう。
「そもそも四年も一緒にいた彼氏を信じるよりも先に、相手を傷つける行動をとるのに、仲が戻ったとして今後駿が傷つかないって言い切れる?」
「それは――」
正直すぐに応えることができなかった。
「私は、例え駿も実菜ちゃんも友達で、二人共と仲が良くたって、相手を傷つける行動を自ら進んでやった実菜ちゃんを簡単には許せないよ」
感極まったのか彼女の瞳からは涙が、彼女の口からは想い溢れ出す。
涙と共に嗚咽がこぼれ出す。
「一旦下行こうぜ」
「……うん」
俺は冷えた飲み物を二人分持つ。
「おい正樹! 俺と悠里一旦下に行く!」
「ん? ……おう、分かった」
涙を流している悠里を見てただならぬ雰囲気を感じ取ったのか、すぐさま真剣な表情に戻る。
「今トイレ行ってる二人には上手く言っておいて!」
「おう!」
それだけ言って俺は悠里と共に自販機などのある下の階に降りた。
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