上 下
6 / 9

いつもの二人

しおりを挟む
 翌日、姉の使用人達の中でも特に古参の者達の手でドレスを着せられていく。

 
「っ!」

「どうなされました?」

「……いえ、何でもありません」

「そうですか。では、もう少し締め付けたほうが綺麗に見えますので我慢ください」

「……わかりました」


 彼女たちは、蔑んだような笑いを隠そうともせずに、こちらが痛みに耐えている姿を見ている。
 どうせ、昨夜の姉の教育で目立たない場所に付けられた傷をわかっていてやっているのだろう。

(痛みに耐えるしかない。どうせ言っても、誰も助けてはくれないのだから)

 この家では――いや、外でも姉に勝てることない。誰もが、彼女の言葉を信じるし、彼女の味方につく。
 
(まぁ、それも当然よね。私は、ほんとに、何もできないのだし)

 そして、痛みに堪えつつ現実逃避気味に自嘲していた時、部屋の扉がノックも無しに開かれる音がした。


「あら、まだ準備ができていないの?」

「申し訳ありません。アリス様」

「謝罪はいいから、早く準備をさせなさい。間違っても遅れてしまえば、貴方達もどうなるかわからないわよ?」

「っ!はいっ!」

 
 外では見せない高圧的な姉の様子に使用人たちが焦った表情で準備を急ぐのが分かる。
 きっと、用心深い姉がこの姿を見せるくらいだから何かしらの弱みでも握られているのだろう。


「ふふっ、ルカ。貴方本当に何を着ても華が無いわね」

「申し訳ありません」

「いいわ。どうせ、引き立て役でしかないのだし、それくらいのがちょうどいいのかも」
 
「……ありがとうございます」

 
 まるで天女のような姉と、背伸びした村娘にしか見えない私。
 そんなの言われるまでもなくわかっていることだ。

(悔しさすら湧いてこないというのはこういうのを言うのかしら)

 昔からそうだったから、もしかしたら慣れたのかもしれない。
 それが、いいことなのかどうかはわからないけれど。


「アリス様、準備が終わりました」

「あら?そうなの。ぜんぜん、変わってないから分からなかったわ」


 バカにするような姉の声に、クスクスとした女性特有の笑い声が続く。
 

「お待たせして申し訳ありません」

「ほんと、不愛想な子ね。でも、こうしてもいられないし行きましょうか」

「わかりました」


 そして、姉が廊下を颯爽と歩く姿の後ろをできる限り目立たないようについて行くと、馬車に乗り込んだ。


「今日も、いつも通りやりなさい」

「はい、お姉様」

「最初の自己紹介以外は自分から、話さなくていいから。どうせ、つまらない話しかできないでしょう?」

「はい」

「それと、合図は覚えてるわね?」

「はい」

「よろしい」


 あくまで、私は社交界で姉一人が出しゃばったと見られないためのスケープゴート。

(合図が出たら、体調不良でおいとまする。気を付けておかないと)

 
「ふふっ。楽しみね」

「はい、お姉様」


 何も抱く気持ちは無いけれど、条件反射のように口はそう答えていた。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

王命を忘れた恋

水夏(すいか)
恋愛
『君はあの子よりも強いから』  そう言って貴方は私を見ることなく、この関係性を終わらせた。  強くいなければ、貴方のそばにいれなかったのに?貴方のそばにいる為に強くいたのに?  そんな痛む心を隠し。ユリアーナはただ静かに微笑むと、承知を告げた。

【完結】今夜さよならをします

たろ
恋愛
愛していた。でも愛されることはなかった。 あなたが好きなのは、守るのはリーリエ様。 だったら婚約解消いたしましょう。 シエルに頬を叩かれた時、わたしの恋心は消えた。 よくある婚約解消の話です。 そして新しい恋を見つける話。 なんだけど……あなたには最後しっかりとざまあくらわせてやります!! ★すみません。 長編へと変更させていただきます。 書いているとつい面白くて……長くなってしまいました。 いつも読んでいただきありがとうございます!

【完結】愛も信頼も壊れて消えた

miniko
恋愛
「悪女だって噂はどうやら本当だったようね」 王女殿下は私の婚約者の腕にベッタリと絡み付き、嘲笑を浮かべながら私を貶めた。 無表情で吊り目がちな私は、子供の頃から他人に誤解される事が多かった。 だからと言って、悪女呼ばわりされる筋合いなどないのだが・・・。 婚約者は私を庇う事も、王女殿下を振り払うこともせず、困った様な顔をしている。 私は彼の事が好きだった。 優しい人だと思っていた。 だけど───。 彼の態度を見ている内に、私の心の奥で何か大切な物が音を立てて壊れた気がした。 ※感想欄はネタバレ配慮しておりません。ご注意下さい。

夫は私を愛してくれない

はくまいキャベツ
恋愛
「今までお世話になりました」 「…ああ。ご苦労様」 彼はまるで長年勤めて退職する部下を労うかのように、妻である私にそう言った。いや、妻で“あった”私に。 二十数年間すれ違い続けた夫婦が別れを決めて、もう一度向き合う話。

【本編完結】若き公爵の子を授かった夫人は、愛する夫のために逃げ出した。 一方公爵様は、妻死亡説が流れようとも諦めません!

はづも
恋愛
本編完結済み。番外編がたまに投稿されたりされなかったりします。 伯爵家に生まれたカレン・アーネストは、20歳のとき、幼馴染でもある若き公爵、ジョンズワート・デュライトの妻となった。 しかし、ジョンズワートはカレンを愛しているわけではない。 当時12歳だったカレンの額に傷を負わせた彼は、その責任を取るためにカレンと結婚したのである。 ……本当に好きな人を、諦めてまで。 幼い頃からずっと好きだった彼のために、早く身を引かなければ。 そう思っていたのに、初夜の一度でカレンは懐妊。 このままでは、ジョンズワートが一生自分に縛られてしまう。 夫を想うが故に、カレンは妊娠したことを隠して姿を消した。 愛する人を縛りたくないヒロインと、死亡説が流れても好きな人を諦めることができないヒーローの、両片想い・幼馴染・すれ違い・ハッピーエンドなお話です。

【完結】お世話になりました

こな
恋愛
わたしがいなくなっても、きっとあなたは気付きもしないでしょう。 ✴︎書き上げ済み。 お話が合わない場合は静かに閉じてください。

【完結】婚約破棄されたので、引き継ぎをいたしましょうか?

碧桜 汐香
恋愛
第一王子に婚約破棄された公爵令嬢は、事前に引き継ぎの準備を進めていた。 まっすぐ領地に帰るために、その場で引き継ぎを始めることに。 様々な調査結果を暴露され、婚約破棄に関わった人たちは阿鼻叫喚へ。 第二王子?いりませんわ。 第一王子?もっといりませんわ。 第一王子を慕っていたのに婚約破棄された少女を演じる、彼女の本音は? 彼女の存在意義とは? 別サイト様にも掲載しております

2度もあなたには付き合えません

cyaru
恋愛
1度目の人生。 デヴュタントで「君を見初めた」と言った夫ヴァルスの言葉は嘘だった。 ヴァルスは思いを口にすることも出来ない恋をしていた。相手は王太子妃フロリア。 フロリアは隣国から嫁いで来たからか、自由気まま。当然その所業は貴族だけでなく民衆からも反感を買っていた。 ヴァルスがオデットに婚約、そして結婚を申し込んだのはフロリアの所業をオデットが惑わせたとして罪を着せるためだった。 ヴァルスの思惑通りに貴族や民衆の敵意はオデットに向けられ遂にオデットは処刑をされてしまう。 処刑場でオデットはヴァルスがこんな最期の時まで自分ではなくフロリアだけを愛し気に見つめている事に「もう一度生まれ変われたなら」と叶わぬ願いを胸に抱く。 そして、目が覚めると見慣れた光景がオデットの目に入ってきた。 ヴァルスが結婚を前提とした婚約を申し込んでくる切欠となるデヴュタントの日に時間が巻き戻っていたのだった。 「2度もあなたには付き合えない」 デヴュタントをドタキャンしようと目論むオデットだが衣装も用意していて参加は不可避。 あの手この手で前回とは違う行動をしているのに何故かヴァルスに目を付けられてしまった。 ※章で分けていますが序章は1回目の人生です。 ※タグの①は1回目の人生、②は2回目の人生です ※初日公開分の1回目の人生は苛つきます。 ★↑例の如く恐ろしく、それはもう省略しまくってます。 ★11月2日投稿開始、完結は11月4日です。 ★コメントの返信は遅いです。 ★タグが勝手すぎる!と思う方。ごめんなさい。検索してもヒットしないよう工夫してます。 ♡注意事項~この話を読む前に~♡ ※異世界を舞台にした創作話です。時代設定なし、史実に基づいた話ではありません。【妄想史であり世界史ではない】事をご理解ください。登場人物、場所全て架空です。 ※外道な作者の妄想で作られたガチなフィクションの上、ご都合主義なのでリアルな世界の常識と混同されないようお願いします。 ※心拍数や血圧の上昇、高血糖、アドレナリンの過剰分泌に責任はおえません。 ※価値観や言葉使いなど現実世界とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。 ※話の基幹、伏線に関わる文言についてのご指摘は申し訳ないですが受けられません

処理中です...