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一章 長年の恋が終わった
夢に見る
しおりを挟む人は四年という期間に何を思うだろうか。
俺の歳のやつが言うのもなんだが、やはり四年という期間は想像以上に長い。それは実体験だから良く分かるし、学生時代における時間だからこそその重要性もまた大きいものだろう。
それにそれだけの期間二人でいたのだ、寝ても覚めても彼女のことを考えてしまっても仕方がないのではないか。これまでの習慣のようなものが抜けず、ふと彼女の名前を口から漏らしてしまうこともある。
彼女との思い出が走馬灯のごとく脳内に照らし出されていてそう簡単に消し去れるものではないだろう。
授業が終わり家に帰ってくる。周りに音が無いこの時間は特にそのことが頭の中で溢れかえってしまう。
「はぁぁぁぁ」
持っていたスマホをベッドにポンと投げる。スマホがマットレスのスプリングでポンと跳ねる。何かを没頭して忘れようと思ってみても、思うように集中できない。
いつもは時間を忘れてしまうくらい没頭してしまうゲームもなんだか集中できずすぐに飽きてしまう。
思い出の欠片たちが頭の中を侵蝕して楽しかったことや辛かったことなどで埋め尽くしてしまう。人は楽しかった思い出よりも辛い思い出のほうが記憶に残るというけれど。なんていうかこういう時だけは楽しかった思い出が溢れてきて余計に辛い。なんという相反した気持ちなのだろうか。
そんな今はなくしてしまった恋人というたった二文字の関係にこんなにも振り回されてしまう。まったく……恋心なんてものは毒薬だ。
なんとしても振り切りたかった俺は、親が帰ってくるまでの間普段は滅多にしない昼寝を満喫することにした。いや、滅多にしないは嘘か……する暇もないくらい今はいない彼女と共に過ごしていたのだ…………ほら、またこうやって考えてしまっている――――。
* * *
「駿! 何やってるのよ!」
これが夢なんだと一瞬で分かった。笑った実菜がそこにいたからだ。
なんだよ、夢までもがこうやって俺を縛り付けるのだ。
今はもう俺に向けることのない笑みをいつかの俺に対して向けている。
「おい、危ないぞ」
俺の方を向きながらとてとてと歩いている彼女の姿はいかにも恋人として様になっている。まだたった一日、そうまだ“たった”なのだ。そんな短いような長いようなそんな時間と俺は戦っている。
「早く! 早く!」
もう決して見ることが出来ないであろう笑顔を俺は夢の中で追いかけていた。そんな俺の顔にも似たような笑顔が浮かんでいたことだろう……。
* * *
「暗っ」
目を覚ました時には夕暮れのオレンジが、夜の黒へと色を変えていた。
時刻を確認してみると俺が寝る前に確認した時刻から一時間半ほどが経っていた。一日ほとんど寝てなかったからか、いつもの昼寝時間よりも三倍は寝ていた。
寝足りないような気もするけれど夜寝る事も考えて我慢しないと……。むしろ寝すぎな気もするくらいだしな。
そう考えて起きたものの親が帰ってくるまでの間、夢で見た今は“元”彼女となってしまった実菜への懐かしさのような感情を拭い去ることが出来なかった。
世の失恋者はどうやってこの苦難から乗り越えているのだろうか……解決法があるのであれば是非その対処法を教えて欲しいものだ。
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