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いつもの二人
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翌日、姉の使用人達の中でも特に古参の者達の手でドレスを着せられていく。
「っ!」
「どうなされました?」
「……いえ、何でもありません」
「そうですか。では、もう少し締め付けたほうが綺麗に見えますので我慢ください」
「……わかりました」
彼女たちは、蔑んだような笑いを隠そうともせずに、こちらが痛みに耐えている姿を見ている。
どうせ、昨夜の姉の教育で目立たない場所に付けられた傷をわかっていてやっているのだろう。
(痛みに耐えるしかない。どうせ言っても、誰も助けてはくれないのだから)
この家では――いや、外でも姉に勝てることない。誰もが、彼女の言葉を信じるし、彼女の味方につく。
(まぁ、それも当然よね。私は、ほんとに、何もできないのだし)
そして、痛みに堪えつつ現実逃避気味に自嘲していた時、部屋の扉がノックも無しに開かれる音がした。
「あら、まだ準備ができていないの?」
「申し訳ありません。アリス様」
「謝罪はいいから、早く準備をさせなさい。間違っても遅れてしまえば、貴方達もどうなるかわからないわよ?」
「っ!はいっ!」
外では見せない高圧的な姉の様子に使用人たちが焦った表情で準備を急ぐのが分かる。
きっと、用心深い姉がこの姿を見せるくらいだから何かしらの弱みでも握られているのだろう。
「ふふっ、ルカ。貴方本当に何を着ても華が無いわね」
「申し訳ありません」
「いいわ。どうせ、引き立て役でしかないのだし、それくらいのがちょうどいいのかも」
「……ありがとうございます」
まるで天女のような姉と、背伸びした村娘にしか見えない私。
そんなの言われるまでもなくわかっていることだ。
(悔しさすら湧いてこないというのはこういうのを言うのかしら)
昔からそうだったから、もしかしたら慣れたのかもしれない。
それが、いいことなのかどうかはわからないけれど。
「アリス様、準備が終わりました」
「あら?そうなの。ぜんぜん、変わってないから分からなかったわ」
バカにするような姉の声に、クスクスとした女性特有の笑い声が続く。
「お待たせして申し訳ありません」
「ほんと、不愛想な子ね。でも、こうしてもいられないし行きましょうか」
「わかりました」
そして、姉が廊下を颯爽と歩く姿の後ろをできる限り目立たないようについて行くと、馬車に乗り込んだ。
「今日も、いつも通りやりなさい」
「はい、お姉様」
「最初の自己紹介以外は自分から、話さなくていいから。どうせ、つまらない話しかできないでしょう?」
「はい」
「それと、合図は覚えてるわね?」
「はい」
「よろしい」
あくまで、私は社交界で姉一人が出しゃばったと見られないためのスケープゴート。
(合図が出たら、体調不良でお暇する。気を付けておかないと)
「ふふっ。楽しみね」
「はい、お姉様」
何も抱く気持ちは無いけれど、条件反射のように口はそう答えていた。
「っ!」
「どうなされました?」
「……いえ、何でもありません」
「そうですか。では、もう少し締め付けたほうが綺麗に見えますので我慢ください」
「……わかりました」
彼女たちは、蔑んだような笑いを隠そうともせずに、こちらが痛みに耐えている姿を見ている。
どうせ、昨夜の姉の教育で目立たない場所に付けられた傷をわかっていてやっているのだろう。
(痛みに耐えるしかない。どうせ言っても、誰も助けてはくれないのだから)
この家では――いや、外でも姉に勝てることない。誰もが、彼女の言葉を信じるし、彼女の味方につく。
(まぁ、それも当然よね。私は、ほんとに、何もできないのだし)
そして、痛みに堪えつつ現実逃避気味に自嘲していた時、部屋の扉がノックも無しに開かれる音がした。
「あら、まだ準備ができていないの?」
「申し訳ありません。アリス様」
「謝罪はいいから、早く準備をさせなさい。間違っても遅れてしまえば、貴方達もどうなるかわからないわよ?」
「っ!はいっ!」
外では見せない高圧的な姉の様子に使用人たちが焦った表情で準備を急ぐのが分かる。
きっと、用心深い姉がこの姿を見せるくらいだから何かしらの弱みでも握られているのだろう。
「ふふっ、ルカ。貴方本当に何を着ても華が無いわね」
「申し訳ありません」
「いいわ。どうせ、引き立て役でしかないのだし、それくらいのがちょうどいいのかも」
「……ありがとうございます」
まるで天女のような姉と、背伸びした村娘にしか見えない私。
そんなの言われるまでもなくわかっていることだ。
(悔しさすら湧いてこないというのはこういうのを言うのかしら)
昔からそうだったから、もしかしたら慣れたのかもしれない。
それが、いいことなのかどうかはわからないけれど。
「アリス様、準備が終わりました」
「あら?そうなの。ぜんぜん、変わってないから分からなかったわ」
バカにするような姉の声に、クスクスとした女性特有の笑い声が続く。
「お待たせして申し訳ありません」
「ほんと、不愛想な子ね。でも、こうしてもいられないし行きましょうか」
「わかりました」
そして、姉が廊下を颯爽と歩く姿の後ろをできる限り目立たないようについて行くと、馬車に乗り込んだ。
「今日も、いつも通りやりなさい」
「はい、お姉様」
「最初の自己紹介以外は自分から、話さなくていいから。どうせ、つまらない話しかできないでしょう?」
「はい」
「それと、合図は覚えてるわね?」
「はい」
「よろしい」
あくまで、私は社交界で姉一人が出しゃばったと見られないためのスケープゴート。
(合図が出たら、体調不良でお暇する。気を付けておかないと)
「ふふっ。楽しみね」
「はい、お姉様」
何も抱く気持ちは無いけれど、条件反射のように口はそう答えていた。
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