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一章 長年の恋が終わった

事の顛末

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「あなたがすべての発端なんだからね! だから、私の行いはそれに対する仕返しであってそれを誰が責めるって言うの?」

 “現彼女”といえばいいのか、今は“元彼女になりかけ”といえば良いのかなかなかに判断に困る現状ではあるが、今目の前で声を荒らげている女子は、今カノ兼元カノになりかけの隅島すみしま実菜みなである。

 元来がんらい、思い込みが激しいことが俺にとっての悩みの種であったわけだが、とうとう彼女の抱える火山は限界を突破し、周囲に被害をもたらすほどに荒ぶっているわけなのだ。

 ……そもそも彼女の言う発端ということにイマイチ心当たりのない俺からしてみれば冤罪も甚だしい、証拠を出せ証拠を!

 彼女がその火山を爆発させるきっかけとなったのは俺の浮気ということらしいわけだが、そもそもこの口論が始まったきっかけとして俺が彼女の浮気のようなものを目撃し、それについて問い詰めたことから始まった。正直とばっちりもいいところだ。

「誰の話だ?」

 激昂しているタイミングの今、こんな言葉を発するべきではなかったのだろう。落ち着いたときに、こっそりひっそりと伝えるべきだったのだろう。でもまぁ、そんなタイミングがこの後にやってくることもなくそのまま別れてしまっていたのかもしれないしどの道考えるだけ無駄か……。

 ともあれ、その言葉を聞いた彼女は激昂の激昂、スーパーサ○ヤ人の2になった。

「もういいっ――!」

 静かな校舎の中に彼女の荒々しい声が木霊こだました。
 ここは校舎の三階、二年生の教室であるが一階の玄関まで届いていたのではないだろうか。
 2となった激しさの猛威は俺の方に向き――バチンと音を鳴らす。
 
 叩かれた。いい音だなぁとか傍観者の俺が言う。
 
 もちろん叩かれたのは俺自身、後々になってやってくる右頬のジンジンとした痛みや口の中にやってきた血の味を感じたことでようやく傍観者から当事者になる。イタイ……。

「どう!? 私を怒らせてそんな楽しい?!」
「いや、最初から楽しいなんて一言も――」

 バチン、と次は左頬。

 第二波がやってきた。波だけに序、破、Qの破だろうか、とすればその後にもう一発あるのだろうか、なんてくだらないことを考える。いや、そんな状況じゃないんだけどね。

「ともかくあなたは私を裏切ったの!!!!」

 また来る! と思ったのだがさすがに三発目はなかったようだ。
 すんでのところで彼女の手が止まる。

「――もういやぁ……」

 それが俺らの終わりを決定付ける言葉となった。
 あまり恋愛経験のない俺にだってこれ以上この関係を続けることが不可能だってことがわかった。

「そうか、わかった」

 すべてを納得した俺は、彼女の嘆きに返すようにこういった。

「別れよう」
「……うん」

 今度は小さくこの場の二人にしか聞こえない音量。まるでこの世のちっぽけな出来事のように、四年に及ぶ壮大なラブストーリーはその時間の長さや膨大なストーリーとは裏腹に小さく小さく幕を閉じた。

 恋人という二文字はただ、“二人の今の関係を表すための言葉である”というだけで明確な契約でもなければ今後が約束された関係でもなんでもないのだ。
 この関係を終わらせるだけならば、たったの四文字で十分なのだ。

 ――――「別れよう」こんなたった四文字で……。


 
 
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